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環境・エネルギー材料や電子材料、健康・医療用材料に革新をもたらす分子の自在設計『分子技術』の構築

1. 戦略目標名

環境・エネルギー材料や電子材料、健康・医療用材料に革新をもたらす分子の自在設計『分子技術』の構築

2. 達成目標

 「分子技術(物理学、化学、生物学、数学等の科学的知見を基に、分子を設計、合成、操作、制御、集積することによって、分子の特性を活かして目的とする機能を創出し、応用に供するための一連の技術)」の構築を目指し、蓄電デバイス、有機薄膜太陽電池等の分子を用いた超低消費電力・超軽量デバイスの実現や、ドラッグデリバリーシステム、機能性医療材料などの革新的な治療方法の確立等の基盤技術となる以下の技術体系を構築する。

○「設計・創成の分子技術(精密合成技術と理論・計算科学との協働により、新規機能性物質を自在に設計・創成する技術)」に係る技術体系の構築

○「形状・構造制御の分子技術(分子の形や構造を厳密に制御することにより、新たな機能の創出に繋げる技術)」に係る技術体系の構築

3. 将来実現しうる重要課題の達成ビジョン

 有機ELディスプレイに代表されるように、既に今日様々な部品や機器が分子素材である“ソフトマテリアル”に移行しつつある。これは、低環境負荷、資源制約への対応、そして、高い生体親和性といった人間社会全体の課題に対して本質的な解決策をソフトマテリアル、すなわち、それを実現する「分子技術」が与えることを示唆するものである。

 本戦略目標下において「2.達成目標」に記載した研究成果が得られることで、分子性物質としての機能設計が可能となり、その結果として幅広い社会ニーズの課題解決に適用することが可能となる。関連する学問分野の研究者と産業界との協力体制を構築することにより、第4期科学技術基本計画に掲げられたグリーンイノベーション、ライフイノベーションの推進に向け、例えば、下記の成果が事業終了後5年程度で得られることを目指す。

●『ソフトマテリアルで構成された電子機器』

 既存の半導体や金属に置き換わり、導電性制御が可能となる有機材料が電子機器の素材として使用され、低環境負荷の超低消費電力のコンピュータや超軽量携帯情報端末が創出される。

●『超低消費電力かつ資源再利用に対応した太陽電池フィルム』

 分子材料を用いた素材原料や製造プロセスの転換による超低コストかつ低環境負荷の太陽電池が創出される。

●『ドラッグデリバリーシステム等を活用した治療』

 感知機能や有効成分の放出を調整できる機能を備えた高度な薬物送達(ドラッグデリバリーシステム)の開発や、組織や臓器の再生に必要な機能性医療材料の3次元での構造化などにより、安全で有効性の高い治療が実現する。

 上記の他、脱化石資源、高密度二次電池、高度環境モニタリング、低コスト造水・水浄化といった分野での実用化が考えられる。

4. 具体的内容

(背景)分子科学から分子“技術”へ!

 近年、例えば、低環境負荷の発電技術として注目されている有機太陽電池の開発では、フラーレンという分子からなる薄膜のn型半導体としての導入が大きな進展に繋がっている。また、創薬の世界では、分子の構造や形状をコンピュータ上で設計することにより、副作用が大幅に軽減され、疾患部をピンポイントで狙う分子標的薬が可能になってきた。

 このような成果の背景には、分子科学という基礎的学問が存在する。従来の分子科学では、自然界を観察し、探索することによって、様々な分子を発見・解析し、天然の分子を人工的に模倣することで、同様の機能を得てきた。しかし近年の新たな流れとして、コンピュータの急速な性能向上や測定・解析技術等の著しい進展に伴い、自然界にモデルを求めずとも、目的とする機能を設計し、それに合った物質を得るという研究開発事例が見出されるようになってきた。

 これらの状況を踏まえ、本戦略目標では、「分子技術」を開発することによって、環境・エネルギー技術や情報通信技術、医療技術等を下支えする一連の材料創製技術に対し、抜本的なブレークスルーをもたらすことを目指すものである。

(研究内容)ライフイノベーション、グリーンイノベーションに共通する基盤技術の確立へ!

