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資料3

共有著作権に係る制度の整備について

平成18年6月7日
文化庁長官官房著作権課

「著作権法に関する今後の検討課題」(平成17年1月文化審議会著作権分科会)
1 (4)共有著作権に係る制度の整備
 
近年、映画やゲームソフトの製作等に関して共同企業体が著作権者となることが多くなっているところ、このような共同著作物に係る共有著作権の行使について、持分割合による多数決原理を導入することや、共有著作権の譲渡について、他の共有者が不同意の場合に譲渡人を保護する方策等、他の共有者の利益との調整を図るための制度の整備に関し、人格権との関係にも留意しつつ、検討する。

1 現行制度
  【定義】共同著作物(第2条第1項第12号)
 2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別に利用することができないもの
共同著作物の著作者人格権の行使(第64条)
 
権利行使⇒全員の合意が必要(*信義に反してその合意の成立を妨げることはできない。)
代表して著作者人格権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。

 共同著作物における著作者の人格の一体性を考慮して、人格権の行使については、著作者全員の合意によるものとし、各著作者の合意義務を定めるとともに、代表者による権利行使に関し実情に即した取扱いを規定している。なお、信義に反して合意成立を拒む者に対しては、訴訟を提起して、民事執行法第173条の規定による合意判決を得、それによって反対著作者の認諾があったものとみなすという取扱いで著作人格権を行使することとなる。(加戸守行著「著作権法逐条講義(五訂新版)」(社団法人著作権情報センター、2006年)388、391頁参照)

共有著作権の行使(第65条)
 
持分の譲渡又は質権の設定⇒全員の同意が必要(*正当な理由がない限り、同意を拒むことはできない。)
権利行使⇒全員の合意が必要(*正当な理由がない限り、その合意の成立を妨げることはできない。)
代表して著作者人格権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。

 共有著作権の処分・行使に関し、著作権共有者間の連帯性を確保する観点から、民法上の準共有に関する規定の一部の適用を排除して、持分の譲渡等についての他の共有者の同意、著作権行使についての全員の合意、代表者による著作権行使などを定めたものである。他の共有者に不利益を与えない持分の放棄や、持分の相続の場合等には同意の必要はないと考えられている。権利の行使については、民法第252条の共有物の管理に関する事項は共有者の持分の過半数によって決せられることになっているが、共有著作権の行使の場合には、持分の多少にかかわらず全員の合意によるという特例が規定されている。これは、多数決原則が妥当する通常の財産の利用とは異なり、一体的利用を確保すべき文化的所産の利用に関する事項であることによる。(前掲・加戸守行著「著作権法逐条講義(五訂新版)」392、394頁参照)

共同著作物等の権利侵害(第117条)
 
第112条の差止請求⇒単独請求可
損害賠償請求又は不当利得返還請求⇒持分に応じて単独請求可

 共同著作物の著作者人格権の侵害については、各著作者が独立して個別に第112条の差止請求をすることができることとし、共有著作権又は共有著作隣接権の侵害については、各権利者が独立して個別に第112条の差止請求をすることができるとともに、各権利者の持分に対応する損害賠償請求又は不当利得返還請求をすることができることとしたものである。一般に、共有財産権の侵害については、各共有者は単独で共有財産権全体に対する妨害の排除を請求することができるものとされており、共有著作権又は共有著作隣接権の侵害の場合における差止請求権についても、各持分権者による単独の行使が認められるところである。また、共同著作物の著作者人格権の侵害の場合にも、各権利者の人格的利益がその共同著作物という一つの著作物に混然融合しているものであることから、その侵害に対する差止請求権の行使については、共有財産権の場合と異なるところはないと考えられる。ただし、第64条、第65条において、共同著作物に係る権利の行使について全員の合意によるべきことを規定しているため、本条で明確に規定したものである。(前掲・加戸守行著「著作権法逐条講義(五訂新版)」709、710頁参照)

2 問題意識
   現行法においては、共有者間に著作物の創作に協同したという親密な人的関係があること及び共有の客体が著作権という精神的色彩の強いものであることから、権利の行使には全員の合意が必要であるというような民法の特例を設けているが、近年、映画の製作に製作委員会方式が導入されるなど、共同企業体が著作権を共有する場合も多くなっており、そのような場合における権利行使の在り方が権利者にとって重要な問題となっており、権利行使の円滑化と共有者間の利益の調整を図る観点等から、現行制度が適切かどうか検討する必要がある。

3 考えられる検討課題(※平成16年度法制問題小委員会審議より)
 
共有著作物に係る権利の行使等の在り方
 
共有者の1人[1社]が居所不明又は破産等により合意等が得られない場合の方策
   現行法においては、共有著作物の著作者人格権、共有著作権等の行使には、「全員の合意」が必要とされており、また、持分の譲渡についても「全員の同意」が必要とされているため、共有者の1人が居所不明等により合意等が得られない場合には、その後の権利行使が実質上不可能となるおそれがある。

共有著作権の行使に係る持分割合による多数決原理の導入
   権利行使の円滑化や上記の場合の対策として、民法と同様、持分割合による多数決原理の導入することも考えられるとの意見がある。

