第9条 (宗教教育)

第9条 (宗教教育) 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。

2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

本条の趣旨
本条は、憲法第20条第3項を受けた規定。
第1項は、すべての教育を通じて、宗教教育が重んぜられるべきことを前提として、宗教教育の在り方を示すもの。
第2項は、憲法の政教分離の規定を受けて、国公立学校の宗教的中立性、すなわち宗教教育の限界(特定の宗教のための宗教教育ないし宗教的活動の禁止)を示すもの。

(参考法令)
日本国憲法
第20条  信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2   何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3   国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

「宗教に関する寛容の態度」
  宗教を信ずる又は信じないことに関して、また宗教のうち一定の宗派を信ずる又は信じないことに関して、他宗教ないし他宗派をそれと認めつつ、侮べつ、排斥をしないこと、ゆるしいれることであり、さらに反宗教者に対しても寛容の態度をとること
   
「宗教の社会生活における地位」
  宗教が歴史上社会生活において果たしてきた役割、過去の偉大なる宗教家の人格、宗教が現在の社会生活に占めている地位、及びその社会的機能、及び宗教の本質等を、一宗一派に偏することなく、客観的態度で教材の中に取り入れること
   
「特定の宗教のための宗教教育」
  学説上、以下のいずれも禁止されると解するのが有力。
a. 特定の宗教のための宗教教育
b. すべての宗教のための宗教教育(宗教一般を宣伝する目的で行われる教育)
c. 宗教を排斥することを目的として行われる教育
   
「宗教的活動」
  「宗教的活動」の意味については、「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助言、促進又は圧迫、干渉等となる行為」(昭和52年最高裁判決)とされている。

(参考)帝国議会における第9条に関する主な答弁

【第9条第1項は憲法に違反するのではないか。】
○昭和22.3.14  衆・教育基本法案委員会
<辻田政府委員答弁>  第九条と憲法の第二十条との関係でございますが、これは第九条の内容をお説明申し上げますとよくおわかりくださると思いますが、「宗教に関する寛容の態度」というのは、宗教を信じておる者相互における寛容の態度を包含することはもちろんでありますが、そのほかに反宗教者、無宗教者に対する寛容の態度ももちろん包含されております。宗教に対すると書かず、「宗教に関する寛容の態度」と書きましたのは、要するにそういう意味でありまして、憲法の第二十条信教の自由は何人に対しても保障するというのにも矛盾せずに、むろし強調したものだと存じておる次第であります。
  次に宗教の社会的地位ということでございますが、宗教が社会生活の上においてこういう地位をもっておるということを、知識的に説明するだけでありまして、これは憲法第二十条の信教の自由を保障されることについて矛盾しないものと存じておる次第でございます。
   
【第9条第1項は、堕落した宗教も含めて社会上の優位性を認めるものではないのか】
○昭和22.3.14  衆・教育基本法案委員会
<高橋国務大臣答弁>  宗教に関する寛容の態度は、教育上これを尊重しなければならない。宗教の社会生活における地位は教育上これを尊重しなければならないというより、むしろ重点は寛容の態度に置かれておるのでありまして、宗教の社会生活における地位を尊重していかなければならぬ。その地位を特に重んずるというのでなくして、その地位がいかにあるかということを重視していかなければならぬ、こういう意味に解釈すべきものと考えております。この法案成立の歴史を申しますると、最初はむしろ宗教的情操の涵養を説くということになつておつたのでありますが、かくのごときものは改めたらよいだろうという意見が強くなつてまいりまして、そうしてここには、特に宗教に関する寛容の態度を尊重しなければならぬ。かくのごとく改められた次第でございます。
   
【第9条は宗教的情操の重要性を無視していないか。】
○昭和22.3.22  貴・教育基本法案特別委員会
<高橋国務大臣答弁>  此の点に関しましては少し歴史がございまするので、最初は宗教的情操の涵養云々と云ふ文字になつて居つたのでございます。寧ろ宗教的情操を涵養せしめることを謳つて居つたのでありまするが、去る方面の意見に依りまして、之を削りまして、単に宗教に関する寛容の態度が記されることになつたのであります。積極的に宗教的情操を涵養する必要を説いて居つたものでありまするが、其の後になりまして寧ろ消極的な規定になりましたのでありますが、併しながら其の次に宗教の社会生活に於ける地位を尊重しなければならぬと云ふことが述べられて居るのでありまして、宗教の社会生活に於ける地位が尊重せられるに連れまして、自ら又其処に宗教的情操と云ふやうなものも湧いて来ることになりはしないか、こんな風に考へて居るのでありますが、只今申しましたやうな経緯を経て居るものでありますことを、御了承願いたいと考へるのでございます。
   
