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医療機関等におけるエイズウイルス感染の予防について

国政第五三号

平成元年六月二二日
文部省大臣官房人事課長・各国立学校長・各国立大学共同利用機関長・大学入試センター所長・文部省各施設等機関長・日本学士院長あて
文部省大臣官房総務審議官通知

医療機関等におけるエイズウイルス感染の予防について

このことについて、人事院事務総局職員局長から別紙のとおり通知がありましたので、お知らせします。

ついては、貴機関におかれましてもエイズウイルスの二次感染防止について、周知徹底を図られるようお願いします。

別紙

職福―二三〇

平成元年五月一五日

文部省大臣官房長 殿

人事院事務総局職員局長

医療機関等におけるエイズウイルス感染の予防について

我が国のエイズ対策は、「エイズ問題総合対策大綱」に基づき、エイズウイルスに感染している者等の適確な把握に務め、二次感染の防止に万全を期すこととされております。

後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(平成元年法律第二号、平成元年二月一七日施行)では、医師がエイズ感染者等であると診断した場合には都道府県知事に報告することとなつたため、医師に最新の正確な診断技術等が求められることとなりました。厚生省では同法律の円滑な運用を図るために、エイズに関する最新の医学的知見に基づいた「HIV医療機関内感染予防対策指針」を作成し、医師等関係者に周知徹底を図ることとしています。

ついては、ご参考までに同指針を送付しますので、貴職におかれましても所管する医療施設等の実情の把握に努め、その趣旨の徹底を図られるよう、関係者への一層の周知方よろしくお取り計らいください。

以上

HIV医療機関内感染予防対策指針

(厚生省)

目次

はじめに

[Roman1 ] HIV感染予防のための基本的事項

一 医療従事者の心構え

二 医療行為によるHIV感染の危険性

三 感染予防対策委員会の設置

四 医療機関内勤務職員の教育

五 感染予防対策の原則

(一) 検査の実施について

(二) 検査結果の告知について

(三) 検体等の取扱いについて

(四) 秘密の保持について

(五) 個室収容について

(六) HIV感染者の保健指導について

六 感染予防のための共通的事項

(一) 器具の扱い

(二) 注射針の扱い

(三) 着衣

(四) 汚物処理

七 滅菌・消毒

八 事故時の対応

九 HIVに感染している職員への対応

[Roman2 ] 医療機関内各部門における感染予防対策

一 手術室

二 検査室

三 内視鏡検査

四 病理

五 歯科

六 看護

七 その他

(一) 医療機関内清掃

(二) 廃棄物処理

(三) 洗濯

(資料一) 感染成立の原則

(資料二) 「手術室における感染予防対策」抜粋

第二三回全国国立大学病院手術部協議会常任幹事会教育カリキュラム検討会

(資料三) 剖検室の設備について

(資料四) 医療廃棄物に関する通知(抜すい)

参考資料

一 エイズ予防法の施行について

二 AIDS診断基準

はじめに

HIV感染症は世界中で増え続けており、我が国でも年々増加している。

一方医療の現場においては、HIVの感染力についての認識が必ずしも十分でなく、また、具体的な対応方法についても周知されているとは言い難い状況にある。

この「HIV医療機関内感染予防対策指針」は、医療機関におけるHIV感染予防上必要な事項について、取りまとめたものである。

本指針がHIV感染をめぐる医療の円滑な実施に資することを期待したい。

なお、本指針は、HIV感染について現時点の知識に基づいて定めたものであり、学問の進歩に応じて改訂する必要があることを付言する。

[Roman1 ] HIV感染予防のための基本的事項

一 医療従事者の心構え

HIV感染者であるという理由だけで医療関係者が診療を拒否したり、消極的になることがあつてはならない。

診療を求める者に対して診療に応ずること、その過程でより専門的な医療を要すると判断した場合には、適切な医療機関を紹介するといつた対応を行うべきことは、他の疾病の場合と全く同様である。

HIVの感染経路はすでに明らかにされており、慎重に感染予防の処置を施すことにより、医療現場における医療従事者の感染のリスクを回避できることを、全ての関係者が十分に理解することが不可欠である。

感染予防のための具体的なガイドラインが周知され、HIV感染者の医療現場での円滑な受入れが図られるよう、全ての医療従事者が真剣に取り組むことが必要である。

二 医療行為によるHIV感染の危険性

我が国では未だ医療行為に伴うHIV感染例は報告されていない。一九七〇年代初期の我が国でB型肝炎ウイルスの医療機関内感染が一年間に血液透析従事者の二五%~四四%、他の医療従事者で五%も発生した事態と比較して雲泥の差である。

米国においては、未だ医療行為による感染でAIDSが発症した報告はない。しかし、医療従事者が職務上の不注意でHIVに感染する可能性は低いとはいえ、決してゼロではなく、職務にあたつて患者の血液や体液に接触したことにより抗体陽性となつた医療従事者は、現在までに15例報告されている。これらのうちの大部分は、針刺し事故である。

米国国立衛生研究所(NIH)、英国及びカナダの研究結果によれば、針刺し事故によりHIV感染の危険性は、全ての針刺し事故のおよそ〇・五%程度であり、B型肝炎ウイルスに比べはるかに低く一〇分の一以下である。

皮膚や粘膜が汚染されることは針刺し事故よりも多いと考えられるが、HIV感染の可能性はその物理的なバリアー作用、また血液中に入りにくいことを考えれば、針刺し事故よりもさらに低いと考えられる。

三 感染予防対策委員会の設置

医療機関は、HIV感染のみならず様々な感染症の患者や免疫機能の低下した患者が集まり、また観血的治療により血液などを介する病原体に暴露される可能性があるなど、相互に感染を起こしうる環境下にある。このようなことから、医療機関においてはその医療の水準を適切に維持するために、各医療機関の責任において従事者や患者への医療機関内感染の危険性を最小限にする対策を行う必要がある。このためには、従事する職員が感染予防のための正しい知識を持ち、感染を防止する行動を身につけ、かつ医療機関全体として組織的な対策が実施されなくてはならない。

医療機関が一体的に医療機関内感染予防対策を推進していくために、各医療機関の実情に即した感染予防対策委員会(以下「委員会」と称する。)を設置することが望ましい。

委員会は次の各事項を取り扱うことが適当である。

(一) 各職種、各職場ごとの予防対策に関すること。

(二) 予防対策実施の監視と指導に関すること。

(三) 職員の教育に関すること。

(四) 患者及び職員のHIVの検査に関すること。

(五) 感染に関連する事故などに対応した適切な事後処置に関すること。

(六) その他感染予防に関し必要と認められる事項。

委員会の構成については、各医療機関の実情に応じて適当な委員数を持つて構成し、委員長は各医療機関の管理者をあてることが望ましい。

四 医療機関内勤務職員の教育

HIV感染症に対する医療を医療機関として円滑かつ安全に実施して行くためには、医師、歯科医師、看護婦、臨床検査技師等患者に直接接触する従事者はもちろん、直接患者に接触しない薬剤師や衛生検査技師等の医療機関内職員を含めて、HIVとHIV感染症についての必要な教育を実施することが求められている。

HIV感染者との通常の接触では感染することはないため、医療機関受付窓口などにおいて、HIV感染者に対して特別な対応をとる必要はない。

しかし、血液、体液、臓器など患者の検体に接触する職員については、検体が単にHIV感染の原因となる可能性があるのみならず、他の感染症の感染源にもなりうることを認識し、常に最大限の注意を払うよう指導すべきである。

