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疾患実態を反映する生体内化合物を基軸とした創薬基盤技術の創出

1.戦略目標名

 疾患実態を反映する生体内化合物を基軸とした創薬基盤技術の創出

2.達成目標

 疾患実態を反映する生体内化合物(二次代謝を含む代謝産物及び微生物由来・食品由来の天然有機化合物の総称)を出発点とする新たな創薬技術を確立するため,ナノテクノロジー,合成化学,工学等の我が国に強みのある分野とライフサイエンスの融合研究により,以下の目標の達成を目指す。

○ ナノテクノロジー,合成化学等を活用した生体内化合物の標的分子(タンパク質等)を効率的に同定する技術の創出と高度化
○ 疾患実態を反映する生体内化合物を出発点とした,創薬標的となり得る機能作用点の特定及びその制御を可能とする技術の創出
○ 臨床現場での感染症,疾病等の診断への応用に向けた,疾患実態を反映する生体内化合物(バイオマーカー)を同定・検出する技術の創出

3.将来実現し得る重要課題の達成ビジョン

 本戦略目標において「2.達成目標」に記載した成果が得られることにより,生命科学研究の成果をライフイノベーションへと展開する際の従来の主要戦略の一つである,疾患の原因(遺伝子)を探す「疾患メカニズム解明」に加えて,疾患制御技術の確立を目指した「治療メカニズム解明」を統合した研究が可能となる。これにより,疾患実態を反映する生体内化合物を出発点とした創薬技術の確立を世界に先駆けて行うことを目指す。
 本事業終了後に,これらの研究成果の技術をアカデミア・企業等で更に展開・発展させ,実用化につなげることにより,例えば
・生体内化合物の生体内標的分子スクリーニングの標準法の確立
・上記方法の医薬品等の人工合成化合物に対する応用を行い,複数経路による生理活性や医薬品の有害副作用の同定
・化合物の生体内標的分子スクリーニングを用いた創薬開発支援基盤の設立
・生体内化合物の生理機能の作用点解明等による,細胞状態を決定する新しい生体システム制御概念に基づく創薬候補の探索技術の創出
・臨床サンプルからのメタボロームプロファイルの測定による疾患バイオマーカーの同定
・臨床サンプルからの簡易測定による感染症の病原体の同定や病態進行度等の診断
・微生物,動植物からの生理活性上あるいは病態上で重要な生体内化合物の同定に基づく,機能性食品や医薬品の開発 等
の実現を目指す。これらの実現によって従来の創薬・診断・治療法を覆す新しい技術・手法を提示し,第4期科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定)の「革新的な予防法の開発」,「新しい早期診断法の開発」,「安全で有効性の高い治療の実現」に貢献することを目指す。
 さらに生命科学全般としても,一種類の生体内化合物が複数の作用点を持つことで生じる相乗効果による生理活性や,これまで発見されていない代謝経路・分子標的を明らかにすることにより,生体内化合物を中心に見た分子ネットワークを解明し,新しい生体の制御概念を創出するという波及効果が期待される。

