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青少年の覚せい剤等の薬物乱用防止について

文体学第五九号

平成一〇年六月五日
文部省体育局長・文部省生涯学習局長・文部省初等中等教育局長から財団法人健康づくり事業財団理事長外二一五あて
依頼

青少年の覚せい剤等の薬物乱用防止について

青少年の覚せい剤等の薬物乱用防止に関する指導の充実については、かねてから御尽力をいただきありがとうございます。

さて、近年、覚せい剤等薬物の乱用により補導される青少年、とりわけ中・高校生の事例が増加傾向にあるとともに、その低年齢化の傾向が見られるなど、極めて憂慮すべき状況にあります。こうした最近の青少年の薬物乱用事例の増大の背景には、容易に薬物を入手できる社会的状況や青少年の自制心の欠如等の要因とともに、遊び感覚やファッション感覚による使用など、青少年の薬物乱用への誤った意識や理解に関する要因が複雑に絡み合っているものと思われます。

昨年、文部省において実施した児童生徒の覚せい剤等の薬物に対する意識等調査結果においても、児童生徒の薬物に対する危機意識の低さなどが明らかになったところであります。

このような状況の中、去る五月二六日、薬物乱用対策推進本部(平成九年一月一七日閣議決定で内閣に設置。本部長‥内閣総理大臣)第四回本部会合において、別添のとおり薬物乱用対策の中期的な総合計画としての「薬物乱用防止五か年戦略」等が決定されたところです。このうち「五か年戦略」では、第三次覚せい剤乱用期の早期終息に向けての緊急対策を講ずることなどを基本目標とし、青少年の薬物乱用傾向を阻止するために「学校等における薬物乱用防止に関する指導の充実」等の対策を推進することとしています。

ついては、別紙のとおり各都道府県教育委員会等に通知しましたので、貴団体におかれましても、貴団体会員への周知や地域活動への参加等各団体の実状に応じた活動等の場を通じて、青少年の覚せい剤等の薬物乱用防止に関する指導についての一層の御協力をお願いいたします。

別紙

文体学第二九〇号

平成一〇年六月五日

/附属学校を置く各国立大学長/国立久里浜養護学校長/各都道府県知事/各都道府県教育委員会教育長/殿

文部事務次官

児童生徒の覚せい剤等の薬物乱用防止について(依命通知)

児童生徒の覚せい剤等薬物乱用防止に関する取り組みについては、かねてから「児童生徒の覚せい剤等の薬物乱用防止に関する指導の徹底について」(平成九年一〇月三一日付け文体学第二九〇号)等に基づきその充実をお願いしているところであります。このたび、別添のとおり、内閣総理大臣を本部長とする薬物乱用対策推進本部において、「薬物乱用防止五か年戦略」等が策定されました。

このうち「五か年戦略」は、我が国の薬物乱用の現状とその問題点の分析を踏まえて、中長期的な対策の再構築を図るものとして策定されたものです。具体的には、第三次覚せい剤乱用期の早期終息に向けての緊急対策を講ずることなどを基本目標とし、青少年の薬物乱用傾向を阻止するために「学校等における薬物乱用防止に関する指導の充実」等の対策を、関係機関・団体が連携して推進することとしています。

また、去る五月一八日には総務庁長官より文部大臣あてに「麻薬・覚せい剤等に関する実態調査の結果」に基づき、生徒への薬物乱用防止教育の強化を図ること等について勧告がなされております。

これらを受け、文部省としては、関係省庁の協力を得て、全中学校及び高等学校において「薬物乱用防止教室」を毎年開催するよう努めるとともに、昨年度の高校生用ビデオに加え、本年度は、中学生用ビデオの作成や学校における薬物乱用防止教育支援体制の整備のための実践事業を開始することとしています。このほか、引き続き教員を対象とした研修会の開催、パンフレットを用いた普及・啓発及びPTAなどの関係団体が積極的な役割を果たすよう協力の要請等の施策を実施することとしています。

さらに、小学校においても薬物乱用防止に関する指導を行うよう昨年通知したところですが、その一層の充実を図るため、教育課程上指導すべき事項として明確に位置付けることについて、現在教育課程審議会の場で検討されているところです。既に中間まとめにおいても、学校における薬物乱用防止に関する指導のより一層の徹底が必要との方向が示されております。

ついては、貴職におかれては、このたびの「薬物乱用防止五か年戦略」を踏まえつつ左記事項に留意の上、貴管下の市町村教育委員会、学校等の関係機関に周知を図り、青少年の覚せい剤等の薬物乱用防止に関するより一層の指導の徹底を図られるようお願いいたします。

以上、命により通知します。

一 現在、高等学校を中心に開催が進められている薬物乱用防止教室については、教師のみならず警察職員や麻薬取締官OB等の専門家が一体となって指導することによる効果が認められることから、関係機関等との密接な連携を図って積極的に開催を進めること。また、今後すべての高等学校及び中学校において年に一回は薬物乱用防止教室を開催するよう努めるとともに、地域の実情に応じて小学校においても薬物乱用防止教室の開催を推進すること。

二 学校のみならず家庭、地域社会が一体となって薬物について学ぶことができるよう、各教育委員会において学校への支援体制の強化・充実を図るとともに、社会教育施設等において地域住民を対象とした薬物乱用防止に関する講座の開設や相談窓口の設置を行うなど、その機会の提供や場の整備等に努めること。

三 PTAや青少年関係団体等と十分に連携・協力するなど、地域社会が一体となってこの問題に取り組むこと。

「青少年の薬物乱用問題に対する緊急対策」実施状況(文部省関係部分抜粋)

平成一〇年五月二六日

薬物乱用対策推進本部

(一) 学校教育の充実

[cir1 ] 全国の高校における薬物乱用防止教室の開催

○ 五月及び一〇月に都道府県教育委員会等に対し通知を発出し、薬物乱用防止教室を積極的に開催するよう指導した。

○ 九月二〇日に、薬物乱用対策推進本部長の橋本総理大臣が都立高校で開催された薬物乱用防止教室を見学し、あいさつを行った。

○ 一一月二九日に、薬物乱用対策推進本部副本部長の町村文部大臣が都立高校で開催された薬物乱用防止教室を見学し、あいさつを行った。

[cir2 ] 全国の中学・高校における薬物乱用防止教育の充実

○ 生徒用教材の完備

高校生用のビデオ及び中学生・高校生用パンフレットを作成し、全国の中学・高校に配布した。

○ 教員に対する研修会の開催

・薬物乱用防止教育中央研修会(五月二〇日)