また、観血的医療であるか否かにかかわらず、HIV感染者や、感染の疑われる患者の医療にかかわる者には、その旨が知らされるように配慮するものとする。

なお、HIVに感染しているか、感染の疑われる患者が、下血、吐血、大小便の失禁、行動異常などを伴う場合は介護にあたる者に対しての教育が必要とされる。

五 感染予防対策の原則

感染症、特にHIV感染症、B型肝炎を始めとする血液を介する感染症の医療機関内感染予防にあつては、その病原体の種類を問わず、以下の点が常時励行されていることが必要である。

・ 血液、体液、臓器などは、HIVやB型肝炎ウイルスに限らず未知あるいは検査未実施の病原体を含んでいる可能性が高いので、常に慎重に取り扱う。

・ 診療に従事する者の皮膚、粘膜に傷や病巣のある場合で、直接血液や体液に触れるおそれがある場合には、常にグローブの着用等により接触を避ける。

・ 汚染を最小限にとどめるために、汚染された手指やグローブ又は医療材料等で周囲に触れないよう注意する。

・ 付着した血液、体液等は状況により、即座に洗浄、消毒などの適切な処置を行う。([Roman1 ]―七を参照)。

(一) 検査の実施について

医師が問診の結果等からHIVの検査の必要があると判断したときは、事前にその趣旨を説明し、本人の同意を得たうえで検査を行うべきである。なお意識を喪失した救急患者等のように同意を得られない場合には、医師の判断において行うことも認められる。

なお、患者がHIVの検査の実施について了解しない場合は、感染している可能性があることを前提として対応する。

また、医療に使用される血液、体液、臓器などに関してはその提供者が特定されない場合には、HIVの検査を実施し、提供者が明らかな場合には、提供者本人の了解を得たうえでHIVの検査を実施すべきである。

(2) 検査結果の告知について

二次感染予防の観点から、検査結果については、本人に対して告知することを原則とする。

ただし、告知は、医師が陽性者の心理状態等を十分配慮して慎重に行うことが必要である。

また、陽性者の家族に対する告知は、陽性者本人の承諾を得て行うこととする。

告知の有無にかかわらず、医師は二次感染予防の観点から、日常生活での注意事項の徹底を図るとともに、陽性者本人を通じて、性的接触者等が速やかに医療機関を受診し、相談、検査を受けるよう指導する。

(三) 検体等の取扱いについて

HIVに感染しているか、感染の疑われる患者の血液、体液、臓器などや、それらに汚染された物を入れた容器には、原則として標識を付けて関係者に注意を促すこととする。なお、標識を付ける場合には、危険な病原微生物が含まれていることを示す標識を付けることとし、HIV感染のみを示すような標識を付けるべきではない。標識の方法等については感染予防対策委員会で検討するものとする。

なお、標識のない検体でも他の病原体に汚染されている可能性があり、慎重に取り扱う必要があることは言うまでもない。

(四) 秘密の保持について

医療従事者が受診者に関する秘密の保持に留意することは当然のことであるが、HIV感染については、特に細心の注意を払い、次のような点に留意すべきである。

[cir1 ] 患者に対する指示、指導、連絡等は医師が直接本人に伝える。

[cir2 ] 患者本人以外の者からの電話等による患者に関する問い合わせには一切対応しない。

[cir3 ] 患者の病状等に係る証明書等の交付は、原則として患者本人以外の者に対しては行わない。

(五) 個室収容について

通常の接触ではHIVの感染は起こらないため、他の患者への二次感染防止という観点からは、HIV感染者を隔離する必要はない。

しかし、免疫機能の低下の兆候が明らかな病態の場合は、他の患者や外来者からの病原体による感染予防等、HIV感染者に対する医療上の必要性という観点から、個室へ収容する必要性が高い。また、大小便の失禁、中枢神経系の疾患による行動異常などの症状が重く、身辺を清潔に保ち難い患者についても、必要に応じて個室に収容する。

(六) HIV感染者の保健指導について

HIV感染者の日常生活上の保健指導については、以下のようなことに留意する。

[cir1 ] 血液、分泌物が付着した物は、石鹸を用いて流水でよく洗い流す。洗浄が充分にできない物は、焼却することが望ましく、ゴミ集積場所に出す場合はビニール袋等でしつかり包む。

[cir2 ] 傷や月経時の出血は、なるべく自分で処理する。

[cir3 ] カミソリ、歯ブラシ、タオル等の血液のつきやすい日用品は、他の人と共有しない。

[cir4 ] 乳幼児に口移しに食物を与えない。

[cir5 ] 排尿、排便後には、石鹸を用いて流水でよく手を洗う。

[cir6 ] 食器は専用とする必要はない。

[cir7 ] 性生活では、相手への感染防止のために体液が直接触れないように注意すること。コンドームの使用は感染の予防に有効である。

[cir8 ] 妊娠する可能性のある女性である場合は、母子感染の可能性等について理解が必要と考えられるので、あらかじめ医師への相談を勧める。

[cir9 ] 健康管理上、医療機関での定期的な受診を勧める。

六 感染予防のための共通的事項

(一) 器具の扱い

器具類の清潔を保つよう心がけ、できるものはディスボーザブルとするか感染者専用とする。器具類の取扱いには十分注意し、破損やそれによる汚染により、取扱者や後処理を担当する者の汚染や刺傷などの傷害が起こらないよう配慮する。

(二) 注射針の扱い

針刺し事故の大部分は、リキャップの際に発生している。このため、最近は、リキャップをしない方法が一般的になりつつある。

リキャップをしない場合は、注射器ごとに所定の缶に入れ、オートクレーブで滅菌後処理をする。動脈採血等リキャップを必要とする場合、キャップスタンドなどを用いて、危険を避ける工夫をすること。

(三) 着衣

HIV感染者の診療や汚物処理、汚染器具の取扱いは、必要に応じ、予防衣、マスク、ゴーグル、グローブ(ラテックスあるいは手術用手袋)、長靴などを着用する。外傷等がある場合は、特にその部分を防水性の物で注意深く保護し、汚染しないよう配慮する。汚物、体液、排せつ物などを取り扱う場合は、グローブなどを使用すること。

(四) 汚物処理

汚物は二重の袋に入れ、抱きかかえずにぶら下げて運搬する。また医療器具、ガラス破片など鋭利なものは医療廃棄缶などに入れ、ただちに搬送し焼却する。ただちに焼却できない場合は、消毒後所定の場所に保管し、できるだけ早期に焼却する。

なお、関係者に注意を促すための標識を付けることについては、[Roman1 ]―五(三)を参照されたい。

七 滅菌・消毒

(一) 一般的事項

これまでの実験によると、HIVは現在日常診療の場において用いられている消毒薬の指定濃度よりも、はるかに低い濃度でかつ短時間で不活化されることが知られてきた。

このため、日常生活においてHIVに感染することは、ほとんどないが、医療機関内では、通常の場合よりもさらに厳密な感染予防対策が求められており、HIVよりも感染力の強い病原体の混入も考えた滅菌、消毒を行う必要がある。

また、汚染物質の材質や形状、汚染状態によつては、消毒時間を長くした方が良い場合もあるので、このような視点から、WHOではHIVの不活化実験で得られた結果よりもかなり厳しい消毒条件を示している。

現在のところ、日本ではHIVより感染力価が高く、感染者の多いB型肝炎ウイルスに対する滅菌消毒に準ずることにより、安全を期することができると考えられる。

(二) B型肝炎ウイルスの滅菌・消毒法*一

[cir1 ] 加熱殺菌

流水により十分に洗浄したのち、一般の病原性菌の消毒法として用いられている次の方法により完全に滅菌される。

ア オートクレーブ

イ 乾熱滅菌

ウ 煮沸消毒(一五分以上)

