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生命現象の統合的理解や安全で有効性の高い治療の実現等に向けたin silico/in vitroでの細胞動態の再現化による細胞と細胞集団を自在に操る技術体系の創出

1.戦略目標名

生命現象の統合的理解や安全で有効性の高い治療の実現等に向けたin silico/in vitroでの細胞動態の再現化による細胞と細胞集団を自在に操る技術体系の創出

2.達成目標 

○生命機能(細胞機能及び細胞集団機能)を理解するための、細胞内で生じる多様な生命現象の可視化と計測による定量化基盤技術及び定量化されたデータを活用した細胞動態を再現・予測するモデルの開発
○in vitro(試験管内)でのタンパク合成・DNA合成・生体膜などの構造物の構築と再構成を可能にする基盤技術の開発
○in silico(計算機上)で得られたモデルやシミュレーションをもとに、細胞動態及び細胞集団動態を再現・操作するための基盤技術の開発
○細胞内のタンパク質やDNA等の相互作用の動的変化に関するシステム的な理解にもとづき、細胞動態を予測・操作する技術の開発

3.将来実現しうる重要課題の達成ビジョン

 本戦略目標下において2.に記載した研究成果を得ることにより、
・各種疾患の原因となる細胞の老化や、再生医療において重要な幹細胞の分化など、複合要因で制御される現象の再現
・がん等の各種疾患の機構等を理解するための細胞集団や細胞内の局所微小環境に特異的な生体分子の相互作用の再現
・創薬等に実用的な予測性を有する細胞内情報伝達シミュレーションの実現
等の達成を目指す。
 これらの研究成果を厚生労働省が支援する疾患研究や、産業界等の医療・創薬研究等に活用することによって、がん、生活習慣病等の複合的な要因によって引き起こされる疾患の発症メカニズムの解明、創薬に実用可能な複雑かつ動的な生命現象のシミュレーション技術の確立等の実現を目指す。これらの実現によって、抗がん剤などの革新的な創薬や、自己免疫の制御による新たな疾患治療法の開発、シミュレーションを活用した効果的・効率的かつ副作用の少ない創薬等の実現につなげ、ライフイノベーションの目標実現に向けた重要課題「革新的な予防法の開発」、「新しい早期診断法の開発」、「安全で有効性の高い治療の実現」及び「高齢者、障害者、患者の生活の質(QOL)の向上」に貢献することを目指す。

4.具体的内容

 複雑に変化する生命現象の本質的な理解のためには、「時・空間情報の定量計測」、「実測データをもとにした数理モデルの構築(in silicoでの細胞動態の再現化)」、「数理モデルをもとにした再構成(in vitroでの細胞動態の再現化)」というサイクルが有効であり、近年のライフサイエンス・計測科学・計算科学の進展はそれを可能としつつある。
 本戦略目標では、細胞や細胞集団の動態をin silicoで再構成し、それから得られる予測・設計をもとに、in vitroで再現するための技術を創出する。
 具体的には、既存の細胞計測、細胞シミュレーション、合成生物学等の研究分野に対して、以下の研究を想定する。
(1)複雑な多因子(分子あるいは細胞)の挙動の定量的な計測技術と、その多因子情報の解析・モデル化技術、細胞現象をin vitroで再構成する技術の一体的な開発
(2)計測、モデル化、再構成の3段階をサイクルさせ、動的な生命現象の理解と制御につなげる研究
(3)器官-組織-細胞-分子といった階層間の生命現象の統合的理解につなげる研究
(4)細胞計測での膨大なデータの処理に必須の計算・数理解析、計測データと一体的に必要となる可視化・数理モデル化
(5)これらの推進により、複雑な臓器形成、抗がん剤効果や副作用の多様性、複合要因による生活習慣病など従来のアプローチで制御できない複雑な生命現象について、予測性や制御性の高い新規の医生物学の創出を目指す研究

5.政策上の位置付け(政策体系における位置付け、政策上の必要性・緊急性等)

