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2   検討の結果

   法制問題小委員会は、平成15年6月12日に第1回を開催し、8回にわたり検討を行ってきた。平成15年度における検討の結果は次のとおりである。


1.関係者間の合意が形成された事項

   現在、著作権法制に関して関係者間で協議が進められている事項のうち「書籍・雑誌等の貸与」に係る暫定措置の廃止と「日本販売禁止レコード」の還流防止措置については、関係者間の合意が概ね形成されたことを踏まえ、本小委員会において検討を行った。

(1)「書籍・雑誌等の貸与」に係る暫定措置の廃止

○現行制度

   貸レコード業をはじめとする著作物の複製物のレンタル業の発達に対応するため、昭和59年の著作権法の一部改正により、映画以外の著作物の著作者に「貸与権」が創設された(第26条の3)。
   しかしながら、書籍・雑誌の貸与については、1貸本業が我が国で長い歴史を持ち、これまで自由に行われてきたという経緯があり、社会的にも定着している業であったことから、関係者の理解を得られにくい状況にあったこと、2貸本業が大きな経済的利益をあげているという実態になく、貸本業の存在により本の売れ行きが大幅に減少するといった、著作権者の経済的利益が不当に害される事態が生じているという状況にはなかったこと、3仮に貸本にも権利が働くこととした場合においても貸本業者は権利者の許諾を容易に得ることができる集中管理体制が整っていなかったこと、などから、当分の間の措置として、貸与権が働かないこととされた(附則第4条の2)。ただし、書籍・雑誌の中でも、主として楽譜が掲載内容となっているものについては、貸楽譜業の実態に鑑み、権利者の利益にも大きく関わることから、原則通り貸与権が働くことになっている。


○問題の所在

<国内の状況>

   約2年ほど前から、新たな「レンタルブック店」が北海道、神奈川、福岡など各地で営業を開始し、平成15年11月現在では、全国で約200から250店舗が営業を行っている。この新たな「レンタルブック店」は、主に「レンタルビデオ店」がビデオからDVDのレンタルへの移行に伴いできた空きスペースを利用して、書籍等(コミックスが中心)のレンタルを行っている。また、平成15年4月には、新古書店最大手の「BOOK OFF」(ブックオフコーポレーション株式会社)1が書籍のベストセラーを中心としたレンタルブック1号店を開店している。さらに、レンタル大手の「ゲオ」(株式会社ゲオ)2、最大手の「CCC」(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)3がレンタルブックビジネスに参入する予定であり、今後は多くの事業者がレンタルブックビジネスに進出する可能性がある。

■著作権者の経済的利益に対する影響

   旧来の貸本業は、蔵書数が少なく、人気に関係なくどのタイトルも平均して同じ冊数を仕入れて、貸し出しを行うなど、大きな経済的利益をあげているという実態になく、貸本業の存在により本の売れ行きが大幅に減少するといった、著作権者の経済的利益が不当に害される事態が生じているという状況にはなかった。
   他方、新たな「レンタルブック店」は、人気のあるコミックやベストセラーの書籍を大量に品揃えし、レンタルビジネスを大規模に展開するものであり、著作権者の経済的利益に多大な影響を与える可能性がある。
   実際に、社団法人雑誌協会が千葉県所在の『すばる書店』において、平成15年5月23日から10月31日まで、新刊売り場に併設して、レンタルコミックに関する実証実験を行った結果、毎月約25,000冊〜30,000冊の貸し出しがみられ、売上は約250万円前後で推移しているという結果がでている。また、最新巻とその前巻について、実験店における新刊の売上データと全国の売上データとの比較をしたところ、貸出禁止期間を設けなかったものについては、13作品中11作品が全国平均よりも低いという結果がでている。


       実験店の概要
   
 
(店   舗) すばる書店白井店   千葉県白井市富士字西148−7

レンタル実験スペース   46坪(151.8平方メートル
新刊売り場面積   96坪(316.8平方メートル)   駐車場完備の郊外型店舗

(初期商品) 約25,000冊(30,000冊迄陳列可)

(レンタル料金)    新刊・既刊とも3泊4日80円、延滞料金は1日40円
5冊以上レンタル時は7泊8日までレンタル期間延長

       実験店におけるジャンル別蔵書数、貸出数及び回転数
   
 
ジャンル 蔵書数 貸出数 回転数
少年 8,453 52,460 6.1
少女 6,890 53,108 7.5
青年 7,606 39,913 5.2
レディース 1,791 11,676 6.4
児童 503 2,462 4.8
その他 318 824 2.6
25,561 160,443 6.16

       実験店における貸出数及び売上
   
 
  貸出数 売上(円)
5月(23〜31日) 15,919 898,288
6月 34,172 2,760,792
7月 30,177 2,434,480
8月 30,818 2,486,095
9月 26,562 2,128,668
10月 22,795 1,820,988
160,443 12,529,311
   
 
1年間に換算すると
貸出数    361,492冊
回転数 14.1回転

実験店
在庫タイトル数 19,686点
平均在庫数 1.3冊
在庫総金額(定価)    11,858,973円
実験店総会員数   3,762名

       実験店における新刊への影響
       (最新巻と前巻との売上比較   実験店舗と全国売上データとの比較表   12週目)
   
