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画期的医薬品等の創出をもたらす機能性脂質の総合解明

1.目標名

画期的医薬品等の創出をもたらす機能性脂質の総合解明

2.概要

 疾患等を始めとした様々な生命現象を制御する機能性脂質は、膜リン脂質等の代謝反応によって生成され、細胞応答を誘発する脂質メディエータや、膜タンパク質を制御する膜脂質など、生体において重要な分子群である。質量分析技術等の発達によって、極微量の脂質代謝物の検出が可能となった現在、新たな機能性脂質やその代謝経路の解明が進み、創薬標的の有望な候補の一つとして、画期的新薬の創出に貢献することが期待される。
 一方で、疎水性分子である脂質に関する実験技術は、タンパク質、DNA等親水性分子を扱う他の生命科学研究手法との親和性が低いこと、また脂質解析自体の網羅的かつリアルタイムでの計測や、生体内での操作が難しい等の課題を抱えていることから、広範な疾患研究等にて脂質解析が行われるには至っておらず、技術的ブレイクスルーの必要性が高まっている。
 そのため、本研究開発目標では、我が国に蓄積された機能性脂質研究の知見や、創薬基盤技術等を活用しつつ、上記のような脂質特有の技術的障壁を解消し、幅広い疾患研究において機能性脂質に着目した疾患の機序解明等を行うことにより、創薬等の画期的な実用化シーズの創出を目指す。

3.達成目標

 本研究開発目標では、必要な技術開発を行うとともに、機能性脂質を介した様々な疾患機序を解明することを通じ、最終的には、画期的医薬品や診断マーカー等、疾患の克服に資する新たな実用化シーズを創出することを目的とする。具体的には、(1)、(2)の技術開発を行いながら、(3)を実施する事を目指す。
(1)超高感度・高精度な次世代脂質解析に資する革新的技術の開発
(2)機能性脂質を自在に操作するための制御技術創出
(3)機能性脂質に着目した様々な疾患の機序解明

4.研究推進の際に見据えるべき将来の社会像

 3.「達成目標」に記載した事項の達成を通じ、以下に挙げるような社会の実現に貢献する。

  • 免疫、生殖、代謝疾患、循環器疾患、がんを含む炎症性疾患、精神・神経疾患等、有効な治療法が確立されていない疾患(アンメットメディカルニーズ)を含む様々な疾患に関与することが指摘されている機能性脂質の機序の解明が創薬等へ応用され、健康長寿社会が実現している社会。
  • それ自身がシーズ化合物として創薬研究への展開が可能であり、また低分子量であるためにその活性を模倣・阻害する分子の合成が比較的容易な機能性脂質が、製造・保管のコスト面など医療経済学の観点からも有用である低分子医薬品の開発に活用され、我が国の高騰する医療費負担が軽減されている社会。
  • 不妊症やアトピー性皮膚炎・気管支喘息等、QOLに関する疾患が機能性脂質による創薬により克服され、我が国が直面する少子高齢社会における女性や子供の生活の質が向上している社会。

5.具体的な研究例

(1)超高感度・高精度な次世代脂質解析に資する革新的技術の開発
 新規の機能性脂質のさらなる探索や超局所的な機能性脂質の産生・作用の場、機能性脂質の作用メカニズムを明らかにするために、質量解析(マススペクトロメトリー;MS)技術をはじめ、CT、PET等を用いたイメージング技術や、Non target MS法等によるデータドリブン型リピドミクス解析技術を開発する。さらにはそれらを活用し、情報科学的手法も取り入れながら、三次元解析、リアルタイム解析等を実現する革新的解析技術を開発する。

(2)機能性脂質を自在に操作するための制御技術創出
 活性は強力であるものの生体内の産生が極微量であり、超局所的に作用していることが想定される近年新たに見出されつつある機能性脂質の生理的機能を解明するためには、上記のような微細環境における解析技術に加え、それ自身の動態や作用を制御する技術が必要であることから、従来の遺伝学的手法に加え、ケミカルバイオロジー的手法や脂質-タンパク質相互作用等の生物物理学的手法を活用した脂質操作の基盤的技術を創出する。

(3)機能性脂質に着目した様々な疾患の機序解明
 上記で開発された革新的技術等をも動員しながら、機能性脂質を介した疾患の機序についての研究を推進し、特に新規分子を含む機能性脂質に着目した様々な疾患の機序解明を実施する事で、創薬ターゲットや診断マーカー等を始めとした画期的な実用化シーズの創出に貢献する。

6.国内外の研究動向

(国内動向)
 日本の脂質研究の水準はかねてより高く、いわゆる第一世代の脂質メディエータと呼ばれる、プロスタグランジン、ロイコトリエンといった分子について、日本人がその受容体、産生酵素の多くの同定・分子クローニングを行うなどの多数の成果を挙げてきた。現在も第二世代の脂質メディエータの発見とその意義の解明等により、論文数では米国に次ぐ状況である。また、従前より産学連携も盛んであり、脂質メディエータ関連の化合物ライブラリが構築され、脂質メディエータに関連した医薬品が上市されるなど、日本企業の貢献も目立っている。さらに、我が国は、産学ともにこれまでの機能性脂質研究に大きく貢献してきた質量分析に関しても技術的土壌に強みがあり、本領域における認知度は世界的にも高い。加えて、我が国に1961年に発足した「日本脂質生化学会」では、1989年には世界に先駆けて脂質データベース「Lipid Bank」の整備を開始するなど、以前より世界の脂質研究をリードし、脂質を一研究領域として高めてきた。
その一方で、我が国の脂質研究においては、マイクロアレイ、シークエンス解析を始めとしたゲノム解析のように、誰もが気軽に脂質を解析する事が困難となり、参画する研究者層の固定化が進んでいるという懸念がある。

