資料1

平成19年度法制問題小委員会の審議の経過について

平成20年1月30日

1.はじめに

 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会では、平成17年度以降、「著作権法に関する今後の検討課題」(平成17年1月24日 文化審議会著作権分科会)に掲げられた課題を中心として、政府の知的財産戦略本部から提言された検討課題など緊急に検討を要する課題を適宜含めつつ、検討を進めてきている。
 今期(平成19年度)の法制問題小委員会では、主として、

について検討するとともに、併せて、小委員会に3つのワーキングチームを設置し、

について、それぞれ検討を行ってきた。

 昨年10月には中間まとめ(『文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 平成19年度・中間まとめ』)(注1)を行い、10月12日に本分科会で中間まとめを報告した後、同中間まとめについて、10月16日から11月15日までの1ヶ月間、意見募集を実施した(全体で、546通(団体67通、個人479通)の意見が寄せられた。)。この意見募集の結果(注2)については、1月11日の小委員会において概要を紹介し、争点を整理するとともに、それらについて意見交換を行った。(なお、5私的使用目的の複製の見直しについては、私的録音録画小委員会の中間整理について意見募集が行われている。)
 また、1月24日の小委員会においては、私的使用目的の複製の見直しについて、私的録音録画小委員会の検討状況の報告、また機器利用時・通信過程における一時的固定の取扱いについてデジタル対応ワーキングチームの検討経過の報告を受けるとともに、今期の審議経過の報告について検討を行った。

 本審議経過の報告は、中間まとめ及び意見募集を受けたその後の検討を踏まえ、各課題についての審議の進捗状況や残された課題等について、現在の状況を整理したものである。各課題の問題意識や詳細については、中間まとめを参照されたい。

2.課題ごとの状況

(1)デジタルコンテンツ流通促進法制

 中間まとめにおいて詳述したように、「デジタルコンテンツ流通促進法制」については、1経済財政諮問会議の問題意識に見られるような、過去にインターネット以外の流通媒体での利用を想定して製作されたコンテンツを、インターネットで二次利用するに当たっての著作権法上の課題と、2インターネットを活用して創作が行われるなど「制作」や「流通」の概念で分けることが困難な形態や不特定多数が関わって創作、利用が行われる形態等に関する著作権法上の課題とに大きく分けられると考えられる。このうち前者1については、権利の集中管理や関係者間のルール形成が進む中では、権利者の所在不明等により二次利用のための契約交渉が行えない場合の利用円滑化方策が特に検討が行われるべき課題であるとの整理を行い、この課題は、現在、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会で検討が進められている。
 今後、これらの課題の進捗状況や、また上記2の課題についての実態調査等を踏まえ、また、その他の権利制限の見直しなど関連する課題も必要に応じて射程に含めつつ、デジタル化・ネットワーク化の下における著作権制度の在り方について、総合的に検討を進める。

(2)海賊版の拡大防止のための措置

1海賊版の譲渡告知行為の防止策

 中間まとめでは、インターネットオークション等を利用して海賊版(著作権等の権利を侵害する物品)を販売するために譲渡等の申出を行う行為(譲渡告知行為)について、海賊版頒布の前段階で行為を捕捉しなければ頒布防止の実効性が確保できないとの観点から、現行規定で既に権利侵害とみなされている「頒布の目的をもって所持する行為」と同様に、これを一定の要件の下で権利侵害とみなすことが適当とした。一方、善良な広告事業者への萎縮効果への配慮など、中間まとめで触れた留意事項のほか、譲渡告知行為の外形からは海賊版の譲渡告知行為なのか正規品等の譲渡告知行為なのかが判別しにくい場合もある等の懸念も寄せられており、制度運用の際に困難を生じない工夫等について検討が求められる。

2親告罪の範囲の見直し

 中間まとめでは、他の知的財産権との関係、親告罪とすべき罪の性質、著作権侵害罪の法定刑との関係等を踏まえて検討を行った結果、著作権等侵害行為の多様性や人格的利益との関係を踏まえ、一律に非親告罪とすることは適当ではなく、また、現行の犯罪類型のうち一部を新たな犯罪類型として、それのみを非親告罪とすることについては、社会的影響等を見極めつつ、慎重に検討すべきとした。さらに、中間まとめに対する意見募集においても、立法事実の有無や、著作権者等が黙認している場合の著作権者等の利益との関係からも慎重に考えるべき等の意見があり、現状では、中間まとめにあるように慎重な見極めが必要との方向性が適当と考える。

