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量子状態の高度制御による新たな物性・情報科学フロンティアの開拓

1. 目標名

量子状態の高度制御による新たな物性・情報科学フロンティアの開拓

2. 概要

 半導体やレーザーなど、量子論を応用した科学技術の進展はこれまでも産業や社会に大きなインパクトを与えてきたが、1990年代以降、量子情報処理を可能とする物理素子が開発され、先端レーザー等による量子状態の制御技術も磨かれてきた中で、量子論を包括的かつ高度に応用しつつ産業応用までを視野に入れた新たな技術体系の発展の兆しが見られるようになった。近年、欧米政府や世界的企業が量子科学技術への投資を拡大している中、我が国においても、最先端の量子研究に光科学技術、物性物理、ナノテクノロジー等の強みを糾合させ、中長期的な視座から量子科学のフロンティア開拓を先導するとともに、超スマート社会の実現に向け、新たな産業や技術基盤の創出の核となるコア量子技術を世界に先駆けて生み出していくことが重要である。
このため、本戦略目標では、技術的フィージビリティや国際優位性、先進性等の観点を総合的に勘案した上で研究領域・方向性を特定し、その研究開発を重点的に進めることにより、新たな量子物性の開拓や量子情報システムの開発等を通じて幅広いイノベーションの源泉(新技術シーズ)を生み出すとともに、今後大きく変革する社会像の基盤となる量子技術・システム実装を世界に先駆けて実現することを目指す。

3. 達成目標

 本戦略目標では、量子の孤立系から多体系、巨視的な凝縮体に至るまで、多彩な量子状態の高度制御を実現することにより、未知の物理現象や物質機能・物性の探索、新たな概念に基づく情報科学の開拓及び新技術シーズ創出を図ることを目的とする。具体的には、以下の達成を目指す。
(1)量子情報処理・シミュレーションの高度化により、複雑な量子系の実験的な解析・描像解明に向けた基盤を構築するとともに、従来手法では不可能な大規模・省エネ情報処理に係る要素技術を実現する。
(2)多彩な物理・工学系をつなぐ基盤的な量子技術・システムの開発により、既存技術分野(フォトニクス、エレクトロニクス等)の発展的融合・ブレークスルーを促す。
(3)巨視的な量子効果や先端量子光学等の応用により、計測・解析技術を飛躍的に向上させ、従来精度・感度の限界を超えたセンシング・イメージング技術の革新につなげる。

4. 研究推進の際に見据えるべき将来の社会像

 3.「達成目標」に記載した事項の達成を通じ、以下に挙げるような社会の実現に貢献する。

  • 通信秘匿性の格段の高度化やビッグデータの超高速処理、超省エネ・高速・大規模情報処理が可能となるとともに環境負荷の低減が進展した超サイバー社会、及びこれらの情報処理・通信基盤に基づき物理空間とサイバー空間とが高次に結合された超スマート社会。
  • 環境エネルギー、安全・安心、健康・医療等の地球規模の社会的課題の解決・緩和、知識集約度の高い装置・部材・技術産業等を源泉としたグローバル・バリュー・チェーンにおける優位性の確保、人々の多様なニーズに応える新たな価値を生み出すシステムの形成等を通じて質の高い生活の実現された社会。
  • 物質・生命理解を含めた知識体系の革新により、次々世代の価値創造や安全・安心確保のコアとなる科学基盤・技術基盤が確保された社会。

5. 具体的な研究例

(1)超電導回路、単一スピン、半導体量子ドットなど多彩な量子ビット技術の高度化による量子コンピューティング要素技術の開発
 古典的コンピュータの計算性能を凌駕する量子計算手法のデバイス実装に向けては、欧米をはじめ各国の国家プロジェクトにおいて、量子情報の最小単位である様々な量子ビット及びその制御技術の開発やそれらのポートフォリオの戦略的な開拓が進められている。本分野において、我が国の光科学技術や量子基盤技術の強みを活かした研究開発を進めることで、世界に先駆けた量子暗号通信、量子コンピューティング等の要素技術の開発及びシステム実装を加速する。例えば、長距離で秘匿性の高い広帯域通信方式を確立するためには、多数ビット間での制御ゲート動作検証に加え、十分なコヒーレント時間の確保が重要であり、その実現に向けた特色ある量子ビットの開発及び組合せや量子コヒーレント制御技術の高度化等を行う。

