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第2章 学校のICT化におけるCIOについて

2−1 CIOの必要性

 昨今、様々な分野の情報化において、情報化の統括責任者であるCIO(Chief Information Officer)への期待が高まり、その設置が進められてきている。CIOは1980年代米国の民間企業に始まり、90年代後半には連邦政府各機関への設置の義務づけなどがなされた。我が国においても、民間企業をはじめ、政府・地方公共団体、大学など様々な分野でCIOの導入が進められてきている。
 政府においては、平成14年度に電子政府構築の推進体制の確立のため、各府省に「情報化統括責任者」(各府省CIO)が設置されるとともに、これに対する支援・助言等を行うCIO補佐官や、CIOとCIO補佐官それぞれの各府省連絡会議が設置されている。地方公共団体についても、電子自治体推進指針において、「最高情報統括責任者」(いわゆる自治体CIO)を中心とした推進体制の整備が不可欠であり、首長や副市長等が任命されることが望ましいとされている(注1)。大学に関しても、電子政府構築計画等に基づき、国立大学法人における業務・システムの最適化を実現するため、業務全般に責任を持った「情報化統括責任者」を設置することとされ、こうしたいわゆる大学CIOを推進する民間フォーラムの活動も私立大学を含め展開されている。このほか、防災分野や医療分野などのCIOについても検討等が行われている。

 CIOの設置が求められる背景は分野毎に異なるものの、その目的については、情報化のビジョンを構築し、それを起点として、情報化による効果や利用者満足度を最大化すること、業務の効率化を図ること等を目指し、戦略的・計画的、組織的・継続的に取り組むための推進体制(マネジメントや評価を含む)を整備することである点で基本的に共通している。

 学校のICT化については、前章で課題として挙げたように、学校におけるICT環境整備の遅れや地域間格差が顕著であるとともに、教員のICT活用指導力も全国的には十分でない状況にあるが、学校のICT化の効果を積極的に理解し、教育の質の向上を図ることを最終的な目標として、組織的・継続的に取り組んでいくことが極めて重要である。これまで、学校のICT化については、教育委員会や学校の熱意ある担当者が力を発揮し先進事例を生み出してきているが、その知見を生かしながら、今後は、適切な責任・マネジメント体制のもと、効果を最大化することを目指して戦略的・計画的な取組みを組織全体で展開していくための「学校のICT化のサポート体制」を整備することが強く求められる。
 そのため、教育の情報化の理念に沿った学校のICT化のビジョンを構築し、それに必要なマネジメントや評価の体制を整備しながら、統括的な責任をもって学校のICT化を推進する人材として、教育の情報化の統括責任者であるCIOの位置づけを教育委員会及び学校において確立し、それぞれ「教育CIO」「学校CIO」として、その機能を発揮させていくことが必要である。(注2)

  • (注1)自治体CIOの任命率は、都道府県で70.2パーセント、市区町村で73.3パーセントである。(平成19年4月現在。総務省「地方自治情報管理概要」(平成19年9月)より)
  • (注2)学校のICT化を考えるとき、地域全体における学校のICT化の企画・実行(予算配分を含む)等は教育委員会(教育を含む行政担当部局)の責任と位置づけられる等、地域と学校で役割は異なるため、教育委員会における「教育CIO」と学校における「学校CIO」を分けて、それぞれの機能を明確にすることが必要である。

2−2 CIOの事例

 教育の情報化に関する国内外の事例から、CIO機能の実現方策、CIOの機能・業務について検討する。

(1)CIO機能の実現方策の例

 現在、国内においては、教育委員会や学校においてCIOやこれに相当する専門の役職が正式に位置づけられている例はないと思われる。しかし、既存の組織・体制の中で事実上、教育CIOや学校CIOの機能を果たし、学校のICT化を積極的に推進している例が見られる。

1教育CIO

  • 熊本県では、教育委員会事務局内の課長クラスが、知事部局と連携して教育の情報化のための予算確保・調整の機能を有するなど教育CIOとして機能し、専門的知識を有する情報担当指導主事がこれを補佐している。市町村立学校を含め、県の研修により各学校に「校内リーダー」を養成しながら、県内の教育の情報化を推進している。
  • 小牧市(愛知県)では、教育委員会事務局内に有識者、首長部局(情報政策担当)、小中学校教員の代表等から構成される推進組織「小牧市情報教育IT推進委員会」を設置し、ICT環境整備の方針策定や予算確保等についての意志決定機関としながら、教育長が教育CIOとして機能している。教育委員会事務局にIT担当指導主事を新設するなどの体制整備を併せて実施している。
  • 徳島県三好地域では、地方公共団体の規模を考慮し、複数の地方公共団体が連携して「ICTコーディネータ」を置くことにより、各教育委員会の教育長等や各学校の校長に情報提供や働きかけをしながら、広域の教育CIO機能を実現させている。
  • なお、海外の事例として米国においては、50の学区(教育委員会)において、副教育長が教育CIOとして位置づけられるとともに、その下に数十〜数百名規模のスタッフが配置されている。教育CIOは学区における計画的・効率的な情報化や地域住民への情報公開・説明責任など情報化に関わる全ての権限を有する。各学校への専門技術者スタッフの派遣も行う。

