ここからサイトの主なメニューです

3.外国法からのアプローチ

(2) フランス法

 
1 著作権侵害に関する規定

   フランス著作権法上,著作権侵害に関する規定は,第3編「著作権、隣接権及びデータベース製作者の権利に関する一般規則」第3章「訴訟手続及び制裁」に定められている。
 第3章「訴訟手続及び制裁」には,第1節「一般規則」は,管轄と当事者適格に関して定めている。第2節「侵害物の差押え」(saisie-contrefaçon)は,著作権侵害に関する証拠収集と侵害行為を暫定的に中止させることを目的とした特別な手続きを定める。第3節「差止め」は,著作権使用料が,扶助料の性質をもつことに着目した規定であり,ほぼ死文化しているといってもよいようである。第4節「追及権」は,追及権の規定に違反した場合の規定である。第5節は,「罰則」を定める。
 したがって,フランス著作権法上,著作権侵害に対する救済措置である差止めおよび損害賠償に関しては,何ら規定されていない。間接侵害に関する明文規定も存在しない。しかし,明文規定が存在しないことは,間接侵害に対する救済を否定するものではないとされる。そこで,フランス著作権法が間接侵害に対していかなる救済を行っているかは,知的財産権に関する一般論を明らかにした上で,知的財産権侵害に基づく差押え(saisie-contrefaçon)の明文規定を含む著作権侵害に対する救済を裁判例に即して検討しなければならない。

2 知的財産権に関する一般論

 
ア. 知的財産権の法的性質
   知的所有権の性質に関しては,所有権と解するのが通説である。所有権は,対物権ないし物権(le droit réel)であり,対人権ないし債権(le droit personnel)と対比される。債権と異なり,物権は,絶対性がある。すなわち,権利者は,他のすべての者に対して対抗できる。他のすべての第三者は,権利者がその所有物に対して権利を行使できるままにしなければならない。さらに,物権は,追及権を持つ。すなわち,権利者は,物が他人の手に渡ろうとそれを追跡することができる。
 著作権については,著作者人格権の面については人格的権利と捉えられ,所有権と人格的権利の二面性を持った権利と解されている。著作権の性質は,知的財産法典111−1条1項に定められている。「精神の著作物の著作者は,その著作物に関して,自己が創作したという事実のみにより,排他的ですべての者に対抗しうる無形の所有権を享有する。」権利が排他的で,すべての者に対抗し得るという著作権の物権的性格は当該規定に明記されている。
イ. 知的財産権侵害訴訟(action en contrefaçon)
   特許権・著作権・商標権などの知的財産権侵害訴訟は,action en contrefaçonと呼ばれる。
 Contrefaçonとは,知的財産権(排他的権利)の侵害である。排他的権利である知的財産権は,action en contrefaçonの提起が可能であるが,そうでない無体財産権(たとえば,商号,ノウハウの侵害を理由とする訴え)は,不法行為に基づく訴訟であるaction en responsabilité civileにより保護される。(※Paris控訴院第4民事部13/6/88禁止権がなければ,action en contrefaçonは提起できない)。たとえば,著作権侵害に基づく訴訟は,action en contrefaçonであるが,不正競争に基づく訴訟は,action en responsabilité civileである。action en contrefaçonは,対物訴訟(action réelle)であり,action en responsabilité civileは,対人訴訟(action personnelle)である。なお,対物訴訟とは物権に関する訴訟であり,対人訴訟とは債権に関する訴訟であると定義されており,両者の区別は,結局,実体法における物権と債権の区別に従った性質の違いに帰すことになる。
 action en contrefaçonは,刑事訴訟における知的財産権侵害訴訟・民事訴訟における知的財産権侵害訴訟の両者の意味において用いられる。民事上の責任を追及する場合,刑事訴訟において付帯私訴(action civile)を提起することも可能であるし,刑事訴訟から独立して,民事訴訟を提起することも可能である。知的財産権侵害訴訟による民事的制裁は,違法行為の継続の禁止と損害賠償という2つの面を持つ。知的財産権侵害訴訟は,禁止権を行使する部分については,対物訴訟の性格を有するが,そこで損害賠償を請求する場合には,不法行為責任の規定が適用され,その部分について対人訴訟の性格を有する。排他的権利でない無体財産権(不正競争・商号など)は,対人訴訟である。
ウ. 民法上の不法行為
   不法行為責任(responsabilité civile délictuelle)の発生要件は,責任の発生原因となる所為,損害,発生原因となる所為と損害の因果関係である。不法行為責任は,本人の所為による責任(responsabilité du fait personnel),他人の所為による責任(responsabilité du fait d’autrui),物の所為による責任(responsabilité du fait des choses)に分類されている。
(ア) 帰責性(faute
   不法行為に基づく責任を基礎付けるものは,故意・過失のある所為であるしたがって,原則として過失理論(théoriede la faute)に基づく。故意・過失とは,為してはならないことを為し,または為すべきことを為さなかったことをいい,通常人の注意を基準にして評価される。所為には,意図的な所為(une faute intentionnelle)イコール故意に基づく所為(les delits)と意図的でない所為(une faute non intentionnelle)イコール過失に基づく所為(lesquasi‐délits)がある。フランス民法1382条は,「他人に損害を生じさせる人の所為はいかなるものであっても,非行(faute)によってそれをもたらした者に,それを賠償する義務を負わせる。」と定める(注43)。フランス民法1383条は,「各人はその所為によってばかりでなく,その怠慢または軽率によって生じさせた損害についても責任を負う。」(注44)と定めるが,これは過失についても責任を負うことの確認的規定である。民法1383条のnégligenceとは,怠慢・懈怠を意味し,為すべきことを怠った故意によらないfauteと定義されている。imprudenceは,軽率を意味し,同じく故意によらないfauteである。
 この伝統的な主観的責任論(responsabilité subjective)に対して,産業革命後の環境の変化による事故原因の特定の困難や損害の補償の必要から,客観的責任論(responsabilité objective)が提唱されるようになった。危険理論(théoriedu risque)は,利益に基づく責任または生じさせた危険に基づく責任を提唱する。なお,1384条以下の規定が,過失責任論に基づくものか,危険理論に基づくものかは,論者により異なる。