・薬物乱用防止教育地方講習会(各都道府県で開催)

・地区別高等学校生徒指導連絡協議会(全国三個所で開催)

・都道府県高等学校生徒指導連絡協議会(各都道府県で開催)

○ 薬物乱用防止に関する小学校教師用手引及び中学校・高等学校教師用指導資料を作成・配布した。

○ 一〇月に「児童生徒の覚せい剤等の薬物乱用防止に関する指導の徹底について」の事務次官通知を都道府県教育委員会等に対し発出した。(文部省)

(五) 調査・研究

○ 九年五月に、児童生徒の薬物に対する意識調査を実施し、その結果を取りまとめ、一〇月一三日に調査結果を発表。

平成九年度薬物乱用対策推進状況(文部省関係部分抜粋)

平成一〇年五月二六日

薬物乱用対策推進本部

二 国民に対する啓発活動の推進

(二) 青少年に対する指導、啓発活動の強化

○ 公民館等で開催される各種講座等で薬物乱用防止について取り上げ、意識啓発に努め、学校・家庭・地域社会が一体となった取り組みが行えるよう努めた。

○ 「全国青少年相談研究集会」のテーマを青少年の薬物問題として開催し、広く青少年関係者に対し、覚せい剤等の薬物及びこの乱用問題について理解を深めてもらうとともに、その防止のための協力を求めた。

○ 中学校、高等学校において、教科「保健体育」や特別活動を中心として学校教育活動全体を通じて、覚せい剤・大麻・麻薬・シンナー等薬物乱用防止について取り上げるよう指導した。

○ 薬物乱用防止に関する小学校教師用手引及び中学校・高等学校教師用指導資料を作成、配布し、教員の指導の充実に努めた。

○ 高校生を対象とした薬物乱用と健康に関するビデオ及び中学生・高校生用パンフレットを新たに作成・配布し、薬物乱用防止教育教材として活用した。

○ 薬物乱用防止教育の充実のための教員研修会を中央及び各都道府県で新たに開催し、教員の指導力の向上を図った。

○ 各教育委員会担当者や教員が参加する諸会議において薬物乱用問題を取り上げ、教員の意識を一層高め、児童生徒に対する指導の充実を促した。なお、その際には、各学校における指導に当たり、関係者の理解と協力を得た上で、警察など地域の関係機関、麻薬取締官OBとの緊密な連携・協力の下に、薬物乱用防止教室を開催するなど薬物乱用防止に関する一層の取組みを要請した。

○ 今後の施策に活用するため、児童生徒に対する薬物に対する意識調査を新たに実施した。

○ 今後の我が国における薬物乱用防止に関する指導の充実を図るため、欧米の薬物乱用防止に関する現地調査を実施した。

平成一〇年度薬物乱用対策推進計画(文部省関係部分抜粋)

平成一〇年五月二六日

薬物乱用対策推進本部

二 国民に対する啓発活動の推進

(二) 青少年に対する指導、啓発活動の強化

○ 公民館等で開催される各種講座やPTAの大会等において、薬物乱用防止について取り上げるなど、意識啓発に努める。

○ 学校教育関係者、警察職員、麻薬取締官OB等による委員会を組織し、学校における薬物乱用防止教育に対する支援体制の在り方について、実践的な調査研究を新たに行う。

○ 実践中心校を設定し、関係機関等と連携を図りながら、薬物乱用問題と健康問題についての実践的かつ総合的な調査研究を新たに行う。

○ 中学校、高等学校において、教科「保健体育」や特別活動を中心として学校教育活動全体を通じて、覚せい剤・大麻・麻薬・シンナー等薬物乱用防止について取り上げるよう指導する。

○ 中学生を対象とした薬物乱用と健康に関するビデオ及び中学生・高校生用パンフレットを作成・配布し、薬物乱用防止教育教材として活用する。

○ 薬物乱用防止教育の充実のための教員研修会を中央及び各都道府県で開催し、教員の指導力の向上を図る。

○ 各教育委員会担当者や教員が参加する諸会議において薬物乱用問題を取り上げ、教員の意識を一層高め、児童生徒に対する指導の充実を促す。なお、その際には、各学校における指導に当たり、関係者の理解と協力を得た上で、警察など地域の関係機関、麻薬取締官OBとの緊密な連携・協力の下に、薬物乱用防止教室を開催するなど薬物乱用防止に関する一層の取組みを要請する。

概要版:薬物乱用防止五か年戦略


基本目標 第三次覚せい剤乱用期の到来に対し、その早期終息に向けて緊急に対策を講ずるとともに、世界的な薬物乱用問題の解決に我が国も積極的に貢献する。

□問題状況:第三次覚せい剤乱用期の到来

平成九年の覚せい剤検挙者数は一万九、九三七人と二万人の大台に肉迫。中・高校生の覚せい剤事犯が急増(平成九年は過去最高の二六二人)した点などを重くみて、昭和二〇年代後半、昭和五〇年代後半に続く第三次覚せい剤乱用期の到来と認識。

□基本戦略:供給遮断・需要削減両面からの緊急対策により乱用期を早期に終息

関係省庁が緊密な連携の下に、供給遮断、需要削減の両面から総合的に対策を実施することにより、今後五年間の計画期間のできるだけ早い時期に第三次覚せい剤乱用期を終息させることを基本的な戦略目標として掲げる。供給遮断対策としては、密輸の水際での阻止と暴力団、一部不良外国人の密売組織の徹底取締りをはじめとする覚せい剤事犯取締りの緊急対策(本文(一))を実施。需要削減対策としては、青少年の乱用増加の根底にある規範意識の低下に対して啓発の強化により薬物乱用を拒絶する国民意識の醸成(本文(二))を図る。また、国際協力として、日本の経験を生かしつつ覚せい剤対策の分野で日本と世界の薬物乱用問題の解決に向けた国際貢献(本文(三))を行うことを明らかにする。