[cir2 ] 薬物消毒

薬物消毒のうち、HBウイルスに対しての疫学的検討から有効性が確認され、また最も広く用いられているものは塩素系消毒剤である。しかし、金属材料に対しては、本剤に腐蝕作用があるため、非塩素系消毒剤を用いる。なお、消毒する対象物が蛋白質でおおわれている場合には、薬物により蛋白質が凝固し薬物の効果が不十分となりやすいので、作用時間を長くすることが必要である。いずれにしても、使用後すみやかに十分に洗浄した後に、薬物消毒することが望ましい。

ア 塩素系消毒剤

次亜塩素酸剤

有効塩素濃度 一、〇〇〇ppm*二

消毒時間 一時間

イ 非塩素系消毒剤

(ア) 二%グルタールアルデヒト液

(イ) エチレンオキサイドガス

(ウ) ホルムアルデヒド(ホルマリン)ガス

*一 改訂 B型肝炎医療機関内感染対策ガイドラインより抜粋

*二 WHOが示したHIVの消毒法では、次亜塩素酸ナトリウムの濃度を〇・五%としているが、B型肝炎医療機関内感染対策ガイドラインでは、実用性についても考慮し、一、〇〇〇ppm(〇・一%)で十分としている。

(三) HIVの不活化実験等に基づくデータ及びWHOが示した消毒法


  

HIVの不活化実験に基づくデータ

WHOが示した消毒法

オートクレーブ(滅菌)

121℃、20分(藤本等)*1

121℃20分

煮沸

10分(藤本等)

20分

次亜塩素酸ナトリウム

100ppm、30分(藤本等)

52.5ppm(Martin等)*2

0.5%、10分~30分

グルタールアルデヒド

2%、15分(藤本等)

2%、10分~30分

ホルマリン水

1%、20分、37℃(藤本等)

0.5%

5%、10分~30分

イソプロピルアルコール

50%、5分(藤本等)

35%(Marlin等)

エタノール

80%、5分(藤本等)

50%(Marlin等)

70%、10分~30分

紫外線(5×103j/m2)

放射線(2×105rad)

不活化されない(Spirre等)*3

*1 北里大学藤本進客員教授等が、試験管内で不活化実験を行つた結果に基づいて示したHIVの滅菌、消毒条件。

*2 Martin I. S. 等がHIV(105)に対し、室温21~25℃、2~10分、通常の消毒条件で行つた不活化実験の結果。

*3 Spirre等の実験結果、Ianccl、26、188~189、1985

(四) 消毒法の実際

現場において、滅菌、消毒の方法を選択する場合は、まず、目的が滅菌なのか、消毒なのかを整理する必要がある。

その上で、汚染を広げないために最も適当な方法をその都度考え、具体的な方法を決定するとよい。

滅菌が目的である場合は、オートクレープを使用するが、使用できない場合には条件の厳しい消毒法を行う。

消毒が目的である場合は、汚染物の材質や形状、汚染状態によつて消毒法を選択するとともに、十分な水で洗い流すことが、最も簡便で効果の高い消毒法であることも忘れてはならない。

[cir1 ] 手指等の消毒

常に清潔を保つよう心がける。感染者の血液や体液で汚染された場合、十分に水で洗浄することはHIVの濃度を下げ感染予防に役立つが、塩素系消毒剤やエタノール*一等による消毒と水による洗浄を併用することは、より有効な手段である。

[cir2 ] 口腔、眼の消毒

眼などに血液等が飛んだ時には、ポリビニールアルコールヨウ素剤による消毒と、多量の水による洗浄を行う。

ポリビニールアルコールヨウ素剤による点眼消毒剤は、精製水又は食塩水で四~八倍に希釈して使用する。

ポリエチレン製容器を使用すると効力が減少するのでポリプロピレン製容器に入れて、希釈後は冷暗所(冷蔵庫)に保管する。

口腔粘膜などへの使用は、ポリビニールピロリドンヨウ素剤がある。ヨウ素剤の使用後、中和の必要がある場合は亜硫酸水素ナトリウム液(一~二%)を用いる。

[cir3 ] 汚染器具の処理

容器に入れてオートクレープで通常の操作を行えば滅菌ができる。

*一 エタノールはHIVには有効であるが、B型肝炎ウイルスの消毒には適切でない。

再使用する物については、器具の損傷を防ぐために水で十分洗浄した後、オートクレープで滅菌する。

また、エチレンオキサイドガス滅菌器による処理も有効である。

消毒法としては、次亜塩素酸ナトリウム液、エタノール等に一定時間漬けるか煮沸する。

グルタールアルデヒドも器具の消毒に用いるが、人体には使用できず、また、蓋つきの容器を使用するなど蒸気を吸い込まないようにする必要がある。

[cir4 ] 室内備品等

次亜塩素酸ナトリウム液やエタノール等をガーゼや脱脂綿に十分含ませたもので清拭する。

環境の消毒用にはヨードホルム液がある。

[cir5 ] リネン類

硫酸紙袋等に入れオートクレープするか、次亜塩素酸ナトリウム液に浸す。その後、通常の方法で洗濯する。

また、エチレンオキサイドガスも有効である。

さらに、汚染が激しい時には焼却する。

HIVに対する消毒法の基準については流動的なところも多々あり、今後の実態調査等の結果を踏まえ改訂されるものと考えられる。

八 事故時の対応

医療機関は針刺し事故等の発生時の対応をあらかじめ定めておく。

針刺し事故等HIV感染の可能性のある事故等が発生した場合には、

(一) 直ちに血液をしぼり出し、創口を消毒する。([Roman1 ]―七を参照)

(二) 感染予防対策委員会に報告するとともに、事故者のHIV抗体検査を事故直後、一、三、六ケ月後及び一年後に実施し、経過を観察する。

(三) 事故者は、HIV感染について不安を持つことが多いので、事故によるHIVの抗体陽性化についての正確な情報を提供するとともに、必要なカウンセリングを行う。

また、当該事故発生時には原因の究明と再発の防止に努めるとともに、当該者のプライバシーの保護と必要に応じた健康管理が実施されるように十分配慮する。

九 HIVに感染している職員への対応

HIVは通常の日常生活では感染の可能性はないため、感染職員本人にとつて業務に支障のある症状が無い限り、通常の業務に従事することは差し支えない。しかし、必要に応じて、適切な指導を行うとともに、従事する業務の範囲など、業務上の指導を行うものとする。

[Roman2 ] 医療機関内各部門における感染予防対策

一 手術室

手術室における感染予防対策については、B型肝炎その他感染症患者取扱いの時と同様に、関係職員の汚染防止と汚染を拡大させないように配慮すればよい。具体的な方法としては、第二三回全国国立大学病院手術部協議会常任理事会の教育カリキュラム検討部会が策定したガイドラインがあるので、参考にされたい。(資料二)

二 検査室

検体の取扱い時は、ディスポーザブルのグローブを使用し、特に飛沫の発生しやすい操作を行う時は、予防衣、眼鏡、マスクを使用する。

検査後の検体は、保存が必要なものはロックできる冷蔵庫か冷凍庫に保管する。不要な検体はオートクレーブで滅菌後、廃棄する。

器具類や予防衣、マスクなどは、可能な限りディスポーザブルとして、オートクレーブで滅菌後、焼却炉に搬送する。

再使用するものは、オートクレーブで滅菌して再生作業部門にまわし、オートクレーブで滅菌できないものは、洗浄、消毒を行うこととする。なお、消毒については器具や機材の材質、汚れの程度により消毒法を選択する([Roman1 ]―七を参照)。

