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社会における支配原理・法則が明確でない諸現象を数学的に記述・解明するモデルの構築

1.戦略目標名

社会における支配原理・法則が明確でない諸現象を数学的に記述・解明するモデルの構築

2.達成目標

社会における諸現象のうち、現時点で支配原理・法則が明確でなく、数理モデル化ができれば社会に対して大きなインパクトが見込まれる現象について、数学・数理科学の研究者と応用分野の研究者などによる異分野協働などを通じて、数学がもつ抽象性・普遍性を活用し、諸現象に潜む複雑な構造の「本質」部分を数学的に見いだすことにより、以下の実現を目指す。

○現象を数学的に記述するモデルの導出
○導出された数理モデルの実証・検証及び評価のための数学的理論等の構築

3.将来実現しうる重要課題の達成ビジョン

本戦略目標を実施し、2.「達成目標」に記載した研究成果が得られることで、現時点で支配原理・法則が明確ではない現象について、数理モデルを導出することができる。
また、数理モデルを実証、検証及び評価するための新たな数学的理論が構築される。さらに、検証された数理モデルは、その普遍性によって、対象や時代の変化を受けることなく、様々な状況下において利用可能となることが期待される。
対象となる現象と応用分野は、例えば以下が想定される。

・社会現象(経済変動、感染症の伝搬、交通流、電力・通信ネットワークの変動、災害時の住民行動、各種社会インフラの老朽化 等)
・自然現象(気候変動、集中豪雨・地滑り・竜巻・津波等の突発的な自然現象 等)
・生命現象(遺伝子間の相互作用メカニズム、脳内の知覚認識・情報処理メカニズム 等)

上記のような現象について数理モデルを導出することで、例えば以下のことが将来に期待される。

○諸現象に潜む複雑な構造の「本質」部分の抽出、数学的に裏付けられた処理の効率化
複雑な構造の現象をモデル化する際の様々な困難(モデルの複雑化等)を回避するため、その「本質」部分を数学的に見いだし、数理的な根拠をもって簡略化した記述を行うことで、情報量が多く計算機の処理負荷が高い作業を著しく効率化することができる。例えば、比較的単純で安定な構造によって新たな機能発現を期待する新材料の創成が、その構造の「本質」部分を数学的に見いだし精密に制御することにより可能となることや、画像解析処理時間の大幅な短縮、データ分析に要する時間の大幅な短縮などが期待される。

○リスクが顕在化する前の「兆し」の解明、スマートな未然の対応や効果的制御
現象をネットワーク構造の変化と捉えて数理モデル化することで、例えば、ネットワーク構造を有する、電力供給システム、経済システム、製造のプロセス、各種情報サービス等に対して、不安定になる「兆し」等の検出が可能となり、事前の対策や効果的な制御につながることが期待される。
また、限られたデータだけによる経験的モデルでは想定できなかった、まだ発生していない現象の「兆し」の検出が可能になることが期待される。

4.具体的内容

(背景)
近年、社会の情報化・複雑化や計測機器の発達、計算機性能の飛躍的向上等に伴い、生命現象や自然現象、社会現象などに関する情報を得ることが可能となり、これらの現象の複雑さがよく分かるようになってきた。しかし、これらの現象については、支配原理・法則が不明確でモデルを作れないため、なぜそのような現象が起こるのかは十分に分からないまま、うまく対処した経験知の積み重ねによって現象を理解しているものも多い。また、経済やエネルギー、防災などにおいては既に何らかのモデルが用いられていても、個別分野固有の理論的枠組みに基づくモデルだけでは捉えきれないものが増えており、現象の「本質」を理解する上で不可欠な数学・数理科学研究者との連携は必ずしも十分とは言えない。さらに、近年の数学の発展により、これまで応用されたことのない現代数学の理論がこのような現象の「本質」を理解する手掛かりを与え、画期的な成果をもたらす可能性が残されている。
このような状況の中、我が国では平成19年度に戦略目標「社会的ニーズの高い課題の解決へ向けた数学/数理科学研究によるブレークスルーの探索」を設定し、数学・数理科学研究者と諸科学分野の研究者の連携を促進している。この取組からは、純粋数学の手法を現象解明に適用したことで課題解決に発展したこと、特に、様々な現象を記述する数理モデルの構築が連携による注目すべき成果として報告されている。
これらの状況を踏まえ、本戦略目標では、従来の科学技術の延長では解決が困難な社会的課題に取り組み、ブレークスルーを起こすために、純粋数学の研究者が現実社会の課題の中から数学的問題を取り上げ参加することを期待するとともに、数学・数理科学の力が発揮できる「現象の数理モデリング」に注力する。また、数理モデルの導出には、既存のモデルの枠組みを超えて、異なる数学分野の技法を融合することや全く新しい定式化を行う必要もあることから、数学内の様々な分野の研究者間の連携や、異なる数理モデリングにかかわる理論研究者間の連携も不可欠である。

