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「著作権法に係る検討事項(仮題)」の整理に向けた意見について

委員名 山本 隆司
検討事項1.【アクセス権の創設】
  内容: 著作物に施されたアクセス・コントロールの回避・解除に対する許諾権を著作権者に与える。
  理由: アクセス・コントロールを施した著作物の複製物を無償配布しながら、アクセス・コントロールの回避・解除に対して課金することによって、著作物使用の対価を回収することが、デジタル・ネットワーク環境における著作物の新たな利用方法として登場した。著作権法の歴史は、著作物の新たな利用方法の出現に対応して新たな権利が創設された。現在は、アクセス権を創設すべき時期に来ている。
 なお、アクセス・コントロールは、不正競争防止法および不正アクセス禁止法によって保護されているが、いずれもアクセス・コントロール自体ないしアクセス・コントロールが付されたコンピュータの保護が主眼であって、コンテンツの保護=著作物の新たな利用方法に対する対価回収手段の創設を目的としたものではない。

検討事項2.【独占的利用許諾の物権化】
  内容: 独占的利用許諾を物権とし(63条関係)、登録制度を創設する(77条関係)とともに、侵害差止請求権と認める(112条関係)。
  理由: 独占的利用許諾(exclusive license)の被許諾者は、著作権侵害に対して、損害賠償請求権は認められているが、差止請求権は債権者代位権(民法423条)の要件の下に認められるか否かについては議論のあるところである。
 しかし、第1に、出版権との均衡からも、独占的利用許諾に対して差止請求権を認めることに不都合はない。
 第2に、契約実務上、被許諾者においては差止請求権を取得するために著作権の譲渡を求めるが、権利者においては契約で縛っても第三者に無断譲渡されるおそれがあるので、独占的利用許諾にしか応じない。特に米国企業とのライセンス交渉においては、米国法においては独占的利用許諾に差止請求権が認められているので、独占的利用許諾にしか応じない。
 第3に、独占的利用許諾において、権利者は被許諾者のリスクと責任において侵害差止訴訟を遂行することを望んでおり、被許諾者も自己のリスクと責任において侵害差止訴訟を遂行することを望んでいるが、その確実な手段がない。

検討事項3.【同一性保持権の修正】
  内容: 同一性保持権を「著作者の意に反する改変」(主観基準)からの保護から「名誉声望を害するおそれのある改変」(客観基準)からの保護に修正する。
  理由: 「著作者の意に反する改変」から保護する同一性保持権は、翻案権と重複・矛盾して、本来保護すべきである「名誉声望を害するおそれのある改変」からの保護を全うできない。
 すなわち、一方で、著作者が翻案権を譲渡しながら著作物を改変して二次的著作物を作成することに対して、「著作者の意に反する改変」から保護する同一性保持権の侵害を主張することは許されないおそれがある。
 他方で、本来ベルヌ条約で保護を規定する同一性保持権は「名誉声望を害するおそれのある改変」からの保護を目的とするが、一定の承諾傷害が公序良俗上許されないのと同様、著作者の同意があっても公序良俗上許されるべきでない名誉声望を害するおそれのある改変」もありうる。

検討事項4.【著作権登録制度の拡大】
  内容: 著作物の作成自体についての登録を可能にするとともに、創作者の記載に法律上の推定を与える。
  理由: 著作権侵害訴訟においては、原告は著作物に対する権利保有を立証する必要があるが、著作権の譲受人は著作権譲渡登録によってこれを証明しうるところ、著作者が原告であるときには自己が創作者であることを証明しうる手段として著作権譲渡登録のような簡便・強力な権利保有立証手段が存在しない。
 たとえば、ジョイサウンド仮処分事件においては、地裁は「保護を求めようとする者は、これを自ら有することを確実に立証する手段を保存しておくべきであり、それを訴訟において提出する責任を負っている」と述べて、発売レコード上の(p)表示(著作権法14条)や陳述書を不十分として、申し立てを却下した。高裁において、米国での著作権登録証を権利保有立証手段として提出したが、抗告審(東京高決平成9年8月15日)は、「米国著作権法においては、最初の発行から五年以内に著作権登録がなされた著作権の登録証には、その記載事項について法律上の推定が与えられており(四一〇条c項)、また、一九八九年二月までは、著作権登録は著作権侵害訴訟を提起するための要件であった(旧四一一条)。一九八九年三月以降は、著作権登録は著作権侵害訴訟提起の要件ではなくなったが、最初の発行から三か月以内に著作権登録を経由しておれば、弁護士費用の賠償請求権が与えられる利益がある(四一二条)。したがって、米国においては著作権登録を速やかに行うことが慣習化しており、また、これに関する情報は容易に入手し得るが、別紙音源目録記載の抗告人CD収録音に関する抗告人らの著作権登録に対し、現在まで異議の申立ては全くなされていない。そして、著作権登録について虚偽の事実を申請すれば刑事罰の制裁があること(五〇六条e項)に鑑みると、米国著作権局発行に係る著作権登録証には、別紙音源目録記載の抗告人CD収録音にっき抗告人らがレコード製作者の権利を有することについて、強い事実上の推定力があるというべきである。」と述べて、米国での著作権登録証を権利保有立証手段と認めた。
 日本においても、米国同様に、著作物の作成自体についての登録を可能にするとともに、創作者の記載に法律上の推定を与えることは、著作物の流通に役立つ。