4.具体的内容

(背景)
 疾患に対する従来の研究は,疾患原因をゲノム情報に求め,そのメカニズム解明を中心に進められてきた。そのためDNA の変異によるRNA 発現量や配列の変化をターゲットとしたゲノム・トランスクリプトーム解析による疾患メカニズム解明,タンパク質の立体構造情報を基にした創薬開発を中心に進められてきた。
 代謝産物はゲノム情報の最終的な表現型であり,疾患実態を反映するものであるが,その標的や機能の解明に向けた技術が確立されていなかったため研究が進んでこなかった。しかしながら,近年,質量分析計やNMR を用いた解析法が開発されるなど研究が可能となりつつあり,ポストゲノム研究として注目されてきている。
 我が国では,これまでポストゲノム研究として平成17年度の戦略目標「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」等の設定により研究を進めてきた。具体的には,植物やげっ歯類などを研究対象として細胞内のある特定の代謝変化や代謝経路を解析し,代謝産物の機能メカニズムについて,原因遺伝子やシグナル分子等を生物学的に解明することにより,特定の細胞状態における代謝産物のプロファイル情報の取得や既存代謝産物のデータベース構築等を行ってきた。また,疾患コホートや網羅的な有用代謝産物の探索についても,試験的に開始しており,特定の疾患において疾患実態を反映するバイオマーカーとして有用な代謝産物の発現情報が見つかりつつある。このように代謝産物の発現計測によるバイオマーカーといった発現情報やデータベースとしての利用研究は進みつつある。
 しかし,代謝産物の具体的な生理活性,病態に関与する場合の機能やその制御因子・機構の解明はまだ進んでいない部分が多く,現状でもアミノ酸,核酸類,糖類,脂質等のヒト代謝産物の約7 割の機能が明らかになっていない。また,ヒトの体内には腸内細菌や皮膚常在菌等の微生物由来や食品として摂取された植物由来の天然有機化合物が存在し,生存に欠かせない役割を果たしている。
 これらの生体内化合物(代謝産物及び微生物由来・食品由来の天然有機化合物の総称)について,がんや感染症等の疾患時に特異的に生成される生体内化合物は疾患のバイオマーカーとして利用でき,更に生体内で薬のように機能する分子はそのまま創薬につながる可能性を持っている。加えて,疾患等の異常状態や病原菌において必須の機能を担っている場合には,それらの生体内化合物と結合する標的分子(タンパク質等)は創薬ターゲットになり得る。このため,これらの生体内化合物を出発点とし,生体内化合物の創薬やバイオマーカーへの利用,タンパク質等の標的分子の探索・制御機構解明に向けて,これまでの研究基盤を活用して研究を進めていく必要がある。
(研究内容)
 研究に当たっては,従来の疾患研究による,疾患に特異的な遺伝子の産物(RNA やタンパク質)の知見を生かしつつ,ナノテクノロジーや合成化学,工学等の我が国に強みがある分野とライフサイエンスの融合,連携が求められる。例えば,ナノテクノロジーや合成化学を駆使したアフィニティーカラム・ビーズ等による低分子化合物の標的分子同定技術と,生命科学や医科学におけるゲノム等の網羅的研究の密接な連携を図り,「化合物・合成経路研究(者)が主導する医療」の実現のための技術等の創出を目指す。具体的には、以下の研究を想定する。
○ ナノテクノロジー,合成化学等を活用した生体内化合物の標的分子(タンパク質等)を効率的に同定する技術の創出と高度化
・生体内化合物に結合するタンパク質等の標的分子の効率的な精製技術等の創出
・上記技術を応用したがん,感染症,生活習慣病,神経疾患,免疫・炎症性疾患等の疾患実態を反映する生体内化合物やその関連酵素,輸送体等の単離・精製技術の創出
○ 疾患実態を反映する生体内化合物を出発点とした,創薬標的となり得る機能作用点の特定及びその制御を可能とする技術の創出
・がん,感染症,生活習慣病,神経疾患,免疫・炎症性疾患等の臨床検体のメタボローム解析とゲノミクス,エピジェネティクス等との統合による疾患実態を反映する生体内化合物の同定とその機能作用点の特定のための技術創出
・疾患モデル動物を用いた基質・酵素・代謝産物等が形成する生体内の作用点に基づく疾患制御概念の検証
○ 臨床現場での感染症,疾病等の診断への応用に向けた,疾患実態を反映する生体内化合物(バイオマーカー)を同定・検出する技術の創出
・血液,唾液,尿等の臨床検体を用いたメタボローム解析による疾患代謝プロファイリング技術及びバイオマーカーの同定技術の創出
・臨床検体における疾患実態を反映する生体内化合物の高感度測定法(サンプリング前処理,測定,情報処理等)と定量分析技術の創出及び機器への応用

5. 政策上の位置付け(政策体系における位置付け,政策上の必要性・緊急性等)