(3)権利制限の見直し

 権利制限規定の見直しについては、平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書において、一部の項目について、関係者の取組状況や実態を踏まえて引き続き検討を行うとされていた。今期は、そのうち薬事関係、障害者福祉関係の権利制限の見直しについて引き続き検討を行うとともに、新たにネットオークション関係の権利制限について検討を行った。詳しい要望の背景、取組の現状等については中間まとめに譲るが、中間まとめ以降の検討において、今後更に検討すべき事項又は留意すべき事項と思われるものは次のとおりである。

1薬事関係

 中間まとめでは、医薬品等の製造販売業者が薬事法の規定に基づき医療関係者に対して行う文献提供について、個別の患者への迅速な対応が求められる場合の情報提供を円滑にする観点から、実効的な制度運用に向けた関係者間の共通理解などの必要な環境が整うことや、医療関係者自らによる情報取得の体制の整備状況に応じ、必要に応じて制度の存廃の検討を行うことを前提として、一定の要件の下で権利制限を行うことが適当としていた。一方で、中間まとめに対する意見募集において寄せられた意見では、

  •  文献提供に関する包括契約の存在や実務の実態に照らし、迅速な文献提供との観点から権利制限を行うことの正当性の有無、
  •  今回の権利制限と国際条約(権利制限に関するいわゆるスリーステップテスト)との関係

等の基本的部分について見解が大きく分かれていることから、今後、医薬品等の製造販売業者の文献提供の実態等を精査しつつ、これら上記の点を含めて検討を進めるべきである。

2障害者福祉関係

 中間まとめでは、情報アクセスの保障、情報格差是正の観点から、障害者が著作物を利用できる可能性を確保する方向で著作権法上可能な措置を検討すべきとし、一定の留意点の下、複製主体や対象となる障害の種類等について、現行規定の範囲を拡大する方向性を示した。この点、中間まとめに対する意見募集では、概ね中間まとめの基本的方向性と趣旨を同じくする意見が見られるものの、特に映像資料の分野で、健常者への流出防止のための利用者確認、市販物と同様の技術的保護手段の確保、放送の時差再送信の際の情報内容に係る責任主体の在り方等についてなお懸念が示されていることから、今後、これらの点について、適切な制度設計又は運用が確保されるよう留意すべきである。

3ネットオークション等関係

 中間まとめでは、美術品等の譲渡を行う際、その商品紹介のために行う画像掲載は売主の義務として必要不可欠なものであり、画像掲載が美術家や写真家等の権利者の利益を不当に害することがないようにとの条件の下、許諾なしに行い得るようにすることが適当とした。これに対し、中間まとめに対する意見募集では、美術の著作物に該当する漫画・イラスト等の出版物に関して、商品紹介の名目で出版物の内容ページまでの掲載など必要以上の画像掲載が行われる懸念や、不法に入手や複製がされたものの譲渡を助長することについての懸念が寄せられた。このうち後者については、海賊版の譲渡告知行為の防止策等の他の手段によって対応を図るべき部分もあるが、今後、権利者の利益を不当に害しないための条件の検討を進める中で、これらの懸念に配慮しつつ、適切な制度設計又は運用が確保されるよう留意すべきである。

4その他の権利制限要望等

 その他に寄せられている検討要望としては、図書館関係の権利制限や学校教育関係の権利制限が引き続きの検討課題となっているが、図書館関係の一部の事項については、現在、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において、アーカイブ事業の円滑化との課題の中で既に議論が進められている。今後、この進捗状況等も踏まえ、適宜、検討を行う。
 また、「デジタルコンテンツ流通促進法制」や、デジタル対応ワーキングチームの検討課題など、他の検討事項との関連でも広く権利制限が話題になる場合が見られた。今後、これらの検討を通じてその背景等を把握しつつ、必要に応じて、より総合的又は広範な視点から権利制限の在り方が検討されることが適当である。

