ここからサイトの主なメニューです

2. 著作権法第63条第2項の解釈について(許諾に係る利用方法及び条件の性質)

  (1)  現行制度

 著作権者は,他人に対し,その著作物の利用を許諾することができ(第63条第1項),許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において,その許諾に係る著作物を利用することができる(第63条第2項)。

(2)  問題の所在

 著作物の利用許諾(ライセンス)契約では,複製,上演,貸与,放送等の,著作権法が著作者に排他的な利用を認めている利用形態のいずれを許諾するのかを明確にしている条項の他,利用部数,演奏回数,利用場所,利用時間,対価の額等やさらに各利用形態を細分化した条項等様々な事項を定めることが一般的である。
 著作権法第63条第2項は,「許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において,その許諾に係る著作物を利用することができる」と規定しているが,次の点について解釈が明確ではないという問題があるとされる。注釈9
1  第63条第2項の「利用方法及び条件」には,利用許諾契約で定められている全ての条項が該当するのか。
2  第63条第2項の「利用方法及び条件」の範囲に反して著作物を利用した場合,ライセンシーは,著作権侵害を問われるのか。
3  これに付随して,ライセンシーの契約違反を理由に契約を解除した場合,解除前に行った利用は著作権侵害となるのか。

注釈9  特許法では,第78条第2項が著作権法第63条第2項のような規定ぶりではないにもかかわらず同種の問題が指摘されている。ここでは通常実施権は,差止請求権等の不作為請求権であるとの前提に立ち,通常実施権契約で定めがない場合に実施許諾者は実施協力義務,登録義務,ノウ・ハウ提供義務,侵害排除義務等は当然には負わないと結論し,通常実施権そのものと契約の問題を明確に区別する。(中山信弘「工業所有権法上 特許法 2版増補版 444頁」)
 また米国においては,著作物利用許諾契約における「違反すると著作権侵害になる事項」と「違反しても単なる契約違反にしかならない事項」の区別について,連邦著作権法と州の契約法との適用関係として議論がある。

(3)  立法趣旨

  1  旧著作権法及び著作権制度審議会答申(昭和41年)

 旧著作権法は,著作物の利用の許諾についての規定を置いていない。
 著作権制度審議会答申においても,利用の許諾に関する答申はなく,答申を受けて作成された文部省試文化局試案(昭和41年10月)においても,利用の許諾に関する条文案はない。
 しかしながら,その後の検討において,「権利行使の最も普遍的かつ普通の態様である利用許諾の規定がないということは適当ではない」とされ,現行著作権法第63条第1項から第4項と同様の条文案が作成された。しかし,第1項及び第2項については,当たり前のことを確認的に規定したものとして理解されていたようであり,当該条項についての議論は見あたらない。

2  著作権法改正(平成9年)

 第2項に関連する規定として,第63条第5項が平成9年の著作権法改正で追加されている。第5項は,送信可能化の許諾にかかる利用方法及び条件のうち,送信可能化の回数,又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものについては,これに反しても公衆送信権の侵害とならないと規定している。

(4)  検討内容

  1  考え方の整理

 第63条第2項の考え方としては,第1に,(ア)「利用許諾契約で定める事項は全て第2項の「許諾に係る利用方法及び条件」であるとする考え方」があり得る。この考え方は,さらに次の2つに分けられる。(1)「許諾に係る利用方法及び条件(イコール利用許諾で定めた事項)」にライセンシーが違反した場合,全て著作権侵害となる。(2)「許諾に係る利用方法及び条件(イコール利用許諾で定めた事項)」にライセンシーが違反しても,著作権侵害になる場合とならない場合がある。
 (1)については否定的な見解が多い。例えば,出版物や録音物の譲渡先や譲渡場所を限定する事項については,譲渡権の規定の趣旨からも,それが著作権侵害になることはないとする説明が一般的である。
 (2)を採る場合,第2項は「利用者は契約を守らなければならない」という一般的なことを確認的に規定する条項に過ぎないということになる。