 第4期科学技術基本計画では「革新的な予防法の開発」として,「臨床データ,メタボローム,ゲノム配列の解析等のコホート研究を推進し,生活習慣病等の発症と進行の仕組みを解明することで,客観的根拠(エビデンス)に基づいた予防法の開発を進める。さらに,疾患の予兆を発見し,先制介入治療(先制医療)による予防法の確立を目指す」こと,「新しい早期診断法の開発」として,「早期診断に資する微量物質の同定技術等の新たな検出法と検出機器の開発,新たなマーカーの探索や同定など,精度の高い早期診断技術の開発を推進する」こと,また「安全で有効性の高い治療の実現」として,「新薬の開発においては,動物疾患モデルやiPS 細胞による疾患細胞等を駆使して疾患や治療のメカニズムを解明し,新規創薬ターゲットの探索を行う必要があり,そのために生命科学の基礎的な研究を充実,強化する」ことが重要とされている。
 これらの実現には,定量的計測によるがんや感染症等の診断・進行度判定やバイオマーカーとしても使用でき,化合物として創薬シーズにもなる生体内化合物をターゲットとした研究を進めることが効果的であると考えられる。特に,革新的な創薬スクリーニング法を実現するための技術は,国内研究者,製薬企業等において国際競争力を保ち,新しい創薬シーズを生み出し続けるには必須であり,本戦略目標で狙う生体内化合物の標的分子同定技術は,その中核となり得る重要な技術として研究を進めることが必要である。

6.他の関連施策との連携及び役割分担・政策効果の違い

 現在広く普及している創薬技術は,化合物ライブラリーを用いるハイスループットスクリーニング系であり,最先端研究基盤事業「化合物ライブラリーを活用した創薬等最先端研究・教育基盤の整備」や文部科学省創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業等で集中的に開発・高度化を行うとともに,技術や施設・設備を共用し,創薬研究を支援している。本戦略目標では,それらを活用しつつ,創薬へつなぐための生体内化合物とタンパク質等の標的分子を効率的に同定する新しい基盤技術創出のための研究を遂行する。
 また,生体内化合物の研究では,質量分析を用いたバイオマーカー探索事業や網羅的な探索拠点は欠かすことのできない取組であり,慶應義塾大学の先端生命科学研究所や国立大学法人神戸大学の質量分析総合センター等の国内の研究所で自主的に開始されている。しかし現段階では,多施設共同での大規模な生体内化合物の比較解析を行うための標準的な方法・技術や前処理方法が確立されておらず,多施設で収集した血液,唾液,尿等のサンプルを統合して解析することができない。このため,新たな技術開発が必要であり,本戦略目標で生体内化合物の解析を行う標準技術を創出する。また,多施設共同で行うためには,臨床現場で医師が簡易,迅速に操作,解析できる技術が必要となる。そこで,本戦略目標において,臨床現場での診断活用を目指した疾患実態を反映する生体内化合物(バイオマーカー)を同定・検出する技術を創出し,オールジャパンとしての解析に貢献する。
 以上のとおり,既に複数の研究機関で推進されている既存の大規模な疾患実態を反映する生体内化合物の網羅的な探索をする事業と相互補完により効果的・効率的な推進を目指す。

7.科学的裏付け(国内外の研究動向を踏まえた必要性・緊急性・実現可能性等)

