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2   検討の結果(案)

   国際小委員会では、平成15年6月2日に第1回を開催し、7回にわたり検討を行った。平成15年度における検討の結果は次のとおりである。

1   放送新条約への対応のあり方について

(1) 国際的な検討の状況

   世界知的所有権機関(WIPO)では、近年のデジタル化・ネットワーク化に対応した著作権、著作隣接権の新たな条約の策定を目指している。既に、著作者の権利にかかる「著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)」については1996年に採択、2002年3月に発効しており、レコード製作者及び音の実演家にかかる「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」についても1996年に採択、2002年5月に発効している。さらに、放送新条約及びAV条約についても、WIPOで検討が行われている。

   放送新条約については、1998年以降、WIPO著作権等常設委員会(SCCR)の場で検討が進められている。我が国は2001年5月に開催された第5回委員会において条約形式の提案を行い、2003年6月に開催された第9回委員会においてウェブキャスティングに関する文書を提出する等、議論に積極的に貢献してきた。SCCR議長の提案により、2005年の条約の成立を目指して検討しており、今後、新条約の保護の対象、具体的な付与すべき権利、今後の進め方について議論が行われる予定である。我が国も国内の放送機関の実態、現行法制度も踏まえながら、我が国の方針を策定し、積極的に参画していくことが求められる。

   AV条約については、2000年12月にジュネーブで外交会議が開催された。実体規定全20条のうち19の条項については暫定合意が得られたものの、実演家から映画製作者への権利の移転問題をめぐってECと米国の間で合意が得られず、結果として条約採択は見送られた。本年9月の一般総会では、本件の今後の進め方について議論がなされたが、来年の一般総会において、本件の外交会議の開催について議論することとなった。また、本年11月には、WIPO非公式会合にて、各国における実演家の権利の現状等について議論が行われた。本件については、権利者間のバランスを確保するためにも、条約の早期採択が求められることから、未解決事項の解決も含めて、我が国が積極的な役割を果たすことが求められる。

   放送新条約に関する我が国の方針を策定するために、本委員会で検討した結果は以下のとおりである。

(2)条約保護の対象(ウェブキャストの取扱)

   我が国は、放送新条約の議論の中で、ローマ条約で保護の対象とされている(伝統的)放送事業者に加えて、有線放送事業者を保護の受益者とすることについては受け入れる姿勢をとってきた。一方、一部の国よりウェブキャスト(インターネットを用いた放送番組等の送信行為)についても放送新条約の対象とすべきとの提案がなされ、その取扱が大きな論点となっている。

   ウェブキャストについては、一部の国(米国、韓国等)では、事業実態があるものの、我が国も含めた他の国では殆どない。また、ウェブキャストを放送新条約の保護の受益者として位置付けるためには、以下の課題が考えられる。
       送信形態について、(伝統的)放送は公衆に同一の内容を同時に送信する形態に対し、ウェブキャストは顧客の求めに応じて自動送信する形態である等、差異があるが、これをどう取り扱うか。
     ウェブキャストの範疇について、リアルタイムストリーミングに限定するのか、オンディマンドも対象とするのか。
     ウェブキャスターとして、企業だけではなく、個人も対象になり得る。準創造性、投資の保護、公共性の観点から、(伝統的)放送事業者と同様の隣接権を付与すべきか。
     放送のための一時的固定の取扱やレコードをウェブキャストに利用する際の取扱をどうするか。

   デジタル化・ネットワーク化の環境の下、新たな国際的枠組みの一つである、放送新条約の早期の締結が求められている。上記の課題を踏まえれば、今回の放送新条約の議論では、保護の対象からウェブキャストを切り離して検討し、別途条約で議論することが適切と考えられる。

(3)放送新条約に係る諸課題の取扱について

1放送前信号の取扱について

   スポーツの実況中継等の放送前信号が傍受され、それが有線放送、インターネット等を通じて送信されるという問題が生じている。この送信内容が放送内容と同一の場合、実質的に放送が無断で複製、送信される場合と同様の被害が生じることとなり、著作隣接権による放送保護の実効性が失われる恐れがある。さらに、放送前信号の再送信が放送と同時または放送に先立って行われる可能性があるため、放送機関が多額の放映権料や中継費用を費やして放送を行うインセンティブが失われる可能性がある。

   本件に対する方策としては、著作権法の著作隣接権による保護と通信法制による保護が考えられる。現行通信法制において、放送前信号の傍受は違法とされているが、侵害行為の差止めができないことから、差止めを請求できる点で著作隣接権による保護が望ましいと考えられる。しかしながら、放送行為に着目して著作隣接権を付与するならば、保護する内容は、放送された番組と同一の信号とすべきであり、放送されない部分の放送前信号は対象外とすべきであるとの意見がある。また、権利者、起算点のあり方等についてもさらなる検討が求められる。

