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資料3

「教育」「図書館」関係の権利制限見直しの概要

1. 審議会でのこれまでの審議状況

  権利制限の見直しに関する具体的な課題について、平成13年度においては、「著作物等の教育目的の利用」「図書館等における著作物等の利用」について、権利者側・利用者側双方から実態や提案等を聞きつつ論点整理を行い、平成13年12月に「文化審議会著作権分科会審議経過の概要」をとりまとめた。
(2〜10頁参照)

2. 関係者間の協議の経過

  この「審議経過の概要」においては、審議会における論点整理を踏まえ、権利者・利用者の双方が受け入れられる解決策を目指し、「当事者間の具体的な協議」を促進していく必要があると提言された。
  この提言に基づき、平成13年12月に、権利者・利用者の双方により「著作物の教育目的の利用に関する検討」及び「図書館等における著作物等の利用に関する検討」を行うための検討会が設けられ、具体的な検討が行われた。
(11〜16頁参照)

3. 協議結果

  両検討会は、本年9月までにそれぞれ7回の会議を開催し、「審議経過の概要」に示された各論点について検討を行い、「法改正を行うことを支持する事項」、「引き続き協議を行っていく事項」、「法改正以外の方法により対処する事項」等を整理し、検討結果をとりまとめた。
(17〜21頁参照)



文化審議会著作権分科会審議経過の概要(平成13年12月)(抄)

4  教育・図書館関係の権利制限の見直しに係る検討
   −  ワーキング・グループにおける検討の概要  −

  上記3の具体的要望を踏まえ、平成13年においては、「著作物等の教育目的の利用」「図書館等における著作物等の利用」の2つの課題について、それぞれワーキング・グループを設け、権利者側・利用者側双方の委員から実態や提案等についての発表を行い、続いて具体的な課題に関する論点の整理を行った。両ワーキング・グループにおける検討・整理等の結果は、次のとおりである。

  著作物等の教育目的の利用

(1) 権利制限の拡大に関する論点

1   授業の過程において例外的に許諾を得ずに複製ができる主体に「学習者」を加えること

  現行の著作権法第35条では、授業の過程での使用を目的として例外的に許諾を得ない複製を行うことができる者は、非営利目的の教育機関で「教育を担任する者」に限定されているが、その「教育を担任する者」の指導の下で行う場合に限り、当該非営利の教育機関で教育を受ける「学習者」についても、現行の著作権法第35条で認められている範囲の複製を許諾なくできるようにしてほしいとの要望がある。
  この要望の理由としては、ア)学校教育について、学習者が様々な情報機器等を活用して主体的に学習を行い、情報を適切に収集・判断・創造・発信していくことが推進されており、この趣旨は新学習指導要領にも記述されていること、イ)社会教育を含む生涯学習全般についても、学習者の自発性・主体性や情報リテラシーの育成が強調されていること等により、教育機関における学習活動の在り方自体が、個々の学習者が自ら情報の収集等を行う形態に大きく変容しつつあることから、教育機関で教育を受ける学習者自身が教育活動の一環として自ら複製を行うことが必要とされるようになっていることがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、学習者が複製を行うことによる利用の総量の増加、「教育を担任する者」による指導の実効性、著作権に対する学習者の意識・認識への負の効果等への懸念などが表明された。

2   例外的に許諾を得ずに作製された複製物を同一教育機関内で共用にできるようにすること
  
  現行の著作権法第35条の規定により非営利目的の教育機関で「教育を担任する者」が許諾を得ずに作製した複製物は、同条の規定により「本人の授業の過程」においてのみ使用できることとされているが、その教育機関内に限り、その複製物を他の授業の過程における使用に供することも可能としてほしいとの要望がある。
  この要望の理由としては、様々な視聴覚教材等の活用が促進される中で、校内LANの普及が推進される一方、教師の組織的・協力的な指導も進められつつあるなど、同一教育機関内で指導上有効な教材等の共用・活用がますます必要になることが予想されることがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、校内LANの場合「授業」以外の目的にも広く使われてしまうことが起こり得ること等、実際の運用について懸念する意見が出された。また、教材等に使用する著作物等の所在情報の共有で足りるのではないかとの意見もあった。

