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多細胞間での時空間的な相互作用の理解を目指した技術・解析基盤の創出

1.目標名

多細胞間での時空間的な相互作用の理解を目指した技術・解析基盤の創出

2.概要

 イメージング、1細胞オミクス解析等の計測技術や計算機科学の進展により、細胞や生体分子の網羅的、定量的かつ時空間的な解析が可能になりつつある。そして、“生きている”システムとしての生命を理解し、更にはそのシステムの動態を予測することが期待されている。このような中、ヒトやモデル生物、臓器、器官等の細胞・分子地図作成に取り組み、細胞属性の同定や細胞間及び分子間ネットワークの特性の解明を行うことで、生命の理解に迫ろうとする研究が全世界的に進んでいる。
 本戦略目標では、様々な技術を糾合・発展させ、多細胞の複雑系におけるネットワークの動的構造を細胞レベルや分子レベルで理解するとともに、観測精度の向上や動態予測と操作を行うための理論と技術を創出する。

3.達成目標

 本戦略目標では、細胞レベルや分子レベルでの生命現象の定量的な理解に向け、オミクス解析、イメージング、数理解析、データ解析等の多様な手段を適切に組み合わせることにより、生体分子や細胞が作る不均一で非連続なシステム動態の制御機構を解明するとともに、その予測・操作技術の創出を目指す。具体的には、以下の3つの達成を目指す。
(1)多様な計測手段を介した生命システムの定量的理解
(2)時空間情報を含む細胞間及び分子間ネットワーク解析技術の開発
(3)細胞集団の特性や動態を予測・操作する技術と理論の創出

4.研究推進の際に見据えるべき将来の社会像

 3.「達成目標」の実現を通じ、生命や疾患メカニズムの理解と予測に向けた技術基盤の整備を通じて、以下に挙げるような社会の実現に貢献する。
・疾患や病態を分子や細胞の違いに基づき記述できるようになり、様々な疾患に対して個別化医療が実現する社会
・計測機器や生物情報を扱う産業が発展し、我が国がその分野で強い競争力を持つ社会
・生物が実現している多様な生存・適応のメカニズムを利用し、二酸化炭素濃度の上昇や気温上昇に対して植物や海洋生物等の環境適応を実現する社会

5.具体的な研究例

(1)多様な計測手段を介した生命システムの定量的理解
 多様な細胞から構成される個体・組織等を対象とし、細胞に含まれる分子情報を1細胞単位で取得し、組み合わせ、解析することにより、生命システムを定量的に理解するための研究を行う。具体的には以下の研究等を想定。
・個体発生、腫瘍形成、臓器再生、環境応答等、細胞のダイナミックな移動や増殖を伴う生命現象に関する研究
・クローン性を持つ細胞の動態に関する研究

(2)時空間情報を含む細胞間及び分子間ネットワーク解析技術の開発
 生命科学における階層をつなぎ、多次元のデータからマクロの特性を抽出する研究や時間情報、空間情報を伴う生命システムの振る舞いを理解するための研究、再現性の高い実験材料の創生とその提供に係る研究を行う。具体的には以下の研究等を想定。
・イメージング等により得られた細胞毎のダイナミクスと遺伝子発現等の関係性を明らかにする研究
・血管を保持したオルガノイドの創生に係る研究

(3)細胞集団の特性や動態を予測・操作する技術と理論の創出
 計測データから数理モデルを構築・検証し、細胞集団の動態を予測・操作する研究やそのための理論を構築する研究を行う。具体的には以下の研究等を想定。
・組織を形成する異なる種類の細胞の網羅的な計測データを、機械学習等を用いて解析し数理モデルを構築・検証する研究
・発生等の生命現象が進行する過程に潜むネットワークを見出し、その動態を記述する新たな理論を創出する研究
・細胞-分子間ネットワークや細胞集団の動態を決定する因子を同定・検証し、予測・操作するための研究

6.国内外の研究動向

 シーケンシングに代表される網羅的計測技術の進展と、大量データを処理する情報学との共同により、ライフサイエンス分野においては、従来の個別の遺伝子や分子に着目した研究から、網羅的情報の収集と解析による研究へとその方法論がシフトしつつあり、システムとしての生命の包括的な理解に向けた研究が世界的に盛んに行われている。

(国内動向)
 現在、新学術領域「代謝アダプテーションのトランスオミクス解析」(2017~2021年度)、文部科学省共同利用・共同研究拠点事業の中で「トランスオミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業」(2016~2021年)等のプロジェクトが推進中であり、これまでゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスの文脈で別々に認識されていた多階層ネットワークを統合し、生命システムを全体として理解することを目指す研究領域が確立されつつある。
 イメージングは従来、我が国が技術的にリードしている分野であり、国際的にも存在感を発揮している。新技術の登場と深層学習等の活用により、時間解像度、空間解像度ともに物理限界を突破し、個別の細胞を識別・追跡することも可能になりつつある。オミクス解析で得られない局在、時間変動の情報を、イメージング技術によって取得することが期待されており、当該分野の研究開発に注目が集まっている。