 第2の考え方は,(イ)「利用許諾契約で定める事項のうち,ライセンシーが違反すると著作権侵害になるものだけが,第2項の「許諾に係る利用方法及び条件」であるとする考え方」である。この考え方を採ると,第2項は,「許諾に係る利用方法及び条件」に反して著作物を利用することは著作権侵害であると規定する条項ということになる。
 しかし,この場合,許諾契約で定める事項のうち,何が著作権侵害となる事項であるか(イコール何が「許諾に係る利用方法及び条件」であるか)が,少なくとも条文上明確ではないという問題がある。

 従って,(ア)(1)の考え方を採用しない限りにおいては,第2項に規定する「許諾に係る利用方法及び条件」の文言を解釈することに実質的な意味はなく,むしろ,第2項に関しては,利用許諾契約で定める事項のうち,「違反すると著作権侵害になる事項」と「違反しても単なる契約違反にしかならない事項」が明確化されることに意味がある。

2  利用許諾契約の解除とその効果

 利用許諾契約において定めた事項の違反が著作権侵害とならないとしても,当該事項に違反したことをもって著作権者が利用許諾契約を解除できる場合には,解除の効果が解除前に行った利用行為について遡及する(例えば,契約関係が当初から存在しなかったことになる)とすれば,当該利用行為は結局著作権侵害となるとも考えられる。
 そして,この場合には,利用許諾契約において定めた事項の違反が,著作権侵害となるかならないかに関係なく,利用許諾契約の解除によって利用者の著作権侵害を問うことができることとなるので,(4)1における分類は意味をなさなくなり,むしろ,利用許諾契約を解除できる契約違反として,どのようなものが認められるかが重要となる。
 第5項についても,「送信可能化の回数」と「送信可能化に用いる自動公衆送信装置」に係る利用方法及び条件についての契約違反を理由に許諾契約を解除できるのであれば,解除の効果によっては,規定の実質的な意味がなくなるおそれがある。

 従って,今後,どのような場合に利用許諾契約を解除できるのか,利用許諾契約の解除がどのような効果をもつのかについて検討する必要がある。例えば,継続的利用許諾契約の解除の効果,利用により作成された著作物の複製物を購入した第三者への効果,刑事罰の適用などについて整理が必要である。

(5)  検討結果

 一般的な著作物利用許諾契約では,複製,上演,貸与,放送等の著作権法が著作者に独占を認めた利用形態のいずれを許諾するのかを明確にしている条項の他,利用部数,演奏回数,利用場所,利用時間,対価の額等やさらに各利用形態を細分化した条項等様々な事項が定められている。
 このうち,対価の額等やさらに各利用形態を細分化した条項等については,これらの条項に違反したからといって著作権侵害とはいえない,従って,通常の利用許諾契約には著作権者が著作権に基づく差止請求権を行使しない旨を定めた著作物利用適法化条項と,対価の額等の契約解除事由にしかならない単なる契約事項があるといえる。
 第63条第1項の「許諾」は,契約の他に単独行為によっても可能であると解されている。従って,第62条第2項でいう「許諾に係る利用方法及び条件」を著作権者が単独行為で決められることに限定し,著作権者が差止請求権を行使しない範囲のみが第63条第2項の「許諾に係る利用方法及び条件」であり,これ以外は単なる債務不履行の問題であると考えても不自然ではない。
 しかし,上記(4)1考え方の整理で述べたように,どの立場を支持するかは重要ではなく,実質的な意味は「違反すると著作権侵害になる事項」と「違反しても単なる契約違反にしかならない事項」の峻別である。
 第63条2項の問題は,特許法と同様,現時点では直接的に立法的解決を図る必要性に乏しく,契約の解除の効力の問題を含めて,解釈論に任せるべき事項であると考える。

 ただ,一方で利用許諾契約における利用者の保護の問題において,著作権者の破産や,著作権者が第三者に著作権を譲渡した場合に利用者の著作物利用を保護する制度の導入について検討が行われている。そこでは,利用許諾契約の契約上の地位の承継の問題と,許諾の対抗の問題を分けるべきであるとの議論もある。今後,この議論に際し,上記の「違反すると著作権侵害になる事項」と「違反しても単なる契約違反にしかならない事項」の峻別が必要になってくる可能性があるので引き続き注意すべき事項であるといえる。

前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