(研究内容)
1)現象を数学的に記述するモデルの導出
社会現象や工学分野などにおける既存のモデル化技術と、現象の「本質」を理解する上で不可欠な数学・数理科学的知見や理論とを融合することで、諸現象に潜む複雑な構造の「本質」部分を見いだし、データが十分にある現象だけでなく、不足している現象についても、それを記述する数理モデルを導出する。
対象となる現象と応用分野としては、例えば社会現象においては、経済変動、感染症の伝搬、交通流、電力・通信ネットワークの変動、災害時の住民行動、各種社会インフラの老朽化等、自然現象においては、気候変動、集中豪雨・地滑り・竜巻・津波等の突発的な自然現象等、また、生命現象においては、遺伝子間の相互作用メカニズム、脳内の知覚認識・情報処理メカニズム等が想定される。
これらの現象を記述する数理モデルの枠組みの例としては、以下のようなものがある。

1:電力網、通信網、神経網、人の接触関係などの現実の複雑なネットワークにおける構造とダイナミクスを表現するネットワークモデル
2:時空間的に異なるスケールのサブシステムが階層を構成するようなシステムを統合的に扱うためのマルチスケールモデルやミクロモデルとマクロモデルの中間に位置づけられるメゾスコピックモデル
3:連続変数と離散変数を含む電子回路や物理的作用と化学的作用を含む生物の組織形成などのように異質なシステムが相互作用するシステムを記述するための、ハイブリッドモデルやマルチフィジックスモデル

また、導出された数理モデルの普遍性を活用し、当初対象としていた現象とは異なる現象に応用することで、様々な分野に横断的に応用可能なモデリング技術へ発展することを目指す。

2)数理モデルの実証・検証及び評価のための数学的理論等の構築
上記1)で導出される数理モデルや既存の数理モデルについて、実際の課題や現象を記述していることを実証・検証するとともに、モデル評価のための数学的理論や技術の構築を目指す。

5.政策上の位置付け(政策体系における位置付け、政策上の必要性・緊急性等)

第4期科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定)では、「III.我が国が直面する重要課題への対応」の「(5)科学技術の共通基盤の充実、強化」において、「数理科学」は「複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術」として位置付けられ、それに関する研究開発を推進することが明記されている。
また、数学イノベーション戦略(中間報告)(平成24年8月科学技術・学術審議会先端研究基盤部会)においては、「複雑な現象やシステム等の構造の解明」、「リスク管理」、「将来の変動の予測」等につながる課題が、数学・数理科学の活用による解決が期待される課題として整理されている。