分析器械の使用後は、次亜塩素酸ナトリウム液で数回洗浄し、そのあと蒸留水を通して機器の損傷を防ぐ。

床、テーブルが汚染された場合、次亜塩素酸ナトリウム液等を浸したペーパータオル、時には雑巾などで覆い、二〇~三〇分置いてから、拭き取り水洗いする。

三 内視鏡検査

(一) 消火器内視鏡検査の術者、介助者は必ず防護服を着用する。(ガウン、フード付き帽子、グローブ、オーバーシューズ又は長靴、保護帽又は帽子、ゴーグル、ビニール前掛け、綿ソックス)

上部消化管内視鏡を施行する場合は、嘔吐、吐血などを考慮する必要がある。下部消化管内視鏡は、肛門周囲の汚染を来たすことを考慮する。

また、気管支鏡は診断上必要となる場合が少なくないが、術中に患者の咳そうを浴びたり、大出血や気胸などの対応において不測の事態が起こりうるので、防護服、マスク、ゴーグル、グローブなどを使用する。

(二) 機材は出来るだけディスポーザブル製品を使用する。内視鏡については感染者数の多い医療機関では、感染者専用の機器の確保も検討する。

(三) 内視鏡の使用後は、グローブ着用のもとで流水で十分に洗浄し、グルタールアルデヒドに一〇分~二〇分浸して消毒する。これができない物では、エチレンオキサイドガスを用いて消毒する。機材については、材質等により消毒方法を選択する。([Roman1 ]―七参照)

四 病理

(一) 基本原則

[cir1 ] 事前に生・剖検検体の臨床診断及び感染性疾患の有無を明確に把握しておくことは重要である。

[cir2 ] 作業中は注射針、メス等による負傷事故に最大限の注意を払う。一人がメスやはさみを動かしている時に他の人は絶対同時に、同じ部位の作業をしてはならない(負傷の原因となる)。作業中に、替刃等の刃を替えることをしてはならない。前もつて必要数を用意する。手、指、その他を負傷した時には、直ちに次亜塩素ナトリウム等の薬液を用いて十分に洗う。

[cir3 ] 作業中に、血液、体液、臓器切開による飛沫、エアロゾルの発生を防ぐ。鋸は手動のものを用いるのを原則とするが、電動鋸(ストライカー)を使用せざるを得ない時は補助者に濡れタオルで覆つてもらうか、大きなビニール袋で覆いながら使用する。

[cir4 ] 遺体の修復にはテープなどを多用し、針を用いた縫合は最小限にとどめる。

[cir5 ] 事故発生の際には責任者(感染予防対策委員会等)に直ちに報告する。

[cir6 ] 着衣、防具について

皮膚露出部を完全に被覆し、防水性、作業性が損なわれないこと、廃棄もしくは消毒が可能であることを必要とする。そのためには、使い捨ての物が望ましいが、再度使用する際には使用後直ちに消毒が必要となる。

ア 手術用のグローブを二重にし、滑り止めのためにはその上に綿の薄いグローブをつけると滑らず作業しやすい(簡易ビニール手袋は不可)。

イ 眼の防護にはゴーグル(曇り防止のものもある)をつける。眼鏡使用者は、作業終了後眼鏡の消毒を行う。

ウ 下着の上には、ズボンのほか長袖ガウン(防水性でない時にはビニール性アームカバー、常に清潔なものを用いる)をつける。

エ ウの術着の上に防水エプロン(長靴の半分以上が隠れる)をつける。

オ マスク(鼻、口を十分に覆いうる大きさのもの)をつける。

カ 帽子をかぶる。

キ 長靴をはく。下駄を使用してはならない。

作業終了時は、使い捨てにするものと、しないものを別々の防水袋に入れて、オートクレープで滅菌するか、薬液で消毒した後、廃棄、又は洗濯をする。長靴は表面、靴底は薬液で消毒する。なお、薬液につけたものはオートクレープで滅菌する必要はない。

[cir7 ] 防護着衣を着けた執刀者と介助者および遺体や臓器に直接触れない補助者(検体取扱い者、写真撮影者、看護婦等)以外は解剖室に入るべきではない。作業に当たる者以外(臨床医等)は最小限の人数にとどめ、着衣は執刀者に準じたものを用いる。

[cir8 ] 作業区域は、解剖台の周辺のごく限られた範囲にとどめ、むやみに室内全域に汚れたものを置いたり、汚れた手で周囲を触らないようにする。

[cir9 ] 使用注射針は、廃棄用容器に入れるか、薬液ビンに入れる。

[cir10 ] 汚染例の解剖にあたつては、血液、体液等全臓器が汚染源となりうることを忘れてはならない。培養や他の検査の目的のため血液等の液状検体や採取臓器を解剖室から持ち出す時には栓(蓋)付き容器に入れ、その外側を消毒したのち運搬用箱等に入れる。これらの実験室や検査室に持ち込んだ際には、必ず安全キャビネット内で作業を行う。また全ての試験管、運搬用容器には、要注意のための標識を付ける。廃棄する体液や血液はそのまま流さずに、エタノールや次亜塩素酸ナトリウム液あるいはホルマリン等の入つた容器にとり、一定時間後水で希釈して流す。

[cir11 ] 全臓器は、採取後直ちにホルマリン液等の固定液に漬け、ホルマリンが充分浸透するよう一~二週間以上固定し、しかる後に切り出し等の作業を行う。

[cir12 ] グローブ、ガウンをとつた後、手を十分に洗う。

五 歯科

歯科診療においては、抜歯、切開等の外科的処置及び盲のう掻把等の歯周療法処置をはじめとして観血的な処置を行う頻度が高い。したがつて、患者の血液、唾液に接触する機会が多いので、歯科医師をはじめ歯科診療従事者は、常に適切な感染予防対策を行う必要がある。HIVは感染力が弱いので、原則的にはB型肝炎の予防対策に準じるが、感染予防に有効と思われる以下のような方策を示したので参考とされたい。

(一) 予診

通常、HIVの抗体検査を行うことは必ずしも可能ではない。しかしHIVの無症候性キャリアの場合は、本人の申し出がなければHIV感染者であるかどうかは不明である。

したがつて、十分な予診を取ることが感染予防の第一歩であり、HIV感染が疑われた場合は、本人の承諾を得た上で検査を行う。

なお、検査の実施、結果の取扱いについては、[Roman1 ]―五(一)~(四)を参照されたい。

(二) 手指の保護

HIV感染者とわかつている場合、あるいはHIV感染が疑われる場合は、傷の有無にかかわらず、直接口腔内に手指で触れることは避けるべきである。感染予防のためにはすべての処置にグローブを着用することが望ましい。

(三) 顔、眼の保護

エアータービン、スプレーの使用時には顔に血液、唾液の混在した飛沫粒子を浴びることが多く、確実なバキューム操作(切削粉塵吸引装置を用い、診療終了後は水または次亜塩素酸ナトリウム液等を約二リットル吸引し、五分間空吸引する)を行うこと、ゴーグル(眼鏡)、マスクあるいはフェースシールドを着用し、帽子、マスク及びガウン等はディスポーザブルのものを使用することを検討する。

万が一、眼に汚染血液が入つた場合には、ポリビニールアルコールヨウ素剤で消毒することも有効とされている。(ヨード点眼液については[Roman1 ]―七(四)を参照)。

(四) 患者

患者の口腔粘膜を消毒する時は、ポビドンヨード等を使用する。排出物の処理は、スピットンではなく、ティッシュペーパーを入れたビニール袋を使う。エプロンはディスポーザブルのものを使用する。

(五) チエアー及びユニット

HIVに限らず感染症患者専用のユニットが確保されることが望ましい。

血液や唾液の飛沫汚染の恐れのある部分は、ビニールで覆い、プラケットテーブルにはディスポーザブルのシートを使用し、診療後は破棄する。なお、チェアーは消毒液で清拭する。

