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海洋資源等の持続可能な利用に必要な海洋生物多様性の保全・再生のための高効率な海洋生態系の把握やモデルを用いた海洋生物の変動予測等に向けた基盤技術の創出

1.戦略目標名

海洋資源等の持続可能な利用に必要な海洋生物多様性の保全・再生のための高効率な海洋生態系の把握やモデルを用いた海洋生物の変動予測等に向けた基盤技術の創出

2.達成目標

○生物多様性維持の取り組みに必要となる海洋生物種の定量把握や種の同定を高効率化、高精度化するためのセンシング技術や遺伝子解析技術の開発
○資源・エネルギー開発や自然災害の影響等による海洋生物資源量や海洋生物多様性の変動を把握するための生態系モデルやモニタリング技術の開発

3.将来実現しうる重要課題の達成ビジョン

 海洋生物資源の持続的利用には、生物多様性を確保しつつ、生態系サービスを利用することが必要であるが、現状は学術的知見や基礎技術、基礎データの蓄積が足りていない状況にある。
 本戦略目標下の研究で得られる成果を、水産資源の管理を行う農林水産省、資源・エネルギー開発を担う経済産業省、生物多様性施策を取りまとめる環境省等の関係省庁のほか、地方公共団体等が活用することにより、
・これまで困難であった海洋生物種の定量把握や種の同定の高効率化により、大幅に不足している海洋生態系についての体系的なデータの蓄積
・海洋環境変化による生物多様性の変動を把握・予測するためのモデルやモニタリング手法の構築により、水産資源量予測の高精度化や環境影響評価の高度化
等が実現可能となる。
 これを通じて、例えば、海洋保護区の設定など海洋環境保全の効果的な実施、適切な海洋生物資源管理、海洋生物多様性を確保した海洋資源開発、地震や津波などの大規模自然災害に伴う海洋生態系への影響把握と早期復旧等に向けた改善策の提示など、我が国の重要課題である「社会インフラのグリーン化」や「地球規模問題への対応促進」の達成に資することを目指す。

4.具体的内容

 我が国は四方を海に囲まれた海洋国家であり、広大な排他的経済水域(EEZ)を有しているが、全海洋生物種数の14.6%が我が国EEZに分布しており、生物多様性の「ホットスポット」として注目されている。また、COP10が2010年10月に名古屋市で開催されるとともに、環境省は「海洋生物多様性保全戦略」を2011年3月にとりまとめ、情報基盤の整備や海洋保護区の充実等を提言した。
 国連環境計画(UNEP)が2010年10月に報告した「生態系と生物多様性の経済学」によれば、陸も含めた地球全体の生態系破壊により、最大で年4兆5000億ドルの経済損失が生じているとされている。また、日本における漁業、水産加工業、海洋レジャーなど海洋産業の経済規模は年16兆円と推定されており、生物多様性が失われ、これらの海洋産業が縮小した場合の影響は大きい。
 一方で、社会活動や経済活動の拡大や地球温暖化の影響、過剰な水産資源の採取などにより、藻場や干潟の消失、貧・富栄養化など海洋生態系の劣化が顕著となっている。こうした生物多様性の崩壊は、水産資源の枯渇や、地球環境の悪化などを助長し、社会・経済に様々な影響を及ぼすことが懸念されている。
 また、今後、我が国の経済が発展していくためには、海洋生物多様性の保全を図りつつ、海洋資源を有効活用していく必要がある。例えば、レアメタルや原油が逼迫するなどエネルギー・鉱物資源の開発は、今後ますます重要になると考えられる。「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(平成21年3月 総合海洋政策本部了承)には、平成30年をめどに商業利用の可能性を検討するとされているが、今後実際にこれらの開発を行う際に、海洋生物多様性など海洋環境にどのような影響を与えるかを評価する手法は開発途上である。今後、生物多様性の保全は温暖化ガスの排出規制同様に国際的なルールが厳しくなっていくと考えられ、これに対応するために必要な技術開発を予め行っておくことも重要である。
 このような現状を踏まえると、サンゴ礁や干潟などでなぜ多様な生物による複雑な生態系が維持されているのか、海洋における生物種の分布や密度がどうなっているのかなどの基盤的なデータや知見の不足は大きな課題である。また、海洋生態系の変化を把握・予測するための技術も不足している。これは、海洋の調査は陸上からのアクセスが困難であり、研究船などの設備を必要とすることに加え、海洋の生物圏は陸上と異なり、海面から深海底まで深さ方向に大きな広がりを持っていることや、存在していると推定される生物種が陸上より豊富であること、海洋生物は海流に乗り広い範囲を移動可能であることなどが原因である。
 そこで、本戦略目標では、海洋物理学、海洋化学、海洋生物学、統計学、生態学、分類学、分子系統学など広範な専門家の協同の下、生物多様性を維持した海洋利用の実現に資する基礎的知見の向上、基盤技術の高度化を目指し、(1)海洋生物種の定量把握や種の同定を高効率化、高精度化するための技術の開発(2)様々な観測データから海洋生物資源量や海洋生物多様性の変動を把握するための技術開発を行う。
 具体的には以下の研究開発課題が挙げられるが、このほか本戦略目標の達成に資する新たな技術の開発を目指す研究も期待される。