目標一 中・高校生を中心に薬物乱用の危険性を啓発し、青少年の薬物乱用傾向を阻止する。

□問題状況:青少年による覚せい剤乱用事犯の増加

その要因として、少年を取り巻く社会環境の悪化とともに、薬物使用は個人の自由と回答する高校生が二割前後というアンケート調査結果が示すとおり青少年自身の薬物に対する警戒感、抵抗感の希薄化が指摘される。

対策として、学校等における薬物乱用防止に関する指導の充実(本文(一))を図る。具体的には、初等中等教育段階での薬物乱用防止指導(小学校学習指導要領においても指導を明記)及び全中学・高校における薬物乱用防止教室の毎年開催を実施。他に街頭補導体制の強化とその協力体制の確保等(本文(二))、少年の再乱用防止対策の充実強化(本文(三))、関係機関等による相談体制の整備(本文(四))、広報啓発活動の推進(本文(五))を図る。


目標二 巧妙化する密売方法に的確に対処し、暴力団、一部不良外国人の密売組織の取締りを徹底する。

□問題状況:暴力団・一部不良外国人の密売組織の関与

薬物犯罪には暴力団等犯罪組織の深い関与があるとともに、数年前から携帯電話等を利用しつつ街頭で公然と薬物密売を行う一部イラン人等の不良来日外国人事犯等の増加が指摘されている。この末端密売形態の革命的な変化が、一般市民、青少年の薬物入手を容易にし、今回の覚せい剤乱用期の要因となった。

対策として、暴力団等の組織犯罪対策と不法収益のはく奪(本文(一))とともに、外国人密売組織壊滅に向けた徹底取締り(本文(二))を実施。ほかに、末端乱用者に対する取締りを重視(本文(三))するとともに、携帯電話利用等巧妙化する密売方法への対応(本文(三))を強化、大麻、コカイン、MDMA、向精神薬等多様化する乱用薬物への対応と正規流通の監督の徹底(本文(四))を図る。


目標三 密輸を水際でくい止め、薬物の密造地域における対策への支援などの国際協力を推進する。

□問題状況:国際的な密造と不正流通、我が国への薬物の密輸の増加

中国で密造される覚せい剤をはじめ、国内で乱用される不正薬物は海外から流入したもの。国際的な密造と不正流通とともに、我が国への不正薬物の密輸の増加、密輸事件の大口化・巧妙化が進行。

対策として、徹底した水際取締りによる密輸摘発のため、密輸等の情報収集の強化(本文(一))、共同捜査等の密輸取締体制等の強化(本文(二))を図る。また、対策の決め手となる薬物供給遮断の観点から密造地域対策としてアジア諸国等への取締協力を進めるとともに、ODAの活用等による国際協力活動を「覚せい剤乱用防止の国際協力プログラム」としてアピールするなど、国際的な不正薬物の供給阻止(本文(三))を図る。


目標四 薬物依存・中毒者の治療と社会復帰を支援し、再乱用を防止する。

□問題状況:薬物犯罪は再犯率が高く、薬物依存・中毒者問題は深刻な状況

覚せい剤には中毒性精神病の危険性があり、依存に対する完全な治療法は確立していない。薬物依存・中毒者には薬物使用とそれにまつわる生活習慣から脱却させることが重要。

対策として、専門病床確保等の医療提供体制の整備により薬物依存・中毒者に対する治療の充実(本文(一))を図るとともに、精神保健福祉センターを中核として医療機関、麻薬取締官事務所等の公的機関、相談員・ボランティア等による地域の相談・指導のネットワークを整備し、薬物依存・中毒者の社会復帰の支援(本文(二))を図る。

覚せい剤事犯検挙者の年次別推移(昭和26年~平成9年)



中・高校生覚せい剤事犯検挙者数及び未成年者の比率



薬物乱用防止五か年戦略(文部省関係部分抜粋)

平成一〇年五月二六日

薬物乱用対策推進本部

はじめに

平成九年四月一八日、薬物乱用対策推進本部において、二一世紀に向けた薬物乱用対策を検討するための国連総会麻薬特別会期の開催に向けて国内における長期的な総合計画を策定することが申し合わされた。これを受けて薬物乱用防止五か年戦略を作成し、最近の覚せい剤を中心とした薬物乱用の増加傾向等厳しい薬物情勢に対処するため、関係各省庁が緊密な連携の下に薬物乱用対策を総合的な戦略として再構築するとともに、国連総会麻薬特別会期の開催に向けて二一世紀の世界的な薬物乱用問題の解決のために我が国が果たすべき役割を明確にすることとする。

薬物乱用防止五か年戦略は、薬物乱用対策推進本部を構成する関係省庁が講ずるべき薬物乱用対策の目標を示すものである。同時に、問題の解決には国民及び関係者各位の自覚と協力が不可欠であることにかんがみ、薬物乱用の現状・特徴、原因・問題点、対策を分析、整理してわかりやすく示すことにより、行政機関のみならず国民全体が薬物乱用問題の解決に向けて行動するに当たって指針としうる具体的な目標を提示する。また、各都道府県において設置されている薬物乱用対策推進地方本部においても、関係行政機関等の協力により、薬物乱用防止五か年戦略の目標の実現に向けて、薬物乱用対策のより一層の強化を要請することとする。

薬物乱用防止五か年戦略が想定する対策の期間は、平成九年一月に最近の厳しい薬物情勢にかんがみ薬物乱用対策推進本部が設置された経緯を踏まえると、現下の薬物乱用問題の解決に緊急に対処するものであると同時に、二一世紀の薬物乱用対策を討議する国連総会特別会期に向けて我が国の果たすべき役割を明確にするものとして一定の長期的視点を有することが必要である。そこで想定する期間を平成一〇年から平成一四年までの五年間とし、この間の薬物乱用対策の基本目標により具体的な四つの目標を掲げて、それぞれについて現状と問題点及び対策を示すこととする。


目標一 中・高校生を中心に薬物乱用の危険性を啓発し、青少年の薬物乱用傾向を阻止する。

一 現状とその問題点

(一) 青少年による覚せい剤乱用事犯の増加

(中・高校生の覚せい剤乱用事犯の増加)