3   例外的に許諾を得ずに作製された複製物を教科研究会等でも使用できるようにすること

  現行の著作権法第35条の規定により非営利目的の教育機関で「教育を担任する者」が許諾を得ずに作製した複製物は、同条の規定により「本人の授業の過程」においてのみ使用できることとされているが、その授業に関する研究活動においても、その者がその複製物を使用に供してよいようにしてほしいとの要望がある。
  この要望の理由としては、様々なメディアを活用した教材の活用が活発化しつつあり、複数の教師による組織的・協力的な指導による教育活動が推進されていることから、多様な教材を活用した授業の方法について情報交換等を行う際に、授業で使用した教材を配布することが必要不可欠であることがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、著作権法第32条の引用の範囲で複製すれば済むのではないか、個別の権利処理が十分可能ではないか、との反対意見や、事前許諾が困難である場合もあることから、報酬請求権の対象とする方向であれば検討の余地があるとの意見があった。

4   教育機関で学ぶ特定学習者に対して授業のための公衆送信を例外的に許諾を得ずにできるようにすること

  現行の著作権法第35条では、授業の過程での使用を目的として例外的に許諾を得ずに利用が行える場合の利用形態は、「複製」と「譲渡」に限定されているが、これらに加えてその教育機関で教育を受ける学習者への「公衆送信」及び「送信可能化」を加えてほしいとの要望がある。
この要望の理由としては、様々な情報通信技術を活用した教育活動が種々の教育機関によって展開されつつあり、例えば大学・学校等の「遠隔授業」「合同授業」「公開講座」等において、離れた場所の学習者に対して(主会場での教材の複製・配布と同様に)衛星通信・インターネット等による教材の送信を行うことが必要となっていることがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、送信された著作物の無断再利用等の危険性、学習者の増大による権利者の利益に対する影響について懸念する意見があったが、3と同様、報酬請求権の対象とする方向であれば検討の余地があるとの意見もあった。

6   遠隔地にいる者を対象に試験を行うため例外的に許諾を得ずに公衆送信することができるようにすること

  現行の著作権法第36条では、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において当該試験又は検定の問題として著作物を例外的に許諾を得ないで利用できる場合の利用形態は、「複製」と「譲渡」に限定されているが、これらに加えて「公衆送信」及び「送信可能化」を加えてほしいとの要望がある。
  この要望の理由としては、遠隔教育等の場合において、インターネット等を利用して試験を行うことが可能となっており、この場合には公衆送信権等の対象となり得るが、試験の公正性の確保という観点からは、複製と同様に事前許諾を得ることが不適切と考えられることがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、インターネットを介した試験の普及の状況や見通しについて若干の疑義が表明されたものの、強い反対意見はなかった。

6   インターネットによる教育成果の発信のための「複製」「公衆送信」「送信可能化」を例外的に許諾を得ずに利用できる対象とすること

  非営利の教育機関について、その教育の成果を広く周知することを目的として、必要と認められる限度において、公表された著作物等を許諾なく複製し、公衆送信・送信可能化することができるものとしてほしいとの要望がある。
  この要望の理由としては、教育活動の一環として、また、その教育成果を公開するために、教育機関がホームページ等を用いてインターネット上での情報発信を行うことが多くなっているが、このような活動についても権利を制限して自由に行えるようにすることが望ましいということがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、学校内での教育活動に必要な場合と学校外へ送信する場合とでは全く異なること、「総合的な学習の時間」など近年の学校教育活動は多様であるため「教育成果の発信」と言っても事実上学校からの送信は無制限に自由ということになりかねないこと、受信者による無断再利用等の危険性が高いこと等、極めて強い反対意見が出された。