(国外動向)
 1細胞レベルでの解析技術の開発が加速的に進んでおり、37兆個のヒト細胞1つ1つから情報を取得し、カタログ化しようとする大規模プロジェクト Human Cell Atlas が米国、英国主導のもと行われている。本プロジェクトで蓄積されたデータは公開を予定されていることは注目に値する。
 精密医療、個別化医療を目指したオミクス研究のプロジェクトは多く、例えば米国のCancer Moonshot Initiativeにサポートされて発足したInternational Cancer Proteogenome Consortium(ICPC)には日本を含む12か国が参加しており、国際的にプロテオゲノミクスを用いてがん研究を推し進める機運が高まっている。

7.検討の経緯

 「戦略目標等策定指針」(2015年6月科学技術・学術審議会戦略的基礎研究部会決定)に基づき、以下のとおり検討を行った。

1.科学研究費助成事業データベース等を用いた国内の研究動向に関する分析及び研究論文データベースの分析資料を基に、科学技術・学術政策研究所科学技術予測センターの専門家ネットワークに参画している専門家や科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)の各分野ユニット、日本医療研究開発機構(AMED)のプログラムディレクター等を対象として、注目すべき研究動向に関するアンケートを実施した。

2.上記アンケートの結果及びJST-CRDSで行われた「多階層オミクスとイメージング:イメージングを基盤とした統合的生体機能の解明に向けて」ワークショップでの議論等を参考にして分析を進めた結果、様々な技術を糾合・発展させ、多細胞の複雑系におけるネットワークの動的構造を細胞レベルや分子レベルで理解するとともに、観測精度の向上や動態予測と操作を行うための理論と技術を創出することが重要であるとの認識を得て、注目すべき研究動向「生命現象の理解と予測に向けた分子・細胞システムの解明とその利用」を特定した。

3.2018年11月に、文部科学省とJSTは共催で、注目すべき研究動向「生命現象の理解と予測に向けた分子・細胞システムの解明とその利用」に関係する産学の有識者が一堂に会するワークショップを開催し、特に注目すべき国内外の動向、研究や技術開発の進展が社会的・経済的に与え得るインパクトやその結果実現し得る将来の社会像、研究期間中に達成すべき目標等について議論を行い、ワークショップにおける議論やJST-CRDSのライフサイエンス・臨床医学ユニットからの提言等を踏まえ、本戦略目標を作成した。

8.閣議決定文書等における関係記載

「第5期科学技術基本計画」(2016年1月22日閣議決定)
第3章(1)<2> i)
我が国は既に世界に先駆けて超高齢社会を迎えており、我が国の基礎科学研究を展開して医療技術の開発を推進し、その成果を活用した健康寿命の延伸を実現するとともに、医療制度の持続性を確保することが求められている。

「健康・医療戦略」(2014年7月22日閣議決定、2017年2月17日一部変更)
2.(1)1)
(中略)我が国の高度な科学技術を活用した各疾患の病態解明及びこれに基づく遺伝子治療等の新たな治療法の確立、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)及び革新的医薬品、医療機器等の開発等、将来の医薬品、医療機器等及び医療技術の実現に向けて期待の高い、新たな画期的シーズの育成に取り組む。

「未来投資戦略2017」(2017年6月9日閣議決定)
第2 I-1.(2)iii)
生活習慣病や認知症の予兆を発見できるバイオマーカー・リスクマーカーの研究・開発を促進するとともに、開発されたバイオマーカーの有用性を検証する。また、生活習慣病や認知症の予防等の効果が期待できる医薬品等の研究・開発を進める。

9.その他

 本戦略目標に関連する施策として、国内では2014年度に発足したCREST/さきがけ「1細胞解析」において、シングルセルレベルでの生体分子解析技術の開発を推進しており、本戦略目標との技術連携等により効率的・効果的な研究推進のための取組が期待される。また、国立研究開発法人理化学研究所は、Human Cell Atlasプロジェクトの中核拠点を担っており、本戦略目標を推進する観点で相互に技術や情報の共有等の連携を行うことで、より効率的・効果的な研究推進への取組が期待される。
 国際戦略として、Human Cell Atlas等の国際プロジェクト等との連携を進め、若手人材の育成、日本発の技術の海外展開等を進める。また、技術を利用する企業と連携し、研究開発成果の社会還元を推進する。
 本戦略目標の下で行われる研究によって得られたデータや開発された技術等については、領域内外における適切な活用や共有を推進するとともに、JSTの「ライフサイエンスデータベース統合推進事業」(2011年度~)等と連携しながら、データベース化等により更なる研究展開に向けた基盤を構築する等、効率的・効果的な研究推進のための取組が期待される。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

金子、千田、林
電話番号:03-5253-4111(内線4386)

-- 登録:平成31年03月 --