(注43)  Tout fait quelconque de l'homme, qui cause a autrui un dommage, oblige celui par la faute duquel il est arrive, a le reparer.
(注44)  Chacunest responsable du dommage qu'il a causé non seulement par son fait, mais encore par sa négligence ou par son imprudence.

(イ) 損害
   損害は,物的損害(dommage matériel)と精神的損害(dommage moral)に分類される。物的損害には,財産の喪失のほか,得べかりし利益も含まれる。精神的損害は,肉体的苦痛,精神的苦痛,プライバシーや名誉に対する侵害など,さまざまである。
(ウ) 損害の回復
   損害回復の方法は,現物賠償(réprarationen nature)と等価賠償(réparationpar équvalent)の2つがある。現物賠償の方法には,さまざまなものがあり,侵害行為の禁止,侵害物の除去,同等の財産の提供,判決の公示などがある。しかし,現物賠償が必ずしも機能するわけではないので,等価賠償すなわち損害賠償が損害回復方法として一般的である。損害額については,全額賠償(réparationintégrale)を原則とする。

3 著作権侵害に対する救済

 
ア. 刑事上の制裁をうける侵害行為
   知的財産権(著作権)侵害行為(contrefaçon)には,単純な知的財産権侵害行為(contrefaçonsimple)と知的財産権侵害行為と同視される違法行為(délitsassimilés à la contrefaçon)とがある。
 単純な知的財産権(著作権)侵害行為は,335−2条および335−3条に規定される。すなわち,出版,複製,上演・演奏,頒布がこれに該当する。すべての知的財産権侵害行為は軽罪である。335−2条と335−3条の軽罪は,故意による違反である。しかし,判例は侵害者に対して悪意の推定を行う(※破毀院刑事部1/2/1912)。ここで侵害者とは,違法な複製を行った者や違法な上演を行った者などの実体的行為を行った者を指し,製造者や印刷者も含む。なお,これに関与する者は,共犯としてしか処罰されないから,悪意の推定は受けない。したがって,例えば,発注者が共犯となりうるには,悪意であることを証明される必要がある。
 知的財産権(著作権)侵害行為と同視される違法行為は,侵害著作物の小売と輸出入である(335−2条3項)。小売は,侵害品の公衆への提供と定義されている。たとえば,本屋などによる販売やそのための公衆への提示などがこれに該当する。違法な複製に関与しているかどうかは問わない(※デュポン事件破毀院刑事部27/5/86)。悪意の推定は,単純な侵害行為を行う者に対しては働くが,小売業者や輸出入業者には働かないとされる(※破毀院刑事部28/2/91,破毀院刑事部24/2/93)。
イ. 直接侵害に対する民事上の制裁
   いかなる行為が民事上の制裁を受ける侵害行為に該当するかについて,著作権法上,明文の規定はない。この点に関しては,刑事制裁を受ける侵害行為と明確に区別されて論じられていないきらいがある。付帯私訴の制度が存在することから考えれば,刑事制裁を受ける侵害行為は,当然に民事上の制裁の対象となると思われる。