チェアーに付設した吸引装置のチップはディスポーザブルとする。また、チップをはずす時はその前に吸引装置に十分水を吸引し、吸引管内に血液や唾液が逆流することを防止する。

なお、ディスポーザブルのチップを使うのが不可能な場合は十分に水洗後、オートクレーブで滅菌する。

(六) エンジンの使用

歯科診療中、歯や骨を切削する場合は、できるかぎり低速エンジンを用い、周囲への血液類の飛沫を避ける。また、その際にヘット類は使用後に取りはずしてオートクレープで滅菌できるものを使用することが望ましいが、不可能な場合には消毒を考える。さらに、ヘッド以外の部分はディスポーザブルの(ビニール製など)カバーをし、周囲および床にも使用後に除去できるカバーを準備するとよい。

(七) 麻酔

局所麻酔を行う場合、ディスポーザブルの注射器を用いる。使用後の針の取扱いについては、[Roman1 ]―六(二)を参照。

(八) 印象物

印象物には血液や唾液が付着しているので、作業従事者は全てグローブを着用し、印象物は採得後直ちに流水で水洗いし、二%グルタールアルデヒド液に一〇分間浸す。なお、印象材は、印象表面の荒れ、寸法変化が考えられるので、アルギン酸系印象材よりもラバー系印象材を用いることがよい。

(九) 機材器具

歯科診療の器具は使用後は、グローブ着用のもとで流水で十分洗浄し、オートクレーブ(一二一℃、二kg/m2)で滅菌するか、グルタールアルデヒドに一〇~二〇分浸して消毒する。これらができないものではエチレンオキサイドガスを用いて消毒する。

(一〇) 患者への注意

術後、特に創部から少量の出血などがあり、唾液中に混入するような状態で帰宅する際には、家庭での口腔からの排出物の処理に対し、注意を与えておく。

六 看護

看護では、患者や褥婦の療養上の世話、診療補助等業務のあらゆる場で感染の危険を伴い、看護婦自身が感染の媒体となりうる危険性も持つているので、感染予防に関する正しい知識を持ち、看護者自身が感染しないように、また他の患者や医療現場と直接関係ない者に感染を波及させないように、常に細心の注意が必要である。

(一) HIV感染に対する正しい知識を持ち、不用意に騒いだり、恐怖心によるパニックは避ける。看護婦の精神的安定は周囲に及ぼす影響が大きい。

(二) 医療機関内の感染予防委員会等で、看護におけるHIV感染予防法についてもあらかじめ相談した上で、HIV感染予防についての手引きを整備するなどの対策を講じる。

(三) HIV感染者の医療指導にあたる医師を明確にし、患者一人一人について具体的な指示をうける。また、職員の事故発生時にも指導を受ける。

(四) HIV感染の有無に関係なく、患者と接触するたびに必ず手を洗う。

(五) 注射針による刺傷事故が感染の原因となるので、常にその取扱いには最大限の注意を払う。

(六) 使用物品はできるだけ使い捨てできる物を使用する。使用した物品の処理等は、[Roman1 ]―六、[Roman1 ]―七に従う。

(七) 汚染されたリネン類については、[Roman1 ]―七(四)、[Roman2 ]―七(三)に従う。

(八) 汚染物の処理にあたつては、それを直接、間接的に取り扱つている職員の感染予防とともに、患者のプライバシーの保護についても配慮する。[Roman1 ]―五(三)を参照のこと。

(九) 患者や家族の秘密保持には最大の注意を払い([Roman1 ]―五(四)を参照)、日常生活において他への感染を予防できるよう教育するとともに、精神的ストレスの看護にも留意する。

(一〇) ガウンテクニックについては通常必要がないが、血液などの飛沫をあびる場合は、必要に応じて予防衣、マスク、グローブ、オーバーシューズ、ゴーグル等を着用する。

七 その他

(一) 医療機関内清掃

[cir1 ] 床等の清浄化には、清拭が最も有効である。

ブラシやモップ等を用いて患者看護領域のすべての場所を清拭する。薬剤は環境の構造、材質等により選ぶ。濃い消毒薬は多少なりとも毒性を有するものがほとんどであるから、必ず表示された使用法で行う。

[cir2 ] 患者看護領域では床面、ベッドサイド、テーブル等の水平面は毎日清拭する。

[cir3 ] 患者の血液、汚物の付着等のない他の領域では特別の配慮は無用で、通常の清掃でよい。

[cir4 ] 水濡れの生じる場所ではカーペットを使用してはならない。

[cir5 ] 室内清掃を医療機関が行うか、外注業者が行うかについては、患者の秘密保持(プライバシー保護)を考え、各医療機関で配慮する。

(二) 廃棄物処理

医療機関内勤務職員、患者及び廃棄物取扱い業者の安全、さらには環境を汚染させないためにも廃棄物の処理は適切に行わなければならない。

HIV感染者、B型肝炎ウイルス感染者等の血液、体液の付着した物は、強い感染力を有するB型肝炎ウイルスの基準にあわせて処理を行う。(資料四参照)

(三) 洗濯

汚れたリネン類は多くの微生物の汚染源であり、患者や洗濯を担当する者に感染させる可能性がある。リネン類は、汚染の状況、素材、用途等により、処理方法を決める必要がある。

[cir1 ] 通常の処理

HIV感染の有無にかかわらず、感染症患者に使用したリネン類であつても、熱湯と洗剤による洗濯で洗浄効果が証明されている。医療機関内感染予防上、特に感染の可能性があると思われる場合には、以下のようなことに留意する。

ア 汚染リネン類は周囲を汚染しないよう、少量ずつふりまわさずに扱う。又、胸元に抱えるようにして運搬してはならない。

イ 汚染リネン類は使用した場所で二重の袋に入れて運搬し、又、他のリネン類と混ざらないようにするなど汚染の拡大を防ぐよう努める。

[cir2 ] 汚染の激しい場合の処理

血液、体液等の付着したリネン類は不透過性の袋に入れて搬送し、滅菌あるいは消毒後洗濯する。滅菌、消毒については、[Roman1 ]―(七)を参照する。

[cir3 ] 洗濯担当者の保護

ア 洗濯室では洗濯物の区分をする担当者はガウン、グローブ、マスク等をつける。

イ 洗濯室の換気は最も清潔な場所から最も汚れた場所へ空気が流れるようにする。

[cir4 ] 洗濯の外注

洗濯物を外注する場合には、少なくともリネン類の汚染から、従業員がHIVや肝炎ウイルス等に感染しないように、前もつて十分な感染予防の処理が病院内でなされていなければならない。

(資料1)

感染成立の原則

感染が成立するためには、宿主の抵抗性を上まわる一定量以上のウイルスが、生体のバリアーを乗り越えて生体内に入り、標的細胞にくつつくことが条件となる。一定以上のウイルス量(V)は、感染源中のウイルスの力価(T)と生体に侵入する血液量(または体液量)(Q)とその頻度(F)で決定される。

V=T×Q×F

生体のバリアーとしては、健常な上皮は物理的な保護作用に加えて、強力な殺菌力を備えており、またその直下の体液、血液中には補体系などの自然防衛系が備わつており、免疫の成立によりその防衛機能は増強される。これらの防衛力を上まわるウイルス量が浸入しても、実際に感染が成立する可能性は浸入門戸によつて異なり、ウイルスを含む血液や体液が針によつて経皮的に浸入する場合可能性が一番高く、(この中でも、[cir1 ]静注、[cir2 ]筋肉、皮下注射、[cir3 ]刺傷などの順に高い)正常な皮膚の上に血液や体液が付着する場合などは、汚染時間が短ければ感染の可能性はほとんどない。また、血液以外の体液で汚染される場合は、そのウイルス量が少ないため、感染の可能性は著しく低下する。

