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第1章 なぜ「キャリア教育」が必要なのか

-学校が社会と協働してキャリア教育を行っていく前提として、関係者間で求められる共通理解-

1.キャリア教育の理解の共有(「キャリア教育」とは何か、子どもの教育に関わる者が共有するために)

○中央教育審議会では、平成20年12月に文部科学大臣による諮問を受け、2年間に及ぶ議論を経て、23年1月「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」を答申した。その答申では、キャリア教育について、「一人一人の教員の受け止め方や実践の内容・水準に、ばらつきがある」と指摘している。まずは「キャリア教育」という言葉の意味するところを、子どもの教育に関わる者同士で共有することが不可欠と考えられる。

○答申では、「キャリア教育」を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達(※)を促す教育」と定義した。その上で、一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力として「基礎的・汎用的能力」を提示している。また、学校でのキャリア教育は、子どもたち一人一人の発達や社会人・職業人としての自立を促す視点から学校教育を構成していくための理念と方向性を示すものであり、したがって特定の活動や指導内容・方法に限定されるものではなく、学校の教育活動全体で様々な教育活動を通して、教育意図に基づき、体系的・系統的に取り組まれるものであるとしている。
(※)キャリア発達:社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程。

○また、我が国の次代を担う子どもたちが、どのような状況にあっても、これに適応したり、置かれている状況を自分で打ち破ったりしながら、社会の中で自分の能力を発揮できるように育成することが必要であり、そのために後期中等教育修了までに、生涯にわたる多様なキャリア形成に必要な能力や態度を培うとともに、それらを通して、とりわけ勤労観・職業観を自ら形成・確立できるようになることを目標とすべきとしている。

○本報告においても、中央教育審議会答申において示されたキャリア教育にかかわる理解と認識を共有するものであるが、より分かりやすく言えば、「キャリア教育」とは、子どもたちが、社会の一員としての役割を果たすとともに、それぞれの個性、持ち味を最大限発揮しながら、自立して生きていくために必要な能力や態度を育てる教育であるということができる。

2.学校、教育界へのメッセージ

◆学校での生活や学び、進路選択に対する目的意識の希薄さ

○高校生に対し、今自分が通っている高等学校に入学した動機について尋ねたところ、普通科の生徒の約6割は「自分の学力にあっている」と回答し、「自分の個性を伸ばすことができると思う」、「自分のやりたい勉強ができると思う」と答えた生徒はそれぞれ15%に満たないとの結果となった。
(平成18年文部科学省委託財団法人日本進路指導協会「中学校・高等学校における進路指導に関する総合的実態調査」)

○また、職業を意識しはじめた時期の違いに応じて、大学生に大学への進学理由を尋ねた調査では、職業を意識した時期が遅い者ほど、大学への進学理由を「すぐに社会に出るのが不安」、「自由な時間を得たい」、「周囲の人がみな行く」と考える傾向があるとの結果もある。
(Benesse教育研究開発センター「平成17年度経済産業省委託調査進路選択に関する振り返り調査-大学生を対象として-」)

○さらに、子どもたちの学習意欲という観点からは、国際的な調査(TIMSS調査、PISA調査)において、我が国の子どもたちは、他国に比べ、将来就きたい仕事や自分の将来のために学習をしようとする意識が低いということが明らかとなっている。

○こうした調査結果から、目的がはっきりしないまま高等学校へ進学したり、「とりあえず」大学へ進学したりする生徒が多くいること、また、学校での生活や学び、進路選択に、子どもたちがはっきりとした目的意識を持って取り組めていないということが、キャリア教育にかかわる問題として浮かび上がってくる。

◆社会の「本物」に触れさせること、“働くことの喜び”を伝えることの重要性

○上述の問題状況を踏まえて、子どもたちが、学校で学んでいることと自分の将来を結びつけて考えたり、自分の興味や資質に気付いて、それを伸ばすにはどうしたら良いかと自ら考えたりできるようになるためには、実際に社会で働いている人や、社会で行われていることの本質や意義に触れ、理解すること、またそれを通して働くことの意義や喜びについて理解することが重要である。