青少年の薬物乱用の実態を見ると、シンナー等の乱用も依然見逃すことのできない問題であるが、最近では覚せい剤を乱用する事犯が増加しており、特に中・高校生においてその増加が顕著である。すなわち、高校生の覚せい剤事犯検挙者数は、平成六年には四二人であったものが、平成七年には九三人、平成八年には二二〇人と二年連続して倍増、第二次覚せい剤乱用期のピークである昭和五七年の一四三人を上回る数字を記録した。平成九年においては、高校生は二一九人と前年並みであったが、中学生の検挙者数が平成八年の二一人から倍増して四三人を数えるに至った。この検挙者数の急激な増加は、最近における覚せい剤乱用の中・高校生への浸透と薬物乱用の低年齢化が進行していることを示している。また、その乱用実態も友人同士仲間内で安易に乱用したり、学校内までもが薬物の譲受や乱用の場となるなど、極めて憂慮すべき状況となっている。

(高校生の覚せい剤に対する意識等)

平成一〇年一月に公表されたアンケート調査結果によると、高校生の六・五%が薬物使用を誘われた経験を有し、高校生の約一割が好奇心や面白半分等の理由で薬物を使ってみたいと思ったことがあると回答している。そして、使ってみたい薬物は、覚せい剤が五〇・五%でシンナーの三六・〇%を上回っている。このことは、近年増加してきた高校生をはじめとする青少年の覚せい剤乱用事犯が、今後さらに飛躍的に増加することを危惧させる。

(二) 少年を取り巻く社会環境の悪化

最近の少年非行情勢は、少年人口の急激な減少にもかかわらず、刑法犯少年の補導人員の増加傾向が続き、「戦後第四の上昇局面」に入ったといえるような厳しい状況となっている。このような状況の中で、薬物乱用少年の増加の要因としては、まず駅前や繁華街等にたむろし誰彼の区別なく声をかけ巧妙に薬物を密売している不良来日外国人密売人グループの出現により薬物の入手が容易となったことが挙げられる。このほかに、薬物乱用を興味本位的に捉えた情報の氾濫、少年の不良行為や問題行動を助長し乱用少年のたまり場となりやすいゲームセンター等の営業所の増加、性の問題行動を助長するような営業等の増加に加えて、核家族化の進展等に伴う家庭の教育力の低下、地域社会の非行防止機能の低下など複合的な要因が考えられ、地域社会、家庭、学校のそれぞれが抱えている問題が複雑に絡み合って少年の薬物乱用を助長しているといえる。

(三) 薬物に対する警戒感、抵抗感の希薄化

(青少年の安易な乱用傾向)

薬物乱用少年の中には、薬物に対する好奇心や仲間意識といった軽い気持ちから安易に乱用しているケースが目立つ。そして、覚せい剤にダイエット効果があるなどと誤った認識の下に乱用したり、覚せい剤を「S」、「スピード」などと呼んでファッション感覚で乱用する傾向が見られる。また、従来一般的に行われていた注射器を使用した静脈注射によらずに、あぶった蒸気を吸引したり、液体状のものをジュースに混ぜるなど簡便な方法を用いることで、覚せい剤乱用に対する罪悪感を希薄化させている傾向も見られる。薬物乱用少年に薬物の危険性・有害性についての正確な認識が欠けているとともに、薬物に対する警戒感、抵抗感が希薄化していることが薬物乱用少年の実態において明らかに示されている。

(意識調査に見る警戒感の希薄化)

平成九年一〇月に公表された児童生徒の薬物に対する意識調査の結果では、学年が上がるほど、児童生徒の薬物に関する学習経験が増え、薬物の使用・所持に対する法律に関する正しい知識や危険性・有害性に関する認識を持つようになる反面、薬物乱用について「他人に迷惑をかけていないので使うかどうかは個人の自由である」と回答する割合が、高校三年生男子では一五・七%を示すなど非常に高い数値を示している。この傾向は平成一〇年一月に公表されたアンケート調査において高校生の約九割が薬物の所持、使用が法律で罰せられることを知っているものの、使用することについては約二割(男子では二七%)が個人の自由と答えていることからも裏付けられる。また、平成九年一一月に公表された青少年の薬物認識と非行に関する研究調査において「薬物は本人の考えにまかせればいい」と考える生徒の割合が年齢が上がるほど高くなっており、高学年になるほど規範意識の低下が見られる。これらのことから、薬物に対する警戒感、抵抗感の希薄化は、一般の青少年の間でも相当深刻な段階に至っていることがわかる。

二 対策

(一) 学校等における薬物乱用防止に関する指導の充実

(初等中等教育段階での薬物乱用防止指導)

青少年期は、たばこ(ニコチン)、酒(アルコール)を含めた依存性薬物を使用するきっかけが起こりやすい時期であり、また、心身の発育・発達途上にあるため、依存状態に容易に移行しやすく、人格の形成が妨げられるなど薬物の影響が深刻なかたちで現れやすい。したがって、初等中等教育段階からの薬物乱用防止に関する指導が、極めて重要な意義を持つ。現行の学習指導要領は、高等学校及び中学校では教科「保健体育」において指導内容が明示されているが、小学校では教科「体育」の保健領域において指導内容として薬物乱用防止については示されていない。このため、学習指導要領の改訂に当たっては、小学校においても、薬物乱用防止について指導する方向で検討する。また、各学校段階を通じ、教育相談等の生徒指導の機能を一層活用するとともに、道徳や特別活動等において、各学校の創意工夫により、積極的に薬物乱用防止に関する指導を行うよう、指導の徹底を図る。

なお、意識調査結果に見られる青少年の薬物に対する警戒感・抵抗感の希薄化にかんがみ、学校における薬物乱用防止に関する指導は、児童生徒に単に薬物に対する知識を教えるだけではなく、現在及び将来にわたって薬物乱用は自分のために絶対に行うべきではないし、社会的にも許されることではないという規範意識を身に付けさせるという観点に立って指導の充実を図ることとする。

(全中学・高校における薬物乱用防止教室の毎年開催)

薬物乱用防止に関する指導に当たる教員の指導力の向上を図るため、国及び都道府県において開催する研修会の充実等教員の研修の機会を拡充するとともに、指導に当たって児童生徒に薬物乱用の危険性・有害性をわかりやすく、かつ、正しく理解させるため、ビデオテープ、パンフレットや副読本等の児童生徒用教材及び教師用指導資料の充実を図る。

