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先制医療や個々人にとって最適な診断・治療法の実現に向けた生体における動的恒常性の維持・変容機構の統合的解明と複雑な生体反応を理解・制御するための技術の創出

1. 戦略目標名

 先制医療や個々人にとって最適な診断・治療法の実現に向けた生体における動的恒常性の維持・変容機構の統合的解明と複雑な生体反応を理解・制御するための技術の創出

2. 達成目標

 先制医療や個々人にとって最適な診断・治療法の実現に向け、以下の3つの目標の達成により、生体を一つの恒常性維持機構と捉えて、疾患等による生体反応を理解・制御するための技術の創出を目指す。

○多臓器間の機能ネットワークの理解に基づく生体の恒常性維持機構の解明と制御技術の創出

○発達から老化までのライフステージの遷移を考慮した恒常性維持機構のダイナミクスの理解と解析技術の創出

○生体の恒常性維持機構の破綻の理解に基づく生活習慣病等の疾患メカニズムの理解のための技術の創出

3. 将来実現しうる重要課題の達成ビジョン

 本戦略目標においては、生体を1つの恒常性維持機構としてとらえ、生体の動的な恒常性の維持・変容機構を解明するとともに、老いや生活習慣病等の疾患のメカニズムの解明を目指す。

 本戦略目標の達成目標が実現されれば、これまでの生物学的知見や方法論、開発された技術を集積し、生命体を統合的に理解することが可能となる。すなわち、1器官1機能の足しあわせによって生体をとらえるのではなく、生体全体としての機能円環のダイナミクスを明らかにでき、副作用のない創薬の実現や、対症療法ではない、生体全体を理解したうえでの診断・治療法の開発が期待でき、加えて恒常性維持機構の時間的変化を解明することにより、患者の状態、年齢・ライフステージに応じた個々人にとっての最適な医療の実現が期待できる。また、医療効果の集団内でのエビデンスに基づく正確な評価につながり、健常者・患者を含めた集団から新たな課題を抽出することが可能になる。

 こうした臨床医学研究の向上による研究サイクルの実現により、第4期科学技術基本計画に掲げられているライフイノベーションの目標実現に向けた重要課題「革新的な予防法の開発」、「新しい早期診断法の開発」、「安全で有効性の高い治療の実現」及び「高齢者、障害者、患者の生活の質(QOL)の向上」に貢献することを目指す。

4. 具体的内容

 生体内には、外界からの様々な刺激や外部ストレスに適応応答を起こし、内部環境である体内を、安定した状態(恒常性)に維持する機構が存在する。

 近年の生物学上の知見の蓄積や、バイオインフォマティクスの進展、スーパーコンピュータの性能向上等により、個別の臓器に焦点を当てた研究から、生体を1つの恒常性維持機構ととらえ、その解明に迫る研究が可能となりつつある。また、過去の長期コホート研究やノックアウトマウス等のモデル動物を用いた研究により、生体が1つの機構となって、多臓器間において相互に影響を与えつつ、生体内の恒常性が維持されていることが明らかになりつつある。

 本戦略目標は、生体を、多臓器間の機能ネットワークで結ばれた1つの恒常性維持機構ととらえ、その統合的な解明を目指す。また、発達から老化までのライフステージの遷移による恒常性維持機構の動的な変容の解明を目指す。さらに、生活習慣病等の疾患を、生体の恒常性維持機構の破綻ととらえ、そのメカニズムを理解することにより、疾患メカニズムの解明を目指すものである。

 具体的には、以下の通り。

1 多臓器間の機能ネットワークを体系的に捉える

 従来の特定の臓器に着目した研究では、体系的に取り組まれてこなかった多臓器間での相互作用に関する研究として、神経系・免疫系・内分泌系・血液系等の複数臓器間での機能ネットワークを解明する研究や、1つの臓器内での多種類の細胞による相互作用に関する研究などが想定される。

2 恒常性維持機構の時間的な変化を捉える

 人のライフスパンにおける時間変化を考慮した恒常性維持は、今まであまり研究されておらず、細胞レベルでは分化後不変と考えられていた恒常性状態を定量的に計測することで、発生、発育、生体維持、老化等のライフステージに応じた細胞・臓器の状態や維持機構を体系的に把握し理解することを目指す。例えば、老化という長期間の時間変化に対する恒常性維持機構の変容を、代謝ネットワークの変換点を探索することにより理解し、その多臓器・器官にわたる影響を解析することなどが想定される。

3 疾患の原因として恒常性維持機構の破綻を捉える

 生活習慣病等の多くの疾患は、生体の恒常性維持機構からの逸脱や破綻ととらえることができる。多くの疾患を恒常性という視点で生体全体に捉え直し、バイオマーカーや代謝産物の定量的な計測等をとおして、疾患の発症機構や変容に対する生体防御機構の仕組みを解明する研究などが想定される。

5. 政策上の位置付け(政策体系における位置付け、政策上の必要性・緊急性等)

 本戦略目標は、「新成長戦略」(平成22年6月閣議決定)、「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月閣議決定)等に掲げられている、ライフイノベーションの推進に向けた政策課題の解決に貢献するものである。

 具体的には、平成22年6月18日、閣議決定された「新成長戦略」において、「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」として、「安全性が高く優れた日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発を推進する」と述べられている。本戦略目標では、生体の動的な恒常性の維持・変容機構を解明するとともに、老いや生活習慣病等の疾患のメカニズムを解明することにより、副作用のない創薬の実現や、新たな疾患治療法の開発を目指す。