 本戦略目標では、グリーンイノベーション、ライフイノベーションに関わる革新的成果を創出するために、個別応用課題の研究開発とは“別”に様々な分野への展開が可能な「分子技術」を確固たる土台として築いておくことで、個別施策の研究開発や異分野融合が加速されることを目指す。「分子技術」の研究開発においては、従来の化学や物理学、生物学、数学といった学術分野単独の知見では推進が困難であり、応用課題上のボトルネックを共通的課題として、分野融合的なアプローチにより、それを克服する体系を構築することが重要である。本戦略目標では、「分子技術」を、分野横断的な「設計・創成の分子技術」、「形状・構造制御の分子技術」、「変換・プロセスの分子技術」と、具体的な応用分野を見据えた「電子状態制御の分子技術」、「集合体・複合体制御の分子技術」、「輸送・移動制御の分子技術」からなる6つの要素技術からなるものと捉え、特に、最も根本的な「設計・創成の分子技術」と、「形状・構造制御の分子技術」に重点を置くこととする。以下、具体的な研究開発課題の例を挙げる。

●設計・創成の分子技術

 設計・創成の分子技術とは、新規機能性物質を自在に創成することを目指す技術である。すなわち、従来型の勘と経験に大きく頼る手法から踏み出し、合成と理論解析が密接に協力し、目的とする機能を持つ物質を思うがままに設計し、合成する指導原理を与える技術である。

(研究開発課題例)

  • 機能から分子を創出するための理論創成とシミュレーション技術の開発
  • 分子構造の予測を可能にする分子デザイン手法の開拓
  • 機能設計・予測に基づく精密合成法の開発
  • 分子性物質の高純度精製法の開発

●形状・構造制御の分子技術

 形状・構造制御の分子技術とは、分子配列、分子集積、自己組織化等に基づいて創成される分子レベルのナノ構造から、実用材料を構築するための1次元、2次元、3次元のマクロ構造を自在に創成する技術であり、分子の形や構造を厳密に制御することにより、新たな機能の創出に繋げるための技術である。

(研究開発課題例)

  • 自己組織化等ビルドアップ及びトップダウン手法による空間空隙構造形成技術
  • ナノからマクロ構造への規模拡大技術
  • マクロ構造を持つ材料における物理的諸現象の観測・解析技術
  • 計算機シミュレーションによるマクロレベルの構造・機能の設計・解析

5. 政策上の位置付け(政策体系における位置付け、政策上の必要性・緊急性等)

 「分子技術」によって創出されるソフトマテリアルは、21世紀の課題である低環境負荷、省エネ・省資源、低コスト、人間・社会との親和性等に応え得る多様な能力を備えている。これらを実現する「分子技術」を、国の基盤技術として確固たるものとすることが、本戦略目標の最大の目標である。「分子技術」が生み出す高付加価値産業は、我が国の経済発展を支えるとともに、世界の環境・エネルギー問題、安全・安心、医療・健康問題等の解決に大いに寄与することが期待される。

 「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月19日閣議決定)では、産業競争力の強化に向けた共通基盤の強化のため、「付加価値率や市場占有率が高く、今後の成長が見込まれ、我が国が国際競争力のある技術を数多く有している先端材料や部材の開発及び活用に必要な基盤技術、高機能電子デバイスや情報通信の利用、活用を支える基盤技術など、革新的な共通基盤技術に関する研究開発を推進するとともに、これらの技術の適切なオープン化戦略を促進する」こととされ、また、領域横断的な科学技術の強化に向け、「先端計測及び解析技術等の発展につながるナノテクノロジーや光・量子科学技術、シミュレーションやe-サイエンス等の高度情報通信技術、数理科学、システム科学技術など、複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進する」こととされている。さらに、「ナノテクノロジー・材料科学技術の研究開発方策について<中間取りまとめ>」(平成23年7月 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ナノテクノロジー・材料科学技術委員会)においては、「国際的な優位性を保持するためには、革新的な技術の開発が不可欠であることから、社会的課題を設定する際に把握可能な技術のみに重点化するのではなく、中長期的観点から、潜在的可能性をもつ技術の創出に向けた研究開発等の取組も推進すべきである」とされ、課題解決に向けた重点研究開発課題である「物質材料設計及び制御技術」の一つに分子技術が取り上げられている。