7   権利制限の拡大全般に関する権利者側の意見

  これらのほか、権利者側からは、教育の公益性は理解するがその公益実現のための費用は公的資金によって賄われるべきであって著作者個人に現在以上の負担を強いる根拠が見出せないこと、教育目的のために現行法以上の権利制限を認める特段の必要性があるとは思えない(契約によって可能である)こと、著作物利用のデジタル化、ネットワーク化に伴う複製の容易化や複製物の質の向上により権利制限の拡大が権利者の利益を不当に害する可能性が高くなっていること、ネットワーク利用に関する秩序が形成されていない現状における権利制限の拡大が権利者の利益を不当に害する可能性が高くなっていること、権利制限すると権利者側から利用に当たっての要望を利用者に伝える機会がなくなること、学習者の著作権保護意識の育成に逆効果となることなどを理由に、権利制限の拡大一般について否定的な意見が表明された。
  また、教育機関の種類、著作物や出版物の種類、利用態様によって著作権者への影響が異なる(例えば、小中学生の調べ学習と大学・大学院生の利用では大きく異なる)ので区分して検討すべきとの意見もあった。

(2) 権利制限の縮小に関する論点(補償金制度の拡大)

  権利制限の拡大の必要性については理解するものの、著作権法第35条(今後権利制限が拡大された場合にはその部分も含む。)に基づく例外的な許諾を得ない利用については、著作物の通常の利用を妨げる場合を除き、今後とも許諾なしの利用という例外措置を継続することとするが、原則として単一の窓口への補償金の支払いを要することとしてほしいとの要望がある。
  この要望の理由としては、複製物の質が向上していること、大量の複製が容易に行えるようになっていること等から、教育機関における許諾を得ない利用によって著作権者の利益が損なわれるようになっていることがあげられている。
  この事項について、利用者側からは、利益侵害となるような複製については現在でも著作権法第35条ただし書きで許諾なしにはできないこととされている等の意見が出され、また、権利者の中からも、許諾権が原則であり、安易に補償金制度を導入すべきではないとの意見が出された。さらに、双方から、教育機関で利用される著作物は広範多岐にわたるので実際に補償金制度を構築することが困難であること等の意見が出された。

(3) その他の論点

  著作物等の教育目的の利用に関するワーキング・グループでは、権利制限の拡大・縮小に関する論点のほか、児童生徒を対象とする著作権教育の充実拡大や、教員研修の充実など、教育機関において著作権への認識を増進させる必要性についても、議論が行われた。特に権利者側からは、教育機関における著作物の管理・利用に関する懸念を背景として、日常の授業・活動の中で、すべての関係者を対象として著作権を認識する機会を設けていくことが必要であるとの意見が出された。
  また、権利者、利用者の双方から、著作権法第35条ただし書きでいう「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についてのガイドラインを権利者・利用者間で作成することが必要であるとの意見が出された。

(4) 今後の検討について

  これまでの審議・検討は、著作物等の教育目的の利用に係る権利制限の見直しに関し、権利者・利用者双方の要望を確認するとともに、それらの要望について双方の考え方を整理する等の論点整理を行ったものである。
  このため、特定の要望事項について具体的に法改正の可否や具体的な対応策等を結論づけるには至っていないが、各論点について権利者・利用者双方の基本的な考え方を明らかにすることができた。
  今後はこの整理に基づき、各論点について、表明された懸念や問題を解決するための具体的な方策の検討なども含め、権利者・利用者の双方が受け入れられる解決策を目指し、当事者間での具体的な協議を促進していく必要がある。
   
  図書館等における著作物等の利用

(1) 権利制限の拡大に関する論点

1   図書館等が例外的に許諾を得ずにファクシミリ等の公衆送信により複製物を提供できるようにすること

  現行の著作権法第31条により、図書館等が利用者の求めがあった場合等に図書館資料を許諾なく複製した場合、その複製物の提供手段は、手渡しや郵送による「譲渡」に限定されているが、ファクシミリ等を使用した「公衆送信」による複製物の提供についても許諾を得ずにできるようにしてほしいとの要望がある。
  要望の理由としては、学術研究等において速やかな情報収集が求められており、手渡し又は郵送による複製物の提供だけでは図書館等の公共的奉仕機能を十全に果たすことができなくなっていることがあげられている。
  この事項について、権利者の中には、(1) 対象となる「複製物」は複写物に限ること、(2) 対象となる「公衆送信」はファクシミリによる複写物のイメージの送信に限ること、(3) 著作権法第31条第1号に定める範囲内のものであること、(4) 非商業目的の調査研究のための依頼に限ることの4つの条件が満たされるならば、要望を容認するという意見がある。一方、権利者の中からは、許諾を得ずに行うことを認めた場合であっても、補償金を支払うこととすべきとの意見も出された。