 また、平成23年8月19日に閣議決定された「第4期科学技術基本計画」において、「二.将来にわたる持続的成長と社会の発展の実現 4. ライフイノベーションの推進 三)安全で有効性の高い治療の実現」として、「治療の質と安全性と有効性の向上に向けて、疾患の層別化、階層化等に基づく創薬を推進し、国民の遺伝背景に基づいた副作用の少ない医薬品の投与法の開発を進める」と述べられており、本戦略目標においては、治療の質向上のため、ライフステージに応じた恒常性機構の動的な変容を解明することにより、そのステージに適した治療法の確立を目指す。

 さらに、「平成24年度科学技術重要施策アクションプラン」(平成23年7月21日科学技術政策担当大臣 総合科学技術会議有識者議員)においても、ライフイノベーションの項目の 重点的取組として、「糖尿病等の生活習慣病の合併症に特化した予防、診断、治療に関する研究開発(新規)」が掲げられている。本戦略目標においては、疾患を恒常性維持機構の破綻ととらえ、その疾患メカニズムを解明することにより、糖尿病等の生活習慣病の予防、診断、治療に関する研究開発の進展に貢献することを目指す。

6. 他の関連施策との連携及び役割分担・政策効果の違い

 本戦略目標は文部科学省等のライフサイエンス関係の事業によって開発された計測技術や解析技術を活用するとともに、1つの臓器や細胞に着目した研究の成果を活用し、生体レベルの恒常性維持機構の統合的理解の実現を目指すものである。

 例えば、文部科学省において実施している「分子イメージング研究戦略推進プログラム」で開発された低分子化合物の生体内動態を観察する技術を活用し、本戦略目標において、低分子化合物を介した内分泌系の多臓器間のネットワークに着目した課題を実施することが可能となる。また、科学技術振興機構のCREST「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」(平成22年度設定)等の免疫系に関する研究成果を活用し、本戦略目標において、免疫系の多臓器間のネットワークや、免疫系と神経系・内分泌系・血液系との関係性に着目した課題を効果的に実施することが可能となる。

 なお、科学技術振興機構のCREST「生命動態の理解と制御のための基盤技術の創出」(平成23年度設定)においては、細胞レベル、ミリ秒レベルでの解析に主眼がおかれており、本戦略目標とは異なるものの、その研究の成果は、本戦略目標での研究にも活かすことができるため、成果を共有することにより効果的に研究が推進されることを期待する。

7. 科学的裏付け(国内外の研究動向を踏まえた必要性・緊急性・実現可能性等)

 諸外国においては、計測技術の進展を受け、近年になって、「複雑系生物学」という名称で、領域横断的なアプローチによる補助金や制度の新設が行われている。拠点としては、米国サンタフェ研究所、EUのパラライム研究所がある。また、アジアの複雑系生物学の拠点を目指し、シンガポールのナンヤン工科大学では、複雑系研究プログラムが2011年8月より開始された。ヒトに着目した制度の例としては、米国で2008年から開始されている国立科学財団の「ヒト生命科学における複雑系モデルのデータ統合」というプログラムがある。これはヒトの個別臓器や細胞の様々な要素を先端技術で計測し、そのデータを統合化する試みである。

 一方で、国内においては、脳内の神経系と血管系や内分泌系との関わりなど、特定の臓器に関する研究の発展形として、臓器内での細胞等のコミュニケーションに関する研究は行われているが、多臓器間のコミュニケーションに着目し生体の統合的理解を目指した研究は、多くは行われていないのが現状である。

 学術コミュニティにおいては、生体の統合的理解の重要性が議論されており、平成23年10月8日には、20を越える学会からの共催・協賛・後援を受け、学術シンポジウム「多臓器円環のダイナミクス」(東京大学理学部小柴ホール)が開催された。シンポジウムでは、生体の統合的理解を目指すために必要な事項について、技術的な面に加え、人材育成や研究推進の制度の在り方について、議論が交わされた。

 このように、国内外において、生体を統合的に理解するための取組みが始められつつあるところであり、我が国が国際的な競争に先駆けて研究を実施するためにも、一刻も早く国内の研究の戦略的な推進を行う必要がある。

8. 検討の経緯

 平成20年9月に、科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)が、俯瞰ワークショップ「ライフサイエンス分野の俯瞰と重要研究領域」を開催し、「神経・免疫・内分泌 統合研究」を重要研究領域として抽出した。CRDSは、恒常性研究に関する戦略ワークショップ(平成23年1月)等を踏まえ、戦略プロポーザル「ホメオダイナミクス」をとりまとめた。同プロポーザルにおいては、生体の恒常性のうち、特にライフステージによって動的に変容しつつ安定を維持する「ホメオダイナミクス」機構の理解と制御を目的とした統合的な研究の重要性が指摘されている。

 学術コミュニティにおいても、生体の統合的理解の重要性が議論されており、平成23年10月8日に、20を超える学会からの共催・協賛・講演を受け、学術シンポジウム「多臓器円環のダイナミクス」が開催された。

 本戦略目標は、これらの検討の結果を踏まえて作成したものである。

9. 留意点

 本戦略目標は、神経系・免疫系・内分泌系・血液系等の既に構築されている学術領域を超え、生体を1つの機構としてとらえ、横断的な領域の構築を目指すものであり、現在、専門分野毎に細分化されている臨床医学に対して、統合的アプローチを提案するものである。したがって、研究課題の採択や評価は、複数の学術領域や臨床現場との連携という観点からも行われることが望ましい。

 また、横断的な領域の重要性を理解し、維持するための土壌として、本事業における取組と並行して、学術コミュニティにおいて、研究支援体制の構築、医学教育・研究のあり方の見直し、長期的な人材育成を促すための新しい評価制度の検討などの取組みが行われることを期待したい。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

-- 登録:平成24年02月 --