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2.私的録音録画補償金の見直しについて

(1) 現行制度

   家庭内等における私的な複製については,例外的に,権利者の許諾なく行うことができるとされている(第30条第1項)。一方,デジタル方式の録音・録画機器の普及に伴い,著作権者等の経済的利益が損なわれるようになった状況に対応するため,平成4年の改正により私的録音録画補償金制度が導入され,家庭内等における私的な「コピー」であっても,デジタル方式による録音・録画を行った者は,著作権者等に対して補償金を支払うこととされた(第30条第2項)。
 この場合,補償金の直接の支払義務者は,当該機器・記録媒体の購入者(消費者)であるが,当該機器・記録媒体の製造業者又は輸入業者には,補償金の徴収等についての協力義務が課せられている(第104条の5)。また,補償金の支払いの対象となる特定機器・特定記録媒体は,政令で指定された機器・記録媒体であって,主として録音・録画の用に供するものである(著作権法施行令第1条,第1条の2)。
 補償金を受ける権利は,文化庁長官が指定する団体(指定管理団体)があるときは,指定管理団体によってのみ行使することができ,指定管理団体が請求する補償金の額は,指定管理団体が定め,文化庁長官が認可を行い,支払われた補償金は,関係団体を通じて,権利者に分配されている(指定管理団体としては,録音については社団法人私的録音補償金管理協会(sarah)が,録画については社団法人私的録画補償金管理協会(SARVH)が,それぞれ指定されている)。
 指定管理団体が受け取った補償金は,著作権者等に分配されるが,補償金の2割に相当する額については,著作権者等全体の利益を図るため,著作権及び著作隣接権の保護に関する事業等(共通目的事業)のために支出することとされている。
 なお,専ら私的録音・録画以外の用に供することを証明できる場合は,補償金の返還を請求することができる(第104条の4第2項)。

  【私的録音録画補償金の徴収及び分配の流れ】
  私的録音録画補償金の徴収及び分配の流れのイメージ


(2) ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定について

 
1  ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定に関して,実態を踏まえて検討する。

 
問題の所在

   著作権法施行令第1条及び第1条の2は,補償金の支払いの対象となる機器・媒体を指定しており,例えば,録音用記録媒体としてはMDCD-RCD-RWなどが,録画用記録媒体としてはDVD-RWDVD-RAMなどが指定されている。一方,最近は,従来のMDレコーダーやDVDレコーダー等のほかに,新たに登場したハードディスク内蔵型・フラッシュメモリ内蔵型録音機器,ハードディスク内蔵型録画機器等(以下,「ハードディスク内蔵型録音機器等」という。)が急速に普及しつつある。これらハードディスク内蔵型録音機器等について,私的録音録画補償金の対象として追加指定して欲しいとの要望がある。

  【携帯オーディオ機器の国内出荷の推移】
 
携帯オーディオ機器の国内出荷の推移のグラフ
 上記2品目について,各年の合計出荷数を100パーセントとした場合の市場推移を表す。
 上記数字は,社団法人電子情報技術産業協会,主要メーカー資料等により電波新聞社が作成したもの。
出典: 平成17年4月8日電波新聞

審議の状況

   ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定については,賛否をめぐり,現時点では,特定の結論に意見を集約するには至らなかった。したがって,この問題について,引き続き検討する必要がある。

 ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定に関して,すみやかに補償金の対象に追加すべきものであるとの意見の概要は,次のとおりである。
 
  (1)  音楽のデジタル録音等を主たる用途として想定して開発・設計されており,主として音楽のデジタル録音等を目的として販売・購入され,現実にもその目的に使用されている。
  (2)  補償金の対象となっているMD録音機器等を市場において代替する機器と捉えられることから,課金しないことは公平性の観点から妥当ではない。
  (3)  現時点でも,技術の発展に伴い個別の課金が可能なケースは次第に増える傾向にあるように見受けられるが,それが可能でないケースも依然として残っており,現実問題として一種のきめの粗い課金方法である補償金によらざるを得ない。
  (4)  どのような機器も,100パーセント専用のものはなく,また二重課金にならない範囲では課金する合理性はあるから,利用実態を踏まえ,それぞれの機器・媒体において私的録音録画が行われる割合に応じた料率を設定すべき。
  (5)  ハードディスク内蔵型録音機器等を追加指定せず,コピープロテクション等のDRMの強化により対処した場合,消費者への制約・負担を考える必要がある。また,追加指定せず,かつ,何らの補償的措置等がとられない場合には,国際条約上の問題が生じかねず,第30条第1項(私的複製)などの制度的な部分への影響を考える必要がある。