 すなわち,「著作者の所有権に関する法律および規則に違反する文書,楽曲,素描もしくは絵画のいずれの出版またはその他の全体的もしくは部分的に印刷され,もしくは印刻されたいずれの複製」」(335−2条1項(注45)),「侵害著作物の小売, 輸出及び輸入」(同条2項,3項(注46)),「法律に定義されおよび規定されている著作者の権利を侵害する精神の著作物のいずれの複製,上演・演奏または頒布」(335−3条1項(注47))および「122−6条に定められるソフトウエアの著作者の権利の一の侵害」(同条2項)が,民事上の制裁を受ける直接侵害行為に該当する。
 侵害行為に対する民事上の制裁には,侵害行為の差止めと損害賠償がある。

(注45)  「著作者の所有権に関する法律および規則に違反する文書、楽曲、素描もしくは絵画のいずれの出版またはその他の全体的もしくは部分的に印刷され、もしくは印刻されたいずれの複製も、侵害となる。また、いずれの侵害も、罪となる。」
(注46)  「フランス又は外国において発行された著作物のフランスにおける侵害は、2年の禁錮及び100万フランの罰金に処せられる。」(2項)。「侵害著作物の小売、輸出及び輸入も、同一の刑に処せられる。」(3項)
(注47)  「法律に定義されおよび規定されている著作者の権利を侵害する精神の著作物のいずれの複製、上演・演奏または頒布も、その方法如何をとわず、侵害の罪となる。」

(ア) 侵害行為の差止め
   侵害行為の差止めには,不法行為責任の要件である帰責性(faute)は不要である。物権的請求は,不法行為責任を基礎とするものではないので,帰責性(faute)の存否は問題とならない。判例も知的財産権侵害が成立する場合には,過失の存在や悪意の有無を問題にしなくてもよいとする(※破毀院民事部29/5/2001,「知的財産権侵害は,すべてのfauteまたは悪意と独立して,それに結びつけられた所有権を侵害する複製,上演・演奏,または利用によって特徴づけられる」)。
(イ) 損害賠償
   知的財産権侵害訴訟のうち,損害賠償請求は,不法行為責任訴訟(action en responsabilité civile)に基礎を置くと考えられている。したがって,帰責性(faute)が必要であるが,知的財産権侵害は,それ自体が民事上の帰責性(faute)を構成するので,侵害行為があれば,善意であっても,損害賠償を求めることができる。
ウ. 知的財産権侵害に基づく差押え(saisie-contrefaçon)
   知的所有権侵害に基づく差押え(saisie-contrefaçon)は,著作権のみならず,知的財産権侵害の場合に共通する手続きであり,知的財産権侵害に関する証拠を収集することと侵害行為を暫定的に中止させることを目的とする。
 著作権法332−1条2項1号は製造の中止を,2号は複製物,その収益の差押え,違法に用いられた物の差押えを,3号はすべての複製,上演,頒布からくる収益の差押えを定めている。この規定に,2004年6月21日法(LCEN)8条によって,4号(注48)が追加された。
 4号に基づく知的財産権侵害に基づく差押命令は,コンテンツを蓄積している者およびアクセスを提供しているものにも及ぶと考えられる。したがって,アクセスプロバイダやホスティングサービスプロバイダに対しても,差押命令は可能である。なお,本号が追加される前に,ホスティングサービスプロバイダに対し,アクセス不能とする知的財産権侵害に基づく差押命令を発したケースがある(後述のGandi事件)。

