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再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けた革新的エネルギーキャリア利用基盤技術の創出

1. 戦略目標名

 再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けた革新的エネルギーキャリア利用基盤技術の創出

2. 達成目標

 水素エネルギー社会の到来を控え,水素含有率,低環境負荷,取扱いの容易性等において総合的にエネルギーキャリア(エネルギーの輸送・貯蔵のための担体)としての利用にふさわしいものとなり得る窒素化合物や炭化水素,無機水素化物等の高効率変換・利用技術を創出する。そのために,以下の目標の達成を目指す。

○再生可能エネルギーを効率的に化学的なエネルギー(エネルギーキャリア)に変換するための基盤技術の創出
○エネルギーキャリアから,電気エネルギーを取り出し利用するための基盤技術の創出
○エネルギーキャリアを安全に輸送・貯蔵する技術の創出

3. 将来実現し得る重要課題の達成ビジョン

 本戦略目標下において「2.達成目標」に向けた研究成果が得られることにより,太陽光,風力等の再生可能エネルギーを様々なエネルギーキャリアに変換するとともに,エネルギーキャリアを安全に輸送・貯蔵し,必要に応じて電力や動力,又は化成品原料として利用することを可能とする基盤技術が確立されることを目指す。これらの研究成果を民間企業につなげ,更に国内における再生可能エネルギーの負荷平準化に応用することにより,電力グリッドによらない再生可能エネルギーの新たな利用形態の確立を目指す。これにより,再生可能エネルギーを安定的かつ積極的に利用する社会の実現,水素エネルギー社会の到来に資するシステムの構築に貢献する。
 また,本戦略目標において得られる技術を活用し,再生可能エネルギーの賦存量(ふぞんりょう)が大きい諸外国に技術を輸出することで相手国の経済成長に貢献するとともに,相手国の再生可能エネルギーを化学エネルギーの形態で大量に輸入することを可能とし,国内外の再生可能エネルギーの安定的利用に貢献することを目指す。
 これにより第4期科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定)に掲げられた「エネルギー供給源の多様化と分散化」,「長期的に安定的なエネルギー需給構造の構築と世界最先端の低炭素社会の実現」の達成に貢献する。

4. 具体的内容

(背景)
 我が国の電力需要を賄う一次エネルギー源として,再生可能エネルギーが占める割合を大幅に増やすためには,再生可能エネルギーが自然現象によることに起因する課題を克服しなくてはならない。例えば太陽光,風力等の再生可能エネルギーが得られる地域は国内外において偏っており,都市などのエネルギー消費地から遠隔であることが多い。季節や時間といった月・日・時間単位の変動が大きく,電力の需要と供給のピークが一致しない等の課題がある。
 これら再生可能エネルギー特有のいわば地理的・時間的な課題を克服するための方策として,再生可能エネルギーによって生産される電力や熱を用いた化学変換により,その反応生成物にエネルギーを蓄え,エネルギーキャリアとして活用することが考えられる。これによりエネルギーキャリアを介してエネルギーを安全に輸送・貯蔵し,必要に応じて電力や動力,又は化成品原料として利用することが可能となる。変動の大きい再生可能エネルギー発電の負荷の平準化のためには,蓄電池以上に長期間にわたりエネルギーの出し入れが可能となるエネルギーキャリアの活用が有効である。
 これまでの水素関連研究により,高効率化や低コスト化の課題は残るもののアルカリ水電解による水素生成技術はある程度確立している。しかし本格的な水素エネルギー社会を見据えると,水素の輸送・貯蔵における大きな課題が残る。水素を大量に輸送するためには,-253℃まで冷却して液化しエネルギー密度を上げなくてはならないが,これには大きなエネルギーとコストを要する。海上の大規模輸送のみならず燃料電池自動車や家庭用燃料電池に供給するために都市に張り巡らすインフラ構築を考慮すると,これに代わる,水素含有率,低環境負荷,取扱いの容易性等に優れたエネルギーキャリアの利用技術を創出することが必要である。
(研究内容)
 本戦略目標の達成には,これまでの水素関連研究とは異なった,新たな着想に基づく独創的研究が必須であり,触媒化学,電気化学,材料科学,プロセス工学などから新規の研究者が参入することが重要である。これらの研究者が同一の目標の下に集結・連携して各分野の知見を融合させた新しいエネルギーキャリア研究に挑むことによって,既存研究の延長線上にはない高効率なエネルギーキャリア合成・利用の基盤技術の確立を目指す。具体的には,以下の研究を想定する。
【エネルギーを変換する】
(1) エネルギーキャリアを効率的に直接合成するための触媒化学的・電気化学的な技術やその機構解明のための研究
(2) 太陽熱や地熱を用いた熱化学プロセスによりエネルギーキャリアを合成するための研究
(3) その他,水素含有率,低環境負荷,取扱いの容易性等に優れたエネルギーキャリアとなる新規材料の創出・設計指針の構築や,光化学などにより水素や水を効率良くエネルギーキャリアに変換するための研究
【エネルギーを利用する】
(1) エネルギーキャリアを燃料として用いて電気エネルギーを取り出す新しい直接燃料電池の研究
(2) エネルギーキャリアから低温で高効率に水素を取り出す脱水素技術に関する研究
(3) エネルギーキャリアを利用して有用化成品を直接合成する新規プロセスの研究
【エネルギーを安全に輸送・貯蔵する】
各エネルギーキャリアを安全に長距離輸送・長期間貯蔵するための研究

