ここからサイトの主なメニューです

現代の国語をめぐる諸問題について

5文国審第四号

平成五年六月八日
文部大臣あて
国語審議会会長報告

現代の国語をめぐる諸問題について

本審議会は、標記のことについて慎重な審議を行い、このたび別冊のように取りまとめましたので、報告します。

別冊

現代の国語をめぐる諸問題について〔案〕

(平成五年六月八日)

(国語審議会)

目次

はじめに

第一 基本的な認識

一 これまでの国語施策の経緯

二 国語施策の観点

三 社会状況の変化と国語

第二 現代の国語をめぐる諸問題

一 言葉遣いに関すること

二 情報化への対応に関すること

三 国際社会への対応に関すること

四 国語の教育・研究に関すること

五 表記に関すること

はじめに

平成三年九月に発足した第一九期国語審議会は、現代の国語をめぐる様々な問題を見渡し、今後適切な対応が望まれる問題にはどのようなものがあるかについて、審議し提言することを課題とした。

この課題について、本審議会は総会、問題点整理委員会など合計二七回の会議を開いて検討を行い、この間、平成四年六月には審議経過報告を公表するなど慎重な審議を重ね、ここにこの報告をまとめた。

第一 基本的な認識

一 これまでの国語施策の経緯

国語の表記については明治以来様々な論議が行われてきたが、戦後、国語審議会の答申又は建議に基づいて、「当用漢字表」(昭和二一年)、「現代かなづかい」(昭和二一年)、「当用漢字音訓表」(昭和二三年)、「当用漢字字体表」(昭和二四年)、「送りがなのつけ方」(昭和三四年)等、国語の表記に関する一連の国語施策が内閣告示・内閣訓令によって実施に移された。これら一連の施策は、国語の表記の平明化を図り、教育上の負担を軽減し、社会生活上の能率を増進することによって文化水準の向上に資することを目的としたものである。

その後、これらの施策については、実施の経験等にかんがみ、種々再検討を加えて改善を図る必要が生じた。

そのため、昭和四一年六月に文部大臣から国語審議会に対して「国語施策の改善の具体策について」の諮問が出された。以来、国語審議会は四半世紀にわたり、この諮問に基づく審議を継続して行い、逐次答申を行った。

すなわち、当用漢字の音訓と送りがなのつけ方の改定については昭和四七年六月に答申を行い、当用漢字の字種と字体の問題については、さきの音訓の改定の結果をも採り入れて、昭和五六年三月に「常用漢字表」として答申を行った。さらに、現代かなづかいの改定については昭和六一年三月に答申を行い、引き続き、現代かなづかいに関連する事項としての「外来語の表記」の問題について平成三年二月に答申を行った。

これらの答申では、漢字表の字種や音訓の幅を広げるなど内容の上で従来の施策に種々改善を加えるとともに、その性格についても従来の施策に見られた制限的あるいは画一的な色彩を改め、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において現代の国語を書き表す場合の「目安」又は「よりどころ」とすること、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではないことを基本とし、過去に行われた表記を否定するものではないとして伝統的な表記に対する配慮をも示した。また、答申に先立って中間試案を広く国民に公表し、各方面の意見を十分参考にするなど、慎重な審議の上それぞれの答申をまとめた。

これらの国語審議会の答申は、その趣旨・内容に基づいて、それぞれ新しい内閣告示・内閣訓令として実施に移された。すなわち、「送り仮名の付け方」(昭和四八年)、「常用漢字表」(昭和五六年)、「現代仮名遣い」(昭和六一年)及び「外来語の表記」(平成三年)である。

これらの新しい内閣告示・内閣訓令によって実施に移された国語の表記に関する諸施策は、現在政府部内において実行されている。法令や公用文書における表記がそれである。また、その趣旨は、新聞・放送等においても広く受け入れられ、おおむねこれらの諸施策に準拠した表記が行われている。さらに、学校教育では、これらの諸施策に準拠した指導が行われている。

法令、公用文書をはじめとする公共的な伝達の場で相互の伝達や理解を円滑にするためには、分かりやすく通じやすい文章を書くことが必要であり、そのための漢字使用の「目安」、送り仮名の付け方や仮名遣い等の「よりどころ」を定めるという国語施策の趣旨は、それらの「目安」「よりどころ」が緩やかで弾力的な性格のものであることとあいまって、広範な支持を得るとともに広く普及しているものと認められる。