研究開発課題

(海洋生物種の定量把握や種の同定を高効率化、高精度化するための技術の開発)

  • 各生物種の捕食―被食関係を安定同位体比等から把握する技術の開発
  • 海洋生物種データベースを作成するためのDNAバーコーディング技術の開発
  • 広域、連続的に海洋生物を把握する計測技術の開発

(海洋生物資源量や海洋生物多様性の変動を把握するための技術開発)

  • 海洋保護区の設定のために必要な生物多様性の現状把握と解析に必要な技術開発
  • 生物種の食物連鎖を考慮した生態系変動を把握する数値モデルの開発
  • リモートセンシングによる海洋生物多様性モニタリング手法の開発

5.政策上の位置付け(政策体系における位置付け、政策上の必要性・緊急性等)

 平成19年7月に施行された「海洋基本法」を踏まえて平成20年3月に閣議決定された「海洋基本計画」では、海洋における生物多様性の確保のための取組の必要性が指摘され、さらに「生態系、海洋汚染物質等の海洋環境に関する科学的知見の充実を図ることが必要である」と述べられている。
 平成20年6月に施行された「生物多様性基本法」を踏まえて、「生物多様性国家戦略2010」が平成22年3月に閣議決定された。この中では、「海洋の生物多様性の保全の施策の基盤となるデータが不足しており、今後これらの情報を収集・整備し、科学的な保全施策を推進する必要があります」と生物多様性保全についての議論をするための基礎となるデータや知見がそもそも不足していることを指摘している。また、環境省では本国家戦略を踏まえて、海洋に特化した「海洋生物多様性保全戦略」を平成23年3月にとりまとめ、「海洋の生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性を保全して、海洋の生態系サービス(海の恵み)を持続可能なかたちで利用すること」が目的として掲げられた。
 平成22年6月に閣議決定された「新成長戦略」の「成長戦略実行計画(行程表)」のうち、「I 環境・エネルギー大国戦略」中に、「海洋資源・海洋再生可能エネルギー等の開発・普及の推進」を2020年までに実現すべきであると記載されている。また、平成22年7月に総合科学技術会議がとりまとめた「平成23年度科学・技術重要施策アクション・プラン」では「地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化」として、「気候変動に対応した生物多様性保全技術の確立と全国適用」等の必要性が示されている。
 「科学技術に関する基本政策について」に対する答申(平成22年12月 総合科学技術会議)では「社会インフラのグリーン化」において、「地球観測、予測、統合解析により得られる情報は、グリーンイノベーションを推進する上で重要な社会的・公共的インフラであり、(中略)自然環境や生物多様性の保全、(中略)持続可能な循環型食料生産の実現等に向けた取組を進める。」と指摘されており、また「我が国が直面する重要課題への対応」のうち「地球規模問題への対応促進」として「生物多様性の保全に向けて、生態系に関する調査や観測、外的要因による影響評価、その保全、再生に関する研究開発を推進する」としている。
 2010年10月には、COP10が名古屋市で開催され、「愛知目標」として「2020年までに、生物多様性、その価値や機能、その現状や傾向、その損失の結果に関連する知識、科学的基礎及び技術が改善され、広く共有され、適用される。」など20の目標が採択された。2020年までという愛知目標の期限に向けて、生物多様性を維持する手法の確立が喫緊の課題である。
 国際プロジェクトである「海洋生物のセンサス」によって、我が国の四方を取り囲むEEZが世界で最も豊かな生物多様性を有していることが2010年8月に明らかにされた。地球全体の生物多様性の保護にとっても、世界の生物種の約15%が生息する我が国周辺の生物多様性の保護は重要である。