また、現在高校を中心に開催が進められている薬物乱用防止教室については、教師のみならず警察職員や麻薬取締官OB等の専門家が一体となって指導することによる効果が認められることから、関係機関等との密接な連携を図って積極的に開催を進めることとし、今後全ての高等学校及び中学校において年に一回は薬物乱用防止教室を開催するよう努めるとともに、地域の実情に応じて小学校においても薬物乱用防止教室の開催を推進することとする。

さらに、学校のみならず家庭、地域社会が一体となって薬物について学ぶことができるよう、各教育委員会において学校への支援体制の強化・充実を図るとともに、社会教育施設等において地域住民を対象とした薬物乱用防止に関する講座の開設や相談窓口の設置を行うなど、その機会の提供や場の整備等に努める。また、PTAなど関係団体が積極的な役割を果たすよう協力を要請する。

麻薬・覚せい剤等に関する実態調査結果に基づく勧告(文部省関係部分抜すい)

平成一〇年五月

総務庁

一 薬物乱用問題の現状と対策

(一) 我が国における薬物乱用問題の現状と対策

我が国における薬物乱用問題の経緯をみると、まず、第二次世界大戦後の昭和二〇年代から三〇年代初めにかけて、戦後の疲弊と混乱を背景に、覚せい剤(ヒロポン)が流行し、ピーク時の昭和二九年には検挙者数が五万五、六六四人に達した(第一次覚せい剤乱用期)。こうした事態に対処するため、昭和二六年に覚せい剤取締法(昭和二六年法律第二五二号)が制定され、密造工場の摘発、末端乱用者の徹底的な取締り等により三二年ごろから乱用が鎮静化に向かった。

次に、昭和四五年ごろから、享楽的な社会風潮や、暴力団が資金源として薬物の密売等に組織的に介入したこと等により、覚せい剤の乱用が急速に拡大し、ピーク時の昭和五九年には検挙者数が二万四、三七二人に達した(第二次覚せい剤乱用期)。政府は、このような状況を踏まえ、昭和四五年六月五日の閣議決定により薬物乱用対策推進本部を総理府に設け、毎年度、薬物乱用防止対策実施要綱を定めて関係各省庁による各種の対策を講じてきた。

その後、覚せい剤取締法による検挙者数は、平成元年には二万人を割り、以降一万五、〇〇〇人前後で推移していたが、七年から大幅な増加に転じ、九年には一万九、九三七人に達しており、第三次覚せい剤乱用期に入ったといわれている。特に、中学生及び高校生の検挙者数が平成七年の一一一人から、八年の二三五人、九年の二六二人と増加が顕著であり、青少年の覚せい剤の乱用が深刻化している。このため、政府は、薬物乱用対策の総合的な推進体制を強化するため、平成九年一月一七日の閣議決定により、薬物乱用対策推進本部を内閣に設置し、本部長を従前の内閣官房長官から内閣総理大臣と、本部員を関係局長から関係閣僚とするなど、その体制の充実を図った。

薬物乱用対策推進本部では、平成九年四月一八日に薬物乱用対策の基本方針を明らかにするため薬物乱用対策推進要綱を決定した。この要綱では、関係省庁が緊密な連携の下に、[cir1 ]取締りの強化、厳正な処分等、[cir2 ]国民に対する啓発活動の推進、[cir3 ]薬物乱用者に対する処遇等、[cir4 ]国際協力の推進、[cir5 ]各種制度の見直し、研究開発の推進を実施することとしている。また、この要綱に沿った施策の推進計画を毎年度策定することとしている。さらに、覚せい剤事犯で検挙される青少年の数が急増しているなどの深刻な状況に歯止めをかけるため、薬物乱用対策推進本部では、平成九年四月一八日に青少年の薬物乱用問題に対する緊急対策を決定し、学校教育の充実、一般広報啓発活動の徹底、取締り等の強化等の緊急対策を実施した。

(二) 欧米諸国における薬物乱用問題の現状と対策

「麻薬・覚せい剤等に関する実態調査」の参考とするため、オランダ及びフランスの政府関係者及び関係団体を訪問するとともに、アメリカ合衆国等についても資料を収集し、欧米諸国における薬物乱用問題の現状と対策について調査を行った。

我が国で乱用される薬物は覚せい剤が圧倒的に多いが、フランス、オランダ、アメリカ合衆国等の欧米諸国では、ヘロイン、コカイン、大麻等が多い。また、各国とも、様々な調査結果を基に薬物乱用者数を推定しており、医療対策を始めとする諸対策に活用している。

これらの国における薬物乱用対策は、それぞれの国情に応じて様々であるが、特徴的なものを挙げると、次のとおりである。

教育の分野をみると、オランダでは、薬物乱用防止教育として、初等教育の最後の二年間及び中等教育の最初の四年間において各学年ごとに年間五時間ないし六時間の授業(アルコール、たばこ等を含む。)を行うとともに、保護者用副読本をすべての保護者に配布している。

医療・社会復帰の分野をみると、オランダでは、中央政府及び地方政府からの財政支援を受けた財団が薬物依存・中毒者の解毒治療から社会復帰のための職の提供までを一元的に実施している。また、アメリカ合衆国では、薬物依存・中毒者の治療やリハビリテーションを行う施設が全国に一万一、四九六施設ある。

取締りの分野をみると、フランスでは、政府として一元的かつ総合的な取締りを行うため、内務省国家警察総局に設置された薬物不法取引取締中央室が、取締戦略の樹立、各関係機関の取締業務の調整等を行っている。

(注) 薬物依存とは薬物摂取を自らの意志でやめられない状態を、薬物中毒とは薬物の摂取によって人体にもたらされる何らかの危険な状態をいい、薬物中毒のうち、薬物の急性又は慢性の使用によって生じた意識障害、幻覚妄想状態等の精神病状態を呈している場合を中毒性精神病という。ここで、薬物依存・中毒者とは、薬物依存又は薬物中毒に陥っている者をいう。また、薬物乱用とは、医療の用に供せられる薬物を本来の医療目的から逸脱して使用すること、あるいは医療目的のない薬物を快感を得るなどの目的で不正に使用することをいう。

二 生徒への薬物乱用防止教育の強化

近年、覚せい剤事犯で検挙される中学生・高校生が急増するなど、青少年層への薬物乱用の浸透が憂慮されている。このため、学校における教育を徹底し、覚せい剤等の薬物を使用しないという態度を身に付けさせることが必要となっている。