6. 他の関連施策との連携及び役割分担・政策効果の違い

 これまで、「太陽電池」や「蓄電池」、「創薬」といった出口テーマ毎に分かれて課題を解決しようとする施策が主流であった。しかしながら本戦略目標では、様々な分野において共通してボトルネックとなっている技術的課題を、「分子技術」という横断的技術概念で捉え直し、多様な分野の研究者が協力して研究に取り組むことを意図している。「分子技術」は、我が国がこれまで長年に渡って積み上げてきた基礎科学の成果を発展的に再編し、これまでにはない新たな技術体系を構築するものである。「分子技術」を展開・体系化する過程においては、物理学、化学、生物学、数学の基礎分野のみならず、ナノテクノロジー、情報技術、バイオテクノロジー等の工学分野の寄与が不可欠であり、これらの学問領域での融合が求められるとともに、各種の技術を複合的に活用することが必要となるため、材料設計技術やプロセス技術といった技術レベルでの融合も必要となるものである。

 また、平成24年度に設定する戦略目標「環境、エネルギー、医療等の課題対応に向けた触媒による先導的な物質変換技術の創出」において、物質変換のための新しい触媒開発を開始することとしているが、当該技術は、「分子技術」を確立する上でも重要な要素技術である「変換・プロセスの分子技術」を補完するものとなり得ることから、必要な連携を図ることが求められる。

7. 科学的裏付け(国内外の研究動向を踏まえた必要性・緊急性・実現可能性等)

 本戦略目標は、我が国が環境・エネルギー問題、医療・健康等に関する諸問題の解決に率先して貢献するための新たな材料技術戦略である。我が国はナノテクノロジー・材料技術に基づく部素材産業が強く、なかでも本戦略目標に掲げる「分子技術」については強さを保持している。例えば、ディスプレイ製品の中に用いられる分子性物質の多くの市場占有率は、日本が国際的にも圧倒的である。この新しい技術分野の基礎を学問的に深化させて、より革新性を高めるための戦略的かつ総合的な研究投資はまだ国内、海外ともに実施されておらず、我が国が先駆けて推進することにより、世界をリードできる可能性がある。

8. 検討の経緯

 独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター(CRDS)において、平成20年7月に「物質・材料分野俯瞰ワークショップ」が開催され、ナノテクの成果、融合の効果、今後の課題について、議論が交わされ、「分子技術」という概念を確立することが提案された。平成21年12月には、「分子技術」が今後我が国にとって重要な基幹的技術に成り得るかどうかを専門家間の集中議論によって検証するとともに、今後の方向性や具体的な研究開発課題を抽出する目的で、「科学技術未来戦略ワークショップ『分子技術』」が開催された。ワークショップにおける議論を踏まえ、今後重点的に推進すべき研究領域、課題等について更なる検討が行われ、平成22年3月に戦略イニシアティブ「分子技術“分子レベルからの新機能創出”~異分野融合による持続可能社会への貢献~」がとりまとめられた。

 以上の議論も踏まえ、文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ナノテクノロジー・材料科学技術委員会が平成23年7月に中間とりまとめを行った「ナノテクノロジー・材料科学技術の研究開発方策について」において、課題解決に向けた重点研究開発課題である「物質材料設計及び制御技術」の一つに分子技術が取り上げられた。

 本戦略目標は、これらの検討の結果を踏まえて作成したものである。

9. 留意点

 「分子技術」の開発には、異分野の研究者が積極的に参入し、実質的に協働するための環境が必要である。また、本戦略目標の成果を「分子技術」の構築に向けて発展させていくため「分子技術」を前競争領域における共通基盤技術として捉え、つくばイノベーションアリ―ナ等、産学官協働のための「場」を積極的に活用することが重要である。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

-- 登録:平成24年02月 --