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第1章 法制問題小委員会

第2節 共有著作権に係る制度の整備について

1  問題の所在
   著作権法には共同著作物に係る規定が置かれているが、現行法制定時(昭和45年)以来、改正されていない。近年、複数企業による著作物(共同著作物)の作成が増加するなど社会の実態に変化が見られることから、実務の状況も踏まえつつ、検討が必要となる。

(1) 現行著作権法における共有に係る規定
   共有著作物の創作意図及び共有著作物の著作権の一体的行使の観点、一般財産との対比における著作物利用の性質の特殊性等を考慮して、著作権法には、民法の共有に関する規定の特例規定が設けられている。

民法の規定との比較
 
  著作権法 民法
人格権の行使 全員の合意が必要(第64条)
信義に反して、合意の成立を妨げることができない。
 
共有持分の割合の推定 (注) 各共有者の持分は相等しいものと推定(第250条)
持分の譲渡又は質権の設定 全員の同意が必要(第65条第1項)
正当な理由がない限り、同意の成立を妨げることができない。
(持分の譲渡は自由とされている。)
持分の放棄及び共有者の死亡 (注) 当該持分は他の共有者に帰属(第255条)
権利の行使 全員の合意が必要(第65条第2項)
正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない。
【管理】 持分の価格に従い、その過半数で決する。(第252条)
共有物の分割 (注) 各共有者はいつでも請求できる。(第256条)
差止請求 単独請求可(第117条) 単独請求可(第252条但書)
損害賠償 持分に応じて単独請求可(第117条) 持分に応じて単独請求可
(注) 共有著作権の性質に適合する範囲内において民法の共有に関する規定が働くこととなる。

1 「共同著作物」の定義(第2条第1項第12号)
 
共同著作物…2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。
 「共同著作」が成立するためには、2人以上の者が「共同して創作した」といえる必要があり、各人の寄与が創作性のあるものでなければならない。例えば、単なる著作者の手足として参画している補助者や、企画を立てただけで、実際の創作には何ら関与していないような者は共同著作者とはならない。

2 共同著作物の著作者人格権の行使(第64条)
 
権利行使 ⇒ 全員の合意が必要(*信義に反してその合意の成立を妨げることはできない。)
代表して著作者人格権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。
 共同著作物における著作者の人格の一体性を考慮して、人格権の行使については、著作者全員の合意のよるものとし、各著作者の合意義務を定めるとともに、代表者による権利行使に関し実情に即した取扱いを規定している。なお、信義に反して合意成立を拒む者に対しては、訴訟を提起して、民事執行法第174条の規定による合意判決を得、それによって反対著作者の認諾があったものとみなすという取扱いで著作者人格権を行使することとなる。

3 共有著作権の行使(第65条)
 
持分の譲渡又は質権の設定 ⇒ 全員の同意が必要(*正当な理由がない限り、同意を拒むことはできない。)
権利行使 ⇒ 全員の合意が必要(*正当な理由がない限り、その合意の成立を妨げることはできない。)
代表して共有著作権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。
 共有関係は共同著作物の作成によって生じる場合、または、著作権を数人の者が譲り受けた場合や著作権を数人の相続人が共同相続した場合等に生じる。
 本条は、共有著作権の処分・行使に関し、著作権共有者間の連帯性を確保する観点から、民法上の共有に関する規定の一部の適用を排除して、持分の譲渡等についての他の共有者の同意、著作権行使についての全員の合意、代表者による著作権行使などを定めたものである。すなわち、権利の行使については、民法第252条の共有物の管理に関する事項は共有者の持分の過半数によって決せられることになっているが、共有著作権の行使の場合には、持分の多少に関わらず、全員の同意によるという特例が規定されている。これは、多数決原則が妥当する通常の財産の利用とは異なり、一体的利用を確保すべき文化的所産の利用に関する事項であることによる。

4 共同著作物等の権利侵害(第117条)
 
第112条の差止請求 ⇒ 単独請求可
損害賠償請求又は不当利得返還請求 ⇒ 持分に応じて単独請求可
 共同著作物の著作者人格権の侵害については、各著作者が独立して個別に第112条の差止請求をすることができることとし、共有著作権又は共有著作隣接権の侵害については、各権利者が独立して個別に第112条の差止請求をすることができることとしたものである。一般に、共有財産権の侵害については、各共有者は単独で共有財産権全体に対する妨害の排除を請求することができるものとされており、共有著作権又は共有著作隣接権の侵害の場合における差止請求権についても、各持分権者による単独の行使が認められるところである。また、共同著作物の著作者人格権の侵害の場合にも、各権利者の人格的利益がその共同著作物という一つの著作物に混然融合しているものであることから、その侵害に対する差止請求権の行使については、共有財産権の場合と異なるところはないと考えられる。ただし、第64条、第65条において、共同著作物に係る権利の行使については全員の同意によるべきことを規定しているため、本条で確認的に規定したものである。

2  検討課題
  【共同著作物の著作者人格権について】
1 著作者人格権の侵害に対する損害賠償請求の扱い
 著作者人格権の侵害に対して、各著作者は慰謝料請求や名誉回復措置が単独でできるのか否かについて

【共有著作権について】
2 共有者の1人[1社]が居所不明等により合意等が得られない場合の方策
 共有者の1人が居所不明等により合意等が得られない場合の方策について

3 共有著作権の行使に係る持分割合による多数決原理の導入
 民法と同様、持分割合による多数決原理を導入することについて

4 共有著作権の譲渡について、他の共有者が不同意の場合に譲渡人を保護する方策
 他の共有者の同意が得られなかった譲渡人の保護の方策について

5 共有者による共有著作物の「使用」
 共有者による、共有物であるソフトウェアを基礎とした新たな研究開発等における「使用」の取扱いについて

3  検討結果
   現行法上、共有に関しては、共有者間の人的関係及び共有の客体が著作物という精神的色彩の強いものであることから、民法の特例が規定されている。
 共同著作物に係る著作者人格権については、著作権法特有の問題であり、特にその人的関係に配慮して規定されている。
 検討課題1について、現行法は、著作者人格が一つのものであることから全員の合意を得る必要があると考えられる一方、共同著作者の一人の氏名表示が削除された場合など必ずしも全員の合意を求める必要がないと考えられる場合があることから、明文で規定せず、個々の具体的事例に応じた裁判所の合理的判断に委ねることとしているが、現時点において一律に立法上措置する必要性は生じていないと考えられる。
 検討課題25は、現行法が当該行為(権利の行使等)について、権利者全員の合意又は同意を要求していることに関係する課題である。現行法は、共同著作者の創作意図及び権利の目的物たる著作物の一体性の確保等から、民法上の共有理論をそのまま適用することは適当でないとして、その権利の行使等についても権利者全員の合意又は同意を必要としているところである。
 共有に係る権利の取扱いについては、共有者間における契約で定めることができる場合が多い。今回、ヒアリングを行ったソフトウェアの共同開発等や製作委員会方式においても、権利関係についてあらかじめ契約で定める場合が多く、また、権利関係の明確化の観点からも個々のケースに応じて契約で処理することが望ましいと考えられる。
 以上の立法趣旨及び実務における取扱いにかんがみた場合、契約によって対応できないような問題が生じているとまでは言えず、また、任意規定である現行著作権法の規定が実務の妨げになるものではなく、課題が生じているとしても、それらは契約実務上の課題として位置づけられるものである。
 したがって、共有の扱いに関しては、民法の規定に基づく分割請求の活用も含め、現行法の枠組みや契約で対応することが適切であり、現時点において緊急に著作権法上の措置を行う必要性は生じていないと考えられる。

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