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今後の日本語教育施策の推進について―日本語教育の新たな展開を目指して―(報告)(抄)

平成一一年三月一九日
今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究協力者会議

今後の日本語教育施策の推進について―日本語教育の新たな展開を目指して―(報告)(抄)

はじめに

国際化が進展しつつある中、我が国にとって、日本語教育の一層の振興を図っていくことが重要な政策課題となっている。

これまで様々な分野において日本語教育施策が進められてきたが、それらは現在一つの転機を迎えている。国内外の日本語学習者数の増加や多様な日本語学習者の新たな学習ニーズに適切に対応していくことが求められている。その一方で、これまでの個々の日本語教育施策の在り方について、現在の社会状況に照らして、その見直しを行う時期が来ていると考えられる。すなわち、日本語教員の養成方策や多様な学習ニーズに応じた教育カリキュラムの開発、日本語能力試験・日本語教育能力検定試験の在り方、日本語教育施設の機能の活用、地域における日本語教育や新しい情報通信媒体を活用した日本語教育の推進、さらには、海外における日本語学習への支援など、今後の日本語教育の充実を図っていく上で早急に解決すべき課題は多い。

本協力者会議は、日本語教育の新たな展開を踏まえつつ、日本語教育の現状と課題を整理し、今後における日本語教育施策の在り方について幅広い観点から検討を加えた。

この報告ではまず、日本語教育施策を推進していくための体制の在り方について基本的な考え方をまとめている。これは、様々な分野にわたる日本語教育施策を総合的に検討するに当たって、日本語教育に関係する事業を行う機関・団体が極めて多岐にわたっている現状を踏まえたとき、まずそれら相互の関係の在り方、言い換えれば日本語教育の推進体制について、今後のあるべき姿を検討することが前提として必要であると考えたからである。そして、本協力者会議としては、その検討を通じ、日本語教育関係機関等の連携・協力体制を構築し、一体となった日本語教育施策を推進していくことが極めて重要であると考えた。

その上で、日本語教育の様々な分野において、本協力者会議が現在課題として考える個々の問題点について、現状を分析した上で検討を加え、今後のあるべき方向性を提示した。この報告では、日本語教育の施策においては現在、総合的な施策の展望が求められているとの認識の下に、できるだけ多くの課題について取り上げ、検討を加えている。しかし、この報告で示した提言が実現されるためには、更に個々の課題ごとにより具体的な検討が必要とされるものであり、またすべての日本語教育関係機関・関係者の間で、その実現のための努力が払われなければならないと考える。その意味で、今回の報告は、今後の日本語教育施策の推進に向けての方向性を明示したものであるということが言える。

今後、この報告を基に、その提言を具体化するための取組が早急に行われることを強く願うものである。

[Roman1 ] 社会状況の変化と日本語教育

一 コミュニケーション言語としての日本語教育

(一) 日本語学習需要の増大

日本語教育は、日本語を母語としない者を対象として行われる言語教育である。現在、日本語の潜在的な学習需要は増大していると言えるが、これは、日本語能力の習得を必要とする者が増加していることにほかならない。

日本語を母語としない者が日本語能力の習得を必要とする要因としては様々なものがあるが、その最も大きなものの一つとして、日本国内において生活する外国人がコミュニケーション言語として日本語能力を必要としているということがある。すなわち、外国人が職業生活上あるいは日常生活を送る上で、母語が通用する特別な環境の下にある場合を除き、一般には日本人とのコミュニケーションを図るためには日本語能力が必要とされている。

近年、我が国に在留する外国人は増加の一途を辿っている。平成九年末現在、外国人登録者数は一四八万二、七〇七人で、我が国総人口の一・一八パーセントを占めるに至っている(法務省「在留外国人統計」)。一〇年前の昭和六二年末現在の八八万四、〇二五人と比較すると、六七・七パーセントの増であり、増加傾向は毎年続いている。

そして、我が国に在留する外国人を大きく在留統計上の永住者とそれ以外の滞在者である非永住者に分けると、増加している者は非永住者である(平成九年末現在、永住者は六二万五、四五〇人、非永住者は八五万七、二五七人)。非永住者は、新たに来日した外国人であり、例外的な場合を除くと、日本語能力を十分には有していない場合が一般的である。

日本国内に居住するこのような非永住者である外国人の継続的な増加は、国内において、潜在的な日本語学習需要が継続的に増加しているものと言える。

一方、文化庁が行っている国内の外国人等に対する「日本語教育実態調査」によれば、実際に日本語学習を行っている者(独学者を除く。)は、平成一〇年一一月現在で八三、〇二五人であり、一〇年前の昭和六三年の六四、〇二〇人と比較した場合、在留外国人全体に比べると低い増加率になっている。

このことは、我が国に在留する外国人の増加を踏まえた、学習需要を前提に今後の日本語教育の方向を考えた場合、特に、日本国内において居住することで潜在的な日本語学習需要を有しているが、学習環境が整っていないことなどにより、日本語学習を行っていない外国人を対象とした日本語教育の振興を図っていくことが重要であると言える。

(二) 地域の国際化と日本語学習者の多様化

(一)において、非永住者である外国人の増加を見たが、平成九年末現在で非永住者の在留資格を詳細に見ると、[cir1 ]高等教育機関において教育を受ける「留学」や日本語教育施設等で教育を受ける「就学」が合わせて八万七、三六六人、[cir2 ]外国人研修生が技術、技能又は知識の修得を行う「研修」が二万五、八〇六人、[cir3 ]日本人の配偶者又は子である「日本人の配偶者等」及び日系三世等の「定住者」が合わせて四七万七、三八〇人、[cir4 ]その他、「家族滞在」や「興行」、「技術」、「技能」、「教育」、「企業内転勤」などにより在留している者が合わせて二六万六、七〇五人となっている。

このうち、[cir3 ]の日本人配偶者や日系二世である「日本人の配偶者等」や日系三世等の「定住者」の在留資格を持つ者が極めて多いが、これらの人々の国籍を見ると、ブラジルが二二万五、一五九人、中国が八万六五五人、フィリピンが五万一、二九六人、ペルーが三万五五人などとなっている。

これらの人々は、平成二年六月に出入国管理及び難民認定法の改正法が施行されたことにより急激に増加したいわゆる日系南米人や中国からの帰国者、あるいは国際結婚による日本人の配偶者などがその大半を占めていると考えられる。そして、必ずしも大都市ばかりでなく、地方に分散して居住し、地域社会の中で生活をしている実態がある。

地域に居住するこれらの人々は、地域住民と隔絶した生活を送らない限り、職業生活や日常生活を送る上で日本語能力を必要とするものであり、このため日本語教育の対象者としても大きな位置を占めるに至っている。

また、現在、公立小・中・高等学校に在籍する日本語教育が必要な外国人児童・生徒が一万七、二九六人おり(平成九年九月現在)、学校において日本語指導等が行われているところであるが、このような外国人児童・生徒ばかりでなく、その親などの成人についても地域社会の一員として暮らす上で、日本語能力を習得することは不可欠であると言える。

これまで、国内における日本語教育の主な対象者として考えられてきたのは、留学生や日本語教育施設において学ぶ学生など、専門的な日本語教育を受ける者であった。そして、主にそれらの者を対象とした日本語教育の場の整備が行われ、教育内容・方法の改善が図られてきた。

しかし、これまで見てきたとおり、日本語能力の習得を必要とする者の年齢構成や在留資格は多様化してきており、そのような多様な学習需要に適切に対応した日本語教育の展開こそが今求められていると言える。

二 文化発信の基盤としての日本語教育

言語は、コミュニケーションの手段であると同時に、その言語を用いる民族や集団の文化的同質性の基盤を成すものである。国際化が進展する中で、互いに異なる言語・文化を有する者との異文化間接触がますます増えている今日、それぞれの言語・文化を尊重し、認めあうことで、理解と親善を深めることが重要であることは言うまでもない。このように言語・文化の交流は双方向性を有するものであり、我が国においても、諸外国の言語や文化を学ぶとともに、日本語及び日本文化を世界に広め、相互交流と理解を深めていくことが必要である。

