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発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針について

原子力安全委員会決定

昭和五九年一月一九日

発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針について

当委員会は、昭和五八年五月一七日付け(昭和五八年一二月一六日付けをもって一部改訂)で、原子炉安全基準専門部会から提出のあった標記指針に関する報告書について、その内容を検討した結果、別添のとおり「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針」を定める。

なお、これに伴い、「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」の付録のうち、下記に掲げる項目に関しては、標記指針を適用するものとする。

一・一・一 未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き(PWR)

一・一・五 起動時における制御棒引抜き(BWR)

二・六・一 制御棒クラスタ飛出し事故(PWR)の(一)、(二)―i)並びに(三)―a及びb

二・六・二 制御棒落下事故(BWR)の(一)、(二)―i)並びに(三)―a及びb

〔別添〕

発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針

○ 用語の定義

本指針における用語の定義は、以下のとおりとする。

(1) 発電用軽水型原子炉:動力源を得ることを主たる目的とする原子炉であって、通常の水を減速材及び冷却材とし、少量のプルトニウムを含有するものを含む二酸化ウランペレットをジルカロイ製の被覆管に封入した燃料を用いるもの。具体的には加圧水型(PWR)及び沸騰水型(BWR)原子炉を指す。

(2) 反応度投入事象:臨界又は臨界近傍の原子炉に、原則的に1ドル以上の反応度が急激に投入されることによって、原子炉出力の上昇とそれに伴う原子炉燃料のエンタルピ増大が生じる事象をいう。

(3) 燃料エンタルピ:燃料ペレットのエンタルピ半径方向平均であって、初期エンタルピと当該事象の解析によって付加されるエンタルピを加えた値で、基準を0℃として評価した値をいう。

(4) ピーク出力部:ピーク出力部についての定義を第1図に示す。当該事象発生の初期出力Poとピーク出力Ppの平均値(Po+Pp)/2に相当する部分のパルス幅をthとする。パルスのピークがあらわれる時点をtpとし、te=tp+thでteを定義する。ピーク出力部は、事象発生時点からteまでの時間(第1図で斜線を施した部分)として定義する。

(5) 浸水燃料:浸水燃料とは、燃料被覆管にピンホール等が存在することにより、燃料棒内部に水が存在することが考えられる燃料棒をいう。

第1図 反応度投入事象におけるピーク出力部の定義



1 目的

本指針は、発電用軽水型原子炉の臨界又は臨界近傍にある炉心に、制御棒等により急激な正の反応度が投入されることによってもたらされる原子炉出力の上昇と、これによる燃料のエンタルピ増大を評価し、運転時の異常な過渡変化及び事故時の炉心及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確認することを目的としたものである。

本指針の判断基準及び解析に当たっての要求事項(付則及び解説において記載されたものを含む。)は、現在得られている知見に厳しい判断を加えて採用されたものである。

2 本指針の位置付けと適用範囲

本指針は、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」及び「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」の定めるところにより、発電用軽水型原子炉すなわち、加圧水型(PWR)及び沸騰水型(BWR)原子炉の反応度投入事象を評価するためのものである。

なお、反応度投入事象の評価が本指針に適合しない場合があっても、妥当な理由によるものであることが明らかにされれば、これを排除するものではない。また、本指針は、設計の改良、経験の蓄積など、新たな知見が得られた場合には、必要に応じて適宜見直しがなされるべきものである。

本指針の基本的な考え方は、燃料の構造及び組成が類似する軽水型原子炉又は重水型原子炉の反応度投入事象の評価に準用することができる。

3 判断基準

反応度投入事象の解析結果は、次の判断基準を満足するものでなければならない。

ただし、(3)項については、添付2の解析結果をもって代用できる場合は、これを除外することができる。

(1) 運転時の異常な過渡変化にあっては、

1) 燃料エンタルピの最大値は、燃料棒内圧から冷却材圧力を差し引いた圧力(以下、「燃料棒内外圧差」という。)に依存して決定される第2図に示す燃料エンタルピ(以下、「燃料の許容設計限界」という。)を超えないこと。