 なお,研究が先行している有機ハイドライド,アンモニアについては,既存の合成方法とは全く異なる,例えば電気化学と触媒化学を融合させた新規電解合成による水素を介さない有機ハイドライド直接合成方法,希少金属や入手困難な還元剤を用いることなく窒素三重結合の解離を可能とする新規触媒開発によるアンモニア合成方法などを想定する。

5. 政策上の位置付け(政策体系における位置付け,政策上の必要性・緊急性等)

 第4期科学技術基本計画では,「グリーンイノベーションの推進」は,我が国の将来にわたる成長と社会の発展を実現するための主要な柱の一つとして掲げられている。また,「2-3.グリーンイノベーションの推進」において,「製造・輸送・貯蔵にわたる水素供給システム」の研究開発とその海外展開が課題として挙げられている。本戦略目標では,水素をそのまま利用することに加えて,エネルギーの輸送・貯蔵・利用を可能とする新たなエネルギーキャリア利用技術を創出するための研究開発を国として推進することで,より多角的に再生可能エネルギーの導入拡大を図るものである。こうした取組は,第4期科学技術基本計画の「安定的なエネルギー供給と低炭素化」,「エネルギー利用の高効率化及びスマート化」及び「社会インフラのグリーン化」に貢献する。
 エネルギー基本計画(平成22年6月18日閣議決定)では,「新たなエネルギー社会の実現」として,「中長期的には水素エネルギーを有効活用する社会システムを構築していくこと」の重要性を指摘した上で「水素エネルギー社会の実現」を掲げている。当面は「化石燃料由来の水素を活用し,化石燃料の有効利用を図るとともに,製鉄所等からの副生水素等を活用する」が,将来的には「非化石エネルギー由来水素の開発・利用を推進する」としており,このためには本戦略目標下におけるエネルギーキャリアの利用基盤技術の確立が不可欠である。
 さらに,「平成25年度科学技術重要施策アクションプラン」(平成24年7月19日総合科学技術会議 科学技術イノベーション政策推進専門調査会)においても,グリーンイノベーションの項目の重点的取組として,「革新的なエネルギー供給・貯蔵・輸送システムの創出」が掲げられている。
 本戦略目標はこれらに貢献するものである。

 

6. 他の関連施策との連携及び役割分担・政策効果の違い

 文部科学省・経済産業省合同検討会で,本研究開発分野の両省連携の重要性が認識されるに至った。経済産業省(経産省)では企業等における再生可能エネルギーからの低コスト水素製造技術開発等を推進していく一方,文部科学省(文科省)では革新的エネルギーキャリア変換・利用技術等を中心に研究を実施する。
 文科省では,本戦略目標と独立行政法人科学技術振興機構(JST)の先端的低炭素化技術開発(ALCA)で分担・連携してエネルギーキャリアの研究開発を推進する。具体的には以下のとおりである。
 エネルギーキャリアの実現に求められる研究開発は大きく二つのフェーズに分けられる。一つは産業界が既に着目しているものの,社会普及の前に大規模化や低コスト化が大きな障壁として立ち塞がり,単独企業の努力では突破不可能で産学連携による技術基盤の確立が不可欠なものである。これに該当するのが有機ハイドライド及びアンモニアである。ALCAでは,この状況を打破するために,有機ハイドライド及びアンモニアを対象に最長10年の産学官の混成メンバーによる研究開発を実施し,経産省事業や産業に橋渡しすることを目指す。具体的には,例えば有機ハイドライドでは,電解合成,水素化・脱水素,有機ハイドライド燃料電池の研究開発を,アンモニアでは,熱化学合成,脱水素,アンモニア燃料電池の研究開発を行う予定である。
 もう一つのフェーズは,いまだ実用性は可能性の域にあるものの利用技術を確立すれば有機ハイドライドやアンモニアを凌駕(りょうが)する新たなエネルギーキャリアとしての地位を確立できる新規物質,あるいは,有機ハイドライドやアンモニアに関してこれまで想定されてきた合成方法を根底から覆すような技術の創出である。本戦略目標ではこのフェーズに焦点を絞る。
 本戦略目標及びALCAで得られた研究成果は,文科省及び経産省が共同で設置するガバニングボードで共有し,有望な基礎技術が開発されれば速やかに次のフェーズへと橋渡ししていく等,単独のプロジェクトに完結させない連携体制をとる。
 また,本戦略目標と同年に設定される戦略目標「選択的物質貯蔵・輸送・変換等を実現する物質中の微細な空間空隙構造制御技術による新機能材料の創製」とも選択的物質貯蔵・輸送・変換等を可能にする革新的な空間空隙材料の創製という観点で,得られた知見を共有するなど効果的な研究体制を推進していく必要がある。