特に今日の我が国にとって、国際社会の中で我が国への理解を深め、諸外国と共存していく上で、対外的な文化発信を積極的に行っていくことは極めて重要なことである。そして、このような対外的な文化発信の基盤となり、我が国文化の「顔」となるのが海外における日本語教育であると言える。

平成五年現在、海外の日本語学習人口は一六二万三、四五五人(国際交流基金調べ)であり、この学習人口は現在更に増加しているものと見込まれる。日本語学習者数の増加をもたらしているのは、海外においても日本語に対する学習需要が高まっていることによるものであるが、その要因としては、我が国の科学技術に対する関心や芸術文化の交流、ビジネスや就職に当たっての必要性など、様々な動機による日本やその文化に対する関心の高まりがあるものと言える。

このことは、学習者層についても、かつてのように専門的な研究者となるため高等教育機関において日本語教育を受ける者のみならず、初等中等教育段階で日本語を学習する者や職業上の実務的な必要性から日本語学習に取り組む者など、多様な学習者を生み出していることにも現れている。

そして、海外におけるこのような多様な日本語学習者の学習需要に応じて、その積極的な支援を行っていくことこそが、我が国に求められている文化発信の基盤的な事業であると言える。

三 情報化社会における日本語教育

高度情報化社会の到来は、単に情報量の飛躍的な増大をもたらしたことにとどまらず、新しい情報メディアの誕生、発展によって、文字、音声、映像が一体化した情報交換を容易にし、遠距離間の双方向的なコミュニケーションの可能性を現実のものにしつつある。

そのため、日本語教育の分野においても、新しい情報メディアが注目されている。日本語学習者がいつでも、どこでも、効果的に学習できるような環境を実現するためには、新しい情報メディアを活用した日本語教育の発展が期待される。

日本語の教育方法として、教授者と学習者との相互関係の上に教育が成立することを基本とするのは、他分野の教育と異なるものではない。そして、これまでの日本語教育の実際においても、教室において、教授者と学習者が同一の空間を占める直接的な教授方法によることが一般的であった。

しかしながら、これまで見てきたとおり、現在国内においても、日本語学習者層は拡大し、多様な学習者が現れてきている。そのため、一定の時間に一つの教室に集まり教育を受けることが、必ずしも現実的とは言えない日本語学習者も生じている。また、海外において日本語学習を希望する者すべてに直接的な教授方法による教育機会を提供することも困難である。

このように日本語学習者が多様化し、直接的な教授方法によることが難しい学習者が増えている中で、日本語学習の場を拡大し、より多くの学習機会を提供する手段として、インターネットや光・磁気ディスク、衛星通信など新しい情報メディア(媒体)を活用した日本語教育の可能性が登場してきている。

また、このような新しい情報メディアの活用は、直接的な教授方法による授業を受けることが難しい学習者に対してのみならず、専門的な日本語教育を受ける者に対しても、直接的な教授方法を補完し、より教育効果をあげる上で有効な手段となり得ることが考えられる。

日本語教育における新たな情報メディアの活用は、その研究開発が緒に就いたばかりであるが、日本語教育の教育形態を大きく変化させ、その飛躍をもたらす可能性を秘めていると言える。

四 日本語教育行政を取り巻く状況

国内及び海外における日本語教育への需要の増大と多様化に対応し、現在、日本語教育に関係する事業を行っている機関・団体として、後述するように、多くの省庁や法人等がある。そして、これら多種多様な事業を行っている機関・団体の間で、日本語教育に関するネットワークを構築し、総合的な視野の下に、全体として効果的・効率的な事業を展開できるようにすることが大きな課題になっている。

一方、現在、政府においては中央省庁等改革をはじめとした行政改革を推進しているが、この中央省庁等改革においては、文化庁が「文化行政機能の充実」を図るとともに、「国際文化交流については、外務省との連携を更に緊密化し、文化庁がより重要な役割を果たす」こととされている(中央省庁等改革基本法第二六条)。さらに、行政機関の間における政策調整については、「国の行政機関は、その任務を達成するため行政機関相互の連絡並びに政策についての調整を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない」ものとされている(中央省庁等改革に係る大綱)。

このような現在の中央省庁等改革の状況を踏まえたとき、日本語教育施策については、関係機関等の間の連携・協力の抜本的な強化など、その推進体制を大きく発展させていくべき時期に至っていると言える。

[Roman2 ] 日本語教育の課題と今後の方向

一 日本語教育推進体制について

(一) 日本語教育推進体制の現状と問題

ア 日本語教育関係機関等の体制の現状と問題

現在、国内外の日本語教育に対する需要の増大と多様化に応じて、多くの機関・団体等において、それぞれの所掌事務に基づく目的に応じて多様な日本語教育に関連する事業が行われている。すなわち、日本語教育に関係する事務を行っている省庁としては、文部省・文化庁、法務省、外務省、通商産業省、厚生省等があり、その施設等機関としては国立国語研究所日本語教育センターがまた、特殊法人としては国際交流基金、国際協力事業団、日本貿易振興会がある。さらに、公益法人としては(財)日本語教育振興協会、(財)日本国際教育協会、(財)国際学友会、(社)国際日本語普及協会、(社)日本語教育学会、(財)アジア福祉教育財団、(財)言語文化研究所、(財)自治体国際化協会、(財)海外技術者研修協会、(財)中国残留孤児援護基金、(財)国際研修協力機構等が、また、その他の団体としては、国立大学日本語教育研究協議会、日本私立大学団体連合会日本語教育連絡協議会、大学日本語教員養成課程研究協議会があり、日本語教育に関係する事業が行われている。

日本語教育関連事業がこのように多くの省庁・機関・団体(以下「機関等」という。)において行われているのは、各機関等がそれぞれの設置目的に関連する日本語教育事業を独自の判断で実施してきたことに由来する。そのため、全体としての日本語教育施策が効果的・効率的に推進されているとは言い難い状況が生じている。

具体的には、[cir1 ]個々の機関等が独自に事業を行うことで、類似事業の重複が見られたり、人的・物的資源を集中的に投入して重点的に一つの事業を共同で推進することが難しいこと、[cir2 ]指導者や教材をはじめとした日本語教育関連の情報の流通が円滑に行われず、多様な日本語学習者の様々な学習ニーズに迅速に対応しにくいこと、[cir3 ]日本語教育施策全体から見た場合には必要な事業ではあっても、例えば、地域に居住する外国人に対する日本語教育等、実際には十分行われていないものがあることなど、多くの問題が生じている。

現在、機関等の連絡協議の場としては、毎年一回、文化庁の主催により日本語教育機関連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)が開催され、主として情報交換が行われているが、恒常的に日本語教育施策全体について連絡調整が行われる体制とはなっていない。

このため、これらの問題を解決し、日本語教育事業を効果的・効率的に全体として行っていくためには、機関等の間において一定の推進体制を設けることが必要となっている。

イ 日本語教育に関する情報の共有化・発信体制の現状と問題

日本語教育施策の推進を図る実効性ある体制を構築するためには、指導者や教材をはじめとした日本語教育関連の情報が共有化されることが必要である。そのためには、日本語教育に関する統計資料や調査研究、教材、指導者等の各種の情報を収集、蓄積し、それらの情報を衛星通信やインターネット等をも活用しつつ、各機関等や日本語教育の関係者に提供していく拠点(情報センター)が整備されていることが大切である。

現在、国立国語研究所日本語教育センターや国際交流基金日本語国際センター及び関西国際センター、(社)日本語教育学会、(社)国際日本語普及協会、(財)日本語教育振興協会などにおいてこのような努力が始まったところであるが、まだ十分な成果をあげるところまでは至っていない。また、例えば、外国人児童・生徒に対する教育について、同様の情報センターが必要であるとの指摘が行われているが、これについての具体的な取組はまだ行われていない状況にある。

さらに、各機関等の間の情報の共有化のみならず、日本語教員等の間の人的な情報ネットワークが構築され、相互の情報交換等が緊密に行えるようにすることも重要であり、そのための検討が(社)日本語教育学会を中心に行われているが、具体的な成果を得るまでには至っていない。また、日本語教育関係者と国語教育関係者の間での、特に教授法や教材開発等についての連携・協力に関しても緒に就いたばかりである。同様に、日本語教育関係者と他の外国語(英語、中国語、ポルトガル語等)教育関係者及び関連する他の教育分野(異文化間教育、多文化教育、コミュニケーション教育等)の関係者との間における連携・協力も十分なものとは言えない。

