平成22年2月5日
設置計画履行状況調査(以下,「アフターケア」という。)は,各教職大学院の教育水準の維持・向上及びその主体的な改善・充実に資することを目的として,文部科学省令(※1参照)及び告示(※2参照)に基づき,文部科学省が,設置認可後,当該認可時における留意事項(設置基準の要件は満たしているが,一層の改善・充実が必要と認められた事項)、学生の入学状況,教育課程の編成・運営状況,教員組織の整備状況その他の設置計画の履行状況について,各教職大学院から報告を求め,書面,面接又は実地により調査するものである。
大学設置・学校法人審議会大学設置分科会では,アフターケアについて,運営委員会の下に「設置計画履行状況等調査委員会」を設置し,所要の調査審議を行っているが,教職大学院については,新たな教員養成の中核を担うものであるという制度の特質を踏まえ,特に専門的な調査審議を行う必要があることから,「教職大学院特別審査会」(別紙1)に付託し,調査に当たっている。
教職大学院特別審査会では,すべての教職大学院(昨年度開設19、今年度開設5)(別紙2)を対象として書面調査及び実地調査を通して設置計画の履行状況全般について調査を行った。
書面調査は,大学から提出された「設置計画履行状況報告書」及びこれを裏付ける詳細な「補足説明資料」に基づき実施し,実地調査は,大学からの説明聴取,学生インタビュー,教育委員会インタビュー及び施設設備調査を実施した。
教職大学院が開設されて2年目となる平成21年度は,高度な実践力・応用力を育成する専門職大学院として,さらに意欲的かつ多様な取組が設置の趣旨・計画に沿って行われ,教職大学院の設置を契機に教育委員会との連携や,教職課程全体の活性化などの面で,着実に実績を積み重ねている。
しかし,個別所見で指摘するとおり,教職課程全体の改善モデルの提示や理論と実践が融合した教育内容・体制,入学者の確保などに課題のある教職大学院も見られる。
今年度の調査結果を踏まえて留意事項を付した教職大学院は別紙3のとおりである。教職大学院は教員養成課程全体の改革を図り,学部と大学院を通した教員養成のモデルとして成果をあげることが広く求められている。
また,教職大学院は開設されて2年目の新しい制度であり,理論と実践が融合した新しい教育方法や体制により先進的な取組が行われている。これらの取組を確実に検証・改善することによって,教員養成の中核的な機関としての役割を十分に果たすことが期待されているため,各教職大学院に関する留意事項を含め,この総合所見において幅広く課題の指摘を行うものである。このため,以下の個別所見に基づき,すべての教職大学院で教育内容の質の保証を図るための不断の検証・改善に努めることが期待される。
個別に留意事項は付さなかったものの,全体の傾向として留意すべき点を含めて主な項目ごとに所見をまとめると,以下のとおりである。
(1)学部段階を含め教職課程全体の改善のモデルの提示
教職大学院制度の役割のひとつは,学部段階を含め教職課程全体の改善モデルを提示することであるが,各教職大学院では,大学教員が学校現場に出向く機会が増えたり,教職大学院の実務家教員が学部の授業を行う等,教職大学院の設置が教員養成課程全体の改善につながった例が各教職大学院で見受けられる。
今後,学部段階を含む教職課程全体に具体的にどのような改善が図られたのか,各大学で教育委員会等の視点を加味した検証を行うとともに,これらの取組をさらに系統的・組織的に広げることが重要である。
(2)学部との一貫性の中での学部新卒学生の養成
教職大学院制度は,学部と大学院を通した教員養成のモデルを示し,学部との一貫性の中で学部新卒学生を対象とした実践的な指導力を有する新人教員の養成を目的としている。
各大学ではポートフォリオの作成などにより学生に対して学習成果の可視化を行い,それらを活用して授業科目の改善を日常的に行うといった先進的な取組が積極的に行われているが,こういった取組を通して,教職を目指す学生や教育委員会等に対し,教職大学院で学ぶことの意義が広く伝わるようにすることが重要である。また,教育委員会との連携は,現職教員の派遣に際して教育委員会との協議を重ねている大学が多いが,学部新卒学生の養成については十分な議論が行われていない。学部新卒学生の採用試験合格者への名簿搭載期間の延長や採用試験・研修の免除等を実現するためにもさらなる連携が期待される。