   他方で,標記の機器を補償金の対象に加えるのは不適当であるとの意見の概要は,次のとおりである。
 
  (1)   DRMによって個別課金が可能である以上,その部分については,私的複製に対する権利制限の根拠である「市場の失敗」がなく,そもそも権利制限の正当性もないし,これを前提とする補償金制度の正当性もない。
  (2)  制度導入時点と技術環境が変化していることから,補償金制度自体は,補償金返還制度の実効性の低さ,消費者の認知度の低さ,徴収・分配の公平性や共通目的基金の妥当性,そもそも許容される私的複製の範囲が明確でないことなど,多くの基本的問題を内包しており,制度の根本的見直しについて議論することなしに,機器等の追加により制度を肥大化させることは不適切である。
  (3)  補償金制度には本来自由に複製できるものにまで課金し,自由利用行為を抑制するという副作用があるが,ハードディスク内蔵型録音機器等では,利用料を支払ってダウンロードした音源の録音にまで課金するという二重課金の問題もあるため,その副作用は明らかに無視し得ないものとなる。
  (4)  ハードディスク内蔵型録音機器等は汎用機器であると考えられるので,補償金の対象とすべきでない。
  (5)   DRMによる課金が消費者への制約・負担となるかならないかは,市場で消費者が選択することであるが,DRMによる課金が普及しつつあるという現状にかんがみれば消費者への制約・負担となるとの主張には明らかに根拠がない。
  (6)  国際条約上,補償を必要とするのは権利者の正当な利益が不当に害される場合であるが,この場合にはそもそも市場の失敗によって,通常の利用による権利者の正当な利益が存在しないのであるから,補償金制度を掛けなくとも国際条約上の問題を生じない。

   この他,法技術的な問題として,ハードディスク内蔵型録音機器等を規定することができるのか,機器と記録媒体の分離を前提としている現行法の改正が必要になるのではないか,といった指摘があった。また,審議会で仮に結論が出なかった場合でも,それを理由として行政としての判断を先送りすべきではないとの意見,結論とは独立に,現行の補償金制度の運用の実態について著作権者及び消費者に周知を図るべきとの意見等があった。


(3) 汎用機器・記録媒体の取扱いについて
 
2  現在対象となっていない,パソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ,データ用CD-RRW等のいわゆる汎用機器・記録媒体の取扱いに関して,実態を踏まえて検討する。

 
問題の所在

   昨今のパソコンは,多機能化に伴い,パソコン内蔵・外付けの大容量のハードディスクドライブ等に,記録用CDドライブが標準搭載されていたり,また,録音等を行うことができる総合的なソフトや,テレビ番組を録画することができる機能などが標準装備されていたりするものも増えてきている。
 パソコンに代表される汎用機器は,私的録音録画行為としては専用の録音・録画機器と全く同じことが可能であるにもかかわらず,補償金支払いの対象ではない。このため,実際に補償金を支払っている消費者や協力義務を負う製造業者と,協力義務を負わないパソコン等の製造業者間の不公平感はますます拡大する一方であり,このままパソコン等を補償金支払いの対象としないことは補償金制度の形骸化にも繋がりかねない可能性もある。
 このような理由から,パソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ,データ用CD-R/RW等のいわゆる汎用機器・記録媒体(以下,「汎用機器等」という。)についても,補償金の対象とするよう法改正をして欲しいとの要望がある。