(注48)  4°La suspension, par tout moyen, du contenu d'un service de communication au public en ligne portant atteinte à l'un des droits de l'auteur, y compris en ordonnant de cesser de stocker ce contenu ou, à défaut, de cesser d'en permettre l'accès. Dans ce cas, le délai prévu à l'article L. 332-2 est réduit à quinze jours
「4号著作権の一を侵害する回線における公衆への伝達サービスのコンテンツの、あらゆる方法による保留。当該コンテンツの蓄積の中止を命じること、またはそれができない場合、アクセスを中止することを含む。この場合、332−2条に定める期間は、15日に縮減する。」

エ. 間接侵害に対する民事上の制裁
 
(ア) 総論
   著作権法上,間接侵害に関する明文規定はない。間接侵害に関する議論が高まっているのは,最近のことであり,ホスティングサービスプロバイダやアクセスプロバイダなど直接侵害を仲介している者(intermédiaires)やピア・ツー・ピアソフトを提供する者などの道具提供者(fournisseurs de moyens)に対して,侵害行為の停止や損害賠償を求めることは可能かという問題として議論されている。
 明文規定がないことは,間接侵害に対する著作権法の適用を排除する趣旨ではない。知的財産法典には,知的財産権侵害を容易にする行為を対象とした規定はないが,裁判例によって道具提供行為も知的財産権侵害行為に該当すると解釈されている(Gaubiac)。その理論的な根拠は,著作権法111−1条に「排他的ですべての者に対抗しうる」と定められているところにある(注49)。古い裁判例では,実演家がカフェで演奏し演奏権を侵害した場合に,作詞家・作曲家がカフェの所有者を訴え,カフェの所有者に著作権料の支払いを命じた判決がある。このケースでは,カフェの所有者自身が演奏権を侵害したと考えられているようである(※1847年ころ,ただし詳細不明)。

(注49)  A.Lucas,H.-J.Lucas, TRAITE de la Propriété Littéraire et Artistique, Litec 2e éd.p608

(イ) コピーサービス業者のケース
 
a. 破毀院民事1部7/3/84Ranou-Graphie事件
   本件は,コピーサービスオフィスが顧客にそのコピー機を使わせて複写を行わせていた事件である。破毀院は,操作を行う者が顧客であっても,複製を行う者はコピーサービス機器を提供するオフィスであるとし,私的複製の適用を否定し,当該オフィスの直接責任を肯定した。理由は,コピーサービスオフィスが機器を管理等していること,顧客がコピーをとることとオフィス側がコピーをとることを区別する理由はないこと,コピーは私的複製に向けられたものでなく,オフィス側は出版社と同じ利益を得ていることから,私的複製の例外を主張できないことである。
b. Valance大審裁判所2/7/99(刑事事件,付帯私訴あり)
   本件は,コピーサービスオフィスが顧客にそのコピー機を使わせソフトウエアをCD-ROMなどの媒体に複製させ,または顧客の依頼により,コピー業者が,自ら複製をおこなっていた事件である。私的複製または保全コピーであり,その行為は合法であるとの主張に対し,裁判所は,コピー業者を1年の執行猶予つき懲役,500,000フランの罰金,事業所の閉鎖などを言い渡した。付帯私訴では,損害賠償請求が認められている。本件では,顧客がコピーをしているか業者がコピーしているかは,コピーの実行方法の違いだけで経済的結果は同じであるということ,およびコピー業者は,自らが著作権者の許諾を得ていないことを認識しまたは許諾を得ていないか著作権料を支払っていない顧客に機器を使わせている事実を知っていることを理由として侵害を認めている。
c. まとめ
   フランス法上,共犯は主犯に従属するため,コピーを実行する者の行う複製が私的コピー(またはプログラムの所有者による保全コピー)に該当する場合,共犯となる者は責任が否定されるという問題がある。コピー業者の事件では,顧客が直接コピーを取る場合にはコピー業者は道具提供者として共犯となり,業者がコピーを取る場合には正犯となるようにも思えるが,これらの事件では,コピー業者を直接侵害者であると捉えている。つまり,侵害行為は,複製行為または複製機器を用に供する行為である。いずれの事件においても,民事上の差止めは当然認められている。特に,CDのコピー業者の場合,犯罪行為と認定されているのであるから,犯罪行為の継続が認められることはあり得ない。損害賠償請求の可否については,帰責性(faute)の有無が問題となる。知的財産権侵害では,侵害行為自体が帰責事由(faute)となるので,損害賠償請求は当然認められる。
 なお,コピーサービス提供者が直接侵害者と考える場合,コピーを依頼した者の地位が問題となる。コピーを依頼した側を間接侵害者とする見解(Gaubiac)もある。
(ウ) インターネットのサーバー提供者のケース
 