さらに、地域において日本語教育に関係するボランティア等が、地域単位にネットワークを設ける動きが活発化しつつあるが、現在のところすべての地域にこのようなネットワークが設けられるまでには至っておらず、また、これらを包括した全国的なネットワーク組織もまだ設けられていない。

ウ 地域の日本語教育推進のための体制の現状と問題

現在、地域においては、日系南米人や外国人配偶者など、日本語を母語としない外国人等が増加しており、地域住民として生活上必要とする日本語を習得するための学習機会を充実していくことが求められている。このような地域住民である外国人等に対する日本語教育においては、地方自治体が今後より一層重要な役割を担っていくことが期待されるが、現状においては、地方自治体においてこのための組織体制が設けられている例は少ない。また、国と地方自治体との間、及び地方自治体間においてこのような日本語教育推進のための連絡協議等の場は設けられていない現状にある。さらに、地方自治体と地域において活動する日本語教育関係団体(ボランティア団体等)との間において連携協力関係を築いている例も一般には稀(まれ)であると言える。

このような推進体制の現状では、たとえボランティア団体等が個々に日本語教育の支援や教材の開発を試みたとしても、地域に生活する外国人の学習ニーズに十分にこたえることは難しい状況になっている。また、日本語教員を地域における人的資源として、このような地域の日本語教育に幅広く活用する体制の確立もまだ不十分であると言える。

エ 海外における日本語教育推進事業の現状と問題

現在、海外における日本語教育を推進するための事業として、文部省においては、外国の中等教育施設への日本語教員の派遣(REXプログラム)を実施するとともに、国際交流基金においては、海外日本語教育状況調査を行うとともに、日本語教員の派遣、海外日本語教育機関等への助成、海外向け日本語教材の作成・寄贈、海外日本語教員の招へい研修等が行われている。さらに、地方自治体においては、海外姉妹都市等への派遣プログラムを実施している例もある。また、国際協力事業団においては、青年海外協力隊としての日本語教員の派遣や海外移住者子弟に対する日本語普及事業が、日本貿易振興会においては、ビジネス日本語教材の開発やビジネス日本語能力テストが実施されている。

このように海外においても各種の事業が実施されているが、国内の推進体制の整備が不十分なのと同様に、一部の機関の間を除いては、各機関等の間で海外への支援方策について定期的に連絡協議を行うなどの体制は設けられておらず、海外における日本語教育推進のための効果的・効率的な施策を講じていく状況にはなっていない。

特に、現地の言語に応じた対照的な教材の開発や現地のニーズに応じた人材の育成・派遣を図る態勢は、各国政府や日本側関係機関の努力により近年整備されつつあるものの、なお十分なものとはなっていない。また、種々の情報媒体を活用した海外の日本語学習への支援方策についても、総合的に推進していく状況にはなっていない。さらに、海外の主要な日本語教育関係機関等と国内の各機関等との間において、現地のニーズに応じた支援方策の在り方等について意見交換を行う場も恒常的なものとしては設けられていない現状にある。

(二) 今後における日本語教育推進のための体制の在り方

ア 推進体制の基本的な在り方

日本語教育の推進体制として、すべての日本語教育事業を一つの機関等に集中して実施するということは現実的な在り方とは言えない。なぜなら、日本語教育の対象者は、国内においては、留学生、日本語教育施設に在学する学生、外国人研修生、ビジネス関係者等の被用者、地域において居住する成人外国人や外国人児童生徒など、多様な学習目的に応じて非常に幅広い層にわたるものであり、また、海外においても、日本語専攻の研究者・学生や中等・高等教育機関で日本語を学習する生徒・学生・語学学校で日本語を学ぶ者、独学で日本語学習に取り組む者など、多くの層にわたるものであり、教育内容・レベルには大きな違いが見られるからである。

また、教育の実施場所も、国内・国外の違いだけでなく、初等教育から高等教育までの教育機関がある一方で、地域のボランティアにより運営されている教室もあり、これらすべての日本語教育の領域において、一つの機関等で事業を実施するということは実際には不可能であると言えよう。

したがって、日本語教育事業が現在と同様、多様な機関等で実施されるものであることを前提に推進体制を考える必要があるが、その場合においては、各機関等の連絡調整を図り、長期的・総合的な観点に立った施策を推進するための連携・協力体制を確立することが重要であると言える。

各機関等の連携・協力を推進するに当たって、横断的にすべての機関等の間に対等な立場での緩やかな関係性を築き、各機関等が個別的・自発的に連携・協力を図っていくだけでは必ずしも実効性のある統一のとれた連携・協力を確保することは難しい。

このため、各機関等が行う事業の状況を常に掌握し、各機関等の意向をも踏まえ連絡調整しつつ、日本語教育施策の総合的な計画作りへ向けての連絡調整等を行う中心的な機関を明確に位置付け、そこが連携・協力の核となっていくことが大切である。

また、このような連携・協力の核となる機関には、日本語教育施策に関する各種情報を総合的に蓄積・整備し、各機関等へ必要に応じて提供していくシステムを備えていくことが望まれる。

イ 連携・協力を軸とする推進体制の構築

(ア) 文化庁を核とした連携・協力の推進

各機関等の連携・協力を図り、施策を強力に推進していくためには、前述のとおり、連携・協力の核となり、各機関等の事業を連絡調整しつつ日本語教育施策の在り方や方向性をまとめていく中心的な機関を設定する必要がある。

このような推進体制としては、現在、文化庁において二三の機関等から構成される連絡協議会を開催しているが、これを基本として、文化庁が連携・協力の核となる役割を果たし、より緊密かつ実質的な連携・協力を行えるような体制に拡充することが望まれる。

このため、この連絡協議会を充実強化し、各機関等の間で日本語教育事業の実施に関し実質的な協議を行うことができる「日本語教育推進会議」(仮称)を定期的に、あるいは日本語教育を取り巻く新たな状況の展開等に対応して機動的に開催するなどにより、各機関等の連携・協力の下に施策が効果的・効率的に推進されていくよう、文化庁が主導的な役割を担っていくことが必要である。

また、このような全体的な推進会議とは別に、国内外の外国人学習者のための教材開発や教育評価、教員養成・研修、マルチメディアの活用方策など、日本語教育の各分野ごとに協議する連絡会議を定期的に開催し、相互の情報交換と連携・協力の具体策について取りまとめていくことも必要である。

さらには、連携・協力に当たっては各機関等の日本語教育事業等に関する情報を常に掌握しておくことが必要であることから、定期的にこれらの情報の提供を受け、発信していく体制を構築することも重要である。

また、国立国語研究所日本語教育センターが日本語教育の調査研究や普及指導における中核的な機関としてより積極的な役割を担い、文化庁が行う日本語教育施策の企画や日本語教育関連情報の収集等を支えていくことが期待される。同センターは、昭和五一年に設立されて以来、日本語教育の基礎研究、教育内容・方法の改善、教材開発、教員研修、情報資料の収集・提供等を行ってきたところであるが、今後、更に、実践的な研究面での充実を図り、日本語教育の政策的研究機関として中心的な役割を果たしていくとともに、普及指導面の事業についても拡充を図っていくことが望まれる。

また、現在、文部省・文化庁において、外国人児童生徒や留学生、日本語教育施設に在学する学生など対象別に日本語教育事業の所管が分散している状況が見られる。これらは、それぞれの対象とする外国人に対する教育施策と不可分一体のものとして個々の事業を行っているものであり、引き続き所管部門において関係施策の充実に努めていくことが望まれるが、日本語教育の総合的な企画や連絡調整に関しては、一体的に推進する観点から文化庁が行っていくことが必要である。また、特に、日本語教育施策全般にかかわる日本語教員養成や日本語能力評価の基本的な在り方について、中心的な役割を担っていくべきである。

