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「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会審議の経過」に対する意見募集に寄せられた御意見

※いただいた御意見は項目ごとに整理させていただいておりますが、原文のまま掲載しております。
項目 意見
1.権利制限の見直しについて
(1)基本的考え方(検討の進め方)
(1)基本的考え方(検討の進め方) 「もとより著作権は、それ自体重要な価値を有する私権であり、その制限については、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないことが前提となる」というくだりについてであるが、本来著作権とは、著作者すなわち制作者に当然備わる経済的権利を保障することにより、制作者の創作意欲を刺激し、さらにそれを国際的な競争力を持つものに育て上げるという国策的観点が必要なもののはずである。いたずらに関連法規によって配布・利用についての制限を設けることは、そうした著作権法の本来の主旨に必ずしも沿うものであるとは言い難い。

「権利者の利益と社会一般との利益との調整」とありますが、権利制限の見直しは一方的に権利者の利益を排除するものと思います。特に医療関係の情報については人の生死にも関わるだけに、迅速で正確な情報が求められ、その意味で公共の利益に資する点が大きいことは理解します。ただし、そのことと権利者の利益を守ることとは別次元の問題であり、公共の利益のために権利者利益を法的に却下してしまうのはあまりに短絡的であると考えます。権利者利益を守ることと公共の利益は共存しうるものと考えます。

著作権法における著作権制限規定は、私権である著作権を公益目的のために制限するものであり、その拡大は著作権者にとって好ましいものではなく、慎重に検討されるべきである。

著作権法における著作権制限規定は、私権である著作権を公益目的のために制限するものであり、その拡大は著作権者にとって好ましいものではなく慎重に検討されるべきである。「権利制限」としてあげられた5点の中で、特に「特許審査手続に係わる制限について」および「薬事行政に係わる権利制限について」であるが、「特許審査手続」や新薬治験の認定など「薬事行政」に際して医学関係の学術書籍・雑誌の掲載論文が資料として用いられる場合は多い。これらの学術書籍・学術雑誌はもともと学問の進歩という公共の利益に適うことを目的に出版しているものであり、著作者及び専門学術出版社の権利が守られなければ、学術出版そのものの存立基盤は失われてしまうと考えられる。『基本的な考え方』のなかで、「著作者の正当な利益を不当に害しないことが前程となることはいうまでもないが」と記述されているが、上記の権利制限は著作者の利益を著しく害することは明らかであると考える。

この基本的な考え方を全面的に支持します。
一部権利者代表・及び著作権分科会委員の中には、権利制限を「権利の剥奪」と主張する人もいますが、権利制限とはここに書かれているように「他の社会的要請との調和」を図るものだと思います。
文化審議会著作権分科会での議論は、是非ともこの考えに基づいて行って欲しい。
特に、権利者代表の分科会委員は、この「基本的な考え方」を否定することなく、意見を述べて欲しい。
また文化庁も、著作権行政を行う際には、この「基本的な考え方」を基本において行っていただきたい。

医学書は、もともと公共の利益にかなう場面での利用を目的に出版している。
これらが利用者に無償で提供されてしまうと、もともと発行部数の少ない医学書は大きなダメージを受ける。これは医学書の出版全体にとっての死活問題となる。
その点を考慮に入れるべきである。

1)社会的必要性について
「審議の経過」2ページに「時代によって変転していく社会的必要性に応じて一定の場合に権利を制限」とあるが、社会的必要性があるだけで権利を制限することは適切ではない。権利の制限はその「社会的な必要性」が特定個人あるいは企業の利益に結びつくことではない場合にのみ考慮すべきであり、また、権利の制限によって失われる権利者の利益を上回る公共の利益を達成しなければ意味がない。また「社会的必要性」が、複製許諾を得て利用することが可能であるにも関わらず、それを回避して利用したいとする利用者の便宜を図ることであるならば、それはもはや「社会的必要性」とは言えないことは明らかである。
以上の観点から、今回の「権利制限の見直し」のうち「特許審査手続」ならびに「薬事行政」に係る要望事項はいずれも権利制限の対象として適切なものとは言えない。これらの状況における著作物の複製利用は、現行の複写権管理団体においてその利用許諾と利用料の支払が簡便な方法によって可能であり、利用者がこれらの許諾システムを活用すべきである。