2   入手困難な図書館資料に掲載された著作物の全部を例外的に許諾を得ずに複製できるようにするこ

  現行の著作権法第31条第1号では、図書館等は利用者の求めに応じて発行後相当期間経過した定期刊行物に掲載された著作物の全部を許諾を得ずに複製することができるが、絶版その他の理由により一般に入手することが困難な図書館資料に掲載された著作物についても、その全部を利用者の求めに応じて許諾を得ずに複製できるようにしてほしいとの要望がある。
  要望の理由としては、定期刊行物以外の出版物に掲載された論文等であっても、公益の観点から、一般に入手不可能となった場合には、図書館等が十全にその提供を行えるようにすべきとの点があげられている。
  この事項について、権利者側からは、補償金の支払いを求める意見や、不定期かつ逐次的に発行されている論文誌に限っては、許諾なしに複製することを認めてもよいとする意見が出された。

3   再生手段の入手が困難である図書館資料を保存のために例外的に許諾を得ずに複製できるようにすること

  図書館資料の形式が、当該形式で保存された著作物を再生するために必要な機器を入手することが困難になった場合には、当該図書館資料を保存するため、許諾なくその他の形式に複製できるようにしてほしいとの要望がある。
  要望の理由としては、図書館資料の媒体の多様化により、媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となった場合においても、その図書館資料の内容を保存する必要があることがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、元の媒体で想定されていなかった使用ができるようになることに対する不安や、既存の商品や将来販売を予定している商品との競合を懸念する意見が出された。

4   図書館等においても視覚障害者のために例外的に許諾を得ずに録音図書を作成できるようにすること

  現行の著作権法第37条第3項では、専ら視覚障害者向けの貸出の用に供するために、公表された著作物を許諾を得ずに録音することができる者は、点字図書館等の施設に限定されているが、公共図書館等においても許諾を得ずに録音できるようにしてほしいとの要望がある。
  要望の理由としては、公共図書館においても現在録音図書の作成を行っており、許諾なく録音できる主体を公共図書館に拡大することは、視覚障害者の福祉の増進という規定の趣旨にも適うことであることがあげられている。
  この事項について、権利者側からは、健常者の使用にも供されるのではないかという危惧、録音図書を業として出版する者への影響に対する懸念、音読や入力が不正確に行われかねないとの懸念等が表明された。

6   その他
  このほか、権利制限の拡大については、次のような論点が検討された。

ア) 図書館等に設置されたインターネット端末から利用者が著作物を例外的に許諾を得ずにプリントアウトできるようにすること
  現行の著作権法第30条第1項第1号では、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(コピー機を除く。)を用いた複製は、私的使用の目的であっても、許諾が必要とされているが、図書館等に設置されたコンピュータ及びプリンタを用いてインターネット上にあり誰でもアクセスできる著作物をプリントアウトすることについては、許諾を得ずにできるようにしてほしいとの要望がある。
  この事項については、公共施設等に設置されたインターネット端末からのプリントアウト全体に及ぶ問題であり、また、図書館資料を対象とするものでもないので、図書館等における著作物等の利用に限らず、より広い範囲で検討すべきであるとの意見が出された。

イ) 図書館内のみの送信を目的として図書館資料を例外的に許諾を得ずにデータベース化できるようにすること
  現行の著作権法第31条では、図書館等が許諾なく図書館資料を複製できる場合は、利用者の求めがあった場合、図書館資料の保存のため必要があった場合、他の図書館等の求めがあった場合に限られているが、図書館内のみの送信を目的として図書館資料をデジタル化(データベース化)する場合についても、許諾を得ずにできるようにしてほしいとの要望がある。
  この事項については、現在図書館資料をデータベース化し、又はする予定がある図書館等自体がごく少数にとどまることが、権利者側、図書館側双方から確認され、図書館側としても、権利者、出版社の側でのデータベース化をまず期待しており、それほど強く要望するものではないとの意見が出された。