(2)多彩な量子自由度を利用した新たな光・電子制御デバイスや超高感度計測技術の開発
 量子ドットにおける単一電子スピンのコヒーレント制御など、個々のスピン状態の制御技術の高度化・実用化(新機能材料開発等)や、オプト・メカニクスの要素技術開発、極低温原子気体やイオン、固体等の多彩な量子多体系の制御技術の組合せによる量子シミュレーション技術の高度化等に向けた研究開発を進める。これにより、力学系と量子光学・スピン系との融合を実現し、既存技術では不可能な微弱な相互作用の制御や従来精度の限界を超えた精密測定など新たな量子基盤技術の獲得を目指す。あわせて、量子多体系の電磁応答に関する第一原理計算の大規模化・高度化から期待される新原理に基づく超高感度センサー等の新技術創出に向けた基礎研究を推進する。

(3)巨視的な量子状態の精密制御による超高精度センサー等の開発
 分子やクラスター等の量子多体系における極低温状態の制御技術の高度化や、巨視的な量子波動性を利用した高精度な量子センサー等の開発を推進する。
 具体的には、ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)の人工的操作・制御技術の高度化により最先端の原子物理や量子光学、超伝導や超流動等の量子論特有の現象に関する本質的な理解深化を促すとともに、高感度かつ高精度なBEC原子干渉計(加速度センサー、重力勾配計、ナビゲーション)など量子波の特長を活かした計測手段の開発・利活用等に取り組む。また、従来の補償光学応用では限界のある生体等の複雑構造系に対しても、量子もつれの干渉効果を利用することにより分散の影響の極めて少ない高分解能計測が期待できるため、その実用化・高度化に向けた技術開発を進める。


6. 国内外の研究動向

(国内動向)
 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)「量子情報処理プロジェクト」(平成21年度~平成25年度)、科学研究費助成事業新学術領域研究「量子サイバネティクス」(平成21年度~平成25年度)などで、超伝導量子ビット、電子スピンを用いた量子ビット、及びこれらのハイブリッド量子系の研究が行われ、これらの成果を発展させた革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「量子人工脳を量子ネットワークでつなぐ高度知識社会基盤の実現」(平成26年度~平成30年度)では脳型情報処理を量子コンピュータに取り込んだ量子人工脳の開発が進められている。

(国外動向)
 英国では2014年から量子科学研究の5年プロジェクト(予算:約2.7億英ポンド)が始まっており、ハブとなる4拠点において量子コンピューティング、量子センサー等の研究開発拠点形成プロジェクトが始動するなど具体的な強化策がとられている。量子コンピューティング関係では、カナダのベンチャー企業であるD-Wave社が開発した、世界初の市販量子コンピュータとされる「D-Wave 2」を米国のグーグル社やNASAが購入(2014年)するなど、産業界を巻き込んだ研究開発が進められている。また、D-Wave社の採用した量子アニーリング手法に基づくアナログ量子コンピュータに加え、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)・グーグル社や欧州では超伝導素子を用いたデジタル量子コンピュータ(論理ゲート方式)の開発も活発に進められている。オランダでは、デジタル量子コンピュータに特化した研究機関「QuTech」において10年間の量子科学研究イニシアティブ(予算:約1.4億ユーロ)を2015年に開始しており、マイクロソフト社やインテル社も支援・共同研究を行うなど量子コンピュータ実現に向けた研究開発を加速させている。
 マクロ量子制御に基づく時間標準の研究は、これまで日本と米国がリードしてきたが、近年では欧州でも活発化しているほか、原子イオンに関連した物性研究では中国も追い上げを見せており、本技術を発展させた量子シミュレーションの研究が世界中で開始されている。また、従来の古典光によっては実現不可能な感度・分解能を有する量子もつれに基づく計測・イメージング技術や物質制御技術が注目されているほか、量子科学に基づく計測技術に関して、従来は理想的な完全測定を目指した研究が進められてきたのに対し、数学的な推定処理を前提とした不完全測定・弱測定など将来的な実用性を考慮した研究へのシフトが見られる。