2学校CIO

  • 日野市では、教育委員会の調査研究組織として設置された、有識者、首長部局(情報システム課等)、学校の代表等から構成される「ICT活用研究委員会」等により実現された教育CIO機能のもと、各学校では、校長が学校CIOとしてリーダーシップを発揮し、副校長や教務主任等が学校情報化を組織としてマネジメントする体制を構築している。校長が自校のICT活用指導力向上のための方針を打ち出し、全教職員に周知している。
  • 岐阜市立京町小学校では、校長が学校CIOとして機能しているとともに、教職員のICT活用を支援する情報担当者や情報担当補助員を配置している。また、校長は、教員の実態に応じたICT活用を指導したり、校務の情報化を指導したりするほか、必要な情報システムを教育委員会に提案するなどしている。
  • なお、海外の事例として英国においては、校長が学校CIOとして機能していることが多い。副校長や教務主任、ICTコーディネータ(教科「ICT」の主任)が学校CIOとして機能している場合もあるが、多くの校長が学校のICT化のビジョンをもち戦略を実行している。学校におけるICT環境の整備やICT支援員にあたる「ICTテクニシャン」の雇用も学校の裁量で行われている。

(2)CIOの機能・業務の例

 前項で述べた事例を含め、教育CIOや学校CIOにより学校のICT化を積極的に推進している事例(参考資料を参照)から、それぞれが担う機能・業務としては、以下のようなものが挙げられる。

1教育CIO

  • 情報化推進組織の設置・運営、人員の配置・育成(ICT支援員を含む)
  • 情報化に関する予算確保・調整
  • ICT環境整備の計画策定と実施(仕様書の作成、保守管理を含む)
  • 授業におけるICT活用の促進、情報教育の充実
  • 情報セキュリティポリシーの策定など情報セキュリティのルール・体制づくり
  • 情報化に関するホームページ等による発信、学校ホームページの活用促進
  • 学校(管理職、教職員)やICT支援員に対する研修などの人材育成
  • 首長部局(特に情報政策部門、財政部門)やICT関連企業との連携

2学校CIO

  • 情報化に関する教職員への意識付け
  • 校内における情報化のマネジメント体制の整備
  • 授業でのICT活用や情報教育に関する指導計画の策定・実施
  • 校内における機器・システムの提案、整備、活用
  • 校内における情報セキュリティ確保の体制整備・運用
  • 学校ホームページの運用などによる情報発信・共有
  • 情報化に関する校内研修の実施

2−3 CIOの機能・業務とその実現形態

(1)CIOの機能・業務

 学校のICT化においてCIOが担うべき機能とは、教育委員会・学校のいずれにおいても、「学校のICT化について統括的な責任をもち、ビジョンを構築し実行すること」である。こうした機能を、前章でも述べた学校のICT化における諸課題に対応して、発揮させていくことが必要である。
 これらの課題は、大まかに、授業におけるICT活用に関すること、ICT活用のインフラとなる整備や運用に関すること、学校外とのコミュニケーションに関すること、ICT化を支える人材に関すること、に分類できるが、前項のCIOの機能・業務の例も踏まえ、CIOがその機能を特に発揮していくべき分野とその考え方を整理すると、以下のとおりとなる。

1情報化による授業改善と情報教育の充実

 ICT環境整備や研修などと併せて、ICTの活用にかかわる実践事例や教材等の普及、授業研究の促進など教員に対する支援を推進することにより、ICT環境を有効に活用し、学力の向上を目指した授業改善、情報活用能力の育成のための情報教育の充実を図る。

2学校のICT環境の整備(校務情報化を含む)

 ICT活用の効果を地域・学校のニーズに応じて最大化し、学校教育に関わる域内組織全体で最適化が図られるようなICT環境を目指して、関係部局とも連携して計画・予算化しながら、ICT環境整備を戦略的に進める。

3リスクマネジメント

 情報セキュリティポリシーの策定や監査の実施、必要な体制・システムの整備等を通じ、児童生徒の個人情報保護や情報漏洩事故への対応など、情報セキュリティ上のリスクに適切に対応する。