WHOによれば、血液以外の体液による感染は、性行為や母乳感染を除き疫学的に認められていないことが報告されている。

HIV感染者の血液中のウイルス量は抗体産生以前、または末期AIDSでは103/mlに達することもあるとされているが、ほとんどの場合、感染力価が102/ml(すなわち、血液を一〇〇倍に薄めたものを1mlまたは1/102mlの血液が生体のバリアーの存在しない細胞培養系で感染を起こす)である。

現在まで文献をもとに整理してみると、感染ウイルス量の低いHIVでも、輸血や血液製剤の頻回注射や、薬物静注常用者の注射針や注射筒の共用で感染が成立するが、針刺し事故で浸入する血液量は1.4μl程度の微量とされており、その場合には、感染力が102前後のHIVでは感染の成立は極めて低く、〇・五%程度と報告されている。

(資料二)

「手術室における感染予防対策」(第二三回全国国立大学病院手術部協議会常任理事会教育カリキュラム検討部会)

(一) 一般的対策

[cir1 ] 関係者に正しい認識のための教育をおこなう。

[cir2 ] 汚染防止に対する一般的注意を厳守する。

[cir3 ] 汚染の拡大を防止する。

[cir4 ] 必要最小限の人数のみが手術に関係する。

[cir5 ] 術前の手術野の剃毛は、最小限とし、できれば脱毛剤を使用する。

[cir6 ] 手術室内の機器は必要最小限とする。

[cir7 ] 手術台その他、必要に応じて防水性のシートで覆う。

[cir8 ] 術者団は、プラスチックエプロンを着用し、眼に対する防護も考慮する。

[cir9 ] 可能な限りディスポーザブル製品を使用する。

[cir10 ] メス、針など鋭利な器具には特に注意する。使用した注射針はキャップをせずに、安全な容器に捨てる。

(二) 汚染物への対策

[cir1 ] 熱、次亜塩素酸ナトリウム、グルタラール(グルタールアルデヒド)、ホルムアルデヒド、エタノール、イソプロパノールなどの処理が感染性不活性化に有効と考えられる。

[cir2 ] 汚染物品の取扱いは、ディスポーザブル手袋(ゴムまたはプラスチック)を着用しておこなう。手袋を着用した安心感から、他の物にふれて汚染を拡大しないよう留意する。

[cir3 ] 使用した手術器械類は、防水性の容器に密閉して、熱または薬剤処理をおこなつた上で、一般的洗浄をおこなう。ウィッシャーステリライザーによる処理または二%グルタラールあるいは有効塩素〇・五%次亜塩素酸ナトリウム三〇分浸漬が有効と考えられる。

[cir4 ] 使用したディスポーザブル製品は、色で明白に区別した防水性の袋に入れて密封し、焼却処理する。メスの替刃、針などは、別途に処理する。

[cir5 ] 吸引びんには、約半量の二%グルタラールあるいは、有効塩素一%次亜塩素酸ナトリウムをあらかじめ入れておく。

[cir6 ] 血液、組織片などで汚染した床、壁、機器などの表面は、ぬぐい取つた上で二%グルタラールあるいは有効塩素一%次亜塩素酸ナトリウムを浸漬する。順序を逆にすることも可とする。

[cir7 ] 再使用する麻酔器具は、熱または薬剤処理する。

[cir8 ] 汚染した皮膚などはすみやかに流水で洗浄し、可能ならば消毒用エタノールで処理する。

[cir9 ] 手術野の汚染は、消毒用エタノールで十分清拭し、手術創は、閉鎖的に被覆する。

[cir10 ] 使用した手術室は、有効塩素〇・一%次亜塩素酸ナトリウムあるいは二%グルタラールで清拭する。この際、いずれも気道、粘膜等に刺激性であることに留意する。

(資料三)

剖検室の設備について

現在の日本には、感染症の解剖に伴つて、作業担当者に感染が波及することを想定して設備が作られている施設はほとんど無い。今後、設備改善の機会がある時には次の点について検討されたい。

[cir1 ] 空調:一般病室や、事務室で用いられているような�かきまわす�空調系、冷暖房機が備え付けられているときには、感染症の解剖に際し全く使用しない方が安全である。基本的には上から新鮮(清浄)な空気が流出し、下方から排気する方式が理想的である。

[cir2 ] 解剖台:遺体を載せるステンレスすのこ(移動式)の下に薬液を貯める槽を作り、使用時には栓をして薬液を張り、使つた器具(はさみ、メス等)を次々に放り込めば汚染の拡大を防ぎうる。

[cir3 ] 排水装置:使用薬液は、水で十分に希釈して流す必要がある。新しい設備が得られる時には、一回の解剖に使用する水、薬液が貯められて、かつ必要により消毒液を投入でき、一般下水道に流しうる基準まで水で希釈できる能力を有する大きさの処理槽を作ることが望ましい。

[cir4 ] 安全キャビネット:いわゆる生物学的安全キャビネット(クラス二レベル)内で生臓器の切り出し、血液を扱えば、メスや針刺、切傷以外の感染機会を激減させることができる。

[cir5 ] その他:

ア 解剖にあたり、汚染物(体液、血液等)を入れるバケツ(あらかじめホルマリン、次亜塩素酸剤等を入れておく)を用意する。

イ 次亜塩素酸ナトリウム液等の消毒液もいくつかの容器に入れ、手指用、臓器用、試料容器用、解剖器具用、床、台等の清拭用などの目的別に分けておく。

ウ オートクレープ用硫酸紙(オートクレープバッグ)を用意する。

エ アルコール綿、ガーゼは大量に用意し数カ所に分けて置く。

(資料四)

医療廃棄物に関する通知(抜すい)

一 昭和六三年度の医療監査及び経営管理指導の実施について(昭和六三年九月一日健政発第五三九号 各都道府県知事宛厚生省健康政策局長通知)

医療関係廃棄物の管理・廃棄

医療施設の廃棄物は、多種多様なものがあり、その性状に即して適切に処理するよう指導すること。

なお、使用済みの注射針については、刺傷や感染の事故を惹起するおそれがあるので、金属缶等の堅牢な容器に密封処理する等事故が発生するおそれのないよう処理を指導すること。

二 医療関係廃棄物の適正処理について

(昭和六二年九月一六日衛環発第一二七号 各都道府県知事・政令市長宛厚生省生活衛生局水道環境部長通知)

今般、昭和六二年八月一一日付け健政発第四二五号をもつて、健康政策局長より医療関係廃棄物の管理・廃棄につき、医療監視の一環として指導を行うように通知されたところであるが、医療関係廃棄物の取扱いについて関係部局の連絡を密にするとともに、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき産業廃棄物又は一般廃棄物として性状に応じた適切な処理が行われるよう、御配慮願いたい。

参考資料

(参考資料一)

エイズ予防法の施行について

エイズ予防法は平成元年二月一七日から施行されましたが、これにより厚生省から医師にお願いする事項は以下のとおりです。

一 HIV感染者であると診断したとき。

(一) (新たに感染者を診断したとき)

[cir1 ] 感染者に対し、伝染防止上必要な指示を行う。

「エイズ診療の手引き」のAIDS感染予防に関する留意点を参照。

[cir2 ]ア 定められた様式に必要事項を記入し都道府県(一一大都市を含む。以下同じ。)の感染症対策を所管する担当課へ提出する。

(対象者)HIV感染者。ただし、血液凝固因子製剤の投与による感染者については報告の必要はありません。

(報告事項)