(2) 権利制限の縮小に関する論点
1   商業目的の「調査研究」を目的として利用者が複製を求めた場合について権利制限の対象から除外すること

現行の著作権法第31条第1号では、図書館等の利用者が「調査研究」を目的として図書館資料の複製を求めた場合には、一定の条件の下で許諾なく複製を行うことができるとされているが、この「調査研究」から商業目的のものを外してほしいとの要望がある。
  要望の理由としては、許諾が必要な会社等での複製と不均衡を生じること、民間複写業者と競合していること、会社等の資料購入にも悪影響を与えること等があげられている。
  この事項について、図書館側の中からは、実効性を担保するための条件によっては、この要望を容認することができるとの意見と、商業目的と思われる調査研究のために複写を行っている図書館等もあり、その利用者に与える大きな影響を懸念する意見があった。また、この要望を容認するとしても「商業目的」の範囲については詳細に検討することが必要であるとの意見があった。

2   図書館資料の貸出について補償金を課すこと

  現行の著作権法附則第4条の2では、書籍等の貸与については貸与権が及ばないこととされており、その他の著作物(映画の著作物を除く。)についても非営利無償の貸与については著作権法第38条第4項で許諾なく無償で行えることとされているが、図書館等が映画の著作物以外の図書館資料を貸与する場合にも、映画の著作物の貸与の場合(著作権法第38条第5項)のように、図書館等が補償金を支払うこととしてほしいとの要望がある。
  要望の理由としては、図書館の増加、図書館における貸出数の増加等により、本の購入が図書館からの貸出により代替される傾向が強まっており、著作権者の利益に対する損害が大きくなっていることがあげられている。
  この事項について、図書館側からは、図書館は幅広い読者層の形成に努め、書籍等の展示効果により購買意欲を促進し、専門的で少部数しか発行されない資料の購入を支える等の役割も果たしており、図書館資料の貸出が直ちに著作権者に不当な損害を与えているとは言えず、図書館からの貸出が利用者の本の購入を阻害しているということは、まだ立証されていないという意見等が出された。

3   図書館等において利用者の求めに応じ行う複製について補償金を課すこと

  著作権法第31条第1号により、図書館等が利用者の求めに応じ許諾なく複製を行う場合には、補償金を支払うこととしてほしいとの要望がある。
  要望の理由としては、図書館の増加、複写機器の機能向上、普及等により、図書館等における複製が増大しており、著作権者の正当な利益が不当に損なわれていることがあげられている。
  この事項について、図書館側からは、絶版等一般に入手することが困難な図書や過去の定期刊行物等一般に販売されていない著作物の複製も多いため、図書館等における複製が直ちに著作権者の正当な利益を害しているとは言えないのではないかとの意見があった。また、現在規定されている条件に加えて補償金を課すことは、著作物の公正かつ円滑な利用を妨げかねないとの意見があった。一方、権利者側からも、補償金制度の実効的な運営や補償金の正確な分配は困難であり、特に必要性はないのではないかとの意見があった。

4   その他
  このほか、権利制限の縮小については、次のような論点が検討された。

ア) 公衆の用に供するコピー機を利用した私的使用のための複製を権利制限の対象から除外すること
  現行の著作権法第30条第1項第1号では、コピー機以外の公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いた複製は、私的使用の目的であっても、許諾が必要とされているが、公衆の使用に供するコピー機を用いた私的使用目的の複製は、附則第5条の2により暫定的に許諾が不要とされている。この暫定措置を解除してほしいとの要望がある。
  この要望については、公衆の用に供するコピー機による複製全体に及ぶ問題であり、より広い範囲で検討すべきであるとの意見が出された。

イ) 図書館等においてビデオ等を上映することについて権利制限の対象から除外すること
  現行の著作権法第38条第1項では、著作物を非営利無償で上映することについては許諾が不要とされているが、映画の著作物の非営利無償の上映については権利制限の対象から外してほしいとの要望がある。
  この要望については、公共施設等で行われる非営利無償での上映全体に及ぶ問題であり、図書館等における著作物等の利用に限らず、より広い範囲で検討すべきであるとの意見が出された。また、上映権に関する権利制限を全廃する趣旨か、制限する趣旨か、内容を明確にすべきとの意見もあった。