共有著作権の譲渡について、他の共有者が不同意の場合に譲渡人を保護する方策
   会社法においては、譲渡制限のある株式について、譲渡に取締役会が承認しなかった場合における譲渡人の保護の手続が詳細に規定されているが、現行著作権法上、他の共有者の同意が得られなかった譲渡人の保護に関する規定は置かれていない。

共有者による共有著作物の「使用」
   共有著作権の「行使」については、全員の合意が必要とされているが、例えば、共有者による、共有物であるソフトウェアを基礎とした新たな研究開発等の「使用」についての取扱いが明確でないとの意見がある。

その他

  (参考1)民法の規定との比較
 
  著作権法 民法
人格権の行使 全員の合意が必要(第64条)
※信義に反して、合意の成立を妨げることができない。
 
共有持分の割合の推定 (注) 各共有者の持分は相等しいものと推定(第250条)
持分の譲渡又は質権の設定 全員の同意が必要(第65条第1項)
※正当な理由がない限り、同意の成立を妨げることができない。
(持分の譲渡は自由とされている。)
持分の放棄及び共有者の死亡 (注) 当該持分は他の共有者に帰属(第255条)
権利の行使 全員の合意が必要(第65条第2項)
※正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない。
【管理】持分の価格に従い、その過半数で決する。(第252条)
共有物の分割 ((注)…ただし、著作権の支分権ごとの分割の場合のみとされている。) 各共有者はいつでも請求できる。(第256条)
差止請求 単独請求可(第117条) 単独請求可。(第252条但書)
損害賠償 持分に応じて単独請求可(第117条) 持分に応じて単独請求可。(第427条)
(注)前掲・加戸守行著「逐条講義(五訂新版)」では、原則どおり民法が準用されるとされている。

  (参考2)産業財産権法の規定との比較
 
  著作権法 特許法(*実用新案法、意匠票、商標法においても準用されている。)
持分の譲渡又は質権の設定 全員の同意が必要(第65条第1項)
※正当な理由がない限り、同意の成立を妨げることができない。
全員の同意が必要(第73条第1項)
権利の行使 全員の合意が必要(第65条第2項)
※正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない。
【特許発明の実施】単独で実施可(第73条第2項)
【専有実施権の設定又は通常実施権の許諾】全員の同意が必要(第73条第3項)

  (参考3)諸外国の法制との比較(共有著作権に関して特別の定めがあるもの)
 
(※「外国著作権法令集」(社団法人著作権情報センター)より)
  日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ
「共同著作物」の定義 2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの(第2条第1項第12号) 2以上の著作者が、各々の寄与物を分離できないまたは相互に依存する部分からなる単一物に統合する意図をもって作成する著作物(第101条) 2人又は2人以上の著作者の協力により製作される著作物であって、各著作者の寄与が他の著作者のそれと区分されないもの(第10条) 2人以上の自然人が創作に協力した著作物(第113の2条第1項) 数人の者が著作物を共同して製作し、各自の寄与分が分離して使用されないとき(※「共同著作者」の定義:第8条第1項)
著作者人格権 全員の合意が必要(第64条) 【放棄】
著作者の一人が本項に基づき行う権利の放棄は、全ての著作者について当該権利を放棄する(第106A条(e)(1))
【著作物を傷つける取扱いに反対する権利】
全員の同意が必要(第88条(2))
全員の合意が必要。合意のない場合には、民事裁判所の決定するところによる。(第113の3条第2項・第3項) 【公表、変更】
全員の同意が必要
(ただし、各共同著作者は、信義誠実に反して拒むことができない。)(第8条第2項)
持分の譲渡 全員の同意が必要(第65条第1項)        
持分の放棄     【著作者人格権】
他の権利者に影響を与えない。(第88条(3))
  自由に放棄できる。当該持分は他の共同著作者に帰属。(第8条第4項)
権利の行使 全員の合意が必要(第65条第2項)
(ただし、正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない。)
【権利付与の終了】
共同著作物の二人以上の著作者が行った権利付与の場合には、権利付与を行った著作者の過半数をもって終了させることができ、かかる著作者が死亡している場合には、本節第(2)項に基づき著作者の終了権の2分の1を超える権利を保有しかつ行使することのできる者が、これを終了させることができる。(第203条(a)(1))
著作権者の許諾のいずれの要件も、それらのすべての者の許諾を必要とする。(第173条(2)、第191条のA(4)) 全員の合意が必要。合意のない場合には、民事裁判所の決定するところによる。(第113の3条)
【個々の寄与を分離した利用】
各共同著作者の関与が異なる分野に属する場合には、各共同著作者は、別段の合意がない限り、個々の寄与を分離して利用することができる。ただし、共同著作物の利用を害してはならない。(第113の3条第4項)
全員の合意が必要。ただし、信義誠実に反して拒むことができない。(著作物の利用から生ずる収益は、著作物の創作に対する各自の寄与の範囲に応じて帰属。)(第8条第2項・第3項)
差止請求 単独請求可(第117条)       単独請求可(第8条第2項)
損害賠償 持分に応じて単独請求可(第117条)       【請求権】
単独で行使可。ただし、各共同著作者は、共同著作者の全員に対する給付に限り、請求することができる。(第8条第2項)


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