2) 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力の1.1倍以下であること。

(2) 事故にあっては、

1) 燃料エンタルピの最大値は、230cal/g・UO2を超えないこと。

2) 原子炉冷却材圧力バウンダリにかかる圧力は、最高使用圧力の1.2倍以下であること。

(3) 運転時の異常な過渡変化及び事故にあっては、浸水燃料の破裂による衝撃圧力等の発生によっても、原子炉停止能力及び原子炉圧力容器の健全性を損なわないこと。

第2図 反応度投入事象における燃料の許容設計限界



4 解析に当たっての要求事項

解析に当たって必要とされる事項を以下に示すが、各要求及び指定事項からはずれたものを用いて解析を行う場合には、適切な方法によって、その妥当性を示す必要がある。

(1) 初期条件

1) 炉心状態

解析初期条件としての炉心状態を示す冷却材温度、原子炉圧力及び出力分布等については、最も厳しい燃料エンタルピを与えるように選定しなければならない。

事故時においては、被覆が破損する燃料棒本数が最大となるケースについても解析を行わなければならない。

また、浸水燃料の炉内存在比は、衝撃圧力の発生を大きく見積るように、適切に定めなければならない。

(2) 動特性計算

1) 原子炉スクラム

原子炉を停止する原子炉スクラム信号を明らかにし、この場合のスクラム遅れ時間を適切に考慮しなければならない。また、この際に最大反応度効果を有する制御棒(クラスタ)1本が完全引抜位置にあり、挿入されないものとする。

スクラム速度は、実測データ等との比較によって適切な安全余裕を見込まなければならない。

2) 反応度添加率

抜け出す制御棒価値は、計算上の不確定要素を考慮して、適切な安全余裕を見込まなければならない。また、反応度添加率は、制御棒の微分価値と、抜け出す制御棒の位置対時間の関係より求め、もし、微分価値が使えない時は、それに代わる適切な手法を用いなければならない。

3) 実効遅発中性子割合(βeff)及び即発中性子寿命(l)

βeffとlの計算は、摂動論から導かれる定義に基づいて行うものとする。

4) ウェイテング・ファクタ

3次元核計算から低次元動特性計算へ次元を縮約するに当たっては、ウェイテング・ファクタを適切に選定しなければならない。ウェイテング・ファクタは、時間依存で考えるのが妥当であるが、時間依存にしない場合は、判断基準に照らして厳しい結果を与えるように選定しなければならない。

5) 燃料の物性値等

ペレット及び被覆管の物性値並びにギャップ熱伝達係数、被覆管表面熱伝達係数等については、解析する対象に応じて適切に選定しなければならない。

6) 減速材温度係数

非断熱計算を行う場合、冷却材のボイド、圧力、温度、密度等の変化に伴う反応度係数を考慮しても良いが、選定した値が十分安全余裕を持つたものであることを適切な方法で示さなければならない。

上記反応度フィード・バックのうち、正になるものがある場合には、これを安全側に評価し計算しなければならない。

また、3次元解析をしない場合には、適切なファクタを乗じ、結果が厳しくなるように計算を行わなければならない。

7) ドップラ係数

ドップラ係数は、ダンコフ効果の修正を含む実効共鳴積分に基づいて計算するとともに、利用できる実験データとの比較によって、適切な安全余裕を見込まなければならない。ドップラ効果の評価に当たっては、燃料温度予測の不確定要素もあわせて考慮し、適切な安全余裕を見込んだものとしなければならない。

(3) 燃料挙動解析

1) 燃料棒内圧

当該事象の初期条件としての燃料棒内圧は、燃料の燃焼に伴う核分裂生成ガスの発生による内圧上昇を考慮しなければならない。

2) ピーキング・ファクタ

燃料の熱点解析を行う場合、中性子束分布に関するピーキング・ファクタは、安全余裕を持って選定しなければならない。

3) 炉心出力分布

炉心出力分布を直接計算しない場合は、被覆が破損する燃料棒の本数決定の観点から、安全余裕を持ったものであることを適切な方法で示さなければならない。

4) 燃料の物性値等

(2)―5)項に同じ。

(4) 圧力サージ計算

PWRにあっては、圧力サージ計算は、燃料から冷却材への熱伝達、金属―水反応、冷却材中での熱発生に基づいて行う。

体積サージを用いて圧力トランジェントを計算する際には、原子炉冷却材系統内の流体の移動、蒸気発生器での伝熱及び加圧器安全弁の作動を考慮に入れて良いが、制御棒駆動機構圧力ハウジングの破損による減圧効果は見込んではならない。

(5) 浸水燃料の破裂による機械的エネルギ発生・応答解析

浸水燃料については、燃料エンタルピが、ピーク出力部の断熱計算で65cal/g・UO2を超える燃料棒の被覆は破裂したものとし、発生する機械的エネルギの影響を評価しなければならない。