(3) 今後の検討について

  これまでの審議・検討は、図書館等における著作物等の利用に係る権利制限の見直しに関し、権利者側・図書館側双方の要望を確認するとともに、それらの要望について双方の考え方を整理する等の論点整理を行ったものである。
  このため、特定の要望事項について具体的に法改正の可否や具体的な対応策等を結論づけるには至っていないが、各論点について権利者側・図書館側双方の基本的な考え方を明らかにすることができた。
  今後はこの整理に基づき、各論点について、表明された懸念や問題を解決するための具体的な方策の検討なども含め、権利者側・図書館側の双方が受け入れられる解決策を目指し、具体的な合意の形成を促進するため、当事者間の協議の場を設ける必要がある。



著作物等の教育目的の利用に関する検討について

平成13年12月10日
長官官房審議官決定

  趣旨
  著作物等の教育目的の利用に係る権利制限の見直しに関し、「著作物等の教育目的の利用に関するワーキング・グループ」において整理された事項について、関係者による具体的な協議・検討を行う。

  検討事項
(1) 著作物等の教育目的の利用に関する権利制限の見直しについて
(2) その他

  実施方法
(1) 別紙の有識者等の協力を得て、検討を行う。
(2) 必要に応じ、別紙以外の者に対して協力を求めるほか、関係者の意見を聞くことができるものとする。

  実施期間
  平成13年12月10日から平成15年3月31日までとする。

  その他
  この協議・検討に関する庶務は、文化庁長官官房著作権課において処理する。



著作物等の教育目的の利用に関する検討者


金原  優        (社)日本書籍出版協会副理事長

坂井  知志     常磐大学助教授

菅原  瑞夫     (社)日本音楽著作権協会送信部部長

関口  一郎     (社)日本教育工学振興会常務理事・事務局長

高橋  邦夫     千葉学芸高等学校校長

石井  亮平     日本放送協会マルチメディア局著作権センター副部長

松田  實     全国視聴覚教育連盟事務局長

三田  誠広     (社)日本文芸家協会常務理事・知的所有権委員会委員長
     
[氏名は五十音順]



著作物等の教育目的の利用に関する検討経過


第1回  平成14年  1月28日    著作物等の教育目的の利用に関する検討の進め方について

第2回  平成14年  3月19日   著作物等の教育目的の利用について

第3回  平成14年  4月19日   著作物等の教育目的の利用について

第4回  平成14年  5月22日   著作物等の教育目的の利用について

第5回  平成14年  7月12日   著作物等の教育目的の利用について

第6回  平成14年  9月  3日   著作物等の教育目的の利用について

第7回  平成14年  9月25日   著作物等の教育目的の利用に関する検討結果について



図書館等における著作物等の利用に関する検討について

平成13年12月10日
長官官房審議官決定

  趣旨
  図書館等における著作物等の利用に係る権利制限の見直しに関し、「図書館等における著作物等の利用に関するワーキング・グループ」において整理された事項について、  関係者による具体的な協議・検討を行う。

  検討事項
(1) 図書館等における著作物等の利用に関する権利制限の見直しについて
(2) その他

  実施方法
(1) 別紙の有識者等の協力を得て、検討を行う。
(2) 必要に応じ、別紙以外の者に対して協力を求めるほか、関係者の意見を聞くことができるものとする。

  実施期間
  平成13年12月10日から平成15年3月31日までとする。

  その他
  この協議・検討に関する庶務は、文化庁長官官房著作権課において処理する。



図書館等における著作物等の利用に関する検討者


金原  優    (社)日本書籍出版協会副理事長

小阪  守    全国公共図書館協議会:東京都立中央図書館サービス部長

児玉  昭義    (社)日本映像ソフト協会専務理事・事務局長

酒川  玲子    (社)日本図書館協会参与(著作権担当)