文部省は、平成元年三月に中学校及び高等学校(以下「高校」という。)の学習指導要領を改定し、新たに「喫煙・飲酒・薬物乱用と健康」に関する内容を盛り込んでいる。

今回、一五都道府県及び一五市の教育委員会(以下「教委」という。)並びに公立の中学校三〇校及び高校三〇校における薬物乱用防止教育、教員に対する研修及び保護者に対する啓発の実施状況等を調査するとともに、高校七五校(私立を含む。)の生徒(二年生)、その保護者及び全教員に対し「薬物乱用問題に関するアンケート調査」(以下「薬物アンケート」という。)を実施した結果、次のような状況がみられた。

(一) 学校教育の徹底

ア 授業における薬物乱用防止教育

薬物乱用防止に関する指導時間については、文部省が全国の中学校及び高校に配布している「喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する指導の手引」の中で、中学校及び高校において、それぞれ第一学年から第三学年を通じ、四時間ないし五時間の授業を展開することが例示されている。

また、調査した教委の中には、平成九年三月に「指導の手引」を独自に作成し、薬物乱用防止に関する指導時間を、中学校では各学年の保健体育で二時間、学級活動及び道徳でそれぞれ一時間、高校では各学年の保健体育で二時間、ホームルーム活動で一時間とするよう指導している例もみられる。

なお、オランダでは、初等教育期間の最後の二年間(一一歳から一二歳)と中等教育期間の最初の四年間(一三歳から一六歳)の各学年で年五時間ないし六時間の指導(アルコール、たばこ等を含む。)を実施している。

一方、薬物アンケートの結果では、「薬物を使ってみたいと思ったことがある」と回答した高校生は八・三パーセントに上り、薬物を使用することについて「個人の自由」と回答した高校生が二〇・四パーセントとなっているなど、薬物に関する指導が徹底していない状況がうかがえる。また、教員及び保護者では、薬物から青少年を守る有効な対策として、「学校での薬物乱用防止の教育の強化」を求めるものが六割を超えている。

しかし、調査した中学校及び高校における生徒に対する薬物乱用防止教育の実施状況をみると、次のとおり、指導時間数が少ないものがみられた。

[cir1 ] 中学校では、保健体育において薬物乱用防止教育の指導時間が第一学年から第三学年の合計で一時間以下のものが一七校(うち一時間未満のもの二校)みられ、他の教科や学校行事等特別活動を合わせても一時間以下のものが一二校(うち一時間未満のもの一校)みられる。

[cir2 ] 高校では、第一学年から第三学年の合計で、保健体育において一時間以下のものが一二校、他の教科やホームルーム活動等特別活動を合わせても一時間以下のものが五校みられる。

このように指導時間数が少ない理由として、自校の生徒に薬物乱用の兆候がみられないことを挙げている中学校が九校、高校が四校あるほか、いじめ問題等優先すべき指導事項があることやカリキュラムに余裕がないことを挙げている中学校もある。

イ 専門家の活用による薬物乱用防止教育

薬物乱用防止のためには、教員による知識の教育に加えて、関係機関・団体との連携の下に薬物依存・中毒者に直接接した専門家(警察職員、麻薬取締官OB、医療関係者等)による実例を交えた実践的な講話を聞く機会を持つことなどが効果的といわれている。

薬物アンケートの結果においても、生徒の薬物乱用防止対策として学校内で強化すべき点として、四五・五パーセントの教員が「警察、保健所等関係機関との連携強化(講師を招聘しての講義の実施等)」と回答している。

なお、文部省は、平成九年五月に麻薬取締官OB、警察職員、学校医、学校薬剤師等の積極的な活用を図るよう都道府県教委へ通知している。

しかし、専門家の活用による薬物乱用防止教育の実施状況をみると、次のとおりとなっている。

[cir1 ] 調査した中学校及び高校で警察職員を講師とした薬物乱用防止教室を開催したものは、平成八年度では中学校が四校、高校が七校のみと低調であり、九年度に開催するとした学校も、中学校が一五校、高校が一三校にとどまっている。薬物乱用防止教室を開催していない理由として、薬物乱用問題が起きていないこと(中学校一〇校、高校九校)や警察からの呼び掛けがなかったこと(中学校四校、高校九校)などを挙げている。

なお、警察庁は、平成九年度内に全高校(五、四九六校)での薬物乱用防止教室の開催を目標に掲げている。また、文部省は、「青少年の覚せい剤等の薬物乱用防止について」(平成九年三月一七日付け文体学第五九号文部省体育局長・生涯学習局長・初等中等教育局長連名通知)により、警察と連携した薬物乱用防止教室の開催を促進するよう都道府県教委に対し通知している。その結果、平成九年度は五、〇一八校で薬物乱用防止教室が開催されている。

[cir2 ] 調査した中学校及び高校で保健所及び都道府県薬剤師会と連携して薬剤師による薬学講座などの講習会を実施したものは、中学校が四校、高校が二校しかない。このような講習会を実施していない理由として、薬物乱用問題が起きていないことを挙げている中学校が一一校、高校が一六校ある。また、関係機関等からの呼び掛けがなかったことを挙げている学校もある。

[cir3 ] 平成九年度に全国の中学校及び高校で麻薬取締官OBを講師として薬物乱用防止講習会を開催したものは、中学校が一九校、高校が二二校と極めて少なく、調査した学校で麻薬取締官OBを活用した例はない。なお、調査した教委の中には、麻薬取締官OB等の活用は講師の選択肢の拡大につながるとの意見を述べているものや、調査した学校の中には、具体的な話を聞く貴重な機会になるとの意見を述べているものもある。

[cir4 ] 財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターでは、厚生省の委託事業により、薬物乱用防止の啓発のためのキャラバンカー一台を、中学校、高校の要請に応じて派遣しているが、平成九年度にキャラバンカーを活用した学校は、全国で中学校が六五校、高校が二二校にすぎない。

以上のように、学校における専門家を活用した薬物乱用防止教育は、一般に低調であるが、調査した都道府県教委の中には、高校生の覚せい剤乱用事件を契機として、講師として保健所職員、警察職員、医師等を活用して生徒及び教員対象の講習会を開催するよう高校に指示し、平成八年度に全高校が講習会を開催している例もみられる。