  「貸出禁止期間0」
 
  作品名 巻数 全国売上
データ
実験店
売上データ
比較差 ジャンル
DEAR BOY ACT2 14巻 106.40% 95.80% ―10.60% 少年
ジパング 11巻 90.80% 90.90% 0.10% 青年
バカボンド 17巻 91.80% 97.70% 5.80% 青年
ONE PIECE 28巻 97.40% 89.10% ―8.30% 少年
NARUTO−ナルト− 17巻 107.50% 106.20% ―1.30% 少年
こちら葛飾区亀有公園前派出所 135巻 100.10% 85.10% ―15.00% 少年
夜までまてない 7巻 85.90% 66.70% ―19.20% 少女
覇王・愛人(あいれん) 5巻 107.20% 90.50% ―16.70% 少女
I 金色のガッシュ!! 11巻 137.70% 131.90% ―5.80% 少年
J フルーツバスケット 12巻 100.20% 95.10% ―5.10% 少女
K 代紋TAKE2 56巻 95.90% 63.20% ―32.70% 青年
L DRAGON BALL完全版 11巻 99.50% 97.40% ―2.10% 少年
天使な小生意気 18巻 96.70% 93.10% ―3.60% 少年

     また、実験店において、レンタルコミックに関する利用者の意識調査を行った結果、レンタルコミックの潜在的なニーズや本の売上への影響が分かる結果が出ている。
   
   すばる書店   白井店   コミックレンタル   利用者意識・動向調査アンケート集計
                   (2003年8月30日、31日実施、調査対象者   293名)


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<韓国の状況>

   韓国においては、レンタルブック店の急増により、「マンガは買って読むもの」から「マンガは借りて読むもの」という意識が浸透し、年間コミックス販売部数の8割は貸本店が購入し、消費者が直接購入するコミックスは、人気上位10から15作品に限られ、部数は全販売部数の2割を占めるに過ぎず、コミックスの販売部数はピーク時の1割から2割に激減したといわれている。韓国においては、貸与権がなく、作家は、書籍の貸与による利益を享受できないだけでなく、コミックスの販売部数にも影響を受けていることから、「まんが貸与権」の導入について議論が行われはじめている。

       韓国における漫画出版物流通箇所の変遷
   
 
  1993年 1998年 2003年
貸本店 なし 20,000 8,000
書店 5,221 4,897 2,376
オンライン書店 なし 1〜2 10
取次直営書店 4 20 20
漫画喫茶 5,000 3〜4,000 2,000
  2003年   コンテンツ振興院調べ

*漫画取扱いシェア(2003年   コンテンツ振興院調べ)
       貸本屋=80%・書店=10%・オンライン書店=5%・取次直営書店=4%・漫画喫茶=1%

       韓国におけるマンガの読書方法
   
 
年齢 レンタル 購入 インターネット その他
19歳以下 89.3% 4.9% 5.3% 0.4%
20〜29歳 91.8% 2.5% 5.8% 0.0%
全体 88.7% 4.9% 5.9% 0.5%
  2003年   コンテンツ振興院調べ

○検討結果

   昨今、日本のコミック文化の成熟度を踏まえると、コミックの貸与に作家等の著作者に権利が与えられていないのは不合理である、既に映画の著作物には頒布権、レコード、楽譜、ソフトウエアといった著作物の複製物には貸与権が与えられており、書籍だけに貸与権が与えられていないのは理由がない、旧来の貸本業者や今後レンタルコミックに参入されることが予想される大手のレンタル業者4の理解が得られているのであれば問題ないのではないか、などの指摘がなされ、暫定措置を廃止すべきとの意見が多く示された。
   新たなレンタルブック店の出現により、「書籍・雑誌の貸与」に係る暫定措置が設けられた昭和59年当時とは大きく環境が変化し、書籍等の貸与による著作権者への経済的影響は大きくなってきている。また、昭和59年当時に書籍・雑誌の貸与権の創設に反対を表明していた旧来の貸本業者の団体である「全国貸本組合連合会」と作家等の著作権者との協議が整った5状況に鑑みれば、暫定措置は廃止することが適当である。
   ただし、レンタルブックに対する消費者のニーズに応え、暫定措置廃止後も引き続き、レンタルブック店が円滑に事業が行うことができるようにするため、レンタルブック店が権利者の許諾を容易に得ることができる集中管理体制を整備するとともに、消費者やレンタルブック店の経済的負担を考慮しつつ、適切な使用料及び貸与禁止期間6を設定することが不可欠である。


(参考)検討中の書籍等の貸与に係る管理事業スキーム

検討中の書籍等の貸与に係る管理事業スキーム




1   ブックオフコーポレーション株式会社   本店所在地:神奈川県相模原市   店舗数:734店(直営店166店、加盟店568店)
2   株式会社ゲオ   本店所在地:愛知県春日井市   店舗数:直営店519店舗・フランチャイズ店45店
3   カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(通称CCC)   全国に1140店舗を展開する『TSUTAYA』のフランチャイズ本部。本店所在地:大阪市北区
4   ビデオ・CD等のレンタル及び書籍等も含めた販売を行う複合店の全国シェア(約4000店舗)の約半分を占めるCCCとゲオは暫定措置の廃止に理解を示している。
5  旧来の貸本業者については、現在でも、大きな経済的利益をあげているという実態にはなく、著作権者の経済的利益が不当に害される事態が生じているという状況にはないことから、「貸与権連絡協議会」の加盟団体の作家約4,800名は、自ら創作する作品について、次の双方を満たす店舗に対しては権利行使を行わない旨表明し、旧来の貸本業者の団体である「全国貸本組合連合会」は暫定措置の廃止に理解を示している。
   1平成12年1月1日以前に「貸本店」として、営業を開始し、転廃業などをせずに営業を継続している店舗。
   2店頭の貸出対象書籍が1万冊以下である店舗。
6   関係者間では、使用料については書籍の定価への上乗せ方式が、貸与禁止期間については、新刊書の発売日から3ヶ月から6ヶ月間の禁止期間を設けることで、協議が行われている。



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