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気候変動時代の食料安定確保を実現する環境適応型植物設計システムの構築

1.目標名

気候変動時代の食料安定確保を実現する環境適応型植物設計システムの構築

2.概要

 気候変動等の環境変化に適応する農作物の開発・栽培技術の確立は、日本を含む世界的な食料問題の解決に不可欠である。これを実現するためには、我が国のモデル植物の研究で得られた基礎植物科学の知見を農作物の開発や栽培につなげることが重要であり、植物科学における生物的データを工学や情報科学等の異なる分野の技術も含めた新たな視点で収集・解析することで、育種開発や栽培技術の高度化につなげていくことが必要である。
 そのため、本戦略目標では、植物科学で蓄積されたゲノム、トランスクリプトーム、メタボローム等のオミクスデータと、最先端の測定技術を活用して取得するフェノーム等の定量的データ、さらには数値化された環境要因等を情報科学的に統合解析することで、植物の生育・環境応答の予測モデルを構築し、さらに予測モデルをもとにした環境適応力が向上した植物体の作製と実環境における栽培実証を行い、植物の「生育・環境応答予測モデル」を基盤とする「環境適応型植物設計システム」を構築する。
 これにより、様々な環境条件下で生育可能な農作物の設計・作製及び栽培を可能とし、食料の安定確保の実現を目指す。

3.達成目標

 本戦略目標では、植物体に関わる様々な要因と環境条件等の定量的データをもとに植物体の生育・環境応答を予測し、環境適応性を向上した植物の設計・作製及び栽培を可能とする「環境適応型植物設計システム」を構築することを目的とする。具体的には、以下の達成を目指す。
(1)植物の生育・生理状態・環境応答を詳細に把握可能な定量的計測技術の開発
(2)表現形質の変動に対応する対象植物ごとの生物的指標(バイオマーカー)の同定
(3)植物科学や工学等の異分野技術の融合を活用したバイオインフォマティクスによる「生育・環境応答予測モデル」の構築
(4)「生育・環境応答予測モデル」を基にした環境適応性を向上した植物体の設計・作製と実証

4.実現し得る将来の社会像

 3.「達成目標」に記載した事項の達成を通じ、以下に挙げるような社会の実現に貢献する。

  • 急激な気候変動により、現在の農作物の栽培好適地域が栽培不適地域となる懸念が高まる中、「生育・環境応答予測モデル」による予測をもとに開発されてきた作物・品種によって、現在の農作物では農耕不適地となる地域でも安定した食料生産量を確保できる社会。
  • 我が国で開発された「生育・環境応答予測モデル」、作物改良技術、環境モニタリング技術、統合オミクス解析技術等を基盤とした「環境適応型植物設計システム」が総合的な農業技術パッケージとして海外へ技術移転され、国土の大半が現在の農作物では農耕不適地となっている国や気候変動の影響で収量が減少した国においても安定した農作物栽培が可能となり、人口増や環境悪化による食糧不足の解決に貢献している社会。

5.具体的な研究例

(1)植物の生育・生理状態・環境応答を詳細に把握可能な定量的計測技術の開発
 植物の表現型を定量的に把握可能なフェノーム解析技術の高度化を行う。また、植物の生理状態を精密に把握可能なセンシング技術及びイメージング技術の開発と農業現場展開に向けた高度化等を行う。

(2)表現形質の変動に対応する対象植物ごとの生物的指標(バイオマーカー)の同定
 表現形質の変動に対応するバイオマーカーの同定に関する研究を行う。また、野外及び制御環境など、様々な環境条件下における植物の表現形質とリンクした遺伝子発現及び代謝変動情報の蓄積に関する研究等を行う

(3)植物科学や工学等の異分野技術の融合を活用したバイオインフォマティクスによる「植物の生育・環境応答予測モデル」の構築
 想定環境における植物の生育や開花等の表現形質の予測に係る研究を行う。また、環境ストレスに対する応答性の予測とストレス耐性を向上させる遺伝子及び関連形質の予測に係る研究等を行う。

(4)「生育・環境応答予測モデル」を基にした環境適応性を向上した植物体の設計・作製と実証
 「生育・環境応答予測モデル」を基に環境応答性を向上するように設計した植物体を作製するための植物体改変技術の開発と高度化を行う。また、「生育・環境応答予測モデル」を基に設計・作製された植物体の野外及び制御環境における栽培検証を行い、栽培期間における表現形質や生理状態変化のデータ化と「植物の生育・環境応答予測モデル」へのフィードバック等を行う。

6.国内外の研究動向

(国内動向)
 近年、日本の植物科学分野ではゲノム、トランスクリプトーム、代謝産物などのビッグデータを基盤とした数理解析が進み、生態レベルでの個体差、気象変動なども取り込んだ発現解析などがトレンドとなっている(日本学術振興会 平成25年度学術研究動向に関する調査研究 報告概要(生物学専門調査班))。一方で植物科学分野における日本の研究水準は極めて高く、イネゲノムプロジェクトの成果に見られるように、欧米に匹敵するものであるが、その応用としての技術開発水準、産業技術力の何れにおいても欧米に劣っていると報告されている(科学技術振興機構研究開発戦略センター ライフサイエンス分野 科学技術・研究開発の国際比較2009年版)。