2)ベルヌ条約との整合性について
著作物の権利が一定の条件のもとで制限されることを否定するものではないが、日本はベルヌ条約の批准国であり、権利制限はベルヌ条約第9条第2項に規定するスリーステップテストを満たすものでなければならない。つまり複製は「特別の場合であり」、「著作物の通常の利用を妨げないものであり」、更に「著作者の正当な利益を不当に害しないものである」場合にのみ許容されるべきであることは明らかである。

1利益を得るところがコストを支払う
例えば製薬業界で取るコピーのコストが2億円して、製薬業界の総売上が1000億円とした場合(この数字は仮定の数字で正しくない)
一方専門書出版社の売上総額が30億円とした場合、コピーによる2億円が権利制限のためということになれば、売上総額は28億円となる(この数字も必ずしも正しくない)。
権利制限をすることによってダメージを受けるのは明らかに専門書出版社である。
国際的文化国家を目指すわが国として、そのような方向に進むことは絶対にあってはならない。

2著作権の所在を明確にするシステムの構築
正当にコピー代金を支払いたいが、どこに、どのように手続きをすれば良いのか判らないという意見があるようですが、権利制限を見直すよりも著作権の所在が判る機構を民間で作らせ、そこに登録のないものはコピーを自由にできるといったことを進めるべきである。

出版物の複写に係わる権利処理については、現在すでに複数の著作権管理団体が活動しており、当社でもJCLSに対して権利委託を行っています。
そのようななか無許諾で複製が可能になる範囲の拡大については拡大範囲があいまいで、事実上複製野放しになる危険があります。
出版物にかんして著作権管理団体の存在意義は大きいと思われます。

著作権法が社会的認知を受けるために著作者や創作者は作品をつくっているわけではない。著作権法が認知されて当たり前の社会が大前提であり、その啓蒙を積極的に行うことも出版界の重要な使命である。福沢諭吉先生の「学問のすすめ」以前から発意と責任をもって著作物を市場に伝達する出版者として当然のことと認識している。出版社の権利はいまだ付与されていないが、著作権法を遵守してきた長い長い歴史がある。もともと著作権法は「版権」の提唱が発端であり、それが出版条例、版権条例と引き継がれ、そして1899年「著作権法」が制定された。
印刷技術の発展により多くの読者に知的好奇心を満たすための品揃えと流通経路を確保し、何よりも著作権者に人格権はもとより財産権に対して応分の対応をとってきたと自負している。
今回の権利制限については、ベルヌ条約9条2で定める「スリー・ステップ・テスト」にはずれていないかを充分に検討いただきたい。国民的コンセンサス、政策的判断以前にクリアすべきことと思う。

「時代によって変転していく社会的必要性に応じて一定の場合に権利を制限されることは、権利者の利益と社会一般の利益との調整を図りつつ、著作権法がこれからも社会的認知を受けていくためには必要なことである」という指摘はまさにそのとおりである。著作権が私権であるにしても、所有権などの財産権とは異なり、文化の発展のために認められた権利である以上、社会的利益との調整は積極的に求められる内在的な制約要請である。もっとも、どの程度の権利制限を認めるべきは、その社会的利益によって軽重がある。そのような観点から意見を述べる。

現在審議されている著作権制限規定は「社会的な必要性」(公益目的)のために制限するものであり、複写の利用者の便宜のために制限することは、避けなければならない。「社会的な必要性」の定義を極めて慎重に審議し、決して特定個人あるいは企業の利益に結びつくことではない場合にのみ考慮すべきである。一方、今日において複写することは一般社会において必要な行為となってきていることを考えると、権利者は複写の利用者の便宜を図る努力をする義務を負わなければならない。現在、各権利処理団体の管理する著作物は増加している。権利者は今後もより簡易な権利処理の方法について検討し、その管理著作物を増やすべきである。
また、世界において知的財産立国としての日本は、今回の見直しの結果は当然国際的に認められる内容でなくてはならず、自ずとベルヌ条約に抵触しないよう、特に第9条2で定める、いわゆる「スリーステップテスト」を満たしていなければならない。
以上により、今回の制限拡大の審議の内容には反対するものである。

著作権分科会法制問題小委員会の基本的な考え方に賛成する。重要な課題として認識されている知的財産立国を推進する上で、検討課題として取り上げられた5点の権利制限規定については、いずれも我が国における著作権の他の社会的要請との調和という観点で重要であるが、さらに、近年のネットワーク化の進展、相互にコミュニケートすることが機能実現において不可欠であるプログラムの特性、国際的な視点から、例えば、EU Directiveおよび米国DMCAにおいて認められている、相互運用(interoperability)を達成するために必要な情報を得るためのプログラムの著作物の利用を一定の条件のもとで権利制限することは、イノベーションを促進し、我が国産業の国際競争力の強化を図る上で検討されて然るべきと考える。

Your summary seems to suggest that it is necessary to limit copyright to respond to constantly evolving social needs. We would like to emphasise that the very concept of copyright in itself attempts at striking a balance between the interests of rightsholders and users.