二 国語施策の観点

国語は永い歴史の中で形成されてきた大きな存在であり、一国の文化の基礎を成すものである。また、それは、文化の伝承や創造に密接にかかわるものであるから、国語の伝統を重んずるとともに、将来を見通しながら、関係省庁等と密接に連携を図りつつ積極的に諸施策を推進していくことは極めて大切なことである。

従来の国語施策は主として表記に関する事項について立案、実施されてきたが、これからは、表記の問題だけでなく、話し言葉、敬語、共通語と方言のような言葉遣いに関すること、さらには、情報化への対応に関すること、国際社会への対応に関すること、国語の教育と研究に関することなど、広い視野に立つて国語の問題全般を取り上げていくことが必要であろう。

また、従来も十分考慮されてきたことであるが、国語の問題を取り上げて何らかの目安又はよりどころ、あるいは指針を設ける場合には、それを適用すべき分野についての考慮、どのような形で適用することが望ましいかということについての国民的な合意が必要である。従来の、表記についての施策は、「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活」という公共性の高い領域を対象とするものとして実施されてきたが、反面、「科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」ということを基本的な方針としてきた。こうした取扱いの中で、それぞれの分野の必要に応じた適切な表記が行われることは、国語にとって、また、我が国の文化にとって望ましい在り方だと思われるが、このような観点は、表記以外の問題を取り上げる場合にも慎重に考慮されなくてはならないであろう。

三 社会状況の変化と国語

現代の社会では価値観の多様化ということが一つの特色をなしているが、国語の問題、言葉の問題を扱う場合にも、いろいろな見方が存在することを前提とし、多面的な考察を加えなければならない。また、言葉の変化は社会状況の変化とそれに伴う人々の言語意識の変化に応ずるものであるので、現代の国語の問題を考える場合には、それらの状況への十分な認識が必要である。

国語をめぐる現代の社会状況の変化は近年特に著しいものがある。いわゆる情報化、国際化の進展は人々の予想を超える速さで進んでいる。情報機器の発達と国際的な通信手段の拡大は言語生活にかつてなかったような新生面を開きつつある。ワープロ、パソコン、ファクシミリ等の使用は日常化している。現在はまだ研究・開発の途中にあるが、コンピュータへの言語の入力を音声で行ういわゆる音声入力、機械による自動翻訳、文字の自動読み取り等の技術も広く実用化されるようになると思われる。これらの技術の発達が日常の生活に様々な利便をもたらすことが予想されるが、反面、機械によって言葉が規制されたり画一化されたりする傾向の強まることも考えられる。文字印刷の分野においても、従来の活字による組版は、活字によらないコンピュータを駆使する組版方式に取って代わられている。これに伴い、多様な用途に応じた漢字の字種・字体の整備や情報処理上の互換性の確保等、新しい問題も生じている。

新聞・雑誌等の出版物、テレビ・ラジオ等の放送、各種の広告など、様々な媒体が人々の言語生活に及ぼしている影響の大きさについては言うまでもない。特にテレビの影響で、いわゆる共通語は全国に通用する言葉として広く普及した。地域で使われる言葉である方言はこれと併存しているが、共通語の影響を受けながら方言自体の変化もまた進行している。文字から映像への好みの変化、若い世代の活字離れの傾向も指摘されている。

人間関係と言葉の在り方については、いわゆる言葉の乱れや敬語の問題がしばしば論じられている。現代生活の急速な変化が新語、流行語、外来語、外国語、専門用語等の洪水をもたらすと同時に、世代間の言葉の差を広げている。もちろん若い世代にはその世代特有の新しい文化が生まれつつあるとして積極面をそこに認めることもできる。また、言葉の使用は場面に依存するものであり、改まった場面と私的な場面とのけじめがわきまえられていれば、そこに問題は生じないと思われる。しかし、そのけじめについての認識を欠いたり、あるいはそれが忘れられたりする場合には、言葉の基本である伝達機能の阻害、ひいては人間関係の阻害につながるおそれもないとは言えない。高齢化社会の到来も確実であるが、それも国語の問題に何らかの影響をもたらすものと考えられる。