a. Paris大審裁判所14/8/96サルド事件(注50)
   本件は,学生により,学校の学生用サーバー上のウエブページにおいて,音楽作品が許諾なくデジタル化され,インターネット上に送信可能化され,著作権者が侵害の停止などを求めて,学生および学校・教授を訴えた事件である。学校側は,召喚状の受領後直ちに,当該サイトをアクセス不能にした。そのため,侵害が停止していることを確認の上,本件は終了した。

(注50)  D1996 p490;JCP1996 222727;RIDA1997/1

b. Lyon控訴院22/6/2000
   約款集(DB)の出版社が,当該DBがミニテルのサーバーに複製されているとして,作成した個人と,そのサービスの制作者兼提供者,ミニテルを運営するフランステレコム,フランステレコムのサーバーを運営し違法なコンテンツをホスティングしているJet社に対して,著作権侵害訴訟を提起した事件である。
 控訴審は,作成した個人とサービスの制作者兼提供者の著作権侵害および不正競争行為を肯定したが,Jet社については,制作者との契約で,その制作者が配信する情報についてはその制作者のみが責任を負うことが定められ,かつ,原告は,Jet社が当該著作権侵害や不正競争行為に貢献したことはないし,損害も発生させていないとして,責任を否定した。フランステレコムについても,単に回線を機能させているだけで,配信されている情報に対して,そのコンテンツを管理する責任を負わないと判断し,責任を否定している。
c. Nanterres大審裁判所23/1/2002,急速審理Nanterres大審裁判所22/10/2001 Jean Ferrat事件
   作曲家兼実演家がサイト運営者とホスティングサービスプロバイダを相手方として,民法1382条および知的財産法典121条等に基づき,複製の禁止と損害賠償を求めて,訴訟を提起した事件である。権利者は,警告を発することなく,2000年10月急速審理の召喚をしたが,ホスティングサービスプロバイダは,召喚を受け,当該サイトを直ちに閉鎖していた。
 裁判所は,ホスティングサービスプロバイダが運営者に対して,事前に権利者の許諾を得るように注意を喚起していることや当該サイトを直ちに閉鎖していることから,ホスティングサービスプロバイダに課された監視および注意義務を怠った過失はなく,損害賠償責任はないと判断し,サイト運営者に対する損害賠償請求のみ認めた。
d. Paris大審裁判所13/2/2002 AFP対Magnitude事件
   従業員が,会社のサーバーに仕事と関係のない個人のサイトを開設し写真の著作権・著作者人格権を侵害していた場合,会社が責任を負うのか否かが問題となった事件である。
 裁判所は,会社が,問題の写真の利用を直ちに終了するように警告し,その被用者が写真の利用を止めただけでなく,サイトの利用も止めているので,会社の不作為について立証がないとし,損害賠償責任を否定した。
e. Paris大審裁判所31/5/2002 Gandi事件
   音楽ファイル送信を行っているサイトをホスティングしていたサービスプロバイダに対して,332−1条2項4号(注51)に基づき知的財産権侵害に基づく差押えを申し立てた事件である。
 裁判所は,Gandiに対して,知的財産法122−4条,335−3条,331−1条2項,332−1条を適用し,1miditextと称するサイト内の編集者の同一性を識別することができるGandiが有するすべての情報を申立人に伝達すること,2執行人がGandi内において侵害者を確定する目的ですべての調査を行うこと,3miditextのドメインネームを別の記憶装置ユニットで転送することを禁止すること,4問題となった侵害について判決がでるまで違法ファイルの提供を仮に保留することなどを命じた。

