2001/10/23 議事録
平成13年10月23日(火)
10:30〜13:00
日本芸術文化振興会第1会議室
北川分科会長、齊藤主査、大山委員、岡村委員、小泉委員、渋谷委員、道垣内委員、土肥委員、松田委員、山口委員
生野秀年(社)日本レコード協会常務理事
畑陽一郎 同テクノロジーセンター課長
岡本著作権課長、村田国際課長、その他の担当官
はじめに、議事及び配付資料の確認が行われた。
事務局及び説明者から、それぞれの資料に基づき説明があった後、各委員による以下のような質疑応答、意見交換が行われた。
【委員】
「商業用レコード」に該当しない可能性のあるものとは、商業用レコードの定義にある「市販の目的」と「レコードの複製物」のどちらに該当しないと考えるか。あるいはレコードではなく映画に該当するという意味なのか。
【説明者】
レコードとして売っていても、その一部に動画、ビデオが記録されているものを指しており、一つのメディアにレコードと映画が混在しているということである。
【委員】
レコードと映画との関係は「レコード」の概念の問題であり、「商業用レコード」の概念をなくしても解決されない。
【事務局】
委員ご指摘の問題は「レコード」の定義にある、「音をもっぱら影像とともに再生するものを除く。」の「もっぱら」をどう解釈するかの問題だと考える。音と影像が両方入っていてそれぞれ切り離すことができるものは「音をもっぱら影像とともに再生するもの」とはいえないからレコードに該当する、と考えることができるかということである。
【事務局】
一つのレコードに音と映像が両方入っていて、別々に取り出すこともできるし、両方合わせて聴くこともできるものはあるか。その場合、たまたま両方が入っているデータベースと捉えられるものはあるか。
【説明者】
例えば、DVDオーディオなどでは、ご質問のような楽しみ方ができるように製作することもできる。そのようなデータベースの性質を持っているものもある。
【委員】
商業用レコードの二次利用や貸与に係る報酬請求権を設けた趣旨は、市販されるレコードはそれを利用されるとレコード製作者に損害を与えるというものであるから、逆に言うと市販されないレコードについては利用されても損害は生じないのではないか。
【説明者】
放送することすべてがレコード製作者に損害を与えると言っているのではなく、利用の仕方によると考えている。レコード盤を作らない配信についてもレコード製作者としては重要な流通媒体と考えており、それの利用のされ方によっては利益を害される可能性がある。
【委員】
貸与についてはどうか。利益を害するどころかプロモーションにならないか。
【説明者】
両者の考え方がある。
【委員】
日本レコード協会として「商業用レコード」の概念はなくすべきと考えるか。
【説明者】
この問題は重要であると認識しており、十分に検討した上で、今後、協会としての意見をとりまとめたい。
【委員】
データベースの構築者という立場には立たないのか。
【説明者】
記録の仕方は確かに編集著作物的な側面もあるが、レコード会社としては、現在のCDの延長線上にあるものとして製作している。
【委員】
そもそも「レコード」は無体物なのか。著作権法第2条第1項第5号の条文の読み方に疑問がある。
【事務局】
現行法制定に関わった者のコンメンタールによればそうである。
【委員】
趣旨を説明されればわかるが、用語の問題は考えておく必要があろう。
【委員】
審議会の報告はなるべくカタカナを入れずに表現するべきである。「アド・ホック」という言葉は直した方がよい。
【事務局】
ご指摘を踏まえ、「個別に」といった形で直す。
【委員】
各人の寄与を分離して個別に利用することができない「共同実演」とは具体例としてどのようなものが想定されるか。例えば美空ひばりの歌の場合後ろで伴奏が付いているが、これも全体として共同実演となるのか。
【事務局】
例えば、オーケストラの指揮と演奏が挙げられる。美空ひばりのケースでは、歌と伴奏を切り離すことができるので、それぞれが実演なのではないかと考える。
【委員】
「保護期間の起算点」とあるのを、正確に表すために「保護期間の終期の起算点」に直した方がよい。
【事務局】
ご指摘の通りとする。
【委員】
レコードの「発行」の定義を設ける趣旨は何か。
【事務局】
最近、レコードの固定と発行に時間的なズレが生じるケースが多くなってきたため、レコードの保護期間を拡張する観点から、その終期の起算点をレコードの「固定時」から「発行時」に変える改正を行う予定である。そこで著作権法にこれまで規定されていなかったレコードの「発行」の定義を新たに設ける必要がある。
【委員】
基本的課題である「契約秩序の構築と著作権法の役割」の中で、権利の集中処理と個別処理との関係についても触れてほしい。かつてこの審議会でも議論が多かった問題である。