ウ 指導資料・教材

文部省は、教員用指導資料として、平成七年度には全中学校に、八年度には全高校に「喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する指導の手引」を配布した。また、平成九年度には、生徒用教材として中学生・高校生向け一六ミリ映画を各都道府県・政令指定都市の教委に、教員用指導資料として「薬物乱用防止に関する指導|指導資料|」、生徒用教材として高校生向けビデオテープ及び中学生・高校生向けパンフレットを全中学校・高校に配布している。

一方、厚生省では、毎年五月に薬物乱用防止副読本を全中学校に各五〇部、全高校に各一〇〇部送付し、また、平成九年度には、薬物乱用防止教育用のビデオテープを全高校に配布している。

なお、文部省が平成九年五月に行った「児童生徒の覚せい剤等の薬物に対する意識等調査」の結果によると、学校が薬物乱用防止教育(保健体育)に使用している教材は、教科書のほか、ビデオテープが中学校、高校ともに四割強、パンフレットが中学校二割弱、高校三割強となっている。

調査した中学校及び高校では、指導資料・教材について、ビデオテープの配布(中学校七校、高校八校)、生徒向け副読本等の内容の充実及び配布部数の増加(中学校一校、高校四校)、教員向け資料の内容の充実(高校六校)等の要望がみられる。また、生徒用教材の内容については、医学的な専門用語が多く生徒には分かりにくいとの意見もある。

(二) 教員に対する研修の充実

薬物乱用防止教育の体制づくりのためには、まず、授業の中核を担う保健体育担当教員や学校保健の中心となる養護教諭の知識向上が必要である。また、薬物乱用防止教育は、学級活動やホームルーム活動でも行われるため、教員全員に対する研修も必要である。

今回、教員に対する研修の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 保健体育担当教員又は養護教諭を対象とした研修の実施状況

調査した教委で保健体育担当教員を対象とした研修を実施しているものは一四教委、養護教諭を対象とした研修を実施しているものは一三教委となっている。研修を実施していない教委では、その理由として、いじめ問題、登校拒否問題等を優先していること、薬物を乱用している生徒は少ないことなどを挙げている。

また、調査した中学校及び高校で保健体育担当教員が研修を受講しているものは中学校が九校、高校が一一校、養護教諭が受講しているものは中学校が一二校、高校が一四校といずれも半数に達していない。研修を受講させていない理由として、これらの学校では、研修が実施されていないこと(中学校四校、高校一校)、問題のある生徒がいないこと(高校二校)、学校行事と重なったこと(高校一校)などを挙げている。

なお、文部省では、平成九年度から中央及び各都道府県において、薬物乱用防止教育を担当する教員を対象とした研修会を実施している。

イ 教員全員を対象とした研修の実施状況

薬物アンケートの結果では、生徒に対する薬物乱用防止対策として学校内で強化すべき点として、五割以上の教員が「教職員全員に対する薬物乱用問題、指導方法等の研修の充実」を挙げているが、調査した教委で教員全員を対象とした研修を実施しているものは四教委にすぎない。

実施している教委の中には、県下の高校生が大麻取締法(昭和二三年法律第一二四号)違反で逮捕された事件を契機に、平成八年度から県医師会との共催により、県警察本部薬物担当課長、大学教授、病院長等を講師として、公立・私立学校の学校医、教職員及び保護者を対象とする薬物乱用防止教育地区別講習会を実施している例がみられる。また、調査した学校の中には、生徒への教育の前に、まず教職員の薬物に対する知識を深める必要があるとして、教職員を対象とした薬物乱用防止教室を実施している例がみられる。

(三) 保護者に対する啓発の充実

保護者に対する薬物乱用防止の啓発については、青少年の薬物乱用問題に対する緊急対策において、「少年の保護者を始め家庭や地域社会に対する広報啓発活動を強化する」こととされている。

文部省が配布している「喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する指導の手引」では、「喫煙・飲酒・薬物乱用の防止に関する指導は、保護者がその意義と必要性を十分に理解し、学校の指導方針に即し、学校と家庭が互いに連携しつつ展開する必要がある。そのためには、特別活動のホームルーム活動を公開したり、懇談会の開催や広報紙の活用により喫煙・飲酒・薬物乱用問題に対する意識、関心や実態を示し、指導についての理解と協力を求める必要がある。」としている。

今回、保護者に対する薬物乱用防止の啓発状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

[cir1 ] PTA団体に対して保護者への啓発の要請を行っている教委は九教委にすぎず、また、保護者に対して、教員向けの会議、講習会等に参加を呼び掛けたり、リーフレットの配布を行っている教委は、六教委のみとなっている。

なお、保護者への啓発を実施している教委の中には、PTA団体に対し、講習会の開催を委託したり、啓発資料を配布している例がみられる。

[cir2 ] 調査した中学校及び高校で保護者に対して薬物乱用防止教室への参加を呼び掛けているものは、中学校が三校、高校が一校のみとなっており、また、保健だより等により薬物乱用防止に関する情報・知識を提供しているものは、中学校が六校、高校が四校にすぎない。

なお、オランダでは、保護者への啓発が重要であるとして、保護者用副読本を学校を通じてすべての保護者に配布している。

したがって、文部省は、生徒の薬物乱用を防止するため、次の措置を講ずる必要がある。

[cir1 ] 指導時間の確保等授業の充実、薬物乱用防止教室の開催等専門家の積極的な活用、関係省庁と協力しての指導資料・教材の充実等により、多角的に薬物乱用防止教育の充実を図ること。

[cir2 ] 保健体育担当教員及び養護教諭を中心に薬物乱用防止教育担当教員を対象とする専門的な研修の受講を促進するとともに、その他の教員についても研修の機会を確保するよう都道府県教委及び政令指定都市教委を指導すること。

[cir3 ] 薬物乱用防止教室等の講演行事への参加呼び掛け、情報の提供等保護者への啓発を推進するよう都道府県及び政令指定都市の教委を指導すること。

五 各種の啓発活動の充実

薬物乱用対策推進本部では、従前から「国民に対する啓発活動の強化」を乱用対策の第一の柱として掲げており、薬物乱用対策推進要綱においても、「国民に対する啓発活動の推進」として、[cir1 ]各種広報啓発活動の推進、[cir2 ]青少年に対する指導、啓発活動の強化、[cir3 ]関係業界等に対する指導監督の徹底を実施することとされている。このうち各種広報啓発活動の推進については、「薬物乱用の弊害に対する国民の意識を高め、薬物乱用対策に関する国民の理解と協力を確保していくための広報啓発活動を積極的に実施する。その際、各種関係団体の協力を得、各種運動を活用するなど効果的な広報啓発が行えるよう配意する。」とされている。