(注51)  「著作権の一を侵害する回線における公衆への伝達サービスのコンテンツの、あらゆる方法による保留。当該コンテンツの蓄積の中止を命じること、またはそれができない場合、アクセスを中止することを含む。この場合、332−2条に定める期間は、15日に縮減する。」

f. まとめ
   以上のように,裁判(本訴・急速審理)となった場合,サーバー提供者らは,その時点で,送信停止措置をとっているので,裁判で差止めを命じられたものは見当たらない。ただし,5では,知的財産権侵害に基づく差押えの段階ですでにファイル提供を禁止している。また,損害賠償が肯定された例もないが,いずれも直ちに送信停止措置など必要な注意義務を尽くしているからであって,これらを怠り注意義務違反が認められれば,損害賠償が肯定されると考えられる。
(エ) その他のケース
 
a. Aix en Provence控訴院10/3/2004(ただし刑事事件)
   ゲームソフトを違法にアップロードしているサイトに誘導するためのハイパーリンクを設けたケースについても,335−4条に基づき知的財産権侵害を構成すると判断した。この事件では,リンクを張った道具提供者は共犯であると判断されている。
b. Epinal大審裁判所24/10/2000(ただし刑事事件)
   MP3形式によって提供されている違法な音楽ファイルを提供するサイトにアクセスするハイパーリンクを設けることは,知的財産権侵害行為であると判断された。
c. 破毀院商事部27/2/96
   侵害品を選択して参照できるようにする行為は,その販売のために重要な役割を演じるとして,知的財産侵害行為であるとした裁判例である。
d. まとめ
   これらのハイパーリンクを張った事件はいずれも刑事事件であるが,民事事件であったとしても同じ結論になったであろうといわれている。
(オ) 総括
   差止請求が認められる理論的な根拠は,裁判例では明確にされていない。差止請求については,権利の物権的性格から,すべての者に権利を対抗することができ,帰責性(faute)は問題とならないので,侵害行為の停止は当然に認められている(注52)。対象となる者は,侵害行為に関与しているすべての者と捉えられているようである。
 損害賠償を求めることが可能かどうかについては,コピー業者のケースとインターネットのサーバー提供者のケースは,同列に論じられていないようである。コピー業者の場合,コピー業者は,自らが複製を行いまたは複製機器を提供しているのに対し,インターネットのサーバー提供者の場合,サーバー提供者は,一般に直接侵害者の行為を知りえない。そこで,コピー業者は,直接侵害者として,行為自体を帰責事由(faute)とすることが可能である。ただし,CD-ROMへのコピー業者のケースでは著作権料を支払っていない者にコピー機を提供していることを認識していたことを認定している。これに対し,インターネットのサーバー提供者の場合は,直ちに送信停止措置をとった場合,損害賠償は否定されている。直ちに送信停止措置をとらず,放置した場合には,注意義務違反が認められ,損害賠償が肯定されることになる。これは,行為自体を帰責事由(faute)とするのではなく,一般法の法理を適用したものと理解できる。

(注52)  AndréLucas, Traité de la propriété littéraire et artistique, Litec 2nd edtion