また、我が国の国際的役割の増大や諸外国との国際交流の進展に伴い、諸外国の人々の日本語に対する関心が高まっており、内外における外国人の日本語学習者の数も急速に増加している。それとともにその学習の動機や目的も多様化してきている。日本語を母語としない人々との接触・交際の機会は日常的なものとなりつつある。外国人の日本語学習を支援し、効果的な学習を可能にするような日本語教育上の積極的な対策を講じるなど、日本語の国際的な広がりに対応するための努力が必要になっている。一方、日本語の中での外国語の過度の使用については何らかの歯止めが必要であるとする声も上がっている。しかし、総じて言えば、国際社会への対応は我々自身に国語の在り方を考えさせる良い契機にもなり得るものである。

以上のように、現代の社会状況の変化は、国語や人々の言語生活・言語意識に様々な影響を及ぼしている。国語は、国民の生活と意識の共同の紐帯としてこの上なく大切なものであると同時に、日本及び日本人を国際的に理解させ国際的な友好を深める手段としてこの上なく重要なものである。平明、的確で、美しく、豊かな言葉を目指し、国語を愛護する精神を養うことが、今日ほど望まれるときはないと言ってよい。その意味で、国語の教育を更に振興していくこととともに、できるだけ多くの国民が言葉について関心を持つこと、日常の生活の中で言葉について話し合う機会を広げていくことが大切であろう。

第二 現代の国語をめぐる諸問題

本審議会の審議を通じて、多方面にわたり数多くの意見が出された。その中で、今後対応していく必要があるとして、また、将来的な検討課題として、比較的議論が集中した問題は次のとおりである。

一 言葉遣いに関すること

(一) 適切な言葉遣い

国語の表現は、平明、的確で、美しく、豊かなものであることが望ましい。目的と場合に応じた適切な言葉遣いや文章表現の在り方、いわゆる言葉の乱れやゆれなどの問題、発音上の諸問題等について検討する必要があるのではないか。

(二) 放送等の媒体の言葉遣い

言語の習得、言葉の学習は人間形成の基本を成すものであり、良い言語環境を用意することは家庭、学校、社会のいずれにおいても極めて大切である。特に現代では、話し言葉については幼児期からテレビ等を通じて大きな影響を受けるので、放送等の媒体において、今後とも美しく豊かで魅力に富んだ言葉遣いへの配慮が望まれる。

(三) 敬語

敬語は、国語の中で非常に大切な働きをしているものであり、人間関係を円滑に進めていく上でもなくてはならないものである。今日の現実に即した敬語の在り方について、話し言葉・書き言葉の両面から検討する必要があるのではないか。

(四) 方言

現在、共通語は広く一般社会に普及していると認められるが、方言は地域の文化を伝え、地域の豊かな人間関係を担うものであり、それぞれの地域に伝わる豊かな表現を生活の中で生かしていくことは、言語文化の活性化にもつながるものである。共通語とともに方言も尊重することが望まれる。

二 情報化への対応に関すること

(一) 情報機器の発達とこれからの国語の能力の在り方

ワープロ等の情報機器の発達に伴って、文字の使用をめぐる社会状況は大きく変化しつつある。そのような状況下で求められるこれからの国語の能力の在り方について検討する必要があるのではないか。特に、書記能力、文章表現力、思考力にどのような影響が及ぶのか、十分考えておくべきである。

また、仮名漢字変換方式の普及によって、漢字を用いることは容易になりつつあるが、それに伴って漢字を読む能力の重要性はむしろ増大することが予想される。漢字を読む能力の伸長を図るために、振り仮名の活用等について社会一般の配慮が望まれる。

(二) ワープロ等における漢字や辞書(ワープロソフト)の問題

ワープロ等に使われる漢字の字体について混乱が見られるので、各方面に及ぼす影響を考慮に入れながら、ある程度共通的なものさしに従って整理・統一することを検討する必要があるのではないか。