 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(JST/CRDS)の報告書※1 によると,生体内化合物の解析を基盤とするメタボローム研究は欧米を中心に基盤整備が進んでいる。まず,欧州では,2008年にはオランダのライデン大学にメタボロミクスセンター(5年間で約50億円)が整備され,これに続き,2010年にはドイツ,フランスでもメタボロミクスの国家プロジェクトが相次いで立ち上がっている。北米をみると,2012年に米国で国立衛生研究所(NIH)がメタボロームの既存3 拠点に約7億円 を供給,今後5年間で約28億円を投資する計画を発表している。また,カナダでも2003年に約7.5億円を投じてアルバータ大学にヒューマンメタボロームプロジェクトが設立されている。この他,2007年にオーストラリアにおいて「メタボロミクス・オーストラリア」(5年間で約80億円)によって5大学が中核拠点として整備されている。このように各国においてメタボローム研究の重要性を認識し,特に近年は,がんなどの疾患との相関に関する研究開発に注力した研究投資を積極的に行っている。
 こうした背景のもと,論文の輩出状況を見ると2012年に「代謝(metabolo*)」が含まれる我が国の論文シェアは米国,ドイツに次いで3位に位置付けられている※2。しかし,JST/CRDS の報告書※1 では「日本は基礎研究分野では,質量分析等,個々の技術にこそ強みはあるものの,総体としては米国等との大きな差が確認される。この傾向は応用に向かうほどなお強く,今後競争力の低下が危ぶまれている。」とされている。
 一方,メタボローム解析に基づく創薬基盤技術に関わる化学生物学(ケミカルバイオロジー)分野においても,JST/CRDSの報告書※1 によると「日本は欧米の水準からかなりの距離を置かれている」のが現状である。これには幾つかの理由が挙げられるが,「日本においては各学会による縦割り的な分野の分断があるため,横断的な研究を推進する地盤が築かれておらず,ケミカルバイオロジー研究を担う人材の育成がこれまで十分になされていなかったことも無視できない。」との指摘もされている。
 日本は合成化学の分野において,ノーベル賞受賞等に顕著に表れているような強みを有しており,ここ数年,日本初の標的分子同定技術が大学,研究機関の合成化学の研究者により開発されてきている。このような状況を踏まえ,政策的にこれらの研究者を医学・創薬研究分野へ誘導し,化学・工学と生物学の融合研究を推進することで,我が国の製薬産業等における国際競争力を維持し得る成果を創出するとともに,人材育成を含む地盤を築くことが肝要である。
 現状では,新薬の開発能力がある地域は,日米欧の3 極のみで,アジアでは我が国だけが新薬の開発実績を有する。メタボローム解析を基盤とした研究は,一つの因子の発見によって創薬等のブレイクスルーにつながる可能性を秘めており,本戦略目標への早期の着手により成長の著しい他のアジア諸国に対する優位性をこれまで以上に保つことが期待される。

※1 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター,『ライフサイエンス分野 科学技術・研究開発の国際比較2012版』,2012
※2 トムソン・ロイター「WEB OF KNOWLEDGE」
本戦略目標に関するキーワード「代謝(metabolo*)」を設定し,2012年の原著論文数を検索した結果に基づく。

 

8.検討の経緯

 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会のライフサイエンス委員会(平成24年4月20日)において「今後取り組むべきライフイノベーションに関する研究課題について」議論を重ねた結果,「新しい早期診断法の開発」,「安全で有効性の高い治療の実現」に必要な研究課題としてメタボローム関連研究が挙げられ,代謝研究等の医学への展開が望まれた。それを踏まえて平成24年7月13日に,ナノテクノロジー,有機化学や臨床医学との学際的連携を目指すワークショップ「JST-CRDS 代謝研究検討ワークショップ」をJST/CRDSが開催し,代謝研究分野の全容把握と長期的に行うべき研究課題,5年程度で解決を目指すべき研究課題の絞り込みが行われた。
 また,各大学の自主的な取組においても,平成24年12月18日に「関西疾患メタボロミクスシンポジウム」(大阪大学グローバルCOEプログラム「オルガネラネットワーク医学創成プログラム」,神戸大学グローバルCOEプログラム「次世代シグナル伝達医学の教育研究国際拠点」共催)が開催され,疾患研究に対する代謝研究全体の俯瞰(ふかん),疾患研究分野への応用例の提示等が行われるなど,代謝研究と臨床医学研究をつなぐための議論が行われた。また,がん研究に特化した代謝解析の応用について,平成25年1月17~18日にかけて日本癌(がん)学会が「がんと代謝シンポジウム2013」を開催し,がん研究における創薬や診断法開発における代謝研究が重要であると議論された。
 本戦略目標は,これらの検討の結果を踏まえて作成したものである。

9. その他

 本戦略目標では,生体内化合物を出発点とする研究を推進し,創薬や治療の新概念を創出するとともに,他分野の知見や技術を創薬・医療開発に取り込むことによる斬新な手法の創出や,医学応用が期待されている。本研究領域では,ライフサイエンス以外の分野で活躍している研究者や企業等の研究者の参加も得るとともに,臨床医師や創薬開発者とのコミュニケーションを密にし,日本発の新技術確立を目指すことが望まれる。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

課長:安藤 慶明、基礎研究推進室長:上田 光幸、室長補佐:野田 浩絵、基礎研究・機構係長:浜田 勇
電話番号:03-5253-4111(内線4,386)、03-6734-4073(直通)