審議の状況

   次のような理由から,汎用機器等は対象とすべきではないとする意見が多数であった。
 
  (1)  録音や録画を行わない購入者からも強制的に一律に課金することになり,不適切な制度となる。また,補償金返還制度も機能しづらい。
  (2)  課金対象を無制限に拡大することにつながる。
  (3)  実態として,他人の著作物の録音・録画が利用の相当割合を占めるとは考えにくい。
  (4)  現行の補償金制度の問題点を増幅させる結果を招く。

   なお,一部には,国際条約の基準に照らして考えるべきであり,利用者のデジタル録音・録画行為の実態に即して汎用機器等も視野に入れた検討が必要であるとする意見や,補償金制度の理念を再確認した上で,専用と汎用の境界について不明確になりつつある状況に対処するための検討を行う必要があるとする意見があった。


(4) 政令による個別指定という方式について
 
3  現行の対象機器・記録媒体の政令による個別指定という方式に関して,法技術的観点等から見直しが可能かどうか検討する。

 
問題の所在

   現行制度では2つの問題があると指摘される。1点目は,技術を指定する現行制度は,指定までの時間がかかり過ぎて権利者の補償に欠けることである。
 2点目は,技術を指定する現行制度は,私的録音録画補償金を支払う消費者には理解できず,制度への理解を妨げる一因ともなっていることである。政令では,例えば,「磁気的かつ光学的方法により,四十四・一キロヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた音を直径が六十四ミリメートルの光磁気ディスクに固定する機能を有する機器」や,「記録層の渦巻状の溝がうねっておらず,かつ,連続していないもの」と定められており,どのような機器及び記録媒体が私的録音録画補償金の対象なのか,補償金の支払いを行う消費者にはわかりにくい。
 したがって,このような問題を解決するため,現行の指定方法を改め,要件を満たす技術が市場に導入されるときには,改めて政令で追加指定することなく補償金支払の対象となるような方法に変更して欲しいとの要望がある。

審議の状況

   法的安定性,明確性の観点から,現行の制度の下では,現行の方式を変更すべきではないとする意見が多数であった。
 なお,機器等の個別指定が技術革新の速度に対応できないという意見や,指定手続を機動的かつ透明性の高いものにすることを前提に,機器等の指定を省令又は告示に委任することも検討すべきとの意見があった。


(5) その他(私的録音録画補償金制度の課題について)

   私的録音録画補償金制度が導入されて以降に生じた,放送コンテンツに関する録画制御技術の進展や音楽コンテンツのオンライン配信の普及といった技術革新やコンテンツ流通等にみられるような社会事情の大きな変化の中で,早急に対応すべき課題として,私的録音録画補償金制度の縮小・廃止の是非も含めた同制度自体の根本的な見直しについて,期限を設定した上で検討すべきとの意見が多かった。また,同制度については,既に破綻を来しており,速やかに廃止すべきとの意見もあった。

 その際の重要な参考に供するため,補償金制度の立法を基礎付けた事実,すなわち私的なデジタル録音・録画がどのような実態で行われ,権利者の利益にどのような影響を与えているのか,また利用者が本来自由に利用できる行為に対してどのような影響を与えているかについて,継続して調査を行い,状況の変化を把握していくことが必要である。根本的な見直しにおいては,併せて,補償金制度の存続の可否,補償金制度廃止を可とした場合の段階的縮小の是非,補償金制度の骨組みの見直しなどの具体的論点について検討する必要がある。

 さらに私的録音録画補償金制度の当面の運用に関しては,次のような改善を速やかに図る必要があるとの意見が出された。
 
  (1)  補償金の配分に関しては,積極的に情報公開するとともに,配分比率等を固定せず,補償金の管理団体において,適宜見直す必要がある。
  (2)  製造業者の協力を得て消費者が負担する補償金の額を表示するなど,補償金の管理団体において,消費者に対して,制度の内容及び実態について一層の周知を速やかに図る必要がある。
  (3)  補償金の管理団体において,補償金返還制度を簡素化して,実際に利用可能なものに改めるよう検討する必要がある。
  (4)  第104条の8及び著作権法施行令第57条の6において補償金額の2割に相当する額を支出することになっている共通目的事業については,消費者から徴収した補償金ではなく国の予算で行うことを含め,その縮小・廃止に向けて検討する必要がある。


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