(イ) 日本語教育に関する情報の共有化体制

日本語教育施策の連携・協力体制を実効的なものとするためには、前述のとおり、各機関等の間において、教員や教材等をはじめとした様々な日本語教育関連情報が共有化されることが大切である。

このため、日本語教育関連情報の収集・発信の拠点としての日本語教育情報センターを整備していく取組が幾つかの機関等において始まっているが、これらの努力が一層促進されることが望まれる。

また、これら複数の情報センターを相互に結び付け、必要とする情報の検索を容易にするための一元的な窓口となるシステムを設けるなど、衛星通信やインターネット等を活用した情報ネットワークを構築していくことが大切であり、その具体的な方策について検討していく必要がある。

さらに、各機関等の間のネットワークとは別に、日本語教員や日本語教育ボランティアなどの間で人的な情報ネットワークを設けていく努力が更に一層活発になるとともに、情報センターを媒体として活用するなどして、全国的なネットワークとして育っていくことが期待される。

(ウ) 地域の日本語教育推進のための連携・協力

地域において居住する日系南米人や外国人配偶者など、日本語を母語としない者に対する日本語教育については、現在、各機関等と地方自治体、及び地方自治体間においての連携・協力体制は一般にはとられていない。しかし、今後、このような地域の日本語教育を充実していくためには、自治体内部の体制整備が望まれるとともに、これらの機関や自治体間においても連絡協議の場を設け、定期的な情報交換を行うとともに、相互に協力していく体制を設けることが重要である。

また、地域の日本語教育においては、国際交流関係団体やボランティア関係団体がその実施主体として大きな役割を果たしているが、これらの団体と地方自治体の間において連携・協力の体制を築いていく努力も必要である。

(エ) 海外における日本語教育推進のための連携・協力

海外における日本語教育を推進していくためには、海外の日本語学習者に対する支援をより一層効果的・効率的に行うとともに、日本語学習者の様々なニーズに対応できるような体制を設けていくことが大切である。このためには、海外における日本語教育の推進に当たっても、その特性に応じて連携・協力が図られる必要がある。その際、海外における日本語教育の推進に国際交流基金がこれまで大きな役割を果たしてきたことを踏まえ、更に関係機関が、連携・協力を図っていくことが期待される。これにより、教員研修や教材開発、マルチメディアの活用などに、各機関等が有する人的・物的資源を有効に活用していくことが可能になるとともに、我が国として海外における日本語教育推進のための効率的な施策を講じていくことができると言える。

また、このような連携・協力に当たっては、国内の各機関等との間のみならず、海外の主要な日本語教育機関や教育関係者との間で、日本語教育に関するニーズや支援方策について協議していくことについても検討する必要がある。

二 日本語教員養成について

(一) 日本語教員養成の現状と問題

現在、国内における日本語教員の養成は、平成七年一一月現在、国公私立大学の大学学部における日本語教員養成課程・コース等は六七校、同じく大学院は一六校、短期大学は六校、一般養成施設は一三四機関が開設されている(国語課調べ)。これらの機関において、日本語教員養成及び日本語教育に関わる理論的、実践的研究が進められてきており、平成七年度における受講者総数は、一六、九七五人となっている。

一方、海外における日本語教員の養成については、初等中等教育レベルの教師は母国の大学等で日本語を学び、当該国の教員免許を取得して教壇に立つケースが多い。また、高等教育レベルにおいては、日本国内の養成課程で学んだ留学生や関連領域で学位を取得した留学生が帰国して母国の日本語教員になっているほか、日本語教員養成に関連したコースを持つ大学院の数も三〇校以上に及んでいる。なお、国際交流基金が平成元年に設置した日本語国際センターにおいては、海外からの日本語教員や海外派遣前の日本語教員を対象とした長期・短期の研修が実施されている。

このうち、国内における日本語教員の養成については、「日本語教育施策の推進に関する調査研究会」(文部省)の報告「日本語教員養成等について」(昭和六〇年五月)に基づいてこれまで実施されてきたと言える。この報告の中で、西暦二〇〇〇年に必要な日本語教員の数を約二万五千人と概算しており、これに必要な日本語教員養成機関の整備・充実のため、国立大学に日本語教育主専攻及び副専攻の学科・課程を設けるほか、既存の養成機関の教育内容や水準の整備・充実を図ることを提言し、併せて「日本語教員養成のための標準的な教育内容」として、教育内容のガイドラインとされる枠組みを示している。

その結果として、現在の大学学部及び大学院修士課程における日本語教員養成課程は、この「標準的な教育内容」に基づき、学部においては、主専攻と副専攻の二区分、修士課程については学部における専攻に応じてAコースとBコースの二区分となっている。この「標準的な教育内容」は、教員養成課程を整備していく上での一種のガイドラインとして示されたものであるが、大部分の日本語教員養成課程においては、この区分に従った主専攻・副専攻相当の教育が行われている。しかしながら、日本語教員養成課程におけるこのような区分や「標準的な教育内容」が必ずしも現在の日本語教育において求められている課題に対応したものとは言えない状況も見られる。

したがって、このような状況に鑑み、日本語教員養成のカリキュラム内容を、昭和六〇年のガイドライン作成までの経緯やこれまでの積み重ねをも踏まえ、多様な学習ニーズや情報化への対応など、日本語教育の現代的課題を考慮しつつ、いかに充実を図っていくかを考えるべき時期に来ている。

(二) 日本語教員養成方策の改善

ア 日本語教員の専門性について

日本語教員の養成方策を検討するに当たっては、日本語教員養成の基本的な在り方として、日本語を専門的に教授する日本語教員に求められる「専門性」とは何であるかを明確にしておく必要がある。

まず、日本語を専門的に教授するとは、個々の学習者の学習過程を理解し、学習者に応じてどのような教育内容・方法が適切であるかを判断し、それに応じて効果的な教育を行うことである。

こうした効果的な教育を行うためには、日本語教員が、「専門性」として、次の三つの能力を有している必要がある。

(ア) 言語に関する知識能力:外国語や学習者の母語(第一言語)に関する知識や理解があり、対照言語学的視点からの日本語の構造や言語の習得過程に関する知識を有すること。

(イ) 日本語の教授に関する知識能力:過去の研究成果や経験等を踏まえた上で、カリキュラムを作成したり、授業や教材等を分析する能力があり、それらの総合的知識と経験を教育現場で実際に活用・伝達できる能力を有すること。

(ウ) その他日本語教育の背景をなす事項についての知識理解:日本と諸外国の教育制度や文化事情に関する理解や、学習者のニーズに関する的確な把握・分析能力を有すること。

そして、このような「専門性」を有する日本語教員に対しては、その能力を適切に評価し、専門家として活躍する場が提供されていくことが大切であると言える。

ウ 日本語教員養成課程の在り方

現在、大部分の養成課程においては、現状において見たとおり、「日本語教員養成のための標準的な教育内容」(昭和六〇年)を教員養成課程を整備していく上での一種のガイドラインとして受け止め、この区分に従った主専攻・副専攻相当の教育が行われている。

しかし、日本語学習者の中に多様な学習ニーズが生ずる一方で、日本語教員養成課程修了者の知識・経験を生かせる場が広がり、また逆に、日本語教育を専攻しなかった者が日本語の指導に携わる例も見られる現在、例えば、主専攻や副専攻以外の学生に対しても様々な日本語教育のコースや授業科目を用意するなど、大学の創意工夫により、より多様なコース設定を行っていくことが望まれる。さらに、海外において日本語教員として活躍することを希望する外国人留学生を対象とした日本語教員養成課程のコースを設ける必要性も高まっていると考えられる。

また、この「標準的な教育内容」に盛られているカリキュラムについても、昭和六〇年当時とは異なる日本語教育における現代的な課題を踏まえ、例えば、社会言語学やコミュニケーション学、日本語教材制作の方法、新しい情報メディアの活用等に関する教育内容を取り入れるなど、その積極的な見直しを行っていくことが必要である。