5 評価のための必要資料

反応度投入事象の解析の評価に当たっては、前記の要求事項を満足していることを確認する必要がある。このため、次の資料の内容が評価されていることが必要である。

(1) 技術的検討を行うのに十分な解析手法及び解析モデルの詳細説明を含む計算プログラムの説明書。

(2) 解析に用いた主要入力値。

(3) 上記計算プログラムの感度解析結果。

ただし、(1)及び(3)については、同じ炉型あるいは類似の炉型について既に資料の評価がなされている場合((3)については、添付3の解析結果をもって代用できる場合を含む。)は、これを省略してよい。

付 則 (昭和59年1月19日)

指針の要求事項に従って解析を行うに当たり、使用されるモデル、式、数値等は、一見して明らかなものを除き、それらが採用されている計算コードの特性とあいまって、原則として、実測データ等によってその妥当性が示されなければならない。これまでの検討の結果、その使用の妥当性が認められるものを以下に掲げる。これらのモデル、式、数値等は、それぞれ指定された範囲内で、指定された条件で使用されなければならない。

以下に掲げるもの以外であっても、その妥当性が適切に示された場合には、それらを使用することは差し支えない。

今後、研究が更に進展し、知見が増大して行くに従い、本付則も随時追補して行くものとする。

1 燃料の物性値等

「指針4 (2)―5)燃料の物性値等」のうち、燃料棒の表面熱伝達及び比熱について、次の式ないしデータを使用することは妥当と認める。

(1) 燃料の表面熱伝達

1) 単相強制対流 Dittus―Boelterの式(1)

2) 核沸騰状態 Jens―Lottesの式(2)

3) 膜沸騰状態 Bishop―Sandberg―Tongの式(3)

若しくは、

高温待機時 Dougall‐Rohse‐nowの式(4)

低温時 NSRRの実測データに基づいて導出された熱伝達相関式(5)

4) 限界熱流束及び限界熱出力条件の判定 被覆管から冷却材への熱伝達が核沸騰から膜沸騰に移行する時点の判定は、以下による。

W―3相関式でのDNBRが1.30(6)

若しくは、

高温待機時 GEXL相関式でのMCPRが限界値(7),(8)

低温時 Rohsenow―Grif―fithの式(9)及びKutateladzeの式(9)

(2) 比熱

MATPRO―VERSION11(REVISION 2)(10)

2 機械的エネルギ変換係数

「指針(4).(5)浸水燃料の破裂による機械的エネルギ発生・応答解析」のうち、衝撃圧力及び蒸気の膨張による機械的エネルギ変換係数について次の式を使用することは妥当と認める。

η=0.095exp(0.0058Q)

η:機械的エネルギ変換係数(%)

Q:ピーク出力部燃料エンタルピ(cal/g・UO2)

参考文献

(1) F.W. Dittus and L.M.K. Boelter, “Heat Transfer in Automobile Radiators of the Tubular Type”, University of California Publications in Engineering, Vol.2(1947)

(2) W.H. Jens and P.A.Lottes, “Analysis of Heat Transfer, Burnout, Pressure Drop, and Density Data for High Pressure Water”, USAEC Report ANL―4627, Argonne National Laboratory(1951)

(3) A.A. Bishop, R.O.Sandberg, and L.S.Tong, “Forced Convection Heat Transfer at High Pressure after Critical Heat Flux”, ASME 65―HT―31(1965)

(4) R.S.Dougall and W.H.Rohsenow, “Film Boiling on the Inside of Vertical Tubes with Upward Flow of the Fluid at Low Qualities”, Report No.9079―26, Department of Mechanical Engineering, MIT(1963)

(5) N.Ohnishi, K. Ishijima and S.Tanzawa, “A Study of Subcooled Film Boiling Heat Transfer under Reactivity―Initiated Accident Conditions in Light Water Reacters”, Proceedings 2nd International Topical Meeting on Nuclear Thermalhydraulics, January, 1983,Santa Barbara, U.S.A.

(6) L.S.Tong, “Boiling Crisis and Critical Heat Flux”, AEC Critical Review Series, TID―25887(1972)

(7) 東京芝浦電気(株),「沸騰水型原子力発電所GETABの概要」,TLR―009改訂1,昭和56年6月

(8) (株)日立製作所,「沸騰水型原子力発電所原子炉の熱特性評価法(GETAB)について」,HLR―007訂1,昭和56年1月

(9) 日本機械学会熱・熱力学部門委員会,伝熱工学資料調査分科会編,「伝熱工学資料」,改訂第2版,日本機械学会(1966)

(10) D.L.Hargman, G.A. Reymann and R.E.Mason, “MATPRO―VERSION 11(REVISION 2) A Handbook of Materials Properties for Use in the Analysis of Light Water Reactor Fuel Rod Behavior”, NUREG/CR―0497, TREE―1280. Rev.2(1981)