(4)私的使用目的の複製の範囲の見直し

 本課題は、私的使用目的の複製に係る権利制限について、規定創設後の運用実態の変化、具体的には、技術的な保護手段の進歩、違法複製物等からの複製の状況等を踏まえて、その権利制限の範囲を見直すべきか、平成19年1月の文化審議会著作権分科会報告書において一定の審議結果が示され、その中で、私的録音録画小委員会の「結論を踏まえ、必要に応じて、私的複製の在り方全般について検討を行う」こととされていたものである。
 私的録音録画小委員会においては、10月に公表した中間整理に対する意見募集の結果を踏まえ30条の適用範囲の見直しについて検討されたところであるが、今後の検討においては、私的録音録画小委員会での検討結果を踏まえ、機器利用時・通信過程における一時的固定の検討との整合性等を必要に応じて検証するとともに、私的複製に係る権利制限の範囲の見直しに際して、私的録音録画小委員会で検討された録音・録画以外にも、例えばプログラムの著作物等に関して同様の検討が必要であるか等について、その私的複製の実態を踏まえながら、精査を行うことが適当である。

(5)検索エンジンに係る法制上の課題

 中間まとめでは、検索エンジンが行うウェブサイトの収集等の行為について、著作者の権利との調和と安定的な制度運用に配慮しながら権利制限を講ずることが適当とし、その上で、権利制限の対象範囲、権利者が検索対象となることを拒否した場合の対応、違法複製物への対応等の論点について検討するとともに、具体的な立法措置の在り方を明らかにすることが必要であるとしていた。今後、これらの点について、実務の実態等に照らして現実的に対応可能な範囲や権利制限の趣旨等も踏まえつつ、早急に結論を得るよう、検討を進める。

(6)機器利用時・通信過程における一時的固定

 本課題は、デジタル機器等の使用・利用に伴って行われる機器内部等への著作物等の電子データの蓄積について、それと著作権法上の「複製」との関係をどのように捉えるべきか、平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書において一定の結論を得つつも、その後の技術動向を見極める必要等から、さらに慎重な検討を行い、平成19年を目途に結論を得ることとされていたものである。
 なお、今後の検討においては、採用されている技術の目的等が異なる、1機器利用時における蓄積と、2通信過程における蓄積とに分けて検討し、同報告書時点からの技術の変化等を踏まえ、同報告書において掲げられた要件の再検証を行い、立法措置の在り方について検討する。

(7)ライセンシーの保護等の在り方

 中間まとめでは、ライセンシーの保護に関し、著作物を利用できる地位の保護については登録(公示)により対抗要件を具備する制度を設けることとし、その際、可能な限り特許等の登録制度との整合性を図りつつ制度設計する必要があるとしているものの、関係業界の意見を聞きつつ、より活用しやすい制度となるよう引き続き検討を行うべきとしていた。また、いわゆる「利用権」については、諸外国においてもほとんど例がなく、現行制度の仕組みを大きく変えることとなるため、今後の課題として引き続き検討することとしていた。この点、中間まとめに対する意見募集でも、関係団体から実務の実態に即した検討を続けるよう要望があり、今後とも、より適切な方策の検討を含め、検討を続ける。

(8)いわゆる「間接侵害」等

 中間まとめでは、自ら(物理的に)利用行為を行う者以外の者に対する差止請求が認められる範囲について、過度の拡張適用を防ぎ、予測可能性を高める観点から、立法的対応により明確化を図ることが適当としつつ、その範囲については、裁判例の状況や民法の基本理論との整合性にも配慮し、一定の対応例を示しながら、引き続き検討が必要としていた。この点、中間まとめに対する意見募集では、侵害とすべき類型を個別に列挙すべきとする意見から、立法化により硬直化させるべきではない等の意見まで幅広い意見が寄せられるなど、更なる検討を続けるべきとの要望があり、また損害賠償制度の在り方についても検討を求める要望があったことから、引き続き、これらの意見を踏まえつつ、検討を続ける。

3.おわりに

 今期の法制問題小委員会では、上記のように、一定の結論の方向性を得つつも更に整理が必要な事項が残されている検討課題が複数あったことから、本報告は、期末の最終的な報告書とせずに、審議経過報告として審議の進捗状況や残された課題等についての整理にとどめ、来期も引き続いて必要な検討を行うことを期したものである。これらの検討課題については、来期の小委員会においても、速やかに結論が得られるよう引き続き調整や検討を行い、結論が得られたものから、適宜、報告をまとめることとしたい。