The Interim Report appears to imply that there are no public interest considerations supporting firm copyright protection, and that private commercial interests are pitted against the public interest which is to be protected through exceptions and limitations. This is an incorrect assumption. Copyright protects more than individual commercial interest. In general, copyright protects a society's ability to preserve, distribute and develop its cultural heritage. There is a public interest in having a viable, sustainable scholarly publishing industry which supports and facilitates scholarly communications and ensures that scientific advances be accurately recorded, communicated and distributed among academics. Scientific progress is unthinkable without scientific publishing

The reproduction right is an exclusive right conferred on the author (or publisher) of literary (including scholarly) works to award the author's and publishers for their effort in authoring, peer-reviewing, editing, printing and distributing scientific articles of a reliable quality, thereby informing researchers and the public of recent scientific developments. Without receiving royalties from license sales, scientific authors and in particular publishers would not be able to make a living from their activity.

To address specific needs, the reproduction right can be limited provided certain circumstances are met. These are set out inter alia in the Berne Convention and in TRIPS, two international treaties to which Japan is a party. The three-step test allows addressing specific social and other needs by introducing limitations or exceptions on the reproduction right.

However, no law can comprehensively address social needs as they evolve from time to time. IPA hopes that the Legislation Committee exercise caution when enacting new limitations or exceptions to the reproduction right so as to not unduly prejudice the legitimate interests of copyright holders.

Yours faithfully,


●ここに示された「考え方」に大変感銘を受けている。こうした方針を元にそれぞれの問題点を検討されていくことを切に望む。
●ところで、この章「権利制限の見直し」と次章「私的録音録画補償金の見直し」とは区別されてしまっているのだろうか?私的録音・録画が権利制限にかかる問題である以上、これについても本「基本的考え方」が適用されるべきと私は考えるのだが。
●私的録音・録画問題に関しては、権利者の「複製権」ありきという議論が横行し、「社会的認知」を受けるための議論とは全くなっていない現実がある。著作権制度によって保護されるべき「利益」の特定、著作物(複製物)を購入するのは利用に一定の自由を得るためであるとの社会通念に沿った視点(例えば一度対価を支払った著作物については私的複製の範囲に限り無償とするなど)が必要とされるのではないか。
●特許・薬事・図書館・障碍者福祉・教育の諸課題は、その公共性・緊急性・重要性から見て、私権たる著作権によって妨げられるべきものではないように思う。場合によっては権利者に対する補償にも配慮する必要はあるだろうが、そこも含めて「基本的考え方」に基づいた判断を期待する。

「審議の経過」2ページに「権利者の利益と社会一般との利益との調整を図りつつ」とあり、権利制限の見直しは権利者と社会一般、特に公共の利益の両方を勘案して判断しなければならないことは当然である。しかし今回の見直し審議では公共の利益という観点よりはむしろ、「時代によって変転していく社会的必要性」に対応するための利用者の便宜を図ることに重点が置かれ、権利者の利益が必ずしも考慮されていない状況がある。社会一般の利益を確保する必要性のために著作者の権利を制限する場合、著作者ならびに出版者への影響を十分に考慮することが必要であることは言うまでもないが、複写利用あるいは許諾手続に対する利用者の便宜を図ることを目的に権利を制限することは必ずしも適切な方法であるとは言えない。「知的財産立国を推進」するために著作物の円滑な利用は不可欠であるが、その目的のために権利制限することは余りにも安易な考え方であり、それ以前に複製物を含む著作物の流通と許諾・利用料支払のシステムを機能化することの方が重要である。
出版物のなかには、もともと公共の利益を目的とした状況において有償で利用されることを目的に出版されているものがあり、そのようなものは公共目的利用が著作物の通常の利用目的である。そのような出版物が公共目的利用であることを理由として権利制限の対象となることは、特にその利用範囲が広い場合には当該出版物本来の利用目的を妨げることになる。特許審査手続、薬事行政それぞれにおいて利用される理工学専門書誌や医学専門書誌、あるいは学校教育において利用される教科書あるいは問題集や参考書・専門書といった出版物は、もともと学術研究、医学医療、学校教育といった公共の利益に適う場面で利用されることを目的に出版されているものである。これらの出版物の権利が公共の利益のために制限されることは適切ではないと考える。
著作物の権利が一定の条件のもと制限されることを否定するものではないが、そのような権利制限は以下の状況に限定されるべきである。