4 特許権侵害について

 
ア. 特許権侵害訴訟の内容
   特許権は,所有権に認められる性質と同様の性質を有している。排他性は,特許権を特徴づける特質であり,特許権には絶対的対抗力(opposabilité absolue)がある。したがって,特許権者は,第三者に対して,その発明の利用を禁止することができ,また,それを許諾することができる。
 法は,知的財産権侵害に対する不法行為責任しか規定していないが(615−1条2項(注53)),知的財産権(特許権)侵害訴訟(action en contrefaçon)は,二重の性質を持つとされる。つまり,侵害行為により被った損害を特許権者に対して賠償するという側面イコール損害賠償の制裁(sanctions réparatrices)と,所有権の侵害を回復するという側面イコール差止め(sanctions restitutives)である。この構造は,著作権の場合も同様である。損害賠償の制裁については,不法行為の一般法が適用される(※破毀院民事部16/12/1897は,615−1条2項の規定がなかった当時,1382条により特許権侵害に対する損害賠償請求を肯定した。
 所有権の侵害を回復するという側面イコール差止めについては,侵害行為と侵害の存在があれば,侵害者が侵害を知らなくても,差止請求権を行使できる。特許権の侵害は,常に民事上の帰責事由(faute)を構成し,主観的要素の有無を問わず,責任を負うと考えられている。

(注53)  「知的財産権侵害行為は、その侵害者に不法行為責任を発生させる。」

イ. 直接侵害と間接侵害(注54)
   直接侵害(contrefaçon directe)と間接侵害(contrefaçon indirecte)の概念は,日本法上の概念と異なる。すなわち,直接侵害は,特許された製品の製造または特許された方法の実施を意味し,間接侵害は,「知的財産権侵害品の提供,上市,使用,使用目的または上市目的の所持が,侵害品の製造者以外の者によって行われている場合」(615−1条3項(注55))を意味する。この場合,損害賠償請求に,主観的要素が要求される。そこで,これらの者が善意の場合,これらの者に対して,行為の差止めを請求することはできないのかが問題となる。この点については,訴えの提起や警告を受け悪意となった後は,善意を援用するということはあり得ないので,禁止権を行使しうると解されている。

(注54)  A.Franconの分類による。
(注55)  「ただし、知的財産権侵害品の提供、上市、使用、使用目的または上市目的の所持は、これらの行為が侵害品の製造者以外の者によって行われている場合には、理由を知って行われた行為である場合にのみ、行為者に責任を負わせる。」

ウ. 特許実施目的での手段の提供行為(613−4条(注56))
   「特許された発明を実施する資格のある者以外の者に対し,発明の本質的な要素に関係するその発明のフランス領土内における実施手段のフランスの領土内における引渡しまたは引渡しを提供することは,これらの手段が実施可能でかつその実施を目的とするものであることを,第三者が知りまたは状況によってそれが明らかなときは,特許権者の同意がなければ,同じく禁止される。」(※Paris控訴院13/12/79は,販売目的で,特許の本質的特質を転載した説明書を提供する行為を引渡しの提供による侵害と認定した)。また,「実施手段がその提供が市場において一般に流通している製品であるときには1の規定は適用されないが,第三者が,人を613−3条によって禁止される行為を犯すようにし向ける場合にはこの限りでない」。

(注56)  1項「特許された発明を実施する資格のある者以外の者に対し、発明の本質的な要素に関係するその発明のフランス領土内における実施手段のフランスの領土内における引渡しまたは引渡しを提供することは、これらの手段が実施可能でかつその実施を目的とするものであることを、第三者が知りまたは状況によってそれが明らかなときは、特許権者の同意がなければ、同じく禁止される。」2項「実施手段がその提供が市場において一般に流通している製品であるときには1の規定は適用されないが、第三者が、人を613−3条によって禁止される行為を犯すようにし向ける場合にはこの限りでない。」

エ. わが国における間接侵害との比較
   フランス特許法における間接侵害は,侵害品の製造者以外の者によって,知的財産権侵害品の提供,上市,使用,使用目的または上市目的の所持が行われている場合をいうので,わが国の特許法における間接侵害の概念とは異なる。
 わが国の特許法における間接侵害に近い規定は,(3)で述べた侵害目的での手段の提供行為に関する規定である(613−4条)。わが国の特許法のように,「のみ」用いるものであるかどうかは基準とされていない。フランス特許法では,特許実施の目的を知っていること(状況により特許実施の目的が明らかな場合でもよい)を必要とする。侵害の目的があることまで要求されていない。
 また,わが国の特許法においては,一般に流通しているものは除かれるが,フランス特許法では,一般に流通しているものを提供する場合であっても,侵害となる可能性がある。

前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