さらに,学部段階からの接続コース(現在3大学)の設置を種々の形で促進することは,学部との一貫性の中で教職大学院の意義を広げる上で有益である。
(3)現職教員の再教育
各教職大学院では,学部新卒学生とともに多くの現職教員学生が強い意欲と熱意を持って学習している。
各教職大学院では,現職教員の派遣に際し,教育委員会等との協議の中で,求められる養成像や養成されるべき資質・能力の具体化が進められており,教職大学院の修了を教育委員会の人事システムに組み込むといった具体的な制度上の連携を図る例もみられる。今後,例えば,平成20年度より学校教育法上に定められ,各県で導入が進んでいる主幹教諭や指導教諭に求められる資質・能力を養成するなど,各教育委員会が具体的に設定するキャリアパスに沿った養成を行うことで,教職大学院が現職教員のキャリアパスの一環として明確に位置づけられ,教職大学院での修学への動機付けとなることが期待される。
(1)実務家教員との協働
各教職大学院では,実務家教員と研究者教員によるティームティーチングの導入など,画期的な教育が行われている。今後,実務家教員と研究者教員の協働体制の強化により「理論と実践の融合」による新しいカリキュラムや教育方法の確立が図られることが期待される。一方,運営面での協働体制などが不十分な大学もあり,そのような大学では,両者の協働体制を図ることが急務である。
(2)現職教員学生と学部新卒学生の合同教育の在り方
現職教員学生と学部新卒学生との合同教育は,それぞれの経験や能力の差からくる教育内容に対する不満や不安といった問題が指摘されてきた。そのため,各大学では高度に実践的な講義や実習はクラスを分ける,学習グループの編成に配慮する,取り扱う課題や教材を変える,さらに,学部新卒学生には,補習や個別指導等を行うといった取組が進められている。その結果,学生からも,学部新卒学生は現職教員からアドバイスを受けることができ,現職教員学生は新人教員への指導の訓練となるといった双方にとってよい面があるとの意見も多数見受けられた。
各大学では,引き続き,合同教育により十分な教育効果が得られているのか検証を行い,その良さを活かしつつ,両者の力を最大限に引き伸ばすことができるきめ細やかな指導体制を構築することが必要である。
(3)実習免除と実習体制の整備
現在24大学中19大学で何らかの形で実習の免除(うち4大学が全部免除)を行っている。各大学では,昨年度の留意事項を踏まえ,面接や入学前後のレポート,模擬授業の評価を通して,より厳正な運用を行っている。一方で,引き続き免除の基準やその運用が明確でない大学も見られ,特に全部免除を行う大学では,免除の実績とそれが教育効果に与えている影響を分析し,必要に応じ,より厳格な基準への見直しを検討したり,カリキュラム全体で実践性が十分に担保されているかの検証が求められる。
現職教員学生の現任校実習は,現在24大学中12大学で様々な方式で実施されている。現任校実習は,日々の業務に埋没するといった問題が指摘される一方,学校現場の課題を直ちに研究課題として取り組めるという点で有益であるという大学も見られた。担当教員が定期的に現任校に訪問し指導を行ったり,校務分掌の見直しなどにより職務の負担軽減を教育委員会等に依頼するなど,大学が責任を持って効果的な実習を行う体制を整備した上で現任校実習を行うことは,学校現場への影響を最小限にしながら優秀な現職教員学生を集められる点で有効な手段のひとつとも考えられる。
また,実習課題と実習校のマッチングが不適切であったり,実習の趣旨が実習校に十分に周知されていないといった大学も引き続き見受けられ,今後,実習の成果が十分にあがるよう実習校との協力体制の整備が不可欠である。
教職大学院創設を契機に教育委員会等との連携が進んだ大学も多く,今後,大学全体として一層の連携強化が期待される。
一方,県によっては現職教員学生の派遣人数,修了者の処遇,採用試験・研修の免除等の取組に差が見られ,連携協力に対する温度差も感じられる。
各大学では教育委員会等との連携のための組織は設置されているが,今後,その組織の実質的な運用に努め,教職大学院の設置趣旨に関して一層の理解を図り積極的な連携協力のための共通認識を確立するとともに,カリキュラムや教育方法などの運営全般に関し教育委員会等の要望・意見を踏まえた改善を行うことが求められる。