さらに、大学における日本語教員養成課程のカリキュラムの改善として、特に、日本語教育の実習を積極的に導入することが望まれる。課程修了後に日本語教員として活躍する上で、実習を行うことが大きな教育効果をあげていると言われており、大学によっては海外の大学や日本語教育機関との連携の下、様々な工夫を凝らし実習を行っている例もある。現在、この実習を行うに当たっては、実習場所及び指導者を確保することが一つの大きな課題であるとされているが、大学と各日本語教育関係機関・関係者相互が実習に関する理解を深め、実習の円滑な実施に向けて連携・協力を図っていくことが望まれる。

なお、上記のことと関連して、公立小・中学校等において日本語指導を必要とする外国人児童生徒が増加している状況に鑑み、初等・中等教育教員養成課程を有する各大学の判断により、日本語教育に係る科目の開設などについて検討が行われることが望まれる。

最後に、日本語教員の養成は、大学や日本語教育施設等の養成課程を修了したことで完結するものではない。現場の日本語教員となった後にも、日本語教育の新たなニーズや新しい教育理論・方法に常に対応していくことが期待されている。したがって、現職教員の研修や、大学院での再教育を行うための体制を整えていくことも必要とされている。

三 日本語教育能力検定試験について

(一) 日本語教育能力検定試験の現状と問題

日本語教育能力検定試験は、日本語教員の専門性の確立と日本語教育の水準の向上、日本語教員の待遇の改善を図ることを目的に、日本語教員の資質・能力を判定するものとして、(財)日本国際教育協会によって昭和六二年度(六三年一月)から実施されてきている。同試験の出題範囲は「日本語教員検定制度に関する調査研究会」(文部省)の報告「日本語教員 検定制度について」(昭和六二年四月)に基づいているが、試験開始以来一〇年以上が経過している現在、試験発足時と現在とでは日本語教員を取り巻く状況が変わってきており、その成果と実績を踏まえ、この試験の基本的な在り方について見直すべき時期が来ていると考えられる。

すなわち、試験発足時においては、大学日本語教員養成課程修了者も少なく、専門性を有する日本語教育専門家を確保することが課題とされていたが、大学の教育養成課程の整備が進み、日本語教育能力検定試験に毎年一、〇〇〇人程度が合格している状況を考えると、最低限必要な日本語教育専門家を確保するという意味での試験の役割については当初の目的は量的には達成しつつあるということが言えよう。また、最近では、日本語教員を目指す人たちの間で、この試験の内容が学習目標として活用されるほど普及しているが、一部には、日本語教育能力検定試験に合格することが日本語教育に携わる職業資格を得たと誤解されてきた嫌いもある。

このような状況を踏まえた時、日本語教育能力検定試験の意義及びその合格者に期待される社会的な役割について、改めて明確にする必要が生じている。

(二) 日本語教育能力検定試験の今後の在り方

ア 日本語教育能力検定の基本的な在り方

現在、日本語教育能力検定試験は、日本語教育に関し必要な最低限の知識及び能力を測定するための試験として、大学学部の日本語教員養成副専攻課程修了者のレベルを想定した一種類の試験となっている。しかし、日本語学習者層が広がり、日本語教育の場が多様になっている現在、日本語教員に求められる知識及び技能も一様のものではなくなっており、レベル及び専門に応じた複数の試験に分化させることについても検討を行う必要がある。そのような複数の試験の例としては、大学院修士課程修了程度以上の者を対象とした検定試験や地域の日本語学習支援者を対象とした試験を設けることなどが考えられよう。

なお、現在、この検定試験については、文部大臣から、奨励すべき事業として認定されているが、「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」(平成八年九月二〇日閣議決定)により、この事業が法令に基づくものとされない限り、平成一二年度末をもって、この大臣認定については廃止されることとなる。したがって、認定制度を継続すべきかどうかをも含め、検定試験事業の実施形態等については、検討を行うことが必要である。

イ 日本語教育能力検定試験の内容等について

この試験については、ほとんどの問題が客観テストであり、表現能力全般を評価することが困難であること、特に、音声言語能力を評価する機会がないことなどの限界があり、これらの点で、この検定試験が日本語教員として望まれる最低限必要な専門的知識と能力(大学学部の日本語教員養成課程の副専攻レベル)を適切に評価するものであるか、再検討することが必要である。

また、「日本語教員養成のための標準的な教育内容」に基本的に準拠している出題範囲についても、日本語教員養成課程のカリキュラムの在り方とも関連し、現代的課題等を踏まえた内容としていく必要がある。

さらに、出題方法に関しては、現在、受験者が多いなどの実務上の制約から筆記試験(聴解試験を含む)となっており、面接試験や実技試験は取り入れられていないが、この試験の意義及び合格者に求められる役割の見直しに応じて、できる限りこれらの要素をも取り入れた試験問題とするよう、更に工夫をしていくことが望まれる。

四 日本語能力試験について

(一) 日本語能力試験の現状と問題

「日本語能力試験」は、日本語を母語としない者を対象に日本語能力を測定し認定するため、「私費外国人留学生統一試験」の一科目であった日本語の試験が分離・独立して、昭和五九年にできた試験である。国際交流基金が国外での実施を、(財)日本国際教育協会が国内での実施をそれぞれ主催しており、今年度(平成一〇年度)一五回目の試験が実施された。国内外でその受験者数は徐々に増え続けており、平成一〇年度においては、国外において一〇万八九三人が、国内において二万九、四九二人が受験している。

この試験の目的としては、基本的な日本語能力の測定のほかに、一級から四級まである試験の中で、特に一級及び二級の試験については、留学生の大学入学選考にも活用されている。また、試験の構成・認定基準においては、特に一級について、この両者の目的を折衷的に両立させようという配慮の下に設定されているのが現状である。

こうした状況の下、これまで試験関係者の努力によって、試験問題作成のための出題基準の作成、試験問題の信頼性の向上などが図られてきているが、本試験の基本的な在り方に関する問題も幾つか残っている。例えば、試験の出題領域の適切性の問題や、一級合格者に対する大学側の期待と、実際にこれに合格した者の日本語コミュニケーション能力との間には開きがあるとの指摘が見られる。また、今後、他の日本語能力測定に関する試験との関係を踏まえ、本試験の需要を明確化した上で、その使途範囲の拡大と受験者数の増大を図ることについても考える必要がある。

(二) 日本語能力試験の今後の在り方

ア 日本語能力試験の基本的な在り方

日本語能力試験は、日本語学習者にとって学習の一つの到達目標を提供するものとして、学習意欲の向上にも資しているとともに、日本語学習者の日本語能力を客観的に測定し、日本語学習者に対する効果的な教育の在り方を検討する基本的な資料としても、極めて重要なものとなってきている。

(一)の現状で見たとおり、国内外の日本語学習者の増加とともに、学習者のニーズは多様化して来ており、日本語能力試験の受験者についても、一級、二級の受験者が必ずしも日本留学希望者ではないという状況が以前から生じている。(大学受験予定者については、一級が全体の約三〇パーセント、二級が約四パーセントとなっている。)このような状況の中、今後より学習者の多様なニーズに適合し、またより多くの学習者が受験することを促し、学習意欲の向上に資するためには、日本語能力試験が本来目的とする基本的な日本語能力を測定するための試験へと特化することについて検討する必要が生じている。

一方、この関係では現在、現行の日本語能力試験とは別途に、留学生の入学選考に係る「日本留学のための新たな試験」の創設について検討が行われている。将来、この試験がどのような実施形態により行われるかは未定であるが、これが創設された場合においても、日本語能力試験は上述のとおり学習者の学習到達目標として利用されている以上、基本的な日本語コミュニケーション能力を測定するための試験として、継続して実施されるべきものである。

イ 日本語能力試験の出題内容について

日本語能力試験の基本的な性格とは別に、その試験構成や級別の認定基準についても検討すべき課題がある。

その一つとして、現在各級別の認定基準(出題内容)は、学習時間数を基にレベル分けが行われ、初級の四級から上級の一級へという区分になっているが、先に述べたように学習者のニーズが多様化している現状においては、むしろ学習目的に応じて必要とされる基本的な能力を勘案した認定基準を設けることが合理的であるとも考えられる。したがって、どのような試験区分が適当であるか、見直しを行っていくことが必要である。