(国外動向)
 脂質研究に関しては、米国においては2003年より多機関参加型研究拠点「LIPID MAPS」が開始し、巨額の国立衛生研究所(NIH) グラントと多数の研究グループの参画の元、今日まで継続的に支援がなされている。「LIPID MAPS」では全体に分析機器の改良や分析、脂質代謝経路の確定に重点が置かれており、現時点では機能性脂質の作用メカニズム等を追求する体制にはなっていないものの、代謝経路、代謝産物の同定とデータベースの構築後は、その過程で発見された新規脂質分子の機能解析に研究の方向が向かうことが予想されている。また、欧州においても2005年に第6期フレームワーク・プログラムとして「ELIfe」が開始し、第7期においても「LipidomicNet」として本領域の研究支援が継続されている。このように各国が長期的かつ精力的に研究を推進する中、我が国の機能性脂質研究の優位性は危機に瀕している。
 また、質量分析の技術についても、古くより鉄鋼業等の分野で強みのあった独国、米国等が生物学領域に進出しており、我が国と競合しているほか、オランダ、スウェーデン、ベルギー等の欧州のグループも積極的に研究を実施している。中国、シンガポールといった新興国は大型機器を購入し、本格的な研究に着手するなど、過去ゲノム解析分野において見られた研究新興国の猛烈な追い上げも徐々に起こりつつある状況である。

7.検討の経緯

 「戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会 報告書」(平成26年6月27日)に基づき、以下の通り検討を行った。

(サイエンスマップ及び科学研究費助成事業データベースを用いた国内外の研究動向に関する分析資料の作成)
 「サイエンスマップ2012&2010」(平成26年7月31日科学技術・学術政策研究所)及び科学研究費助成事業データベースにおける情報を用いて、国内外の研究動向に関する分析資料を作成した。

(分析資料を用いた専門家へのアンケートの実施及び注目すべき研究動向の作成)
 「科学技術振興機構研究開発戦略センター」や「科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センターの専門家ネットワークに参画している専門家」に対し、作成した分析資料を用いて今後注目すべき研究動向に関するアンケートを実施した。その後、アンケートの結果の分析等を行い、注目すべき研究動向として「生物活性脂質の機能解明」を特定した。

(ワークショップの開催及び研究開発目標の作成)
 注目すべき研究動向「生物活性脂質の機能解明」に関係する産学の有識者が一堂に会するワークショップを開催し、特に注目すべき国内外の動向、研究や技術開発の進展が社会的・経済的に与え得るインパクトやその結果実現し得る将来の社会像、研究期間中に達成すべき目標などについて議論を行い、ワークショップにおける議論等を踏まえ、研究開発目標を作成した。

8.閣議決定文書等における関係記載

「医療分野研究開発推進計画」(平成26年7月22日健康・医療戦略推進本部策定)
I.1.(1)<2>
我が国の疾患別医療費及び死亡率の上位を占める、脳卒中を含む循環器疾患、 (中略)、次世代を担う小児・周産期の疾患、不妊症、(中略)、国内最大の感染症である肝炎、長期にわたり生活の質(QOL)を低下させる免疫アレルギー疾患、慢性の痛みを呈する疾患、希少な疾患や難病、(中略)、女性に特有の健康課題、(中略)等の多岐にわたる疾患等に対し、(中略)新たな医薬品や診断・治療方法の開発、医療機器等の開発が推進される社会の実現を目指す。

「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月19日閣議決定)
III.2.(2)
新たな産業基盤の創出に向けて、多くの産業に共通する波及効果の高い基盤的な領域において、世界最高水準の研究開発を推進し、産業競争力の一層の強化を図っていく必要がある。

9.その他

○平成25年度戦略目標「疾患実態を反映する生体内化合物を基軸とした創薬基盤技術の創出」(以下、「代謝」)では、機能性脂質を含む生体内化合物を基軸として、疾患病態の理解や、これらに関する創薬基盤技術の開発に向けた取組を実施してきたところである。一方、本研究開発目標において実用化シーズを見出すに当たっては、これら「代謝」から創出されてきた成果が、その基盤的知見として活用されることが見込まれ、「代謝」における研究課題との間での連携等も期待される。
○本研究開発目標を通じて、脂質が広くライフサイエンスの中で開かれた対象となることが期待される。様々な疾患研究者が脂質の解析を行うことで新たな知見が生まれる、あるいは新たな技術が脂質研究を向上させると言った、これまでになかった分野間の交流を実現するため、幅広い分野の研究者の参画が期待される。
○本研究開発目標で実施する研究については、創薬研究に直結する成果が期待される。実際に機能性脂質研究の成果が、創薬支援ネットワークの枠組において、アカデミア創薬シーズとして支援対象となっている例もあり、本研究開発目標の成果も、日本医療研究開発機構の適切な支援により、実用化に向けた研究に移行する事が期待される。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

課長:行松 泰弘、基礎研究推進室長:岩渕 秀樹、室長補佐:浅井 雅司、基礎研究・機構係長:春田 諒
電話番号:03-5253-4111(内線4386)、03-6734-4120(直通)

-- 登録:平成27年05月 --