また,教育委員会と大学が共同して現職教員学生の成果発表を行う場を作ったり,学生の評価を教育委員会と共同して実施する授業を設定したりといった取組が各大学で行われている。さらに連携を深めるためには,教育委員会から派遣されている実務家教員を通して結びつきを進め,教職大学院のみながらず学部段階を含めた教育委員会等との継続的な連携体制を構築する必要がある。
平成21年度入学者選抜で24の教職大学院中,11の教職大学院で定員未充足となっている。主な理由は1.教育委員会からの派遣者数の伸び悩み,2.学習・成果の理解への不十分さ,3.修了後のインセンティブの問題,4.都市部の教員採用数増加による進学者の減少,5.学生の経済的負担の問題,6.現職教員の多忙のための学習機会の確保の困難さ,7.広報期間・募集期間の不十分さ(特に21年度新設大学)といった点があげられる。
各大学では,学部新卒学生確保のため,教員採用試験の免除,試験合格者への名簿搭載期間の延長等のインセンティブの設定や,現職教員学生の派遣に関し教育委員会との協議を重ねたり,授業料減免や企業等から寄附を募り奨学金を充実させるなど必要な努力は進めているが,入学者確保に向け一層の努力が不可欠である。特にコース別定員を設定している場合には,コースごとの適切な定員充足に努めることが求められる。一方,学生の質を保ちつつ安定的に定員を確保するためには,長期的視点に立ち,上記1.~3.の教育内容の質の保証を図るための取組を積み重ねていくことが基本となる。
実務家教員と研究者教員からなる教員組織の整備は,すべての大学で着実に行われているが,一部の大学で実務家教員の年齢構成のバランスを欠くなどの状態が見受けられており,順次是正が求められる。
また,FD活動については,学生アンケートや教員相互の授業公開を実施している大学がある一方で,学生の意見等が教育課程の充実・改善に必ずしも十分に反映されていない,授業公開を行う教員が一部にとどまっているなどのケースが見られた。このような取組を組織的かつ実効性のあるものとし,さらに全学的な取組に展開するよう努めることが急務である。
各大学とも既存の施設・スペースを上手く活用し,講義室,演習室,教員研究室,自習室などの施設整備に積極的に取り組んでいる。しかしなお,教員研究室や自習室の不足,関係施設の分散配置,施設のバリアフリー化など課題が残っているところもあり,引き続き改善が求められる。
本年度の調査の結果,留意事項を付された教職大学院及び平成21年度に設置された教職大学院については,来年度も引き続き,アフターケアを実施することとし,各教職大学院における一層の改善を促進していく方針である。
※1 大学の設置等の認可の申請及び届出に係る手続等に関する規則(抄)
(平成19年3月30日 文部科学省令第10号)
第14条 文部科学大臣は,設置計画及び留意事項の履行の状況を確認するため必要があると認めるときは,認可を受けた者又は届出を行った者に対し,その設置計画及び留意事項の履行の状況について報告を求め,又は調査を行うことができる。
※2 文部科学省告示第50号(抄)
大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)第33条の規定に基づき,新たに大学院等を設置する場合の教員組織,校舎等の施設及び設備の段階的な整備について次のように定める。
平成15年3月31日
(1・2略)
3 文部科学大臣は,大学院等の設置又は課程の変更を認可した後,当該認可時における留意事項,授業科目の開設状況,教員組織の整備状況その他の年次計画の履行状況について報告を求め,必要に応じ,書類,面接又は実地により調査することができるものとする。
※3 学校教育法第109条の3(抄)
(1・2略)
3 専門職大学院を置く大学にあつては,前項に規定するもののほか,当該専門職大学院の設置の目的に照らし,当該専門職大学院の教育課程,教員組織その他教育研究活動の状況について,政令で定める期間ごとに,認証評価を受けるものとする。ただし,当該専門職大学院の課程に係る分野について認証評価を行う認証評価機関が存在しない場合その他特別の事由がある場合であつて,文部科学大臣の定める措置を講じているときは,この限りでない。
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