また、現行の試験は、文字・語彙、聴解、文法・読解の三部門を総合して出題されているが、これらの出題領域をコミュニケーション能力をより重視する視点から部門の内容を見直すとともに、各部門の構成の仕方や各部門ごとに選択的に受験を認めること等についても検討が行われる必要がある。

なお、このような日本語能力試験の出題内容の再検討に当たっては、この試験が学習者の学習到達目標として利用されている実態からして、日本語教育機関のカリキュラムにも少なからず影響を及ぼす可能性があることに留意する必要があろう。

五 多様なニーズに応じた教育内容・方法、教材開発・利用について

(一) 現状と問題

国内外の日本語学習者の増加に伴い、日本語学習の目的の多様化に適切に対応していくことがますます重要となってきている。このため、学習目的にきめ細かに対応した教材制作等を迅速に行うことが望まれているが、制作に係わるノウハウや労力・更に採算性の問題など、実行上難しい問題も多い。

こうした中、日本語教育に関係する国内外の大学や機関等においては、学術的な研究成果と実践的な教授活動から生み出された理論・技術を基盤にして、多様なニーズに応じた教育内容・方法の改善及び教材の開発・流通、利用法の研究が行われている。

例えば、国内においては、昭和五一年度以降、国立国語研究所に設置された日本語教育センターにおいては、日本語教育の教育内容・方法等に関する基礎的な研究のほか、日本語学習辞典、日本語教育映像補助教材等の各種の日本語教材の開発・流通、利用法の研究が行われている。

また、昭和六一年度以降、東京外国語大学の留学生日本語教育センターにおいては、学内外の教科の専門家と日本語担当教官がプロジェクトを組み、各種の教材開発に当たっている。

さらに、平成元年七月に開設された国際交流基金日本語国際センターや平成九年五月に開設された関西国際センターにおいても、各国の要望に応じた日本語教育の教材開発に当たるとともに、海外における教材制作に対する助成や教材の寄贈、教育内容・方法の研究などを行っている。

一方、文化庁においては、大学や日本語教育機関等に対して、日本語教育の内容・方法の改善等の調査研究(開発)を委嘱している。

これら以外にも、(社)に日本語教育学会、(社)国際日本語普及協会、(財)日本語教育振興協会やその他多くの国内外の日本語教育機関等が、それぞれの分野で自主的に教育内容や方法等の改善のための調査研究や教材の研究開発に当たっているほか、民間の日本語教育施設や地域の日本語教育機関においても、教育現場の経験を生かして、教材開発を行っているところもある。

このような教育内容・方法や教材開発については、これまで分野別にコースデザイン(教育課程構築)が分かれ、対象者別の日本語教育が発展してきている。一方、そこに横断的な共通性が生じていることも事実であり、中国帰国者やインドシナ難民、そして国際結婚の配偶者等に対する対象者別教育内容が、日本社会に適応するための日本語教育として収斂してきているという現状もある。

また、学習目的が多様化しても、特に緊急時に必要とされる最低限の語彙を含む、生活の基本的な場面で必要とされる日本語能力には、最大公約数的な共通要素が含まれるものと考えられる。そうした共通して必要性の高い日本語に関する教材についても現在必要とされている。

(二) 多様なニーズに応じた教育内容・方法及び教材の開発・利用の推進

ア 多様なニーズに応じた教育内容・方法等の開発・利用の推進

これまで見てきたとおり、現在、様々な学習目的を持った日本語学習者がおり、日本語学習に対するニーズにも多様なものがある。

しかし、少なくとも日本に在住する日本語学習者の学習目的には、日本社会において生活する上で最低限必要となるコミュニケーション手段としての日本語能力を習得することがあると言える。したがって、このようないわゆる生活レベルでの学習ニーズに対応した教育内容・方法等の開発が積極的に進められるべきであるが、これまでの日本語教育の研究開発においては、このような地域社会における日本語学習支援の分野については比較的軽視される傾向にあったと言える。

また一方で、留学生や日本語教育施設の学生などに対して専門の教育機関で行われる日本語教育の分野があるが、このような教育機関において行われる日本語教育については、例えば留学生の文系・理系の専門分野の違いや漢字圏・非漢字圏の出身の違いなどに応じたきめ細かな教育内容・方法の開発・利用を進めることが求められている。

したがって、現在、日本語教育を推進していくに当たっては、あらゆる日本語学習者を共通した教育対象として考えるのではなく、学習者の属性や多様なニーズに対応して、より個別的に教育内容・方法の開発・利用を進めていくことが強く求められていると言える。

イ 多様なニーズに応じた教材開発・利用の推進

現在、地域においては、日系南米人や外国人配偶者など、日本語を母語としない外国人等が増加しており、地域住民として生活上必要とする日本語を習得するための学習機会を充実していくことが求められている。このような地域住民である外国人等に対する日本語教育においては、地方自治体が今後より一層重要な役割を担っていくことが期待されるが、現状においては、地方自治体においてこのための組織体制が設けられている例は少ない。また、国と地方自治体との間、及び地方自治体間においてこのような日本語教育推進のための連絡協議等の場は設けられていない現状にある。さらに、地方自治体と地域において活動する日本語教育関係団体(ボランティア団体等)との間において連携協力関係を築いている例も一般には稀(まれ)であると言える。

このような推進体制の現状では、たとえボランティア団体等が個々に日本語教育の支援や教材の開発を試みたとしても、地域に生活する外国人の学習ニーズに十分にこたえることは難しい状況になっている。また、日本語教員を地域における人的資源として、このような地域の日本語教育に幅広く活用する体制の確立もまだ不十分であると言える。

ウ 海外における日本語教育推進事業の現状と問題

アの教育内容・方法等と同様、教材に関しても、日本語学習者の属性や学習目的、そのニーズに応じた多様な教材等の開発を進めていく必要があるが、現在、特に次のような教材等が不足しており、その積極的な開発・利用が求められている。

(ア) 地域の日本語教育において活用できる日常生活に必要なコミュニケーション能力を身に付けるための教材、補助教材、解説書等

(イ) 外国人児童生徒が学校教育活動において必要とする日本語能力修得のための多様な教材

(ウ) 特に海外における学習者向けの日本文化や日本事情を紹介した教材

(エ) 用例付きの母語別日本語辞典及び技能別、職業・専門別の日本語学習辞典

(オ) メディア利用の教材

さらに、これまで日本語教材は完成品として教育現場に提供されることが一般的であったが、個々の学習者の属性や学習ニーズに適合した教材として利用されるためには、必ずしも完成品の形ではなく、現場の教員によって適宜加工できる余地を残した教材や指導書を提供していくことも求められている。また、そのような教材の応用が教育現場で行えるようにするためには、一人一人の日本語教員が教材制作の能力を身に付けられるよう、必要な研修を行っていくことも大切である。

六 日本語教育施設について

(一) 日本語教育施設の現状と問題

ア 日本語教育関係機関等の体制の現状と問題

国内の日本語教育施設(日本語学校)は、専修学校や各種学校のように学校法人・準学校法人により設立されたものや財団法人が運営するものも一部にあるが、約七割が個人や株式会社などの民間の事業体により設立されたものである。昭和六〇年代前半までは日本語教育施設における学習希望者が急激に増加していたという背景もあり、当時は個々独立に比較的自由に設立・運営に当たっていたところが多かったが、これらの施設の中には、教育水準や経営に問題があると指摘されるものも見受けられるようになった。このような状況に鑑み、教育的な観点に立って、日本語教育施設の質的向上を図り、真に日本語の学習を希望する外国人が安心して日本語を学習できるような環境を整備することが緊急な課題となったため、昭和六三年一二月、日本語教育施設として備えるべき要件を定めた「日本語教育施設の運営に関する基準」が文部省の調査研究協力者会議によって策定された。平成二年二月(財)日本語教育振興協会が設立され、日本語教育施設の質的向上及び充実・発展を図るため、この「基準」に基づく日本語教育施設の審査及び証明事業をはじめ、日本語教育施設要覧の作成、研修会の開催等の事業を実施している。

なお、この(財)日本語教育振興協会が実施する日本語教育施設の審査及び証明事業については、現在文部省告示により実施されているが、「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」(平成八年九月二〇日閣議決定)により、平成一二年度末までに法令に基づくものとする等の措置を検討することが必要である。