【事務局】
いわゆる指定団体方式と契約との関係として追加する。
【委員】
条約の規定を引用する際に複数形のsを落としている箇所があるので注意してほしい。(performances)
【委員】
将来は別として、今回は条約を締結するという限度で国内法改正を行うというのは、現在ある権利の範囲についても拡張することはないという意味か。
【事務局】
その通りである。実演、レコードの二次使用等に係る報酬請求権の範囲についても条約の留保の範囲は変えない予定である。
事務局から「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(仮称)締結に伴う著作権法改正」について説明があった後、各委員による以下のような質疑応答が行われた。
【委員】
実演家の同一性保持権について、著作者の規定にある「その意に反して」という用語の代わりに「自己の声望を害するおそれのある」という用語を入れるのは、十分に検討していただきたい。著作者に比べて保護の水準が低くなるわけであり、また一般的な人格権との関係が不明確になり、あえてこのような規定を設ける必要があるのかという疑問も起こってくる。また、ひいては著作者人格権についても客観的な要件で成立するという解釈が起こってきてしまう。
【事務局】
当方としては、むしろ著作者の権利を高いレベルで保護していることを明確に示すこととなると思っている。ただ、一般的人格権との関係は確かに問題点としてあり、ご指摘を踏まえて法制局において議論していきたい。
【委員】
著作者の規定に存在する「その意に反して」について、そもそも同意なしに改変されないというのは当然のことであり、厳しいことを書いているわけではない。
【委員】
条約上の義務を超えて著作者に高い水準の保護を与えているのであれば、今回の実演家の権利についてもそれをベースにして著作者に並ぶ保護を与えるのが筋ではないか。
【事務局】
そうなると利用者側が反対し、法案自体が成立しないという事情もある。
【委員】
利用者側が反対するのであれば、事務局から利用者を根気強く説得することも必要であるかもしれない。名誉権の毀損というのは実務上かなり広くて大変である。
【委員】
仮に著作者の権利と異なる規定とするならば、実演家人格権は著作者人格権とは異なるということを明確に示すべきである。
【委員】
条約を批准する限度での改正をするというのであっても、著作者と保護のレベルが異なることの理由を説明する必要がある。
【委員】
名誉回復等の措置(第115条)について、著作者については「名誉若しくは声望」の回復とされているが、実演家については「声望」の回復としているのはなぜか。「名誉若しくは声望」で一つの用語と理解するのではないか。
【事務局】
条約の形にならったものであり、「名誉」と「声望」との違いは何かを検討する必要がある。これまで名誉声望と一続きで読む読み方もあったが、今回は名誉とは何か、声望とは何か、なぜ実演家には声望のみなのかをしっかり説明する必要がある。
【委員】
reputationという言葉はフランスでは広く使われていると思うので、フランスの成文を参照してみるとよい。
【委員】
条約との関係で留保する予定のものは決まっているのか。
【事務局】
条約では公衆への伝達に関する留保(第15条)のみ認められている。「レコードの二次使用に係る報酬請求権の適用範囲」等について、現行の範囲と同様になるよう留保する予定である。その他これ以外の細かいところで条約上定められていない制限などは、small and minor reservation(小留保)として解釈している。
【委員】
今は音に限った案であるが、「音の実演」について、将来視聴覚的実演も含めたときに整合性が取れるような定義を設けてもらいたい。単純かつ包括的な規定がよい。
【事務局】
既存の「レコード」という概念を用いて、「レコードに録音された実演」とか、生実演については「音の部分に限る」といった形で規定し、後で視聴覚的実演も含めるときに不要な部分を削除すればすむような工夫をしている。
【委員】
音の実演は固定されなければ保護されないのか。
【事務局】
実演には「生実演」、「レコードに固定された実演」、「レコード意外に固定された実演」があるが、条約では固定物については「レコードに固定された実演」を保護し、生実演については、影像が出ていようといまいと音の部分を全部保護していると解釈している。
【委員】
条約上の「レコード」の概念は、レコーディングと考えてよいのか。
【事務局】
条文ではsound recordingとなっている。記録するという行為に着目している。
事務局から今後の日程について説明があった後、閉会になった。
(文化庁長官官房著作権課)