第6条 (学校教育)

第6条 (学校教育)  法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。

(第2項  略)

本条の趣旨
教育を行う主たる機関として学校の法的性格、及び学校の基礎を強固にし、学校の性格にふさわしい活動が行われるための設置者の資格について明示したものである。

法律に定める学校
  教育基本法は、学校教育法の定める学校制度を念頭に置いて規定していることから、ここにいう「法律に定める学校」とは学校教育法第1条に定める学校のことを指し、具体的には、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園をいう。

(関係法令)
学校教育法第1条  この法律で、学校とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園とする。
  学校教育法第82条の2(専修学校)、第83条(各種学校)などは、「法律に定める学校」以外の教育施設となる。

公の性質
  学校が「公の性質」を有するとの意味について、広く解すれば、おおよそ学校の事業の性質が公のものであり、それが国家公共の福利のためにつくすことを目的とすべきものであって、私のために仕えてはならないという意味とする。
  狭く解すれば、法律に定める学校の事業の主体がもともと公のものであり、国家が学校教育の主体であるという意味とする。

  辻田力・田中二郎監修、教育法令研究会著「教育基本法の解説」は、本条の解釈として狭義説を妥当とする。

  本条の規定は、憲法第89条の「公の支配」との関係を念頭において規定されたものであり、学校が公の性質を有し、またその設置者も公あるいはそれと同等と考えられるものに限定している。

法律に定める法人
  学校教育法第2条に定める法人のことを指し、具体的には、学校法人をいう。
  「公の性質」を持つ私立学校の設置者について、組織、資産等の面でそれにふさわしい永続性、確実性、公共性を担保するため、「法律に定める法人」と規定し、法律の定めによった目的法人によって設置されることとした。(民法上の財団法人を不適当とした。なお、当分の間の措置として学校教育法第102条がある)。

(関係法令)
学校教育法
第2条  学校は、国、地方公共団体及び私立学校法第三条に規定する学校法人(以下学校法人と称する。)のみが、これを設置することができる。
2 この法律で、国立学校とは、国の設置する学校を、公立学校とは、地方公共団体の設置する学校を、私立学校とは、学校法人の設置する学校をいう。
3 第一項の規定にかかわらず、放送大学学園は、大学を設置することができる。

第102条  私立の盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園は、第二条第一項の規定にかかわらず、当分の間、学校法人によつて設置されることを要しない。
2   私立学校法施行の際現に存する私立学校は、第二条第一項の規定にかかわらず、私立学校法施行の日から一年以内は、民法の規定による財団法人によつて設置されることができる。

私立学校法
第2条  この法律において「学校」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいう。
2  (以下略)

第3条  この法律において「学校法人」とは、私立学校の設置を目的として、この法律の定めるところにより設立される法人をいう。

※私学助成関係では、
憲法第89条  公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

私立学校法第59条  国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる。

(参考)帝国議会における第6条第1項(学校教育)に関する主な答弁

【学校教育は本来、国家がやるべきものという考えなのか。】
○昭和22年3月20日貴族院教育基本法案委員会
<高橋国務大臣答弁>  此の六条に規定してございまするやうに、学校教育………学校教育は公の性質を持つものであると云ふことに相成つて居るのでございまするが、学校は国が経営する場合もございませうし、地方の公共団体が経営する場合もありませうし、又法律に定めましたところの法人が経営する場合もある訳でございます。是等の何れも皆公の性質を持つものであるのであります、今日私立学校は多く財団法人の形を取つて居りまして、極めて稀に社団法人になつて居るやうに聞いて居りますので、将来に於きましては、此の教育を目的とする特殊の法人と云ふものを設けまして、是等のものを律して行きたいと、斯う考へて居るのでございます。
   
【法律に定める学校】
○昭和22年3月14日衆議院教育基本法案委員会
<剣木政府委員答弁>  基本法で申します「法律に定める学校」とございますのを承りまして、近く御審議を得る予定でございます学校教育法に、この法律に定める学校とはと定めまして、はっきり法律で定める学校を限定いたしたのでございます。それは、小学校、中学校、高等学校、大学、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園、これだけのものを法律で定める学校といたしまして、(中略)この学校に定めていない学校のことにつきましても、雑則をもって触れているのでありま(す。)」
   