土屋  俊    国公私立大学図書館協力委員会:千葉大学教授

中西  敦男    学術著作権協会常務理事

前園  主計    専門図書館協議会著作権委員会委員長

三田  誠広    (社)日本文芸家協会常務理事・知的所有権委員会委員長
      
[氏名は五十音順]



図書館等における著作物等の利用に関する検討経過


第1回  平成14年  2月  1日    図書館等における著作物等の利用に関する検討の進め方について

第2回  平成14年  3月25日    図書館等における著作物等の利用について

第3回  平成14年  4月22日    図書館等における著作物等の利用について

第4回  平成14年  6月10日    図書館等における著作物等の利用について

第5回  平成14年  7月17日    図書館等における著作物等の利用について

第6回  平成14年  9月  4日    図書館等における著作物等の利用について

第7回  平成14年  9月24日    図書館等における著作物等の利用に関する検討結果について



著作物等の教育目的の利用に関する検討結果

1. 権利制限の「拡大」について

1 授業の過程において例外的に許諾を得ずに複製ができる主体に「学習者」を加えること

例外を拡大するための法改正を支持することにつき、両者の意見が一致した。
  なお、教育機関おいて第35条但し書きの適切な運用を確保するため、利用者側の協力を得つつ、改正法施行までに、権利者側でガイドラインを策定することで合意した。

2 例外的に許諾を得ずに作製された複製物を同一教育機関内で共用にできるようにすること

この改正を行うためには、少なくとも適切な補償金制度の整備が必要であるとの考え方にたち、権利者・利用者両者で、実現・運用可能な補償金制度の具体的内容を検討することで、両者の意見が一致した。(法改正に係る検討は、その後に行う。)

3 例外的に許諾を得ずに作製された複製物を教科研究会等でも使用できるようにすること

大部分は「引用」で対応できると考えられることから、その範囲を権利者側の協力を得つつ、利用者側で整理して周知することで両者の意見が一致した。

4 教育機関で学ぶ特定学習者に対して授業のための公衆送信を例外的に許諾を得ずにできるようにすること

営利を目的としない教育機関が特定の学習者向けの遠隔教育(授業の中継)を行う場合に、第35条の規定により授業を担任する者が複製した著作物(例:主会場にいる生徒等に、第35条に基づき複製して配布した著作物)等を、特定の生徒等向けにリアルタイム送信できるよう法改正を行うことを支持することにつき、両者の意見が一致した。(この論点の本来の趣旨が送信による「合同授業」「公開講座」等への送信にあることから、すべての公衆送信ではなく、「リアルタイム送信」に限ることとした。)

6 遠隔地にいる者を対象に試験を行うため例外的に許諾を得ずに公衆送信することができるようにすること

例外を拡大するための法改正を支持することにつき、両者の意見が一致した。

6 インターネットによる教育成果の発信のための「複製」「公衆送信」「送信可能化」を例外的に許諾を得ずに利用できる対象とすること

大部分は「引用」で対応できると考えられることから、その範囲を権利者側の協力を得つつ、利用者側で整理して周知することで両者の意見が一致した。

2. 権利制限の「縮小」について

1 著作権法第35条(今後権利制限が拡大された場合にはその部分も含む。)に基づく例外的な許諾を得ない利用については、著作物の通常の利用を妨げる場合を除き、今後とも許諾なしの利用という例外措置を継続することとするが、原則として単一の窓口への補償金の支払いを要することとすること

権利者・利用者両者で、実現・運用可能な補償金制度の具体的内容を検討することで、両者の意見が一致した。(法改正に係る検討は、その後に行う。)



図書館等における著作物等の利用に関する検討結果


1. 権利制限の「拡大」について

1 図書館等が例外的に許諾を得ずにファクシミリ等の公衆送信により複製物を提供できるようにすること

図書館資料の複製物を「ファクシミリ等の公衆送信」により図書館等から利用者に直接提供できるようにすることについては、両者間での協議を引き続き行うことで、両者の意見が一致した。
なお、著作権分科会の「審議経過の概要」によって当事者間での具体的な協議を行うこととされた事項には含まれていないが、標記の検討事項との関連で、次のことについては、法改正を行うこととされればこれを支持することにつき、両者の意見が一致した。