検討事項5.【みなし侵害規定の修正】
  内容: 著作権法113条1項1号から「国内において頒布する目的をもつて」を「学術研究の目的をもって」に置き換える。また、同2号「情を知って」および「頒布の目的をもつて」を削除する。
  理由: 【1号について】
 著作権法113条1項1号の立法趣旨は、学術研究を目的とする輸入の許容にあった。しかし、かかる立法趣旨と現行法の規定との間には大きな齟齬がある。第1に、1号の規定では、頒布目的でなければ学術研究目的でなくとも広く輸入が許される。その結果、娯楽を目的とする著作物であっても、個人による複数部数の輸入も許されている。第2に、学術研究目的の輸入を私的複製と同視して許容するのであれば、著作権法30条と同じように、抗弁として被告が立証責任を負うべきであるが、113条1項1号の規定では原告が頒布目的でないことの立証責任を負担する。その結果、権利者は、多数の輸入侵害物を保持している者に対しても、頒布目的の立証に困難をきたして権利行使ができない場合を生じている。
【2号前段について】
 違法複製物が転々流通すること自体、権利者が正規商品を販売する機会を奪うこととなり、権利者の利益を大いに害する。他方、主観的要件をみなし侵害の要件から外せば、善意で違法複製物を入手した者は、これを販売できなければ投下資本を回収できないという損害を被る。では、両者の利害をどのようにバランスすべきか。たとえば故意のような主観的要件を入れれば、販売業者は違法複製物であるか否かの注意義務を負うことないので一見して違法複製物でない限り安心して購入し販売できることとなり、違法複製物の流通を促すことになる。他方、主観的要件を外せば、販売業者は違法複製物であるか否かについてリスクを負うので、違法複製物であるか否かの管理に注意を払うこととなり、違法複製物の流通は困難となる。このような結果から考えれば、明らかに、主観的要件を外すのが妥当である。
 なお、システムサイエンス事件・東京地裁平成7年10月30日判決は、「『情を知』るとは,……判決が確定したことを知る必要があるものではなく,仮処分決定,未確定の第1審判決等,中間的判断であっても,公権的判断で,その物が著作権を侵害する行為によって作成されたものである旨の判断,あるいは,その物が著作権を侵害する行為によって作成された物であることに直結する判断が示されたことを知れば足りる」と判示した。したがって、違法複製物を購入した者は、これが違法複製物であると信じていても(故意)があったとしても、購入以前に、違法複製物であるとの公権的判断がなければ、「情を知って」にはあたらず、自由に違法複製物を頒布できることになる。しかし、このような者がこれを頒布するまでは、権利者は違法複製の事実を知ることはできず、違法複製物であるとの公権的判断を求める機会は存在しない。したがって、「情を知って」の頒布を侵害とみなす2号前段の規定は、機能する場面がほとんど存在しないと思われる。
【2号後段について】
 頒布目的がないかぎり違法複製物の所持を適法とするのは疑問である。違法複製の所持を適法とすることは、自ら違法複製してもその証拠さえ捕まれなければいいということであるので、違法複製を助長する。また、第三者が違法複製したものを入手した場合であっても、購入者は安心して買えるので、結局、当該第三者による違法複製を助長することとなる。さらに、そもそも違法複製物の存在を認めることは、違法状態の継続を容認することであり、「善良な風俗」の観念に反する。



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