○中央教育審議会答申においても「社会や職業に関わる様々な現場における体験的な学習活動の機会を設け、それらの体験を通して、子ども・若者に自己と社会の双方についての多様な気付きや発見を得させることが重要」との記載がなされている。

○こうした観点に立って改めて学校での諸活動を捉え直してみると、キャリア教育の場面は、学校で行われている職場体験活動やインターンシップに限らない。最先端の研究を行っている研究施設や大学等を訪れ、第一線の研究者から施設や研究について説明を受けたりするなどのスーパーサイエンスハイスクールにおける取組、社会の第一線で活躍する卒業生の職場を訪ねてその仕事について説明を受けたり、見学したりする取組、あるいは地域の企業の技術者を学校に招いて最新技術の指導を受ける専門高校での取組などは、正に社会の「本物」に触れさせる教育であり、キャリア教育としても重要な取組であると言える。

○これらの活動を通して、多様化する社会・経済の環境に対して興味・関心を広げることができ、学びの意味や働くことの意義を体得することを通じて、自らの興味や資質に応じた多様な進路の可能性を拓くこともできるのである。

◆“世の中の実態や厳しさ”を伝えることの重要性

○中学校、高等学校におけるキャリア教育においては、生徒に、経済・社会・雇用等の基本的な仕組みについての知識や、税金・社会保険・年金や労働者としての権利・義務等についての知識等、社会人・職業人として必ず必要となる知識を得させるとともに、男女共同参画社会の意義や仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の重要性等について、自己の将来の在り方生き方に関わることとして考察を深めさせることが必要である。

○一方、こうした知識の習得や意欲・態度の涵養と同時に、誤解を恐れずに分かりやすい言葉で言えば、“世の中の実態や厳しさ”を子どもたちに学ばせることも重要である。

○具体的には、今日、我が国の産業界が、経済のグローバル化とそれに伴う激しい国際競争の下で、これまでにない厳しい環境におかれており、産業等の状況の変化に伴い雇用形態も変化するなど、子どもたちや若者の社会的・職業的自立、ひいては将来の生き方にかかわる環境に大きな変化が生じている。

○また、そのような環境の変化の一つとして、就職先が決まらないまま卒業した場合や就職後早期に離職した場合、また、出産前に離職した女性が、その後に再就職を求める場合などに、正規労働者としての就職が困難となる状況が見られる。

○加えて、男女共同参画社会への移行が我が国社会の大きな課題とされながら、女性の社会的・職業的自立については、結婚後、特に出産後において、男性の家事や育児の分担が不十分であることや、また、女性が働き続けるための社会的インフラの整備が不十分であることなどから、働き続けることに困難が伴っているという現実もある。

○このような“世の中の実態や厳しさ”を子どもたちに実感を伴う形で理解させた上で、これらを乗り越えていくために必要な知識や意欲・態度等を培っていくことが必要である。

◆“働くことの喜び”と“世の中の実態や厳しさ”の両面を学ぶ

○今日、若者は、例えば、完全失業率や非正規雇用率の高さ、無業者や早期離職者の存在などといった大きな困難に直面している。

○教職員の中には、こうした状況の下で、子どもたちに夢や希望を育むことや、実現困難な進路希望を抱く生徒に進路計画の立案を指導することは虚しいという声がある。

○しかし、子どもたちや若者のキャリア形成をめぐる厳しい環境があるがゆえに、子どもたちが社会に適応しながら現実に立ち向かい、意欲を持って様々な課題を克服し、自らの目標に向かって努力して、社会的・職業的に自立するために、“働くことの喜び”と“世の中の実態や厳しさ”の両面を同時に伝えていくことが、一層重要になっているといえる。