1ベルヌ条約第9条第2項に規定するスリーステップテストを満たすものであること。つまり複製は「特別の場合であり」、「著作物の通常の利用を妨げないものであり」、更に「著作者の正当な利益を不当に害しないものである」場合にのみ許容されるべきであること。
2基本的に、複製は公共の利益に適うものであり、特定個人あるいは企業の利益に資するものではないこと。
3基本的に、複製の目的がその著作物本来の利用目的でなく、複写利用の量がその著作物全体の利用範囲に対して比較的少量であること。

「著作物というものは、消費者に利用されることによって価値が産まれる」事を著作権者・隣接者にわからせる方向で進めてください。彼等の怠慢ぶりははっきり言って「酷すぎる。」
(廃盤等を理由とした販売・交換の拒否、誤字・脱字、プログラムのバグ、ページの入れ間違い、メーカーの都合による再生機器の生産中止の際のメディアコンバートの拒否・・・・)

○著作権法における著作権制限規定は、私権である著作権を公益目的のために制限するものであり、その拡大は著作権者にとって好ましいものではなく、慎重に検討されるべきである。

1.権利制限の見直しが必要なのは「時代によって変転していく社会的必要性」に対応するために利用者の便宜を図ることではない。「知的財産立国を推進」するために著作物の円滑な利用は重要であるが、その前提として複製物を含む著作物の流通と許諾・利用料支払のシステムを機能化することが重要である。

2.公共の利益を目的とした状況において有償で利用されることを目的に出版されているものについて、公共目的利用であることを理由として権利制限の対象となることは適切ではない。特許審査手続、薬事行政それぞれにおいて利用される理工学専門書誌や医学専門書誌、あるいは学校教育において利用される教科書あるいは問題集や参考書・専門書といった出版物は、もともと学術研究、医学医療、学校教育といった公共の利益に適う場面で利用されることを目的に出版されているものであり、これらの出版物の権利が公共の利益のために制限されることはベルヌ条約第9条第2項が求めるスリーステップテスト、特に「著作物の通常の利用を妨げないものであり」に違反する。

「真に必要な著作権保護のための制度改正とともに、著作物の公正で円滑な利用を促進することにより、知的財産立国を推進することが、著作権法に関する政策を考える上での重要な課題である」との記述に賛同する。
権利制限規定は、社会的必要性に応じて速やかに拡充を図るべきである。拡充の方法のひとつとして、34ページに記載されているように、政令等への委任を活用することを支持する。

第1パラグラフ中に、「もとより著作権は、それ自体重要な価値を有する私権であり、その制限については、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないことが前提となることはいうまでもないが、」とあるが、今回の権利制限規定の見直しにおいては、権利者の利益が必ずしも考慮されていない状況があることを指摘したい。出版物の中には理工学誌や医学専門誌などのように公共の利益を目的として発行され、かつ有償で利用されることを目的に出版されているものがある。このような出版物に対して公共目的への利用を理由に権利制限の対象とすることは、著作者の正当な利益を不当に害することに繋がり、上記「     」書き内の前提なるものが先ず崩れることになると、指摘せざるを得ない。
また、「社会的必要性に応じて一定の場合に権利を制限されること」とあるが、社会的必要性とはそれが特定の個人あるいは企業の利益に結びつくものではない場合にのみ権利制限の条件として考慮すべきである。また、特定の個人あるいは企業の利益に結びつくものではないとしても、著作者の正当な利益を不当に害しないことが前提である以上、必要に応じて著作物の複製許諾システムを活用することによって著作者の利益保護を考慮し、かつ「社会的必要性」を充足する事が必要である。
権利制限を認めた場合、学術論文全体の複製に及び,かつ部数も多数になることが予測され、その場合には、公共の利益を目的として発行されている学術雑誌は発行が不可能という事態に陥らざるを得ないということも、委員の方々には十分に認識して頂きたい。