6.他の関連施策との連携及び役割分担・政策効果の違い

 平成23年度から実施している「海洋資源利用促進技術開発プログラム」は、食料の安定供給に資する基盤技術の高度化を目的としたものであり、生物多様性の把握や予測等を目的とした本戦略目標とは目的が異なる。また、独立行政法人海洋研究開発機構においては、地球システム全体の理解のために生態系に関する研究を実施し、特に「しんかい6500」などを用いた深海底の生態系把握などに注力している。こうした技術や設備を活用して研究を行うことにより、本戦略目標と連携が可能である。
 農林水産省では、生物多様性の保全、利用に関して、平成20年度から「漁場環境・生物多様性保全総合対策事業」を推進しており、赤潮や貧酸素水塊の発生防止やモニタリング強化、漁港や漁場での環境影響評価など、漁業環境の面からの技術開発や評価を主な目的としている。
 環境省では、「環境研究総合推進費」において、生態系保全と再生に関する研究開発が実施されている。海洋に関する採択課題としては、その希少性や景観の美しさから社会的に注目されているサンゴ礁についての調査や保全に関するものが主である。また、環境省においては、平成23年3月に「海洋生物多様性保全戦略」がとりまとめられ、当省に対して調査研究や技術開発における連携が期待されている。
 このような中にあって、本戦略目標の対象は、海洋環境影響評価技術、海洋生態系の変動予測技術、生物多様性の把握に必要な新たな遺伝子解析技術等のうち基盤的技術に主眼を置いた基礎研究であり、本戦略目標で得られる知見や技術によって、上述した他省庁の施策は、より効果的、効率的に実施できるようになる。
 なお、生物多様性を維持しながら海洋生物資源を利用・管理するための技術の確立には、数十年規模の研究により達成されるものである。したがって、我が国が抱える課題の解決に着実につなげていくためには、関連施策が連携した持続的かつ長期的な研究の実施が必要である。

7.科学的裏付け(国内外の研究動向を踏まえた必要性・緊急性・実現可能性等)

  • JSTにおいて、ワークショップ「持続可能な発展を目指す生態系・生物多様性研究開発戦略プログラム」(平成17年4月)を開催し、重要研究課題を抽出・検討した。
  • また、平成17年8月より翌年2月にかけて、JSTより米国、オランダ、イギリス、ノルウェーに調査団を派遣し、これらの重要課題の各国における取り組みを把握するとともに、我が国の研究動向等から優先的に取り組む課題の絞り込みを行った。
  • 「生物多様性の保全と持続可能な利用~学術分野からの提言~」(平成22年2月 日本学術会議)においても、生物多様性の保全に向けて「広域的な生物・環境データの長期的収集」の重要性が指摘されている。
  • 科学技術・学術審議会 海洋開発分科会のもとに設置された海洋生物委員会において、平成23年1月、生物多様性に関する学術的調査の重要性に関し、「海洋生物多様性研究の重要性について」をとりまとめた。
  • 欧州議会では2007年12月に、2020年までにEUの海洋水域を、環境上、良好な状態にすることを目指す海洋戦略指令を採択した。この中で、生物多様性から水質汚濁まで、海洋環境の保全に関する総合的な政策を打ち出した。米国においては、NSFとNOAAにより、「海洋生態系の構造に関する比較分析プログラム」が実施されており、この中で、海洋生物多様性に関する研究が推進されている。

8.留意点

 本戦略目標の下での研究によって得られた成果等を農林水産省、経済産業省、環境省や地方公共団体等と共有し、我が国が抱える課題の解決に着実につなげていくためには、文部科学省を通じた関係省庁等との連携を図っていくことが必要である。また、先進的な技術開発のためには、海洋をフィールドとする研究者に加えて、工学やライフサイエンスを専門とする研究者など、幅広い分野の研究者が協同で研究を実施することが重要である。
 また、分野横断的な研究領域(数理科学関連)など本戦略目標と関連する研究領域と連携し、事業全体として効果的・効率的に研究を推進することが必要である。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課

-- 登録:平成23年05月 --