○現に、今日の厳しい状況の中でも、働くことの意義や喜びを感じつつ、これに立ち向かい活力ある社会の構築に奮闘する経営者や従業員、研究者や技術者、商店経営者や農業・漁業従事者、福祉施設で働く人などが、少なからず子どもたちの周りにいる。学校・教職員は、そのような地域の人々と手を携えて、“働くことの喜び”と“世の中の実態や厳しさ”の両面を伝えることが大切であると考える。

◆「キャリア教育」で「なぜ学ぶか」を学ぶ

○子どもたちが、社会の「本物」、“働くことの喜び”、“世の中の実態や厳しさ”などを知った上で、将来の生き方や進路に夢や希望を持ち、その実現を目指して、学校での生活や学びに意欲的に取り組むようになること、これがキャリア教育を行うことの意義であるといっても過言ではない。

○さらに、キャリア教育を行う意義として、中央教育審議会答申も、「学校生活と社会生活や職業生活を結び、関連付け、将来の夢と学業を結び付けることにより、生徒・学生等の学習意欲を喚起することの大切さを確認できる」としている。
 正に子どもたちは、今自分が勉強していることと、将来自分が巣立っていくであろう社会との関係を見いだし、結び付けることで、自分が勉強している理由やその重要性が分かってくるということである。

○学校生活や学び、進路選択に取り組む際、子どもたちが目的意識を持っているか否か、あるいは目的意識に裏打ちされた学習意欲を持っているか否かは学校教育の成否にかかわる根源的な問題である。「なぜ学ぶのか」、「なぜ学ばなければならないのか」、「何を学ぶべきか」を学ぶ教育として、キャリア教育は学校教育において最重要課題に位置付けられるものとも言えよう。

3.家庭、地域・社会、産業界へのメッセージ

○先に述べたように、現在の子どもたちについて、学校での生活や学び、進路選択に対する目的意識が希薄であるなどの問題点を指摘したが、それらは学校段階で生じている問題であるとして、その責任を学校教育のみに帰してよいものであろうか。

○家庭は、子どもたちの健やかな育ちの基盤であり、すべての教育の出発点である。子どもは、就学前から社会的自立を果たすまで、家庭において、家族との様々な関わりの中で育っていくものである。まずは、家庭の中で大人が“働くことの喜び”や“世の中の実態や厳しさ”なども伝えながら、子どもたちの社会的・職業的自立という視点に立って、子どもたちを育み、支えていくことが強く求められる。

○また、ほとんど全ての子どもたちは、近い将来において地域・社会へと巣立ち、何らかのかたちで我が国の社会、経済を担っていくこととなる。地域・社会や産業界は、人材育成という観点だけからしても、子どもたちの育成に、無関心でいることができない。

○より長期的に見れば、例えば、国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、社会保障の観点から、平成22年では4人の生産人口(15歳~64歳)で1人の高齢者(65歳~)を支えていたが、32年には2人の生産人口が1人の高齢者を支えなければならなくなり、加速度的に生産人口が減少することが予測されている。以上のことが現実となった場合、国を支える一人一人の力は今まで以上に重要になり、将来の日本を支える人材を育てることは、地域・社会や産業界にとっても一層重要な課題となることは自明である。

○また、先述したように、社会の「本物」に触れさせること、また“働くことの喜び”を伝えること、さらに“世の中の実態や厳しさ”などを伝えることは極めて重要であると考えるが、そのことを伝えることを学校・教職員だけに担わせるには限界がある。

○学校でのキャリア教育は学校・教職員が担うべきであるが、こうしたことを子どもたちに伝える場面においては、教職員以外の人材の協力があって初めて子どもたちの心に迫ることができるようになる。近い将来、日本の社会・経済を支えることになる子どもたちに、社会の「本物」、“働くことの喜び”、“世の中の実態や厳しさ”などを伝え、学校での生活や学び、進路選択に気付きや考えるきっかけを与えることは、学校とともに、家庭や地域・社会、産業界も連携して担うべき役割であろう。

○学校、家庭そして地域・社会や産業界が「協働」して、キャリア教育を推進していくことが、今正に必要とされているのである。

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成24年01月 --