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資料 2

著作権法113条の見直しについて

専門委員 前 田 哲 男

2つの論点
 1  現行法では、海賊版の「頒布目的所持」だけがみなし侵害の対象になっているが、「頒布目的」に限らず、「当該複製物により公衆に提示する目的」での所持も、みなし侵害の対象とする必要がある。
 2  海外で作成された海賊版を、「輸入の時」には頒布目的なく輸入したが、
その後に頒布の目的が生じ、実際に頒布した場合
輸入者から当該海賊版を買い集めて店舗等で頒布し、頒布目的で所持等する場合
に、現行法では、みなし侵害の対象とならない可能性があるので、改正が必要である。

第1 「公衆に提示することを目的」とする海賊版所持

(侵害とみなす行為)
113条 1項

 次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
(中   略)
 著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為によって作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を情を知って頒布し、又は頒布の目的をもつて所持する行為

 昭和63年改正により、権利侵害物の頒布目的所持を追加。

加戸・逐条講義三訂新版612頁
「現行法制定当初は、本号ではきおの頒布行為のみを侵害行為とみなしておりました。しかしビデオソフトなどをはじめとして海賊版が横行し、権 利者の経済的利益に大きな損失を与えている事態が生じているのにかかわらず、権利侵害物の個々の頒布行為について、頒布の相手方等まで特定して立証することは顧客の協力が必要であるなど必ずしも容易ではなく、実際は海賊版横行の氷山の一角しか捕捉できないという問題がございました。したがって、一層有効な海賊版への対応策を講じることが内外の権利者から強く求められてまいりました。そのような状況を踏まえ、昭和63年の法改正により権利侵害物を頒布目的で所持する行為も侵害とみなすこととされました。」

 その後、海賊版ビデオソフトを用いた上映権侵害事件(ホテルや観光バス等)が多発するようになった。

 著作権者が刑事告訴を行い、ホテル内や観光バス内等で海賊版ビデオソフトが多数発見押収されても、具体的な上映行為の立証がなければ、侵害とみなすことができない。

 しかし、個々の上映行為の立証は、権利者側(あるいは捜査機関)の者がその場に居合わせないと困難である。
  (個々の頒布行為の立証が困難である以上に難しい)

 発見・押収された海賊版ビデオソフトのうち、個々の上映行為を立証できない作品については、立件対象にできない。
(なお、ホテル、観光バス会社等は、自ら海賊版を作成せず、海賊版を購入しているケースが少なくない。→複製権侵害を立件できない)

 平成6年 岡山県警によるホテルの摘発
海賊版ビデオソフト902本の押収
  → しかし、立件対象は、7作品8回の上映行為のみ
 なおこの事件では、当初、不起訴処分がなされたが、権利者が検察審査会に審査を申し立てた結果、「起訴相当」とされ、再捜査のうえ罰金刑が科せられた。
   
 平成8年 宮城県警察による観光バス会社の摘発
海賊版ビデオソフト75本の押収
  → しかし、立件対象は、5作品各1回ずつの上映行為のみ

 上映権侵害のみならず、(オンデマンド方式以外の)公衆送信権侵害等についても、同様の立証の困難さが発生する。
  → 「当該複製物により公衆に提示する行為」に共通の問題

 
 翻って考えると、権利侵害物(海賊版)であることの情を知って、
 頒布目的で所持している行為
と、
 頒布以外の方法により「複製物により公衆に提示する目的」で所持する行為
との間に差異を設ける合理的理由もない。

 結論
 権利侵害物を、その情を知りながら「頒布目的」で所持する行為のみならず、「当該複製物により公衆に提示する目的」で所持する行為も、著作権等を侵害する行為とみなすべきである。



第2 海外で製造された海賊版の頒布・頒布目的所持等
(侵害とみなす行為)
113条1項
  次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
 国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によって作成された物を輸入する行為
   
 著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を情を知つて頒布し、又は頒布の目的をもつて所持する行為

2号にいう「前号の輸入に係る物」の解釈について、次のA説とB説とがあり得る。

A説  国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によって作成された物の輸入」 に係る物をいう。

B説  「輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によって作成された物の輸入」 に係る物をいう。

 仮にA説が文理上正しいとすれば、
 「国内において頒布する目的を持たずに輸入された物」は、2号にいう「前号の輸入に係る物」に含まれない。

 A説によれば、輸入の時点では頒布する目的がなかったが、その後に頒布する目的が生じ、現実に頒布(=公衆への譲渡又は貸与)する行為を、侵害とみなす根拠がない。

 
 A説によれば、海外で製造された海賊版であって個人輸入された物(あるいは海外旅行の際に購入して日本に持ち込まれた物)を、日本国内において中古品として買い集め、店舗等で販売する行為を、侵害とみなす根拠がない。

 現行法制定時には問題はなかったが、昨今の1インターネット等を経由した個人輸入の爆発的増大、2海外旅行者の増大により、頒布目的なく海外の海賊版が輸入されることが多くなった。

 加えて、中古販売店の増加に伴い、そのような個人輸入等された海賊版を、中古品として買い集めて、店舗で販売する業者が出現した。
※ 東京都内の店舗のケース

 
 「譲渡権侵害」により対処できるケースもあるが、

製造国において「譲渡権」に相当する権利が定められていない場合には、その国における最初の譲渡によって、譲渡権は消尽している。
(著作権法26条の2第2項4号、95条の2第2項3号97条の2第2項3号)

2001年12月31日以前において台湾で製造された無許諾複製物については、譲渡権を主張できない。

113条の2により譲渡権侵害を主張できないケース
(第一譲渡国において頒布権・譲渡権の定めがあることを知らなかったことにつき過失がない場合には、海賊版であることの情を知っていた者に対しても、譲渡権侵害を主張できない。)

 そこで、113条1項2号中の「(前号の輸入を係る物を含む)」という表現を、

「(輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によって作成された物を含む)」

という表現に改めるべき。

 

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