    (参考1)電波法、電気通信事業法での規定
電波法59条において、傍受の禁止、電気通信事業法4条において、通信で得られた秘密保持の義務が規定されている。

2暗号解除の取扱について

   放送番組の暗号化は、従来、衛星を用いた有料放送等で行われてきたが、今後は、2006年から全国的に実施される無料の地上波デジタル放送でも用いられる。一方で、放送に付加されている暗号を解除する装置が流通し、また、それを用いた暗号解除により海賊行為が生じており、今後、地上波デジタル放送についても同様の海賊行為が想定される。

   放送番組の暗号化の第一の目的は、有料放送における顧客管理やデジタル放送におけるコピー防止であるが、暗号解除の行為により、放送機関の放送行為が侵害される恐れがあることから、暗号解除の行為に対して、何らかの措置が講じられることが求められる。

   この場合、具体的な措置としては、現行不正競争防止法による規制や著作権法による措置が考えられる。現行不正競争防止法では、アクセス管理機能を回避する装置の販売等を規制しているが、同法は主として事業者間の不正競争の防止を目的としており、必ずしも全ての個人の行為が規制されている訳ではないため、現行法で期待される効果が得られるかどうかを検討する必要がある。著作権法で対応する場合、技術的保護手段を講じる、または、暗号解除権を付与することが考えられるが、他の隣接権者とのバランスや法的合理性から検討する必要がある。

    (参考2)不正競争防止法の概要
「不正競争」の定義
2条1項10号(不特定者向け)、11号(特定者向け)のアクセス・コピー管理技術の「効果を妨げる」機能を有する装置等を譲渡等する行為
「不正競争」行為に対する措置
差止請求権(停止請求権、予防請求権、除去請求権)、損害賠償に関する措置、信用回復請求権がある。

3譲渡権の付与について

   現在、アジア等で我が国のテレビ番組の海賊版が流通しており(2001年著作権情報センターの推計値では、香港2200万本、台湾740万本)、また、放送のデジタル化に伴い、受信した放送のビデオ等が流通することも予想される。このような中、放送機関からは、譲渡権の付与が要望されている。
   現行複製権を用いても権利行使はできるが、権利侵害の立証が難しい。放送の保護を実効的に行う観点から、譲渡権を付与する必要性が認められる。
   また、我が国著作権法では、著作権者、レコード製作者及び実演家に譲渡権を付与していること、放送機関に同権利を付与することによる障害は想定しにくいことを考慮すると、同権利を付与することは許容されると考えられる。
   なお、譲渡権の国際消尽については、諸外国の実態及びいわゆる「輸入権」に関する議論との整合性が取れるように留意する必要がある。

4利用可能化権及びインターネットによる同時再送信権の付与について

   インターネットの普及により、放送番組の送信が容易に行えるようになった。一方、放送が無許諾で送信されても、受信されたことを立証することは極めて難しいことから、放送を無断で掲載した段階で権利行使ができるよう、利用可能化権を付与することが望ましい。この場合、利用可能化の形態としては、サーバー等のメモリーに蓄積するケース(固定を伴う)や蓄積を伴わずに送信するケース(固定を伴わない)が考えられることから、利用可能化権の付与については、固定物及び非固定物を対象とする必要がある。
   なお、欧米諸国は「インターネットによる同時再送信権の付与」を主張しているが、同権利は利用可能化権で網羅できること、他の著作隣接権者との整合性を確保することからも、「インターネットによる同時再送信権」ではなく、「利用可能化権」の付与が望ましい。

5異時放送権の付与

   ローマ条約では、当時の放送の形態が主に生放送であったことから、同時の再放送に限定して権利を付与している。このため、現在、一般的に行われている放送の固定物による異時の再放送を他の放送機関が無断で行っても、現行国際的な枠組みでは権利が及ばない。
   このように、同時の再放送にのみ権利が及び、異時の再放送に対しては権利が及ばないのは、実態にそぐわないため、異時放送権も付与する必要がある。その際、整合性の確保の観点から、有線放送及びインターネットによる再送信権についても異時を含めるべきである。

6技術的保護手段・権利管理情報に関する義務について

   技術的保護手段の回避等の禁止については、現行著作権法でも規定されており、条約上位置付けることは問題ないと考えられる。しかしながら、その際には、デジタル放送をアナログ放送に転換する等、技術的に回避せざるを得ない部分については適用除外とする必要がある。また、無反応機器の販売等を禁止すると、世界中で異なる技術的保護手段に反応する機器の製造を義務付けることとなり、経済活動を阻害するおそれがあるので、無反応機器の規制については慎重に対処する必要がある。

7遡及効について

   WPPTとの整合性からベルヌ条約18条準用(遡及)が望ましいが、保護すべき放送は放送の際に問題となるのであって、既に放送したものについて遡及させないと対応できない場合は殆ど想定されないことから、不遡及としても特段問題はないと考えられる。

8その他

   WIPOで議論されている「その他の放送機関に付与する権利」は、既に現行著作権法で規定されている。

議長が提案する権利 著作権法の規定
固定権 98条、100条の2
固定物の複製権 98条、100条の2
同時再放送権、有線放送権     99条
有線放送の同時再送信権 100条の3
公衆伝達権 100条、100条の4



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