また、使用者の使用目的の多様化に伴い、それぞれの用途に応じた多様な辞書の研究開発を急ぐことが望まれる。

三 国際社会への対応に関すること

(一) 国際社会における日本語の在り方

日本語が日本人のものだけではなくなってきている現在、日本語の国際的な広がりへの対応、日本語による外国人との意思疎通の在り方等について検討する必要があるのではないか。

また、外来語の増加や日本語の中での外国語の過度の使用の問題についても検討する必要があるのではないか。

(二) 日本語教育の推進

日本語教育に対する需要の増大と多様化に伴い、指導内容、教材、指導方法等の研究開発、各種情報機器の活用、優れた指導者の養成等を積極的に進めるべきである。

(三) 官公庁等の新奇な片仮名語の使用

外来語・外国語の使用が避けられない場合のあることは言うまでもないが、官公庁等においては、その公的、公共的性格から言って、平明で的確な国語の使用に努めるべきであって、新奇な片仮名語を使用すること等については十分慎重であることが望まれる。

四 国語の教育・研究に関すること

(一) 国語教育の重要性

国語は、教育の全体を貫く基本を成すものであり、国語教育の重要性について教育関係者をはじめ国民全体が認識を深める必要がある。学校教育のほか、社会や家庭の教育的な役割も重視すべきである。

また、学校教育においては、国語の全般にわたる教育が、国語科はもとより教育活動全体の中で十分に行われるよう努める必要がある。

(二) 思考力・表現力の涵養と音声言語の重視

自分の考えをまとめ、適切に表現し、人の意見を相手の立場に立って理解することは、社会生活を送る上で極めて大切である。そういう基礎的な能力を身に付けるために、社会生活のあらゆる機会を通じて、自分としてのものの見方や考え方ができるような能力や態度を培うとともに、話すことや聞くことの教育を一層充実させるべきである。特に、語感や言葉のリズムを体得させるため、音読や朗読、話し言葉等の指導方法を一層工夫する必要がある。

(三) 国語研究の振興

国語研究はそれ自体重要な価値を有するとともに、国語施策の立案や国語教育の基礎としても重要であり、一層の振興を図る必要がある。特に、国立国語研究所は我が国の国語研究の中核を成す機関であり、一層の整備・充実を図るべきである。

(四) 国語の大辞典の編集

言葉は時代とともに移り変わるものだが、それぞれの時代ごとの十分な用例を収録した国語の大辞典を編集することは、国語の歴史を明らかにし、国語の伝統を継承し、明確な国語を保持するために極めて有意義である。また、言葉の来歴や用法を知ることによって言葉を大切にする心を養い、国民の国語に対する意識を高めることにもつながるものである。現在、国立国語研究所で編集の準備作業が行われているが、このような事業を更に積極的に進めるべきである。

五 表記に関すること

(一) 目安・よりどころの趣旨と個人の表記

「常用漢字表」「現代仮名遣い」「送り仮名の付け方」等は、現代の国語を書き表す場合の目安又はよりどころとして定められたものであって、各種の専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではなく、過去に行われた表記を否定するものでもないという緩やかな性格のものである。このような性格の「常用漢字表」等が、報道機関等での基準として厳格に取り扱われ、個人としての執筆者の表記や文章表現を窮屈なものにする傾きもないではないので、目安・よりどころの趣旨が生かされるような柔軟な取扱いをすることが望まれる。

(二) 交ぜ書き

「補てん」「ばん回」「伴りょ」のように、漢語の一部を仮名書きにするいわゆる交ぜ書きは、読み取りにくかったり、語の意味を把握しにくくさせたりする場合もあるので、言い換えなどの工夫をすることや、必要に応じて振り仮名を用いて漢字で書くなどの配慮をすることについて検討する必要があるのではないか。

(三) その他

縦書き・横書きなど文章形式に関する問題、句読法に関する問題、ローマ字のつづり方、ローマ字による姓名の書き方、辞書の見出しなどの語の配列順、漢字の配列順等について検討する必要があるのではないか。

なお、現行の「常用漢字表」「現代仮名遣い」等は、戦後の国語施策の見直しの結果として作成、実施されてきたものであるが、これらの内容等についても、将来、現実と合わない点や見直すべき点が生じた場合には、慎重に検討する必要があるのではないか。

 

 

 

 

-- 登録:平成21年以前 --