解説

[Roman1 ] 今回の指針作成の趣旨

発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針は、昭和52年5月20日、原子炉安全専門審査会(当時)において「発電用軽水型原子炉の反応度事故に対する評価方法について(原子炉安全専門審査会内規)」として作成されたのち、「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(以下、「安全評価審査指針」という。)にもその内容が盛り込まれ、以後、発電用軽水型原子炉の安全審査に際し、反応度投入事象に関する安全評価に用いられてきた。この内規は、当時の最新の科学技術的知見を取り入れて作成されたものであるが、その後、国の内外において、反応度投入事象に関する実験的、かつ、理論的研究の進展に目覚しいものがあり、加えて安全審査の経験と新しい知見の蓄積が得られたいま、原子力安全委員会はこれらの新しい知見及び経験をとり入れて内容の充実を図ることを計画した。

この原子力安全委員会の方針を受け、原子炉安全基準専門部会では、安全評価小委員会、反応度事故検討ワーキンググループをもうけて内規の全面的な見直しを行うとともに、指針として位置付けるための検討を行ってきた。従って、本指針は内規をさらに充実した内容及び構成をもったものとなっているが、一方、当時内規に盛り込まれた知見及び基本的な考え方は今日でも何らその妥当性を失っておらず、その骨子はそのまま本指針に踏襲されている。なお、今回の指針作成後も、引続き反応度投入事象に関する研究が実施され、多くの知見が蓄積されていくものと考えられる。従って、今後も可能な限り新しい研究成果を取り入れ、本指針がより充実したものとなるよう適時必要に応じて改定されるものと考える。

[Roman2 ] 本指針の位置付けと適用範囲について

1 反応度投入事象の評価の目的

本指針は、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下、「安全設計審査指針」という。)及び「安全評価審査指針」を受けて、反応度投入事象に関して評価すべき内容と判断基準を詳細、かつ明確化したものである。

発電用軽水型原子炉の反応度投入事象に関する安全評価の考え方は、これまでに実施された一連の原子炉動特性実験、原子炉暴走実験及び炉内燃料破損実験の結果、更に、SL―1に代表される原子炉の反応度事故の経験に基づいて出されたものである。すなわち、臨界又は臨界近傍にある原子炉に、正の反応度が投入された場合、反応度の投入量及び投入率によっては、原子炉出力が異常に上昇する可能性がある。

本来、原子炉はドップラ効果、減速材温度効果及びボイド効果といったいわゆる負のフィードバック効果が働き、原子炉出力の異常な上昇を抑制する固有の自己制御能力を有する。しかしながら、前述の実験及び事故例が示すところによれば、反応度の投入量及び投入率が異常に大きい場合、原子炉出力の異常上昇に伴い、急激に燃料温度が上昇し、終局的には燃料が分断したり、溶融して破損する。燃料の溶融が著しくなると、高温のペレットが冷却水中に飛散して水との相互作用により、圧力波や水撃力といった機械的エネルギが発生する。これが炉心及び原子炉冷却材圧力バウンダリに作用して、これに損傷を与える可能性が生じる。従って、本指針は、第一段階として反応度投入事象に関連する運転時の異常な過渡変化における燃料の破損防止と、第二段階として事故における炉心の冷却可能な形状の維持と原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性の確保を意図して作成したものである。

2 具体的な反応度投入事象の規定

本指針の対象とする具体的事象は以下の事象とする。

1) 運転時の異常な過渡変化のうち

[cir1 ] 未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き(PWR)

[cir2 ] 起動時における制御棒引抜き(BWR)

2) 事故のうち

[cir1 ] 制御棒クラスタ飛出し事故(PWR)

[cir2 ] 制御棒落下事故(BWR)

上記4事象を本指針の適用事象とした理由を以下に詳説する。

すなわち、当該事象における燃料挙動の特徴は、燃料温度が断熱的に上昇して燃料ペレットや被覆管が熱的にあるいは機械的に苛酷な条件になることである。燃料が断熱的に温度上昇するためには、原子炉の出力上昇が急激であるとともに、発熱量に比べて燃料からの除熱量がさほど大きくないことが必要である。

一般的に知られているように、原子炉の出力挙動は、反応度投入量が1ドル以上の場合とそれ以下の場合では大きく異る。すなわち、1ドル以上の即発臨界の場合、ピーク出力は反応度投入量の増大に伴って急激に増大し、出力の上昇率(炉周期)も厳しいものとなる。これに対して、反応度投入量が1ドル未満の遅発臨界の場合は、原子炉出力の上昇は緩慢なものとなり、最大出力や積分出力も小さい。従って、遅発臨界の場合には、燃料エンタルピの増大もゆるやかであり、また、燃料から冷却水への伝熱も十分に行われる。