【宗教教育を教育上尊重するとはどういう意味か。】
○昭和22.3.19  貴・教育基本法案特別委員会
(「第九条に宗教教育と云うことをお決めになつたのは、宗教と云うものを教育上重んじて、そうして宗教心と云ふものを成るべく国民に持たしむる、さう云ふものとはこの規定は関係ないのでございすね、所謂宗教教育其のものを重んずると云ふのではなしに、宗教に付いては皆、無宗教でも宜し、如何なる宗教でも宜いと云ふ、憲法上の精神を唯此処に梢々具体的に謳われたと云ふのであるのでありませうか、或いは宗教と云ふものは重大なものであるからして、宗教を重んずると云ふやうな思想を入れる、斯う云ふことになるのですか、その点を伺ひたいのです。」との質問に対し)
<辻田政府委員答弁>  御答へ申し上げます、只今先生の先きにお話になつた通りであります。
   
【所謂宗教的情操とは何か。】
○昭和22.3.19  貴・教育基本法案特別委員会
<稲田政府委員答弁>  公立の学校に於きまして所謂宗教的情操の涵養と申しますのは、前段に於て御引用になりましたやうに、宇宙の神秘でありますとか、生命の不可思議でありますとか云ふやうようなことに対しまして、非常に敬虔な念を起すと云ふやうな所迄導いて参る訳であります。其の上に於いてさうした気持から一人々々が或は仏教に進み、或はキリスト教に進む、是は公立学校の領域ではございませぬので、其の素地を培ふと云ふ程度に致したいと思つて居ります。
   
【第9条第2項の宗教教育とはどのような意味か。】
○昭和22.3.19  貴・教育基本法案特別委員会
<辻田政府委員答弁>  御答へ申上げます。此の基本法の第九条に宗教教育と云ふ言葉がございますが、新憲法の第二十条の第三項に「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と云ふ此の宗教教育を承けて居るのでありまして、宗教に関する教育は、全部と云ふ意味ではございませぬ、特定の宗教に関する教育と云ふ風に考へて居ります。従つて宗教に関する知識、例へば宗教学と云ふ風なことに付きましては差支ないと思つて居ります。
   
【宗教教育は信仰心を養う教育か、知識を養う教育か。】
○昭和22.3.19  貴・教育基本法案特別委員会
<稲田政府委員答弁>  一般の宗教教育と申しますか、宗教情操の涵養と云ふ点に付きましては、御話のやうな歴史でありますとか、或は宗教の偉人の伝記其の他、其の上の方の段階になりますと、世界には現在色々な宗教があつて、それぞれの宗教は斯うした教養を持つて居ると云ふやうなことを、今辻田委員から申しましたやうに、知識として教へると云ふことがあり得ると思ひます。是はまあ広い意味の教育でありまして、是は公の学校で許される部分であらうかと思ひます。此の基本法にありまする「特定の宗派のための宗教教育」と申しますると、只今御話の後段でございますが、そこに一つの信仰に導き入るやうな宗教教育、此の基本法の第九条の第二項にあります意味のやうな本当に真剣に特定の宗教に導く宗教、之を指定してあるやうであります。
   
【第9条第1項は、信仰を養ふ意味の信仰教育について奨励的態度をとるのか。
○昭和22.3.19  貴・教育基本法案特別委員会
<稲田政府委員答弁>  第一項の方は先般も申上げましたやうに、例へば宇宙の神秘と云ふやうなものに対して非常に敬虔な態度を養う。是は児童の知識、興味等に依りまして段階はございますけれども、極く下の段階に於ては、例へば種子を蒔いてそれが段々成長する、是は蒔いた人の力だけだらうか、或はそれ以上何かお天道様と土の力、それ以上の何かあるのだろうかと云ふ位に導きまして、所謂宗教心の素地を養ふ、上の方の段階に於きましては、現在の社会生活に於て宗教と云ふものがどう云ふ役割を歴史的にも又現在的にも果たして来たか、又果たしつゝあるかと云ふやうなことを考へさせると云ふやうなことで、広い意味の個々に囚はれないやうな宗教心を養うと云ふことは、是は大いに教育上努めなければならぬことだと思つて居ります。更に又先程申しましたやうな歴史であるとか、或は芸術であるとか云ふやうな面から、宗教が人生社会に於て大きな役割を演じて居ると云ふことを知識としても教へると云うことは、教育上大いに努めていかなければならぬと考へて居ります。