7. 検討の経緯

「戦略目標等策定指針」(平成27年6月8日科学技術・学術審議会戦略的基礎研究部会決定)に基づき、以下の通り検討を行った。

(科学研究費助成事業データベース等を用いた科学計量学的手法による国内外の研究動向に関する分析資料の作成)
 科学研究費助成事業データベース等を用いて、研究論文の共引用関係又は直接引用関係の分析等の科学計量学的手法を活用することにより、国内外の研究動向に関する分析資料を作成した。

(分析資料を用いた専門家へのアンケートの実施及び注目すべき研究動向の作成)
 「科学技術振興機構研究開発戦略センターの各分野ユニット」、「日本医療研究開発機構のプログラムディレクター等」及び「科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センターの専門家ネットワークに参画している専門家」に対し、作成した分析資料を用いて今後注目すべき研究動向に関するアンケートを実施した。その後、アンケートの結果の分析等を行い、注目すべき研究動向として「量子状態の高度制御による新たな物性物理・情報科学フロンティアの開拓」を特定した。

(ワークショップの開催及び戦略目標の作成)
 注目すべき研究動向「量子状態の高度制御による新たな物性物理・情報科学フロンティアの開拓」に関係する産学の有識者が一堂に会するワークショップを開催し、特に注目すべき国内外の動向、研究や技術開発の進展が社会的・経済的に与え得るインパクトやその結果実現し得る将来の社会像、研究期間中に達成すべき目標などについて議論を行い、ワークショップにおける議論等を踏まえ、戦略目標を作成した。

8. 閣議決定文書等における関係記載

「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)
第2章(3)<2>2 )
個別システムにおいて新たな価値創出のコアとなり現実世界で機能する技術として、国は、特に以下の基盤技術について強化を図る。
(中略)
・革新的な計測技術、情報・エネルギー伝達技術、加工技術など、様々なコンポーネントの高度化によりシステムの差別化につながる「光・量子技術」

「科学技術イノベーション総合戦略2015」(平成27年6月19日閣議決定)
第1部 第1章 2.
「超スマート社会」において我が国の強みを活かし幅広い分野でのビジネス創出の可能性を秘めるセンサ、ロボット、先端計測、光・量子技術、素材、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー等の共通基盤的な技術の先導的推進を図ることも重要である。

9. その他

○平成27年度の戦略目標「新たな光機能や光物性の発現・利活用による次世代フォトニクスの開拓」では、新たな光機能や光物性の解明・利活用・制御等を通じて従来の光科学技術を横断的かつ重層的に集積・発展させることにより、将来の社会・産業ニーズに応える新たなフォトニクス分野の進展を加速させるとともに、新技術シーズの創出を支える基礎的な原理の解明にも併せて取り組むことで、新たな光機能物質の人工生成や革新的な光通信技術の開発・活用、微細構造の高時空間分解可視化、先端数理科学との融合による複合光基盤技術・システムの創出等を目指している。ここで創出された優れた研究シーズを、本戦略目標を通じて相乗的に伸ばしていくことで、最先端の光・量子科学技術の実用化を加速していくことが重要である。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

課長:渡辺 正実、基礎研究推進室長:斉藤 卓也、室長補佐:浅井 雅司、基礎研究・機構係:後藤 裕
電話番号:03-5253-4111(内線4386)、03-6734-4120(直通)

-- 登録:平成28年03月 --