     「図書館等」が、『「利用者」が他の図書館等(以下「代理図書館」という)に代理させて行う求め』に応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供する場合について、その「図書館等」が「代理図書館」に対して、その「著作物の一部分」を「公衆送信」できるようにするとともに、その「代理図書館」が当該公衆送信によって自動的に作成されるその「著作物の一部分」の複製物を、その利用者に「譲渡」できるようにすること
   
 
(注:1 代理者となれるのは、「図書館等」のみとする。
2 「図書館等」から「代理図書館」に送信された資料は、「代理図書館」の図書館資料ではないので、複製・保持はできない。)

2 「入手困難な図書館資料」に掲載された著作物の全部を例外的に許諾を得ずに複製できるようにすること

図書館資料のうち「学術論文」を掲載するもののみを対象とし、「文芸作品」等は除外するという前提で、法改正を支持することにつき、両者の意見が一致した。
ただし、「学術論文のみ」という対象範囲を法律の条文として規定することが困難である場合には、法改正ではなく、当該図書館資料の利用に係る「著作者の意思表示」のためのシステムを両者で開発・普及することで意見が一致した。

3 「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存のため例外的に許諾を得ずに複製できるようにすること

例外を拡大するための法改正を例えば次のような条件の下で支持することにつき、両者の意見が一致した。

i ) 複製部数は1部に限定すること
ii ) 複製したものの譲渡は認めないこと
iii ) 旧形式の複製物の廃棄は求めないこと
iv ) 「再生手段」の入手が困難とは、新品市場で入手し得ないことを意味すること
v ) 当該著作物について新形式の複製物が存在しないこと

4 図書館等においても視覚障害者のために例外的に許諾を得ずに「録音図書」を作成できるようにすること

当面、図書館団体と権利者団体が協力して、「簡便な許諾契約システム」「事前の意思表示システム」等の構築を行うことで、両者の意見が一致した。(法改正については、これらのシステムの効果を評価したうえで検討する。)

6 その他
ア) 図書館等に設置された「インターネット端末」から図書館利用者が著作物を例外的に許諾を得ずに「プリントアウト」できるようにすること

法改正ではなく、「著作者の事前の意思表示システム」等により対応することが適切であるということで、両者の意見が一致した。

イ) 図書館内のみの送信を目的として図書館資料を例外的に許諾を得ずに「データベース化」できるようにすること

図書館団体側が、当面法改正を求めない旨を表明したため、検討対象から除外することで、両者の意見が一致した。
   
2. 権利制限の「縮小」について

1 商業目的の「調査研究」を目的として利用者が複製を求めた場合について権利制限の対象から除外すること

図書館利用者の関係団体とも協議しつつ、両者間での協議を引き続き行うことで、両者の意見が一致した。

2 図書館資料の貸出について補償金を課すこと

図書館側からは、補償金制度導入の可能性について反対はなかったが、権利者団体側において、実現・運用可能な補償金制度の具体的内容を検討した後、両者間の協議を行うことで、両者の意見が一致した。(法改正の具体的な内容に係る検討は、その後に行う。)

3 図書館等において利用者の求めに応じ行う複製について補償金を課すこと

権利者団体側において、実現・運用可能な補償金制度の具体的内容を検討した後、両者間の協議を行うことで、両者の意見が一致した。(法改正に係る検討は、その後に行う。)

4 その他
ア) 公衆の用に供するコピー機を利用した私的使用のための複製を権利制限の対象から除外すること

図書館のみに係る問題ではないため、(社)日本書籍出版協会が当面(社)日本経済団体連合会との協議を行うことで、両者の意見が一致した。

イ) 図書館等においてビデオ等を上映することについて権利制限の対象から除外すること

図書館における個人用視聴覚設備を用いた不特定少数向けの上映については、法改正後も、(社)日本映像ソフト協会が、会員社が著作権を有するビデオ等について、図書館における利用を許諾するよう取りはからうという条件で、著作権法第38条第1項により権利が制限されている上映行為について、「禁止する旨の表示」がある場合を権利制限から除外する法改正を支持することについて、両者の意見が一致した。


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