「審議の経過」2頁に「著作権制度は文化の発展に重要な役割を果しているが、社会における他の価値や制度との調和の上に成り立っていることを忘れてはならない。」との指摘があります。そして、「時代によって変転していく社会的必要性に応じて一定の場合に権利を制限されることは、著作権法がこれからも社会的認知を受けていくためには必要なことである。」とされています。
前者の指摘は正当なものであると思われますが、後者については疑問があります。
疑問の第1は、ここでいう「社会的必要性」とは、「著作物利用の必要性」なのか「著作権制限の必要性」なのかという点です。
そもそも、著作権の保護が必要なのは、「著作物利用の必要性」が存するからです。著作物利用の需要が存在しないのならば著作権で保護しようとしまいと著作物が利用されることはありませんから、著作権の保護の必要性は乏しいことになります。
したがって、「著作物利用の必要性」は、それのみで著作権を制限する根拠とはなりえず、著作権制限の根拠である「社会的必要性」は「著作権制限の必要性」でなければならないと考えます。
第2に、著作物利用の社会的必要性に応えるべき義務者が存する場合には、その義務者が社会的必要性を満足させるための措置を講ずるべきですから、著作権を制限する根拠とはなりえないと考えます。
例えば、図書館は国民の「知る権利」の実質的保障のために著作物を国民に利用させる責務を負っています。この場合には、図書館が必要な措置を講じることによって「著作物利用の社会的必要性」が充足されるべきです。
したがって、図書館が必要な措置を講じないことは、著作権の制限の根拠とはなりえないと考えます。
第3に、著作物利用の許諾方法が現に存し、あるいは、許諾方法が構築されうる場合には、著作物利用の社会的必要性は満足されうるのですから、著作権制限の必要性は存しないと考えます。
第4に、著作権制限の必要性が存する場合でも、その制限手段が必要性に見合った相当なものである必要があると考えます。
例えば、営利目的で試験問題に著作物を使う場合の36条2項のように、著作物利用の必要性があり、かつ、事前に許諾を得ることができない場合には、著作権を制限し、自由に利用できるようにする必要があるといえるかもしれません。しかし、営利目的の試験に使う場合には、著作物利用者は、それによって利益を得るのですから、無料で著作物が利用できるようにするまでの必要性はありません。
したがって、著作物の無償利用を認めるような制限手段は、手段の相当性を欠くものと考えます。
要するに、著作権の制限を検討するに際しては、著作物利用の社会的必要性が存するだけでは足りず、著作権を制限する社会的必要性が必要で、制限手段がその社会的必要性を充足するために相当な程度のものであることが必要であると考えます。

「社会的必要性」という名の元で権利制限を行う場合、その公正さ・公平さが厳しく求められる。決して特定の個人や特定の企業の利益のためであってはならないのは自明のことである。「著作物の公正で円滑な利用の促進」は必要なことであるが、権利制限を行うことはとくに慎重にすべきであろう。現行の複写権管理団体において、簡便な手続きを行えば円滑な利用が可能な状況があるわけであるから、なおさらのことである。

「権利制限に際しては、経済学的観点を入れて原則づくりを進めるべきである。」
以下その理由:
(1)この報告書であげられている権利制限の検討方法は、何らかの理論的原則に基づいて行われたと考えにくく、将来的に問題を引き起こす可能性が高い。そのため、より理論的な原則に基づいて検討すべきである。そしてそのような原則づくりにあたり、最近の経済学の知見が役立つはずである。
(2)たとえば、学校教育についての見直しのところで、サーバに教材などの資料を置く事の是非について次のように述べられている。
「教育機関のサーバに蓄積することにより得られる利益に比して目的外使用の危険性がきわめて高いことなど権利者の利益を不当に害することがないかという点の検証が必要ではないか」
ここで権利者の利益を不当に害するというのは、何をさしているのだろうか。教材がコピーされること自体だろうか、それとも権利者の収益が減少することだろうか。また、その不利益をどのように測定し、利用者の利益とをどのように比較検討するのだろうか。利用者の利益と権利者の利益という二つの利益を調整するとすれば、利益を実際に測定し比較することが原則になるはずである。しかし、報告書では、そのような作業はされておらず、各人の主観的な見解で議論が行われている。
(3)原則が無いままに権利制限の列挙が増えていけば、様々の問題が生じてくる。まず、列挙数が増えるにつれて整合性をとることが困難となり、なぜ制限Aは認められて制限Bは認められないのかという不満を生み出す恐れがある。さらに、列挙が増えていけば法体系として複雑となり、施行に支障をきたす。また、技術進歩で新たな利用方法が生じるたびに論争がおこるとすれば、政策当局に常に過大な負担をかけることにもなるだろう。列挙数が5〜6個ならばともかく、10〜20と増えてくれば著しく実際的でなくなってくることが予想される。
(4)このような問題を避けるためには、権利者の利益と利用者の利益を推定し、それを比較考量するという原則を立てる必要がある。そして、権利者と利用者の利益の比較という作業は、事前のインセンティブの確保と事後的なアベイラビリティーのバランスという問題として、知的財産権の分析として経済学が長く取り組んできたテーマである。知的財産権の経済分析はノーベル経済学賞を受賞したK.Arrowの1962年の論文以来、膨大な研究の蓄積がある。著作権についても、近年の研究には著しい進展があり、たとえばLandes and Posner[2003]等にまとめられている。最近の経済学では、著作権について理論的なモデル分析や、各種の計量手法を用いた推定も多い。権利制限をしたとき、権利者の報酬がどれくらい減るか、利用者の利益がどれくらい増えるかなどは、過去のデータやアンケート調査を組み合わせることで推定できる。これらの知見を取り込むことによって、権利制限の原則をつくっていくことは可能である。少なくとも著作権の権利制限の議論を行う際に、経済学の手法を取り込むことは、有意義であると思われる。

