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4.契約・利用について

   契約・利用に関する検討課題については,契約・利用ワーキングチームにおける検討の結果について,法制問題小委員会へ報告が行われ,本小委員会の委員から次のような意見が出された。

 
本小委員会での意見の概要

   第63条第2項の解釈に関連して,「ライセンス契約違反を理由にした契約の解約」の効果を明確化すべきとの意見があった。
 第61条第2項については,自然科学系学会へ提出する論文や教育機関の教材等の実態を留意した上で,同項の存置の必要性について検討すべきという意見のほか,強行規定としないのであれば,本条の推定は特掲しさえすれば破れること,本条項は著作権者保護の規定となっており,著作者の保護とは直結しないことから,弱者保護としてもほとんど意味がないため廃止すべきであり,紛争の予防という観点から,本論点の検討は可及的速やかになされるべきという意見があった。
 譲渡契約の書面化や未知の利用方法などは,実務的にも重大な問題であるため,引き続き検討すべきであるとの意見があった。なお,未知の利用方法に係る契約について,著作権の場合だけ特別扱いすることは,著作権の財としての価値を低めることにも繋がるため,原則として契約の一般法理に委ねるべきという意見がある一方で,経済力,情報力を充分に持たない著作者が不当に不利な契約に縛られないように個別具体的なケースごとに検討すべきであるという意見もあった。

契約・利用ワーキングチーム検討報告の概要

 
(1) 著作権法と契約法の関係について(契約による著作権のオーバーライド)
  【問題の所在】
 
   著作権法第2章第3節第5款(第30条以下)に「著作権の制限」が規定されており,私的使用のための複製(第30条),図書館等における複製(第31条),引用等の利用(第32条)等が認められているが,これらの制限規定により認められる著作物の利用を禁止又は制限する内容の契約が有効かどうかという問題がある。

  【検討結果】
 
   米国や欧州においては一定の検討がなされているものの,我が国において本件に関する本格的な議論がなされていないことから,現段階では,次のような作業を着実に進める必要があり,その過程において,ある特定の類型について契約を無効とする制限規定(強行規定)が必要とされるならば,その旨を立法することで対応すべきである(平成19年(2007年)を目途に結論)。
 
  1  どのような場合にあっても契約を無効とする制限規定があるかどうかの抽出作業を行うこと
  2  契約無効の判断要素に照らして,無効となるべき契約にはどのようなものがあるのか等の検討を行うこと
  3  これらの判断要素を確定させた上で,契約無効に関する立法的対応の必要性について検討を行うこと


(2) 許諾に係る利用方法及び条件の性質(第63条第2項の解釈)
  【問題の所在】
 
   著作権者は,他人に対しその著作物の利用を許諾することができ(第63条第1項),許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において,著作物を利用することができる(第63条第2項)とされるが,許諾に係る利用方法及び条件について,1利用許諾契約(ライセンス契約)に定められている全ての条項が該当するのか,2利用許諾契約で定められた条項に反して著作物を利用した場合,ライセンシーは著作権侵害を問われるのか等の問題がある。

  【検討結果】
 
   この問題の実質的意味は,「違反すると著作権侵害となる事項」と「違反しても単なる契約違反にしかならない事項」を峻別することであるが,現時点では,立法的解決を図る必要性に乏しく,解釈論に任せるべき事項である。


(3) 著作権の譲渡契約の書面化について
  【問題の所在】
 
   著作権は著作権者による任意の移転が可能であり(第61条1項),我が国の場合,著作権の移転は,所有権その他の物権の移転の場合と同様,当事者の意思表示のみによって効力を生じる。このように,我が国においては,契約書の作成が契約成立の要件ではないことから,譲渡された権利の範囲がどこまでであったか,また契約が譲渡契約であったかなど,その契約の解釈について紛争になりやすいという問題がある。

  【検討結果】
 
   諸外国の立法例をみると著作権の譲渡について書面の作成を要求する例が多いが,我が国において同様の立法することは,譲渡契約一般が要式契約とされていない我が国の法制度の中で,著作権の譲渡契約についてのみ要式契約とするだけの合理的な理由を見いだせない等の法制面の理由,また多様な場面で行われる著作権の譲渡に一律に契約書面を要求するのは適切ではないという実体面の理由から,必ずしも適切であるとはいえない。
 なお,今後,仮に我が国において,著作権の譲渡契約を要式化する等した場合にどのような不都合が生じるおそれがあるかについてさらに議論を深める必要がある。
 また,国際化の進展に伴い,著作権が国際取引によって譲渡される場合が多くなっているが,国際私法上の問題も検討することが必要である。


(4) 一部譲渡における権利の細分化の限界(第61条第1項の解釈)
  【問題の所在】
 
   著作権は,その全部又は一部を譲渡することができる(第61条第1項)とされるが,ここでいう「一部」とは,どのような単位を指すのか,利用形態,期間,地域による細分化が認められるのかについて明らかではないという問題がある。

  【検討結果】
 
   内容的,時間的制限を付した著作権の一部譲渡は,実務上の必要性があり,国際的にも有効なものとされているので,所有権との対比において,一部譲渡の有効性は問題だとする意見があったとしても,一部譲渡の限界を明確化するだけの立法を直ちに行う必要はない。
 ただし,ライセンシーの保護及び登録制度の見直しの検討の中で,一部譲渡の問題を再検討する必要が出てくる可能性があり,著作権者が物権的権利を第三者に設定・移転するための制度設計の問題として,専用利用権制度を含む著作物の「利用権」に係る制度の創設も視野に今後議論されるべきである(平成19年(2007年)を目途に結論)。


(5) 第61条第2項の存置の必要性について
  【問題の所在】
 
   著作権の譲渡契約において,第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定するとされるが(第61条第2項),1当該規定の存在が,譲渡契約の解釈について事後に当事者間のトラブルを招く原因になりかねない,2プログラムの著作物の著作権の譲渡については,その利用の実態から当該規定を適用すべきではない,3第27条及び第28条に規定する権利のみが譲渡にあたり特掲することが求められていることは,その他の権利と扱いを異にし,制度上もアンバランスになっているのではないかという問題がある。

  【検討結果】
 
   あらゆる譲渡契約について,第61条第2項の推定規定が適用されるのは,適用範囲が広くなりすぎるため,適当ではないなどの理由から,当該規定は廃止の方向で検討すべきであるが,当該規定はあくまで推定規定であること,また廃止する場合には,懸賞小説募集のような約款による著作権譲渡契約について何らかの手当を行う必要があると考えられることから,現状においては,本規定のみを直ちに廃止するための法改正を行う必要性はない。


(6) 未知の利用方法に係る契約について
  【問題の所在】
 
   著作権者が著作物を第三者に利用させる方法としては,著作権の譲渡と利用許諾があるが,当事者が契約の締結時に予見し得なかった未知の利用方法が,契約の対象に含まれているか否かの問題がある。

  【検討結果】
 
   未知の利用方法に関する利用契約の解釈問題については,個別具体的な事案に即して,民法の一般原則を用いて裁判所が合理的な解釈を行うことに委ね,判例の集積を通じて法形成がなされるのが適切であり,少なくとも現時点においては,著作権法に特別な規定を設ける必要はないと考える。
 なお,上記のような裁判所による利用契約の解釈等による対応に限界があることが判明した場合には,諸外国の法制で採用されている法的手法を参考にしながら,我が国における利用契約の実態等の把握を踏まえつつ,適切な立法対応の可能性について検討を行う必要がある。


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