4情報公開・広報・公聴

 教育委員会・学校が保有する情報を、より良い学校づくり等のため保護者や地域住民に積極的かつ戦略的に発信し共有することにより、開かれた学校づくりに資する。

5人材育成・活用

 学校のICT化を組織的に進めるため、学校現場における管理職のリーダーシップや教員のICT活用指導力を向上させるための研修を体系的に実施するとともに、教育委員会・学校、教員をサポートするため外部人材を積極的に育成・活用する。

 これら5つの分野にわたる機能について、「教育CIO」は、学校のICT化を地域レベルで統括し、学校のICT化ビジョンの構築やそれに基づく施策の実施を通じて、教育委員会・学校など域内組織全体で最適化を実現することに責任をもち、他方、「学校CIO」は、教育CIOが構築する地域レベルでの学校のICT化ビジョン等に基づき、学校単位で、ICT化の取組みを学校内外との連絡調整を図りながら確実に、マネジメントし実行することに責任をもつ。
 その際、全体最適化を念頭に置きながら、ビジョンに基づいて、計画・実行・評価・改善のプロセス(いわゆる「PDCAプロセス」)を組織内に組み込み、教育委員会・学校・地域で連携を図り目標を共有化しながら、継続的に取り組んでいくことが肝要である。特に、教育委員会や学校の関係者、特に現場の教員が、学校のICT化への意欲を高め、意識を変えていくような仕組みを考えることが極めて重要である。(図2−1)
 こうした観点からも、各学校の学校CIOは、情報化について受け身的な対応ではなく学校としての要望・ニーズを的確に教育CIOに伝えることが必要であり、教育CIOは、地域全体としてのリソースや整合性、学校における自主性・独自性などを多面的に考慮しながら、域内全体としての最適化を実現させることが必要である。そのため、教育CIOと学校CIOは、常に緊密な連携を図ることが不可欠である。


図2−1 CIO機能の分野

(2)CIO機能の実現形態

1教育CIO機能の実現形態

 教育CIOについて、実際の教育委員会の組織の中で実現を図っていく形態について検討する。
 教育CIOについては、業務遂行に関する責任と権限を有するとともに、教育委員会や首長部局を含めた組織間連携を円滑に図ることのできる立場の者であることが必要である。
 具体的には、教育CIOとして教育長や教育次長、適切な部課長クラスの者がその任に当たることが考えられるほか、首長部局における自治体CIOの兼任、専門的な知識等を有する外部人材の登用といった方法も考えられる。
 その際、教育CIOの任に当たる者が、情報化関係以外にも業務・権限を有する場合が十分想定され、また、企画立案から実行・評価までその担うべき機能や業務を一人ですべて実施していくことは困難であることから、これを補佐する教育CIO補佐としての機能をいかに実現するかが重要である。そのため、「教育CIO補佐官」という形で人材を配置する(図2−2)、あるいは、「教育情報化推進本部」などの組織を設置する(図2−3)とともに、これらに一定の権限を与えることによって、全体として実効ある教育CIO機能を実現することが必要である。


図2−2 教育CIO機能の実現形態1−人材配置−


図2−3 教育CIO機能の実現形態2−組織設置−

2学校CIO機能の実現形態

 学校CIOについては、校長、副校長、又は教頭が学校CIOの任に当たるとともに、学校CIOを補佐する「学校CIO補佐官」として情報主任(又は情報化担当教員)を充て実行面の権限を与えながら、情報主任・教員・ICT支援員が連携しチーム体制で情報化に取り組めるようにすることが有効である。

(3)教育CIO機能を果たすために必要な資質・能力

 教育CIOについて、その機能を効果的に発揮させるためには、まず、教育CIOの任に当たる者が、統括責任者の基本的な資質・能力として、リーダーシップ、マネジメント能力を備えることが不可欠である。
 また、1教育、2技術、3行政のいずれの分野についても業務を適切に遂行するための知識・経験を備えていることが必要である。これについては、前項で述べた教育CIOとこれを補佐する組織・体制の中で、これら3分野に関する知識・経験を備えることが求められる。例えば、教育・行政分野の知識・経験のある者を教育CIOに充てる場合には、技術分野の知識・経験のある教育CIO補佐官を配置し、逆に、技術分野の知識・経験のある者を教育CIOに充てる場合には、教育・行政分野の知識・経験のある教育CIO補佐官を配置する、といったことが必要である。
 このように、教育CIO自身において基本的な資質・能力を備えるとともに、組織全体として教育CIOの機能を発揮させる体制整備が必要である。(1)で整理した5つの分野にわたって教育CIO機能を発揮していく上で、それぞれの分野で必要となる教育・技術・行政に係る資質・能力を整理すると、以下のとおりとなる。上述の教育CIO自身に求められる資質・能力を含め、分野によらず備えることが求められる共通的な能力等については「ベース」の欄に示している(図2−4)。