(財)日本語教育振興協会によって認定された日本語教育施設は、平成一〇年三月末現在二七六施設、収容定員数は合計三九、〇二四人となっており、これらの施設において、一五、二六九人(平成一〇年七月一日現在)の学生が日本語を学習している。最近の社会・経済環境の変化などに伴い、学生数は平成四年(七月一日)の三五、九五三人をピークに平成八年(七月一日)の一一、二二四人まで減少し続けてきたが、このところ増加傾向にある。

このように日本語教育施設が国内における日本語教育実施機関として大きな教育実施能力を有し、かつその整備が着実に進行しつつある状況に鑑みたとき、日本語教育施設が留学生の予備教育のみならず、より多方面にわたりその教育機能を発揮していくことが望まれている。このため、例えば、高等教育機関を含む諸機関との連携の在り方や、地域における日本語教育施設の果たすべき役割などについて検討していく時期が来ていると言える。

(二) 日本語教育施設の在り方及びその機能の活用

日本語教育施設は、国内における日本語教育機関としては最も学習人口が多い機関の一つであり、日本語教育の振興に大きな役割を果たしている。今後とも、その教育の更なる充実を図っていくことが望まれるが、その一つとして、日本語教育施設の学生に体する支援の在り方や在留資格についても、留学生施策との関連を踏まえた対応が期待される。

また、日本語教育施設と大学等との関係においては、私費外国人留学生の多くが日本語教育施設を経由して大学等に進学している現状に鑑みたとき、両者の間で、日本語教育のカリキュラム等について相互に協議を行う体制をとることが必要であると考えられる。従来、日本語教育施設と大学等との連携については必ずしも十分な協議が行われておらず、今後両者の間で定期的な協議の場を設けるなど、その改善を図っていくことが望まれる。また、日本語教育施設と大学との連携を深める上で、大学の日本語教員養成課程の学生が日本語教育施設の協力を得て、授業実習を行っていくことについても、積極的に検討が行われる必要がある。

さらに、日本語教育施設は、これまで主として行ってきた留学生の予備教育にとどまらず、外国人研修生やビジネス関係者などに対する日本語教育、さらには地域に居住する外国人に対する日本語教育など、様々な日本語学習者を対象とした教育を行うことができる可能性を有するものであり、今後の役割が期待される。

七 地域における日本語教育について

(一) 地域における日本語教育の現状と問題

[Roman1 ]において見たとおり、在留外国人が増加する中で、日系南米人や中国帰国者、外国人配偶者等が地域社会で生活するようになってきており、これらの者が地域の生活に円滑に適応できるように、積極的な日本語学習機会の提供が求められている。

一部の地方自治体や国際交流協会、ボランティア団体等により日本語教室やリソースセンター(情報センター)が開設されるなど、徐々に学習機会の提供が行われるようになってきているが、いまだ十分とは言えない状況にある。また、日本語学習支援者(ボランティアの人々)が日本語教授法等の基礎的な知識・技能を身に付けられる機会の提供も不足している。

一方、教育内容や方法についても、これまでの国内の日本語教育の主な対象者は「留学生、研修生、ビジネス関係者、研究者、外交官など」の比較的限られた領域の学習者であったことから、従来、日本語教育において蓄積された知見が直接に応用できない場合も多い。そのため、こうした新たな領域の学習者に適したコースデザイン(教育課程構築)を行っていく必要が生じてきている。

(二) 地域における日本語教育の推進

地域の日本語教育の推進に当たっては、「一 日本語教育推進体制について」でも述べたとおり、今後、地方自治体が、地域住民である日本語を母語としない者に体する日本語学習支援において、より重要な役割を担っていくことが期待されており、そのため必要な体制づくりを図っていくことが大切である。また、この地方自治体の取組に対し、日本語教育関係機関・団体や日本語教育の関係者が積極的に連携・協力していくことが望まれる。

地方自治体が行う日本語学習への支援方策としては、直接、住民である外国人等を対象とした日本語講座を主催事業として運営することのみならず、ボランティア団体や国際交流関係団体等が地域において行う日本語教育事業に対して支援を行っていくことが考えられる。すなわち、(一)の現状において見たとおり、現在、ボランティアとして外国人等の日本語学習の支援に当たっている団体や国際交流事業の一環として日本語教育に取り組んでいる団体が徐々にではあるが増えており、これら関係団体の間でネットワークを構築しようとする動きも盛んになっている。地域におけるこのような関係団体の自発的な活動を更に促すよう、地方自治体が今後より一層の支援を行っていくことが期待される。

また、国においては、地域における日本語教育のモデル事業の実施や、地方自治体において実施困難な標準的な教材の作成など、その条件整備を図っていくことが望まれる。

地域の日本語教育においては、専門の知識・技能を有し、学習プログラム全体について仲介・調整できる日本語学習のコーディネーターを確保することが、事業の円滑な運営のためには極めて重要である。しかしながら、このような人材を確保することが困難な場合もあることから、例えば、日本語教育能力検定試験の合格者などで地域の日本語学習支援を希望する者の人材データバンクを、日本語教育関係者のネットワークの中で整備して行くことが望まれる。

また、地域の日本語教育においては、日本語学習者に直接に接し、学習の支援に当たるボランティアが果たす役割は極めて大きいものがある。このような熱意のあるボランティアの学習支援者がいかに継続的に活動していくかが、事業の成否に関わる場合が多いと言えよう。

一方、全国各地域に分散するこのようなボランティアの日本語学習支援者の中には、活動を始めるに当たって、また活動していく中で専門的な知識を身に付けたいと希望する者も見られるが、現状においては、そのための学習機会が十分にあるとは言えない。このため、日本語教育機関や地方自治体において、ボランティアの日本語学習支援者の資質の向上に資するよう、日本語教授法等の基礎的な知識や技能を身に付ける研修事業を積極的に行っていくことが望まれる。また、日本全国で視聴できる放送大学において開設されている日本語教育に関する関係科目の講義を積極的に活用していくことも期待される。さらに、国立国語研究所日本語教育センターにおいても、新たに日本語学習支援者を対象とした通信制等の研修プログラムを開設するよう、検討を行っていく必要がある。

八 新しい情報メディアを活用した日本語教育について

(一) 新しい情報メディアを活用した日本語教育の現状と問題

情報化の発展に伴い、新しい情報メディアが各方面で活用されている。特に、インターネットは近年急速に発展し、大学等や企業では有効に利用している。これは、インターネットを活用すれば、情報検索やコミュニケーション、並びに情報発信が容易に可能となるためである。また、文部省では二〇〇一年までにすべての学校をインターネットで接続することを予定している。

一方、衛星通信は広域性や同報性の特長があり、画像品質の高い映像を全国に配信できる特長がある。そこで、衛星通信を利用した教育整備が現在進められている。例えば、メディア教育開発センターを中心とするSCS(スペース・コラボレーション・システム)や、私立大学衛星通信ネットワーク(ジョイント・サテライト)、大学病院を結ぶ医療用ハイビジョン衛星通信システム、東京工業大学の衛星通信遠隔教育システム等が既に運用されている。また、現在、「衛星通信を利用した教育情報通信ネットワークシステム」が構築中で、平成一一年度からは教育研修や子ども放送局として利用される計画となっている。

このような状況の中で、文化庁では平成八年度から、「高度情報化に対応した日本語教育の在り方に関する調査研究」に取り組んでいる。そして、衛星通信やCD―ROM等の新しい情報メディアを活用した日本語教育の可能性と、指導方法について実証的な調査研究を行っている。その結果、情報化社会において日本語教育を効果的に実施するためには、新しい情報メディアを有効に活用することが必要であることが分かってきた。そのためには、各情報メディアの特徴を把握することや相互補完的に幾つかのメディアを活用すること、また、それらを生かした、より効果的な教育内容と方法をできる限り早い時期に確立していくことが課題として挙げられている。さらに、衛星通信やインターネット等を通じての日本語教育関係者の連携、マルチメディア教材の共同開発、共同利用などの問題も指摘されている。一方、実際に新しい情報メディアを日本語教育に活用する場合には、そのための社会基盤の整備や教育内容の開発、あるいは運用方法について十分な検討が必要となってきている。