 本戦略目標は、新成長戦略(平成22年6月 閣議決定)における科学・技術情報通信立国戦略として、新技術開発や新分野開拓を創出する基盤の整備に挙げられている生命動態システム科学にあたり、「科学技術に関する基本政策について」に対する答申(平成22年12月 総合科学技術会議)においても、生命動態システム科学研究の推進の必要性が述べられている。
 日本学術会議においても、昨年5月に「“生命動態システム科学”シンポジウム」が開催され、本研究領域の定義、推進すべき重点戦略課題、学会・研究者コミュニティの主体的なアクションの必要性等について議論し、「“生命動態システム科学”推進のためのアクションプランの提言」として取りまとめられた。また、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会でとりまとめられた「新たなライフサイエンス研究の構築と展開-第4期科学技術基本計画におけるライフサイエンス研究の基本的方向-(平成21年12月)」において、新たなライフサイエンス研究の潮流と重要研究課題として、生命動態システム科学研究が挙げられており、昨年6月のライフサイエンス委員会においても、生命動態システム科学研究の推進方策についての議論がおこなわれた。
 生命動態システム科学研究は、新技術開発や新分野開拓を創出し、我が国の競争力を引き上げるためのポテンシャルが高い、ライフサイエンス分野の基盤であり、非常に重要である。さらに、海外における研究動向(7.参照)を踏まえると、国際的な競争に後れをとらないためにも、一刻も早く国内の生命動態システム科学研究の戦略的な推進を行う必要がある。

6.他の関連施策との連携及び役割分担・政策効果の違い

 最先端研究基盤事業の補助対象として、生命動態システム科学研究の推進が採択されており、大阪大学と理化学研究所が連携して、細胞内分子動態を中心とした、細胞理解の基盤となる要素技術の開発を行うための基盤整備を実施している。また、理化学研究所の平成23年度予算において「生命システム研究事業」が計上されており、上記事業で実施されるコアプログラムと、各大学、研究所、企業等が連携して「連携協力プログラム」を形成し、幹細胞からの立体組織の形成技術等の再生医療の鍵となる技術体系の創出を中心として取組んでいる。これらの拠点、あるいは「連携協力プログラム」と成果を共有し、適切に連携することにより、効果的に研究を推進する。
 本戦略目標では、再生医療に限らない分野を対象とした研究開発を対象とし、分野融合研究である生命動態システム科学に必要な若手研究者による斬新な発想に基づく研究やコミュニティ形成の促進も目的とする。これを通じて、これまでライフサイエンスに従事していた研究者のみならず、計測・数理・計算に精通したマルチ・スペシャリティの人材の育成も行う。

7.科学的裏付け(国内外の研究動向を踏まえた必要性・緊急性・実現可能性等)

 米国ではアメリカ国立科学財団やスタンフォード大学などで生命研究と数理解析の融合拠点が整備・強化されており、欧州では、ドイツのハイデルベルグ大学とEMBL(欧州分子生物学研究所)などにより、同様の生命動態システム科学に関する拠点が整備されるなど、本分野における新たな研究の潮流が生じている。
 一方、我が国においては、生命動態システム科学に関して必ずしも取り組まれてきてはいないが、要素技術である細胞計測技術は、実験技術(細胞内のタンパク計測)でも機器開発(顕微鏡等)でも世界トップクラスにあり、また、細胞を生きたまま計測するために必要なレーザー開発など応用物理学でも世界をリードしている。基礎研究成果を統合し多分野融合型研究開発を推進する素地を持つ我が国が、これら萌芽的、先駆的研究成果を集約し、中核的技術開発拠点の基盤を活用しながら、本研究開発に戦略的に投資し、その産業応用も視野に入れて国際的に主導するタイミングは、今をおいて他にはない。
 「ライフサイエンス分野 科学技術・研究開発の国際比較2010年版」(2010年2月 JST研究開発戦略センター)においても、生命動態システム科学に関連の深い構成生物学、イメージング技術、構造生物学での日本の研究水準、技術開発水準は高い水準にあると報告されている。また、発生・再生分野では実験生物学的手法と情報科学的手法の融合、免疫分野では単一のリンパ球を生体内で追跡できる技術革新の重要性が述べられているなど、生命動態システム科学の推進がライフサイエンスの様々な分野の革新につながることが示唆されている。さらに、生命科学と物理や工学などとの分野融合であるシステム生物学について、「個々の研究レベルとしては米国と遜色がないものの、研究者人口としてはすでに一桁以上の差がついており、益々その差は開いていくものと考えられる」と指摘しており、現段階での推進の必要性が述べられている。

8.留意点

 このような融合的・統合的研究プロジェクトは、自由闊達な発想と共同作業が生まれる環境づくりと厳格な進捗管理による目標達成という難しいマネジメントが求められる。若手研究者の斬新な発想に基づく研究やコミュニティ形成を促す研究体制の構築が必要である。また、将来的にこの分野を支えていく人材には、今まで以上に分野融合研究の知識集約と実践経験の機会が求められることを考慮した仕組みを、研究領域の運営において実践していくことも検討する必要がある。
 また、分野横断的な研究領域(光・量子科学技術、数理科学関連)など本戦略目標と関連する研究領域と連携し、事業全体として効果的・効率的に研究を推進することが必要である。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

-- 登録:平成23年05月 --