・感染者の年齢、性別、国籍、感染者と患者の別、診断年月日、診断方法、感染原因、感染地域である。

・感染者の氏名、住所は報告しない。

・一部不明の事項があれば不明としてよい。

(報告方法)郵送、持参のいずれも可。口頭、電話は不可。

(期限)診断してから七日以内に報告する。

(報告の宛先)

・保健所ではなく、県の担当課へ報告する。

・感染者の居住地が医師の居住地と異なるときは、感染者の居住地の県へ報告する。

イ 法律施行前(平成元年二月一六日まで)に既に診断した感染者についても報告する。

(対象者)HIV感染者。ただし、この場合も血液凝固因子製剤の投与による感染者は報告の必要はなく、さらに、これまでに協力医療機関としてエイズサーベイランスに報告された場合についても、報告の必要はありません。

(期限)平成元年三月一六日

(報告事項)、(報告方法)、(報告の宛先)はアに同じ。

(二) (感染者が発病又は死亡したとき)

診断したHIV感染者に発病又は死亡という病状の変化があつたときは、次の報告を行う。

定められた様式に必要事項を記入し都道府県の感染症対策を所管する担当課へ提出する。

(報告事項)

・感染者の年齢、性別、国籍、感染者と患者の別、診断年月日、病状の変化である。

・感染者の氏名、住所は報告しない。

・一部不明の事項があれば不明としてよい。

(期限)病状の変化があつた場合、速やかに。

(対象者)、(報告方法)、(報告の宛先)は一[cir2 ]アに同じ。

二 多数の者に感染させるおそれのあるといつた特別の場合。

(一) 診断した感染者が医師の指示に従わずに、かつ、多数の者に感染させるおそれがあると認めるときは、定められた様式に必要事項を記入し、都道府県の感染症対策を所管する担当課へ親展として提出する。

(対象者)医師の指示に従わない感染者であつて、

[cir1 ] 多数の者を相手に感染防止の方法を講じないで性交渉を常習的に行つており、さらに行うおそれがある者

[cir2 ] 注射針、注射筒を共用した静脈注射による薬物の乱用を常習的に行つており、さらに行うおそれがある者

であること。

(通報事項)感染者の氏名、居住地、年齢、性別、国籍、感染者と患者の別、診断年月日、感染原因、指示に従わずかつ多数の者に感染させるおそれがあると認めた理由

(通報方法)都道府県の感染症対策を所管する担当課あて親展で郵送する。

(期限)速やかに。

(通報の宛先)一(一)[cir2 ]アに同じ。

(二) 診断した感染者の感染源とみられる者がさらに多数の者に感染させるおそれがあると認めるときは、定められた様式に必要事項を記入し、都道府県の感染症対策を所管する担当課へ親展として提出する。

(対象者)診断した感染者の感染源とみられる者が二(一)の[cir1 ]又は[cir2 ]に該当すること

(通報事項)感染者の年齢、性別、国籍、感染者と患者の別、診断年月日、感染原因、感染源と認められるものがさらに多数の者に感染させるおそれがあると認めた理由

(通報方法)、(期限)、(通報の宛先)は(一)に同じ。

以上が、法律の施行に伴つて行うべき報告である。

報告等の用紙は、各都道府県の感染症対策担当課へ請求して下さい。

(参考資料二)

AIDS診断基準

エイズ予防法では、臨床的AIDS、AIDS関連症候群(ARC)、無症候性キャリアのすべてをHIV感染者と定義し、その報告を求めています。

厚生省のエイズサーベイランス委員会で米国CDCの診断基準をもとに、臨床的AIDS診断基準を以下のとおり定めています。

一 HIVの抗体検査が陽性の場合

酵素抗体法(ELISA)又はゼラチン粒子凝集法(PA)といつたHIVの抗体スクリーニング検査法の結果が陽性で、かつ蛍光抗体法(IFA)又は Western Blot 法といつた確認検査法の結果も陽性であつた場合であつて、次の特徴的症状(Indicator Diseases)の一つ以上が明らかに認められるときはAIDSと診断する。

なお、生後一五カ月未満の児については、児のHIVの抗体確認検査が陽性で、母親がHIVに感染している場合で、かつ児がリンパ球数の減少、ヘルパーT細胞の減少、ヘルパーT細胞/サブレッサーT細胞(CD4/CD8)比の減少といつた免疫学的検査所見のいずれかを有する場合に、AIDSと診断する。

(特徴的症状)

一 カンジダ症(食道、気管、気管支又は肺)

二 クリプトコッカス症(肺以外)

三 クリプトスポリジウム症(一カ月以上続く下痢を伴つたもの)

四 サイトメガロウイルス感染症(生後一カ月以上で、肝、膵、リンパ節以外)

五 単純ヘルペスウイルス感染症(一カ月以上継続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの又は生後一か月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの)

六 カボジ肉腫(年齢を問わず)

七 原発性脳リンパ腫(年齢を問わず)

八 リンパ性問質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PIHcomplex(一三歳未満)

九 非定型抗酸菌症(結核以外で、肺、皮膚、頚部もしくは肺門リンパ節以外の部位、又はこれらに加えて全身に播種したもの)

一〇 ニューモシスチス・カリニ肺炎

一一 進行性多発性白質脳症

一二 トキソプラスマ脳症(生後一か月以後)

一三 化膿性細菌感染症(一三歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等による敗血症、肺炎、髄膜炎、骨関節炎又は中耳炎もしくは皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍が二年以内に、二つ以上、多発あるいは繰り返して起こつたもの)

一四 コクシデイオイド真菌症(肺、頚部もしくは肺門リンパ節以外に又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)

一五 HIV脳症(HIV痴呆、AIDS痴呆又はHIV亜急性脳炎)

一六 ヒストプラズマ症(肺、頚部もしくは肺門リンパ節以外に、又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)

一七 イソスポリア症(一カ月以上続く下痢)

一八 非ホジキンリンパ腫(B細胞もしくは免疫学的に未分類で組織学的に切れ込みのない小リンパ球性リンパ腫又は免疫芽細胞性肉腫)

一九 結核(肺以外に一カ所以上播種したもの)

二〇 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)

二一 HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)

※ これらの疾患のうち一~一二は、従来からAIDSと診断されていた特徴的症状である。

ただし、カボジ肉腫と原発性脳リンパ腫は六〇歳未満をAIDSとしていたが年齢は問わないこと、非定型抗酸菌症もトリ型又はカンサス型としていたがこれらに限定されないこととした。

※※ これらの疾患の診断については付記を参照のこと。

[Roman2 ] HIVの抗体検査が陰性の場合

HIVの抗体スクリーニング検査法(酵素抗体法、ゼラチン粒子凝集法)の結果が陰性である場合、通常、サーベイランスではAIDSとは診断されない。しかし、次のような場合は例外である。

明らかに他の免疫不全を起こす疾患にり患しておらず、かつ、

(一) ニューモシスチス・カリニ肺炎が確定診断できる場合

(二) 又は一の一~一二に挙げた疾患が明らかに診断され、かつ、ヘルパーT細胞/インデューサーT細胞が400/mm3以下に減少している場合

[Roman3 ] HIVの抗体検査を行つても判定ができない場合

酵素抗体法やゼラチン粒子凝集法といつたHIVの抗体スクリーニング検査法の結果が反復陽性であつても、螢光抗体法やWestern Blot法といつた確認検査法で、陰性又は判定不能の場合は、明らかに免疫不全を起こす他の原因(例えば発症前三カ月以内の副腎皮質ステロイドの大量又は長期の投与、低ガンマグロブリン血症、発症前三カ月以内に診断された免疫不全をともなう悪性疾患など)が認められず、かつ一の一~一二に挙げてある特徴的症状が明らかに診断できればAIDSと診断する。