(二) 新しい情報メディアを活用した日本語教育の推進

社会の情報化の進展や日本語学習の広がりを考えた場合、日本語教育の領域においても、衛星通信や光・磁気ディスク、インターネット等の新しい情報メディアを活用して、効果的・効率的な教育の推進を行っていくことが期待される。

日本語教育における新しい情報メディアの活用に際しては、特に次のような点に留意する必要がある。

ア 日本語教育の情報通信ネットワークの整備・活用

情報化に対応した日本語教育を実施するには、そのための社会基盤を整備し、情報通信ネットワークを構築する必要がある。このネットワークでは、日本語教育を推進している各機関を有機的に接続するとともに、それぞれが保有する日本語教育に関する情報を共有し、日本語学習者に対する適切な情報提供ができるものとする必要がある。

また、現在構築中の「衛星通信を利用した教育情報通信ネットワークシステム」を利用して日本語教育を推進していくことも期待される。

一方、日本語教育への情報通信ネットワークの整備や活用を行うに当たっては、必ずしもこうした新しい高度な情報手段ばかりでなく、例えば、地域における日本語教育の場などにおいては、電話やケーブルテレビなどの従来型の通信手段を併用することも効果的な場合があることに留意する必要がある。

イ 日本語教育教材の開発と利用

情報メディアを活用した日本語教育において、各メディアに対応した学習教材は欠かせないものである。これまでも日本語教育教材は開発されているが、これらを情報通信ネットワークを利用して学習できる形で教材開発を進める必要がある。また、学習者が必要に応じて活用できるように、ネットワークを介した利用を促進していく必要がある。

ウ 日本語教育プログラムの開発と発信

日本語学習者を対象にした学習プログラムを開発し、衛星通信やインターネットを利用して提供することが望まれる。この場合、衛星通信によって、優れた映像によって広域に配信するとともに、インターネット等の地上等の通信回線によって質疑応答や討論を行う方法が適切である。

また、海外における日本語学習への支援として、衛星通信による海外の学習者を対象とした教育プログラムの配信を行っていくことが望まれる。

エ 新しい情報メディアを活用できる日本語教員の養成

新しい情報メディアを日本語教育に活用していくに当たっては、日本語教育がそれらを十分に駆使することができる能力を身に付けることが必要であり、現在そのための人材養成が急務となっている。例えば、衛星通信を活用した日本語教育の場合、その教育プログラムの作成者や受信側(学習者の側)における学習会場助言者の確保・育成など、これまでの日本語教育には見られなかった需要が生じてきている。

従来、日本語教員養成に当たっては、このようなメディア対応に関する教育内容は十分に取り入れられてこなかったが、今後は、日本語教員養成におけるカリキュラムに導入することはもとより、現職日本語教員を対象とした研修事業を行っていくことも必要とされている。このため、まず、日本語教員に情報メディア活用能力を身に付けさせるために必要となる教育内容等について、早急に調査研究を開始することが必要である。

オ 情報メディア活用に関する拠点整備

以上述べてきたような日本語教育における新しい情報メディアの活用に関する調査研究、その教育プログラム及び教材の開発、更には教員に対するメディア対応の研修事業に今後早急に取り組んで行くことが必要である。このような日本語教育における新たな課題として登場した情報メディアの活用については、国立国語研究所日本語教育センターが中枢的な役割を担っていくことが期待される。このため、同センターを情報メディアを活用した日本語教育の拠点として位置付け、同センターと日本語教育関係機関等を結んだネットワークを構築することにより、情報メディア活用の積極的な推進を図っていくことが望まれる。

九 海外における日本語学習支援について

(一) 海外における日本語学習支援の現状と問題

[Roman1 ]において見たように、海外における日本語学習者数は着実に増加している。

国際交流基金はこうした状況を踏まえ、主として外国人の日本語教員の研修事業、日本語教材の制作・寄贈及び情報収集やネットワーク作り等の事業を行うほか、海外の日本語教育機関への日本語専門家の派遣に加えて、平成二年からは海外の中等教育機関等へ若手の日本語専門家を派遣し、現地の日本語教育に協力する青年日本語教師派遣計画を実施している。また、平成四年度には、同基金日米センターが、米国の高等学校を中心とする初等中等教育機関へ日本人青年をティーチング・アシスタント(TA)として派遣する計画(JALEX計画)を発足させている。

国際協力事業団においても、昭和四〇年代からの青年海外協力隊派遣事業などを通じて、日本語教師や指導的教員を海外に派遣している。

文部省においては、海外における日本語学習の需要に対応するとともに、我が国の学校教育の国際化を促進するために、中・高等学校教員を海外の中等教育施設に派遣し、日本語教育や日本文化・日本事情紹介に従事する外国教育施設日本語指導教員派遣事業(REXプログラム)を平成二年度から実施している。また、海外の日本人学校及び補習授業校の中には、日本語教室等を開設し、現地の人々(児童・生徒)等を対象とした日本語教育を行っているところもある。

その他、民間の各種の国際交流団体や日本語教育施設、民間企業の中にも、日本語教員派遣等の日本語教育関連事業を行っているところがあるが、その派遣の方法や内容は多様である。なお、一部の事業は営利目的として行われているものも見られる。

こうした海外における日本語学習支援に当たっての問題点としては、教材の不足や施設・設備の充実、日本の文化や社会に関する情報の不足、教授法に関する情報の不足、教員数の不足、担当教員の日本語能力の不足等が挙げられている(国際交流基金日本語国際センター「海外の日本語教育の現状」より)。

さらには、従来の直接派遣や教材提供に限らない、高度情報通信を通じた学習機会や教材の提供、国内外の教育機関や学習者相互の交流の促進等も今後の課題として顕在化してきている。

(二) 海外における日本語学習の支援

ア 日本語学習の積極的な支援

海外における日本語学習者については、学習者の母語や学習目的が多様化しており、また高等教育段階での学習者のみならず、初等中等教育において日本語を学習する者も増加するなど、学習者の年齢層も幅広いものになってきている。

このような海外での学習者の学習ニーズ、属性の多様化に対応し、初等教育から高等教育までの学校教育における日本語学習の支援はもとより、成人教育をも含め、幅広い学習ニーズに応じた総合的な日本語学習の支援を行っていく必要性が生じている。

また、海外における日本語学習の振興は、日本語を通じた日本文化の発信及び日本理解の促進に直接に繁がるものであり、その観点から我が国として今後一層積極的な支援策を講じていくことが必要である。

なお、海外における日本語学習の支援に当たっては、各国の国内事情や日本語に対する意識に十分に配慮した支援方策を考えていくことが大切である。

イ 現地のニーズに応じた支援の推進

現在、国際交流基金をはじめ、幾つかの日本語教育関連機関において、海外への日本語教師の派遣及び教材提供等の事業が行われており、これまでの実績と経験を踏まえ、多様な学習ニーズに応じたより効果的な事業を展開していくことが期待される。

その際、海外に対する支援事業については、現地の日本語教育機関及び学習者のニーズに適合したものになっているか不断に見直していくことが必要である。このため、海外の日本語教育機関等との間において必要に応じ協議を行っていくことも大切なことであると言える。

また、日本語教師及び教材を我が国から派遣、提供するだけではなく、現地の日本語教育態勢の成熟状況に応じて、教員の確保や教材の作成等が自立して行えるよう、そのための支援策を講じていくことも重要である。このように海外における日本語教育の自立化を促すことが、ひいては当該国における日本語教育の定着にも繁がるものであると考えられる。

ウ 多様な学習支援

また、海外における日本語学習の支援策として、従来のような教員派遣、教材提供のみならず、衛星通信をはじめとした新しい情報メディアを活用し、我が国と海外との間において多様な学習プログラムを発信・受信できるよう、その積極的な導入を図っていくことが望まれる。さらに、海外の日本語教育を行っている教育機関と我が国の教育機関との間で相互訪問をはじめとした様々な交流活動を行い、このような交流活動を通じて日本語学習への関心が高まることも望まれる。

今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究協力者名簿(略)

 

 

 

 

-- 登録:平成21年以前 --