図2−4 教育CIO機能を果たすために必要な資質・能力

2−4 CIOの機能・業務の具体例

 前節において、CIOがその機能を発揮すべき5つの分野とその考え方を整理したが、それらに基づく具体例をここに挙げておく。

(1)情報化による授業改善と情報教育の充実

○先導的な実践事例の調査・研究、普及

 ICTを活用した授業や情報教育に関する指導の手引き書、実践事例等の教員向け情報の調査・研究、作成・普及を行うとともに、授業におけるICT活用の効果について調査・研究して教員へ周知するほか保護者の理解を促進する。

○情報モラル教育の充実

 情報モラル教育に関する指導の手引き書や実践事例、教材のほか、情報モラルに関わる社会的問題についての最新情報を調査・研究、普及するとともに、学校全体で情報モラル教育に取り組むためのモデル的な指導計画を策定・提供する。

○ディジタル教材の活用促進

 ディジタル教材を収集したりディジタル教科書の活用を促進するとともに、地域独自のディジタル教材の作成を支援し、学校へ提供する。

○研究組織の設立と運営支援

 教育の情報化に関する研究会などの研究組織を設立し、その活動や運営を支援するとともに、教職員の参加を促進する。

(2)学校のICT環境の整備(校務情報化を含む)

○学校のICT環境整備の計画策定と予算獲得

 学校のICT環境整備を計画的に進めるため、コンピュータや周辺機器、校内LAN、超高速インターネット、ソフトウェア等の整備計画を策定し、定期的に見直すとともに、予算獲得のため計画の有効性・妥当性を示す情報の収集・活用を進める。

○授業改善等のための普通教室等のICT環境整備

 日常的にICTを活用し、各教科等における授業改善、情報活用能力の育成を行うため、コンピュータ教室のみならず普通教室や特別教室のICT環境を整備する。

○情報化による校務の効率化と組織内・組織間連携の促進

 教員1人1台の校務用コンピュータ整備など校務の情報化により、校務の効率化を図るとともに、組織内(学校内、教育委員会内)・組織間(教育委員会−学校間、学校間、教育委員会間)の情報共有・連携、保護者や地域住民への情報発信を促進する。

○低コスト・高機能な調達

 保守管理や研修など運用面を含めた仕様策定、積算や調達の改善により、低コスト化・高機能化を実現する。

○首長部局の情報政策部門・財政部門との連携

 情報化に関する計画・予算・調達・運用等に関する調整・助言など全庁的な支援体制を構築する。

(3)リスクマネジメント

○情報セキュリティポリシーの策定・運用・改善

 学校の実情を踏まえた実効性のある「情報セキュリティポリシー」を策定し、同ポリシーに対応した体制・システムを整備するとともに、PDCAサイクルの実行により継続的に改善する。

○個人情報保護の具体的手順の策定

 個人情報保護のための具体的な手順を策定し、教育委員会や学校に対して周知・指導する。

○情報漏洩事故等発生時の対応

 情報漏洩事故等が発生した場合の対応マニュアルを作成するとともに、同様の事故等の発生を防止する改善策を速やかに実施する。

○情報セキュリティ監査の実施

 情報セキュリティ確保の実施状況を評価し、具体的な改善策を講じるための内部監査・外部監査を実施する。

(4)情報公開・広報・公聴

○情報化に関する情報公開

 地域や学校としての教育の情報化のねらいを明らかにするとともに、ICT環境の整備・活用状況などの情報化の指標について現状を正確に把握し公表する。

○学校の広報と説明責任の遂行

 学校ホームページの作成と積極的な更新、作成・更新の容易なシステム整備等により、学校活動について広報し、説明責任の遂行に資する。

○教育委員会におけるICTを活用した情報公開・広報・公聴

 教育委員会において情報をデータベース化し、ホームページ等においてそれらを公開したり、パブリックコメント制度の活用を推進する。

○保護者・地域との連携促進

 学校ホームページ、電子メールなどを活用することにより保護者・地域住民との双方向のコミュニケーションを促進する。

(5)人材育成・活用

○管理職研修の実施

 学校管理職(校長・副校長・教頭等)に対し、情報化におけるリーダーシップや学校経営との関わり等について研修を実施する。

○教員のICT活用指導力の調査・分析

 「教員のICT活用指導力の基準(チェックリスト)」を用いた調査・分析を行うとともに、その結果を踏まえ研修等へ活用する。

○体系的な研修の計画・実施

 教員のニーズやレベルに応じた体系的な研修を計画・実施し、研修成果を評価するとともに、学校や教員による自主的な研修の実施や外部の研修への参加を促進する。

○外部人材の活用

 情報化の推進のための大学・企業等からのアドバイザー、授業・校務でのICT活用の促進のためのICT支援員を活用し、計画的に配置する。