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「私的録音録画補償金の見直し」に対する意見について

委員名 山本 隆司
1  ハードディスク内蔵型録音機器等について、政令による追加指定に関して、実態を踏まえて検討する。
【結論】  DRMの掛かる音源のみを録音できるものは、指定の対象にすべきではない。しかし、DRMの掛かる音源のみならずレンタルCDやファイル交換した音源を録音できるものは、指定の対象になりうると考える。

【理由】  私的録音としてレンタルCDやファイル交換した音源を録音することに権利制限する根拠は、個別課金することの取引費用をまかなえない零細な利用であることによって、市場の失敗が生じ、ライセンス市場をそもそも考えることができないからであろう。補償金制度は、代替措置として、ライセンス市場に近似する効果を狙った制度である。
 他方、デジタル化ネットワーク社会においては、DRMによって零細な利用に対する個別課金が経済的合理性を持つ状況を生じており、ここではライセンス市場が成立する。したがって、DRMの掛かる音源のみを録音できる機器に関しては、もはや私的使用に対する権利制限を正当化する根拠はないので、もはやライセンス市場の代替措置たる補償金制度を適用すべき根拠は存在しない。
 しかし、近時流行するハードディスク内蔵型録音機器は、正規権利者の開放する音源からのダウンロードに対してDRMを掛けているものの、レンタルCDやファイル交換した音源を録音できる機能を持っている。この点においては、MDやオーディオCD-R等と変わりが無く、前述の論拠により、補償金制度を適用する根拠が存在する。
2  現在対象となっていない、パソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ、データ用のCD-R/RW等のいわゆる汎用機器・記録媒体の取扱いに関して、実態を踏まえて検討する。
【結論】  汎用機器・媒体については、補償金制度を適用すべきではない。

【理由】  補償金制度は、著作権の存在しないものに対しても課金することになり、著作権のないものの自由利用を抑制する効果が存在する。この自由利用抑制効果が無視し得るほど小さなものであることの検証がない限り、汎用機器・媒体に対する補償金制度の適用は、著作権法の究極の目的が自由に使用できる著作物の創出であるということと、明らかに矛盾することになり、妥当とは考えられない。
3  現行の対象機器・記録媒体の政令による個別指定という方式に関して、法技術的観点等から見直しが可能かどうか検討する。
 
4  自由記載
【結論】  補償金制度は、廃止を検討すべきである。

【理由】  補償金制度は、ライセンス市場が成立しない私的複製において、その代替措置として、設けられるものであるが、現状においては、その著作物創作促進効果と、著作権のないものなどの自由利用抑制効果において、大きな問題を生じているように思われる。
 すなわち、著作物創作促進効果は、そもそも集めた補償金のうち共通目的基金20パーセントは著作者に分配されない。共通目的基金は、著作権制度の研究等に使用されるが、これは著作者が負担すべきものではなく広く国民が負担すべきものである。また、著作者に分配されるまでにSARAHやいくつかの権利者団体等によって管理手数料が差し引かれるので、補償金制度の持つ著作物創作促進効果には疑問がある。
 他方、自由利用抑制効果を、まず、補償金の主たる財源となっているMDについて考えてみる。MDに録音される音源としては、1著作権の存在しないPD音源や自作自演の音源、2レンタルCD、3ファイル交換ソフトによってダウンロードした音源、4自己の所有するCDが考えられる。このうち、1著作権の存在しないPD音源や自作自演の音源はごくわずかと思われるので、自由利用抑制効果は小さい。2レンタルCDをMDに複製することは、レンタルによってレンタル中に鑑賞の料金しか支払っていないので、新たな損害を権利者に与えていると考える。3ファイル交換ソフトによってダウンロードした音源をMDに複製することは、明らかに権利者に損害を与える。4自己の所有するCDを複製することは、CD購入によって自己使用の対価を支払済みなので、これをMDに複製することには新たな損害を権利者に与えていないと考える。したがって、2の利用に補償金を取ることは、自由利用抑制効果として捉えるべきであると考える。結論として、2自己の所有するCD・MDに複製することに対する自由利用抑制効果は、無視しうるものとは思えないので、補償金制度を正当化しないと考える。
 また、オーディオ用CD-R等に対する補償金制度は、欺瞞的である。オーディオ用CD-Rとデータ用CD-Rとは中身において何の違いもない。ただ補償金を掛けているかいないかの違いだけである。私もこの事実を知ったときから、保有するCDを複製する場合にはデータ用CD-Rを使っている。こうすることは違法でもないし、経済的に合理的な行動である。オーディオ用CD-Rを購入する消費者は、この事実を知らず、「オーディオ用」という以上オーディオ録音にはより高いクオリティをもたらしてくれるものと誤解しているのである。このような消費者の誤解によってのみ成り立つ制度は、存在すべきとは思われない。


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