7. 科学的裏付け(国内外の研究動向を踏まえた必要性・緊急性・実現可能性等)

 我が国は,太陽電池発電所や風力発電所の設備に関する技術の輸出大国の一つであるが,そのエネルギーを輸入するための技術開発は皆無に等しい。国際的ビジョンにおける新エネルギー生産・輸送・貯蔵・利用に関する研究投資は多くなく,基礎技術から社会工学的視野までを俯瞰(ふかん)した研究が必須である。また,水素国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)以降の電気化学,触媒化学,材料科学,プロセス工学などの個々の分野の進展と,その後の国立大学法人山梨大学の燃料電池ナノ材料研究サテライト拠点や国立大学法人九州大学の次世代燃料電池産学連携研究センターなどの集中的研究拠点の整備が総合的に結実した結果,燃料電池では世界最高水準の研究開発を誇っている。燃料電池の要素技術開発によって得られた基礎的知見は,エネルギーキャリアの研究開発につながるものが多い。さらに,エネルギーキャリアの基盤技術において鍵となる触媒に関しても,材料開発及び有機合成を中心とする反応研究で極めて高い研究水準を維持しているとともに,米国に次いで世界第 2 位の触媒生産国であり,基礎研究と産業の双方において世界をリードしている※1。
 エネルギーキャリアを共通目標に掲げ,関連分野の世界最高水準の科学的ポテンシャルを活用しこれらの連携・融合を一層促進することによって,我が国はエネルギーキャリアの基盤技術を世界にさきがけて確立することができる。
 米国エネルギー省(DOE)では,太陽エネルギーを燃料に変換する技術(ソーラーフュエル)や反応の触媒研究などが実施されている。また,欧州第七次研究枠組み計画(FP7)においても,ソーラーフュエルや電解あるいは熱による水素製造に関するプロジェクトが実施されている。こういった国際的な研究開発動向の中,日本,中国,ドイツ,米国におけるエネルギーキャリアに関する研究論文数はここ数年増加している。日本は米国,中国,ドイツに次いで第4位を維持するものの,その数は米国の1/4,中国の1/3 にとどまり,5年前よりも差は拡大しつつある※2。
 日本では,過去にWE-NET において,水素の利用技術を中心としてエネルギーキャリアに取り組んだ経緯もあるが,最近の米国DOEや欧州での取組を踏まえ,さらに関連分野の科学的水準が世界トップクラスであるというポテンシャルを生かして,再生可能エネルギーの地理的・時間的な課題を克服し,それを輸送・貯蔵が可能な状態に効率的に変換して消費地に安定供給するための技術を確立する必要がある。

※1 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター,『ナノテクノロジー・材料分野 科学技術・研究開発の国際比較 2011年版』,2011
※2 トムソン・ロイター「WEB OF KNOWLEDGE」

本戦略目標に関するキーワードを設定し,2007~2011 年の原著論文数を検索した結果に基づく。

8. 検討の経緯

 東日本大震災復興の観点から,再生可能エネルギーを積極的に利用するための関連技術の必要性を認め,独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(JST/CRDS)環境・エネルギーユニットにおいて検討を開始し,再生可能エネルギーを化学エネルギーに変換,また化学エネルギーから電力へ変換し利用するために取り組むべき技術課題や,研究開発の方向性などについて,有識者へのインタビューなどによる予備調査を実施した。その後,詳細検討チームを発足させ,科学技術未来戦略ワークショップ「再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けたエネルギーキャリアの基盤技術」を開催(平成24年7月28日)した。多分野の研究者により具体的な研究開発課題及び推進方策等について検討を行い,
・再生可能エネルギー又はそれを基とした電力からのエネルギーキャリアへの変換技術における研究課題
・エネルギーキャリア間やキャリアから電力や動力への変換技術の研究課題
などの俯瞰整理を進めた。これらの検討結果を取りまとめ,戦略プロポーザル「再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けたエネルギーキャリアの基盤技術」が平成25年3月に発行される予定である。
 他方,文科省では,経産省との合同検討会を開催し,上記のJST/CRDS の検討も踏まえながら両省が連携して2030年頃の実用化を目指して取り組むべき革新的技術について議論し,その一つとして「エネルギー貯蔵・輸送」が特定されるに至った。さらに,合同検討会の下に本技術を議論するため両省と学識経験者等からなるワーキンググループを設置し,平成25年2月までに7回にわたり会議を行って,両省の役割や連携の仕組みについて議論を続けてきた。
 本戦略目標は,これらの検討の結果を踏まえて作成したものである。

9. その他 

 

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

課長:安藤 慶明、基礎研究推進室長:上田 光幸、室長補佐:野田 浩絵、基礎研究・機構係長:浜田 勇
電話番号:03-5253-4111(内線4386)、03-6734-4073(直通)

-- 登録:平成25年03月 --