Kenneth Arrow,1962,"Economic Welfare and the Allocation of Resources for Innovation", in Nelson, editor, The Rate and Direction of Inventive Activity.
William M. Landes, Richard A. Posner,2003," The Economic Structure of Intellectual Property Law ", Belknap Press of Harvard University Press


権利制限の見直しは、「権利者の利益と社会一般との利益の調整をはかりつつ」行うのが基本的に重要であり、権利制限により著作物の通常の流通を妨げ、また、著作者の正当な利益を不当に害することがないように格段の留意を払うべきである。 公共の利益に適うという理由のもとに権利制限することは、広く社会一般の賛同を得やすいが、反面、権利者の失われる利益には充分に配慮されない。今回の権利制限の見直しに当っても、権利制限によって得られる社会的利益が強調されているが、ベルヌ条約第9条第2項に規定するスリーステップテストとの適合性については、事前に定量的な検討に必要なデータが整備されていない。権利制限の拡大は国際的な著作権の認識のもとで行われるべきである。

「権利者の利益と社会一般との利益との調整を図りつつ」見直すとありますが、公共の利益という観点よりはむしろ、「時代によって変転していく社会的必要性」に対応するための利用者の便宜を図ることに重点が置かれ、権利者の利益が必ずしも考慮されているとはいえないのではないでしょうか。
また、ベルヌ条約第9条2、TRIPS13条、WCT10条等で定める、いわゆるスリーステップテストに合致するかどうかを十分に吟味する必要がありますので、慎重に検討していただきたいと存じます。
知財立国として、著作権を矮小化するかにも見え、バランスに欠けるのではないかと危惧いたします。

著作権管理の組織化が万全ではないために、使用に支障を来す著作物に関しては、とりまとめ団体と著作権者の相互努力と共に、公的支援による整備も検討されるべきである。
また、営利事業者への権利制限の適応がなされないような歯止め、明確性も必要である。
非営利という概念の拡大に伴う変化に関しては、税金でまかなわれるべき部分に関しては、そこからの著作権者への支払いが、まず望ましい。更に、無料で使用する場合も、権利を制限するのではなく、著作者と無料使用に関する契約を取り交わしていく方向が、望ましい。(そうすることで、著作権への基本的な理解と、著作物の公共性の意識が拡大していくためである)技術の変化に伴う権利制限の見直しは、実情の調査をまず行い、著作物への影響など、問題の起こりそうな状況への歯止めを考えるべきである。

著作権法における著作権制限規定は、私権である著作権を公共の利益のために制限するものであり、やむを得ず制限規定を設ける場合は合理的、公平かつ必要最小限に行われるよう慎重に検討されるべきである。著作権制限規定の見直しに当たっては、ベルヌ条約第9条第2項の定めを厳格に遵守し、合致するかどうかの充分な吟味が必要である。

1.今回著作権の見直し審議では公共の利益という観点よりは社会的必要性に対応するための著作物を利用する者の便宜を図ることに重点が置かれ、権利者の利益が必ずしも考慮されていないように思います。社会一般の利益を確保する必要のために著作者及び出版社の著作権利を見直した結果、権利者側への不利益な影響を及ぼすことは明白であります。出版物の中にはもともと公共の利益を目的として有償で利用されることを望んで出版されているものもあります。このような出版物が公共的利用であることを理由として権利制限の対象となって、特にその利用範囲が広い場合には当該出版物の本来の利用目的を妨げる結果となります。



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