このように、薬物乱用対策推進本部を構成する各省庁において、それぞれの業務に応じた積極的な啓発活動を実施することが求められている。

今回、薬物乱用防止のための啓発活動について調査した結果、次のような状況がみられた。

(一) 月間・運動の実施

薬物乱用防止の啓発のための月間・運動として、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動(厚生省)、不正大麻・けし撲滅運動(同)、麻薬・覚せい剤禍撲滅運動(同)、少年の薬物乱用防止対策強化旬間(警察庁。平成九年度新規)等が実施されている。

ア 都道府県における取組

前記の月間・運動は、都道府県の協力を得て全国的に展開されているが、調査した一五都道府県における平成八年度の月間・運動への取組状況をみると、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動及び麻薬・覚せい剤禍撲滅運動についてはすべての都道府県において、街頭キャンペーンの実施や都道府県民大会の開催等関係機関・団体等の参加による種々の活動が行われている。しかし、不正大麻・けし撲滅運動については、不正栽培又は自生の大麻・けしの除去活動のほかには、ポスター・リーフレットを関係機関・団体等に配布するにとどまっているものが少なくない。

また、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動は、厚生省、都道府県及び財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターの主催により、薬物乱用対策推進本部、警察庁、総務庁、法務省、大蔵省、文部省、運輸省等が協賛している。しかし、調査した都道府県の中には、次のとおり、協賛省庁の出先機関に対し啓発活動への参加を要請していないものがある。

[cir1 ] 協賛省庁の各出先機関に対し、県が「ダメ。ゼッタイ。」普及運動への協力を要請していないこともあって、同運動に参加していない機関のある県がみられる。

[cir2 ] 各種月間・運動の実施については、薬物乱用対策推進地方本部の啓発部会を通じて参加の要請を行っており、同部会の構成員となっていない出先機関には月間・運動への参加を要請していない県がある。

なお、調査した出先機関の中には、各省庁の実施する月間・運動が多すぎるとの意見がある。

イ 民間団体の参加状況

平成八年度薬物乱用防止対策実施要綱では、各種の委員、各種関係団体の指導者等の活動を通じた薬物乱用防止のキャンペーンを行うこととされている。また、厚生省は、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動について、四三の後援団体を明示するとともに、関係機関・団体で構成する実行委員会を設置してキャンペーンを実施するよう都道府県を指導している。しかし、次のように、民間団体の参加が不十分な都道府県がある。

[cir1 ] 実行委員会を設置しているものの、県覚せい剤乱用防止推進員協議会が主体となって運営しているなど、広く民間団体の参加を得ていないもの

[cir2 ] 「ダメ。ゼッタイ。」普及運動の参加を薬剤師会等一部の団体に限定しており、同運動の後援団体であり参加意思のあるロータリークラブ等へ参加を求めていないもの

一方、薬物乱用防止の啓発を実施するため一六八機関・団体で構成する推進会議を設置して、幅広く民間団体の参加を求めている県がある。

(二) 関係団体における取組状況

平成八年度薬物乱用防止対策実施要綱では、各種青少年関係の指導者、勤労青少年関係の指導者等に対し薬物乱用問題についての認識を深めさせ、これらの者を通じた知識の普及を図ること、各省庁は所管の団体に対し防止対策について協力してもらうべく要請することとされており、文部省、労働省等からその出先機関や全国レベルの関係団体を通じて、地域の団体や施設等に啓発を行うよう要請している。

しかし、調査した一五都道府県に所在する文部省関係の都道府県レベルの二八団体のうち一七団体は、全国レベルの関係団体から通知を受けていないとしており、このため、一七団体(要請はあったが対応について検討中の一団体を含め、都道府県教委からの要請により独自の啓発を実施した一団体を除く。)は、会員の施設や地域の団体等に対して啓発の要請を実施していない。一方、五都道府県の高等学校PTA連合会は、社団法人全国高等学校PTA連合会から指導マニュアルの送付により啓発活動を指導されており、これを受けて傘下の団体への周知や研修等を実施している。

また、労働省関係の団体については、調査した勤労青少年福祉員の所属する六団体のうち三団体は、女性少年室から薬物乱用防止の啓発に関する要請を受けておらず、また、調査した勤労青少年ホームの五施設のうち三施設は、全国レベルの関係団体及び都道府県担当部局から要請を受けていない。

(三) 国を挙げての広報啓発の必要性

平成七年以降、覚せい剤事犯の検挙者数が三年連続で増加し、第三次覚せい剤乱用期に入ったといわれ、青少年を始めとする初犯者の検挙者数が増加し乱用の裾野の拡大に歯止めがかからないなどこのまま推移すれば深刻な事態となることが憂慮されている。

一方、薬物アンケートの結果をみると、高校生の保護者及び教員とも、薬物乱用問題の現状については九割近くが深刻な状況と認識しており、薬物乱用の増加原因として次のことを挙げている。

[cir1 ] 薬物乱用における薬害についての知識や認識が不足していること。(六割以上)

[cir2 ] 本や雑誌等に薬物に興味を持つような情報があふれていること。(五割以上)

また、青少年を薬物から守る有効な対策としては、保護者及び教員とも四割以上が広報活動の充実を挙げている。

これらのことは、保護者及び教員が、従来の各省庁の対策が十分に効果を上げていないとの認識を有していることを示しており、この際、国を挙げて広報啓発活動の在り方について検討を行う必要性があると考えられる。

なお、薬物乱用対策推進本部は、平成九年度から、薬物乱用防止広報強化期間(六月及び七月)を設定し、各省庁は各々の広報活動を通じ、薬物乱用防止の広報啓発を行うこととしている。

したがって、薬物乱用対策推進本部を構成する各省庁は、同本部の場を活用するなどにより、薬物乱用防止に係る広報、啓発の効果的な実施方策について検討する必要がある。(国家公安委員会(警察庁)、総務庁、法務省、外務省、大蔵省、文部省、厚生省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省及び自治省)

 

 

 

 

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