○昭和22年3月20日貴族院教育基本法案委員会
<辻田政府委員答弁>  第6条の「法律に定める学校」と申しますのは、近く御審議を仰ぎまする学校教育法に定める学校と云ふ意味でございます。此の第6条から11条を承けまして学校教育法が出来ますので、学校教育法案に依るものでございます。従って小学校、中学校、高等学校、大学、盲学校、聾唖学校、養護学校及び幼稚園とすると云ふことでありまして、公立学校のみでございませぬ、私立学校も勿論含みます、それから尚純粋でないと云ふ御言葉がございましたが、法律に定めない学校と申しますのは、能く一般に各種学校と言はれて居る学校であります。
<辻田政府委員答弁>  教育基本法に於きまして「法律に定める」と致しましたのは、先程申しますやうに、こゝに謳ひまして、11条が之を承けて、11条からして学校教育法を今作成して、そこで明かにすると云ふことでありまして、従来は勅令で決って居りましたのが、今度は法律で定めると云ふ考でございます。


6条第2項  法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。

本条の趣旨
学校教育の直接の担当者である教員について、その性格、使命、職責について示すとともに、職責の遂行を全うからしめるために身分尊重及び待遇の適正化の必要を規定したもの。
   
   
「全体の奉仕者」
  教育基本法第10条第1項に規定するように、教育は国民全体に対する責任において行われるべきものであるので、国公立はもちろん、私立学校の教員もすべて国民全体に奉仕すべきものであることから、公務員に関する憲法第15条第2項の規定を参考にして、法律に定める学校の教員は全体の奉仕者として公務員的な性格をもつ旨を規定したもの。

(関係法令)
憲法第15条第2項  すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

教育公務員特例法第1条  この法律は、教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性に基き、教育公務員の任免、分限、懲戒、服務及び研修について規定する。

「自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない」
  一般公務員もまた全体の奉仕者であるが、教員は、それ以上に、教育者としての使命があるはずであり、そのことを示すものである。
  なお、教育基本法は、教員の使命の具体的内容について明記していない。
   
  教育公務員特例法第19条第1項  教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。
   
「教員の身分は、尊重され、その待遇の適正」
  戦前の教員は、国の官吏として扱われていたが、実際は一般官吏に比べて待遇が悪く、給与も低い状況にあった。それを踏まえ、私立学校も含めた「公の性質」を有する学校に勤務する教員の「身分の尊重」と「待遇の適正」を図ることを意図して規定されたものであり、昭和24年に国公立学校の教員を対象とした「教育公務員特例法」が制定された。
   
  教員の人材確保法
  教員の給与については、戦後すぐに一般官吏並への改善が行われたものの、一般公務員や民間企業の給与水準と比較しても決して高いものではなく、その後の目覚ましい経済成長の中で、優秀な人材が教職以外の職域を目指し、教育の場に人材が集まらなくなる傾向が出てきた。このような状況を踏まえ、特に義務教育は国民としての基礎的資質を養うものであることから、優れた人材を確保し、学校教育の水準の維持向上に資するため、昭和49年2月には「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(通称人確法)を制定し、これに基づき昭和53年4月までの間に3次にわたって教員給与の計画的改善が実施された。

(参考)帝国議会における第6条第2項に関する主な答弁

【教員の身分の取り扱いについてどのように考えているのか】
○昭和22年3月14日衆議院教育基本法案委員会
<辻田政府委員>  新憲法の第十五条に「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」という言葉がありますが、法律で定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、一部の人の奉仕者でないという意味を裏に含んであります。そうして教育者としての自己の使命を自覚してその職責の遂行に努めなければならない。これは前段におきましては教員の性格といいますか、本質を明らかにして、またその向かうべきところを明示したわけであります。次にはこうこう大事な仕事に携わつておられる方々であるから、この方々に対しては身分が尊重され、待遇の適正が期せられなければならないというふうに、これは国なり公共団体なり、その他の教育行政に当る者等の考うべき途を示したのでございます。
   
【教員の職責の遂行だけでなく、教えを受ける者の心掛けも規定すべきではないか】
○昭和22年3月20日貴族院教育基本法案委員会
<高橋文部大臣>  学生に関しましては特殊な規定は設けられて居らぬのでありまするが、第二条にありまするやうに「自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。」と云ふ風に述べられて居るのでありまして、学生は学生の分を守つて学校当局者の権益を害すると云ふやるなことのないやうに、自他の敬愛と協力によって進んで行くべきものである、此の条項に依って学生を指導して参りたいと考へて居るのでございます。