また、母親が周産期にHIVに感染している生後一五カ月未満の児は、HIVの抗体確認検査が陽性であつても、それだけではHIVの感染の有無は判定できないが、児が明らかに他の原因による免疫不全の症状がない場合は、一の一~一二に挙げてある特徴的症状がはつきり診断できればAIDSの診断を行う。

付記

AIDSに関連する特徴的症状の診断法

一 カンジダ症(食道、気管、気管支又は肺)

内視鏡もしくは剖検による肉眼的観察又は患部組織の顕微鏡検査によつて、カンジダを確認する。

ただし、嚥下時に胸骨後部の疼痛があり、かつ紅斑を伴う白い斑点又はプラク(斑)が肉眼的に認められ、粘膜擦過標本で真菌のミセル様繊維を顕微鏡検査で確認できる口腔カンジダ症が存在する場合はカンジダが確定診断されなくても食道カンジダ症と診断してよい。

二 クリプトコッカス症(肺以外)

顕微鏡検査又は培養によるか、患部組織又はその浸出液からクリプトコッカスを検出することによつて診断する。

三 クリプトスポリジウム症(一カ月以上続く下痢を伴つたもの)

顕微鏡検査によつて診断する。

四 サイトメガロウイルス感染症(生後一カ月以上で、肝、膵、リンパ節以外)顕微鏡検査によつて診断する。

ただし、サイトメガロウイルス性網膜炎は眼底検査によつて、網膜に鮮明な白斑が血管にそつて遠心状に広がり、数カ月にわたつて進行し、しばしば網膜血管炎、出血又は壊死を伴い、急性期を過ぎると網膜の痂皮形成、萎縮が起こり、色素上皮の斑点が残るという特徴的な臨床像から判断してよい。

五 単純ヘルペスウイルス感染症

一カ月以上継続する粘膜、皮膚の潰瘍を形成するもの又は生後一カ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を合併するもので、顕微鏡検査又は培養によるか、患部組織又はその浸出液からウイルスを検出することによつて診断する。

六 カボジ肉腫(従来は六〇歳未満であつたが、今後は年齢を問わず)

顕微鏡検査によつて診断する。

肉眼的には皮膚又は粘膜に特徴のある紅斑又はすみれ色の斑状の病変を認めることによる。

ただし、これまでカボジ肉腫を見る機会の少なかつた医師は推測で診断しない。

七 原発性脳リンパ腫(従来は六〇歳未満であつたが、今後は年齢を問わず)

顕微鏡検査によつて診断する。

八 リンパ性問質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PIH complex(一三歳未満)顕微鏡検査によつて診断する。

臨床的には胸部X線で、両側性の網状小結節様の間質性肺陰影が二カ月以上認められ、病原体が同定されず、抗生物質療法が無効な場合はLIP/PIH complexと診断する。

九 非定型抗酸菌症(肺、皮膚、頚部又は肺門リンパ節以外、又はこれらの部位に加えて全身に播種したもの)

細菌学的培養によつて診断する。

糞便、汚染されていない体液又は肺、皮膚、頚部もしくは肺門リンパ節以外の組織の顕微鏡検査で、結核菌以外の抗酸菌が検出された場合は非定型抗酸菌症と診断する。

一〇 ニューモシスチス・カリニ肺炎

顕微鏡検査によつて、カリニ原虫を確認する。

ただし、最近三カ月以内に運動時の呼吸困難又は乾性咳嗽があり、胸部X線でび漫性の両側問質像増強が認められ、又はガリウムスキャンでび漫性の両側の肺病変があり、かつ、動脈血ガス分析で酸素分圧が七〇mmHg以下であるか呼吸拡散能が八〇%以下に低下しているか、又は肺胞―動脈血の酸素分圧較差の増大がみられ、かつ細菌性肺炎を認めない場合、カリニ原虫が確認されなくても、ニューモシスチス・カリニ肺炎と診断してよい。

一一 進行性多発性白質脳症

顕微鏡検査によつて診断する。

一二 トキソプラスマ脳症(生後一カ月以後)

顕微鏡検査によつて診断する。

臨床的には、頭蓋内疾患を示唆する局所の神経症状又は意識障害がみられ、かつ、CT(compuled tomography)などの画像診断で病巣を認め、又はコントラスト薬剤の使用により、病巣を確認できる場合で、かつ、トキソプラズマに対する血清抗体を認めるか、又はトキソプラズマ症の治療によく反応する場合はトキソプラズマ脳症と診断する。

一三 化膿性細菌感染症(一三歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等による敗血症、肺炎、髄膜炎、骨関節炎又は中耳炎もしくは皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍が二年以内に、二つ以上、多発あるいは繰り返して起こつたもの)

細菌学的培養によつて診断する。

一四 コクシデイオイド真菌症(肺、頸部もしくは肺門リンパ節以外に又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)

顕微鏡検査又は培養によるか、患部又はその浸出液からコクシデイオイド真菌を認めることによつて診断する。

一五 HIV脳症(HIV痴呆、AIDS痴呆又はHIV亜急性脳炎)

就業もしくは日常生活活動に支障をきたす認識もしくは運動障害が臨床的に認められる場合、又は子供の行動上の発達障害が数週から数カ月にわたつて進行し、HIV感染以外にこれを説明できる病状や状況がない場合をいう。これらを除外するための検査法としては、脳脊髄液の検査や脳のCTなどの画像診断や病理解剖などがある。

これらは、確定的な診断法ではないがサーベイランスの目的のためには十分である。

一六 ヒストプラスマ症(肺、頸部もしくは肺門リンパ節以外に、又はそれらの部位に加えて全身に播種したもの)

顕微鏡検査又は培養によるか、患部組織又はその浸出液からヒストプラスマを検出することによって診断する。

一七 イソスポリア症(一カ月以上続く下痢)

顕微鏡検査によって診断する。

一八 非ホジキンリンパ腫(B細胞もしくは免疫学的に未分類で組織学的に切れ込みのない小リンパ球性リンパ腫又は免疫芽細胞肉腫)

ここに挙げたリンパ腫の中にはT細胞性のもの、組織学的な型の記載のないもの、又はリンパ球性、リンパ芽球性、切れ込みのある小リンパ球性もしくは類プラスマ細胞様リンパ球性と記載されたものは含まない。

顕微鏡検査によって診断する。

一九 結核(肺以外の一カ所以上に播種したもの)

細菌学的培養によって診断する。

二〇 サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌を除く)

細菌学的培養によって診断する。

二一 HIV消耗性症候群

通常の体重の一〇%を超える不自然な体重減少に加え、慢性の下痢(一日二回以上、三〇日以上の継続)又は慢性的な衰弱を伴う明らかな発熱(三〇日以上にわたる持続性もしくは間歇性発熱)があり、HIV感染以外にこれらの症状を説明できる病気や状況(癌、結核、クリプトスポリジウム症や他の特異的な腸炎など)がない場合にHIV消耗性症候群と診断する。これらは確定的な診断法ではないがサーベイランスの目的のためには十分である。

HIV医療機関内感染予防対策指針検討会委員名簿


氏名

職名(順不同)

河崎則之

国立療養所福井病院長

小林寛伊

東京大学医学部中央手術部助教授

佐藤田鶴子

日本歯科大学口腔外科学助教授

◎塩川優一

順天堂大学名誉教授

鈴木實

日本歯科医師会常務理事

鎮守條子

北里大学東病院看護部長

西岡久寿弥

日本赤十字社中央血液センター副所長

藤本進

北里大学衛生学部客員教授

水岡慶一

東京都立駒込病院中央検査部長

南谷幹夫

東京都三鷹保健所長

村瀬敏郎

日本医師会常任理事

(注) ◎印は委員長

-- 登録:平成21年以前 --