6.他の関連施策との連携及び役割分担・政策効果の違い

戦略目標「社会的ニーズの高い課題の解決へ向けた数学/数理科学研究によるブレークスルーの探索」(平成19年度設定)に基づいて発足した独立行政法人科学技術振興機構(JST)「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」研究領域で、純粋数学をはじめとする幅広い分野の研究者の協働により、新たな数理モデルをはじめ、優れた成果が出始めている。本戦略目標では、同領域と連携しつつ、純粋数学をはじめとする幅広い分野の研究者を取り込みながら、数学と諸分野の協働により社会課題の解決を図る取組を加速していく。
また、平成23年度より文部科学省が大学等と共催している「数学・数理科学と諸科学・産業との連携研究ワークショップ」(平成23年度、24年度は合計57件、参加者合計3,211名)や、文部科学省委託事業「数学・数理科学と諸科学・産業との協働によるイノベーション創出のための研究促進プログラム」(平成24年度開始)においては、諸科学・産業における数学・数理科学的知見の活用による解決が期待できる課題を積極的に発掘して諸科学・産業との協働による研究テーマを具体化し、具体的な研究へとつなげるための活動を行っている。これらの活動を通じて議論が深められた課題や研究テーマが本戦略目標での研究に発展することが期待される。

7.科学的裏付け(国内外の研究動向を踏まえた必要性・緊急性・実現可能性等)

JST研究開発戦略センター(CRDS)の報告書※1によると、我が国におけるモデリングや解析技術の研究は、各大学の数理工学科や複雑理工学科、内閣府最先端研究開発支援プログラムの最先端数理モデルプロジェクトなどにおいて進められており、基礎研究の水準は高いと考えられる。今後は、生物医学におけるゲノム情報などのハイスループットデータの蓄積、脳科学における多計測脳波データの取得、地理情報学におけるリアルタイムの交通・輸送情報データの計測など各分野において大量のデータ取得が可能となってきている中、これらのデータから実際のシステムの本質を抽出し数理モデリングを行う技術の確立が課題となっている。
また、同報告書では、米国のNSF、NIH、USDA、及び英国のBBSRが共同で、約15億円を投じて2012年から5年間のプロジェクト「感染症の生態学と進化」を発足しており、その目標の一部として、感染症抑制のための生態学的、進化学的、社会生態学的原理の数理モデリングを掲げていること、米国DOEは、応用数学分野のプロジェクト編成の枠組みにおける指針において、今後どのような数理モデリング研究やアルゴリズム研究にファンディングを配分していくのかを示していることが記載されている。
数理モデリングを中核に据えた本戦略目標を設定することで、各応用分野の研究者、数理科学研究者、数学研究者等を集めて数理モデリング研究に注力させ、国際競争力の更なる向上を図る必要がある。

※1 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター, 『研究開発の俯瞰報告書 システム科学技術分野(2013年)』

8.検討の経緯

平成21年度の文科省委託調査(委託先:九州大学ほか)において、大学の数学・数理科学研組織(175組織)、他分野研究者(5,000名)、企業(1,000社)へのアンケート調査及び国内外有識者(65名)へのヒアリング調査を踏まえた調査報告がされ、JST戦略的創造研究推進事業で実施中の「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」研究領域の発展的継続が提言された。
数学イノベーション戦略(中間報告)においては、「複雑な現象やシステム等の構造の解明」、「リスク管理」、「将来の変動の予測」等につながる課題が、数学・数理科学の活用による解決が期待される課題であるとされた。
平成25年に出されたCRDSの報告書において「先端的数理モデリング」が5つの研究開発領域の1つとして取り上げられた。その中において、数理モデリングは、現象や行動のモデル化プロセス自体を対象とする横断的学術領域であること、また、対象の適切なモデル化は、現象の制御、将来予測、科学的意思決定の前提であり、多くの学術的、社会的課題は、パラメータなどモデルの要素の条件付最適化を通じて達成されること、等が指摘されている。
本戦略目標はこれらの検討の結果を踏まえて作成したものである。

9. 留意点

本戦略目標に基づく研究の実施に当たっては、数理モデリングに関わる本領域の研究者や関連する国内外の応用分野の研究者等が一定期間集まり、社会における数理モデル化を目指すべき現象や数理的アプローチなどについて集中的に議論し、世界の社会的重要課題、研究動向を把握できるような場を設け、新たな展開へつなげていくことも重要である。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

課長:安藤 慶明、基礎研究推進室長:岩渕 秀樹、専門職:森島 健人、基礎研究・機構係:春田 諒
電話番号:03-5253-4111(内線4386)、03-6734-4120(直通)

-- 登録:平成26年02月 --