(国外動向)
 米国ではPlant Genome Initiativeのもとに、シロイヌナズナの遺伝子解析が進められてきたが、近年では実用作物に対する遺伝子解析研究も進んでいる。一方で、欧州ではシステムバイオロジーによる統合的な理解をある特定の系に基づいて行ってきており、近年ではCrop Performance and Improvementという形で実用作物を指向した研究開発を実施している(科学技術振興機構研究開発戦略センター ワークショップ報告書2009「フィールドにおける植物の環境応答機構と育種技術」)。海外ではDNAマーカー技術・遺伝子解析技術を独自開発できるバイオメジャーが中堅規模の種苗メーカーを吸収し、野菜の種苗開発へ進出する動きが目立つ。さらに次世代型シークエンサーの普及により、非モデル作物のゲノム解読が欧米及び中国で急速に進んでいる(科学技術振興機構研究開発戦略センター 研究開発の俯瞰報告書ライフサイエンス・臨床医学分野2013年版)。

7.検討の経緯

「戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会報告書」(平成26年6月27日)に基づき、以下の通り検討を行った。

(サイエンスマップ及び科学研究費助成事業データベースを用いた国内外の研究動向に関する分析資料の作成)
 「サイエンスマップ2012&2010」(平成26年7月31日科学技術・学術政策研究所)及び科学研究費助成事業データベースにおける情報を用いて、国内外の研究動向に関する分析資料を作成した。

(分析資料を用いた専門家へのアンケートの実施及び注目すべき研究動向の作成)
 「科学技術振興機構研究開発戦略センター」や「科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センターの専門家ネットワークに参画している専門家」に対し、作成した分析資料を用いて今後注目すべき研究動向に関するアンケートを実施した。その後、アンケートの結果についての分析等を行い、注目すべき研究動向として「植物の生命現象解明を加速するインシリコ植物デザインシステムの開発」を特定した。

(ワークショップの開催及び戦略目標の作成)
 注目すべき研究動向「植物の生命現象解明を加速するインシリコ植物デザインシステムの開発」に関係する産学の有識者が一堂に会するワークショップを開催し、特に注目すべき国内外の動向、研究や技術開発の進展が社会的・経済的に与え得るインパクトやその結果実現し得る将来の社会像、研究期間中に達成すべき目標などについて議論を行い、ワークショップにおける議論等を踏まえ、戦略目標を作成した。

8.閣議決定文書等における関係記載

「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月19日閣議決定)
3.2.(1)ⅱ)
我が国の食料自給率の向上や食品の安全性向上、水の安定的確保に向けて、安全で高品質な食料や食品の生産、流通及び消費、更に食料や水の安定確保に関する研究開発を、遺伝子組換え生物(GMO)等の先端技術の活用や産業的な観点も取り入れつつ、推進する。

3.2.(5)ⅰ)
先端計測及び解析技術の発展につながるナノテクノロジーや光・量子科学技術、シミュレーションやe-サイエンス等の高度情報通信技術、数理科学、システム科学技術など、複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進する。

「科学技術イノベーション総合戦略」(平成26年6月24日閣議決定)
第2章第1節4.3.(1)<1>
ターゲット市場や国際的な技術競争等を踏まえ、ゲノムや代謝産物等の解析、データベース構築等の情報基盤の整備、有用遺伝子の特定、DNAマーカーの開発、バイオインフォマティクスや工学技術、ゲノム編集技術の活用等において、基礎と実用化研究の双方向の連携を図りつつ、画期的な商品提供を実現する新たな育種技術の開発等を戦略的に推進する。

9.その他

○本戦略目標においては、基礎植物科学以外の情報科学・工学・農学等の異分野の研究者が積極的に参入し、実質的に協働するための取り組みが不可欠である。特に、人材不足が指摘されるバイオインフォマティクス分野の人材の参画と養成が重要である。また、我が国におけるライフサイエンス分野の研究データ及び成果が効率的に活用されるためには、科学技術振興機構バイオサイエンスデータベースセンター(JST-NBDC)等を最大限に活用することが求められる。
○実証を伴う課題設計のためには、農作物の実地的栽培環境と同等の条件で植物を栽培・管理する環境を備える機関の参画が期待される。また、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代型農林水産業創造技術」等の出口戦略と有機的に連携し、本戦略目標の下で行われる研究の成果が着実に展開されることが期待される。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

課長:行松 泰弘、基礎研究推進室長:岩渕 秀樹、室長補佐:浅井 雅司、基礎研究・機構係長:春田 諒
電話番号:03-5253-4111(内線4386)、03-6734-4120(直通)

-- 登録:平成27年05月 --