発電用軽水型原子炉で想定される反応度投入事象を考えると、投入量が1ドル未満の場合には、原子炉出力の上昇はゆるやかであり、また、燃料エンタルピの増大もさほど大きいものではない。加えて、原子炉の出力上昇がゆるやかなために、原子炉停止系の作動にも十分な時間的余裕があり、燃料エンタルピの過大な増大を防止することができる。

以上の意味から、本指針の対象とする反応度投入事象としては、原子炉出力の上昇が急激で、かつ、断熱的に燃料エンタルピが増大する即発臨界の場合、すなわち、1ドル以上の前記4事象で代表することが妥当と考える。

なお、反応度投入事象の定義である「原則として1ドル以上」における「原則」の意味するところは、反応度投入量が1ドル未満にあっても、対象事象における燃料挙動が1ドル以上の場合と基本的に類似する場合は、本指針の適用又は準用があり得ることを意味する。

3 本指針の適用範囲

本指針の判断基準として取り入れた知見の多くは、現在のPWR及びBWRの反応度投入事象の安全評価を目的として実施された実験的研究の成果に基づいている。従って、本指針の対象とした反応度投入事象も、いわゆる「安全設計審査指針」及び「安全評価審査指針」に規定した発電用軽水型原子炉を前提としたものである。

一方、判断基準として取り入れた知見の多くは上記原子炉を対象とした実験的、理論的研究によるものであるものの、その種類、条件、方法等はかなり広範囲にわたっている。また、本指針の対象が現在のPWR及びBWRであるものの、指針の基本的な考え方、評価方法等は一般性のあるものと考える。

以上の観点から、本指針は、判断基準の前提となる燃料の構造及び組成が類似し、かつ設計条件及び運転条件が大幅に異ならない軽水型原子炉又は重水型原子炉の反応度投入事象の安全評価指針として準用し得るものと考える。

[Roman3 ] 判断基準

1 基本的事項

(1) 燃料エンタルピについて

反応度投入事象における判断基準は、[Roman2 ]―2. 項で規定した「原則として1ドル以上の反応度投入事象」を前提とすると、燃料挙動が直接的に関係づけられる燃料エンタルピで規定することが最も妥当と考える。

すなわち、前述したように、急激な反応度投入事象、言い換えれば原則として1ドル以上の反応度投入事象においては、燃料破損は燃料からの熱移動がさほど顕著でない時刻に生じる。日本原子力研究所における原子炉安全性研究炉(Nuclear Safety Resarch Reactor:NSRR)の実験でも、燃料破損はピーク出力時刻又はその近傍において生じるか、あるいはその要因が作られることが確認されている。この場合、燃料は反応度の投入が開始されたのち高々数秒の間に破損するか、又はその要因が作られるが、この間燃料からの除熱量は与えられた発熱量の数%程度にすぎない。これは燃料破損に到るまでの所要時間が短かいことに加えて、被覆管表面の伝熱様式の主体が膜沸騰熱伝達であることに起因する。

以上の理由により、反応度投入事象における燃料挙動は燃料エンタルピと対応づけて整理することができる。従って、本指針では、燃料エンタルピで判断基準を規定することとした。

次に、本指針の判断基準(1)―1)及び(2)―1)では、燃料エンタルピの最大値が基準値を超えないことを要求している。ここで「燃料エンタルピの最大値」の意味を明確にしておく必要がある。

反応度投入事象において、燃料のエンタルピは時間経過に伴って絶対値と燃料内分布が変化する。絶対値については、原子炉出力の時間変化に対応して変化し、その変化の様相は発熱量と除熱量との収支に依存する。一般的に、ピーク出力部以降数秒までは発熱量が支配的で、その後は除熱量が発熱量を上回る。このため、燃料エンタルピはピーク出力部以降の数秒間は増加し続け、最大値に達した後徐々に減少する。上記判断基準(1)―1)及び(2)―1)は、ここで述べた燃料エンタルピの時間変化における最大値を意味する。

次に、燃料のエンタルピのペレット内の半径方向分布については、「用語の定義」において燃料エンタルピを半径方向平均で定義し、以下に示す事実により、分布の時間変化を考慮しなくてもよい形として示した。

反応度投入事象の場合、原子炉出力の上昇が急激なために、燃料エンタルピはペレット内の熱中性子束分布にほぼ比例した分布、すなわち、ペレット外周に近づくにつれて高くなるような分布を維持したまま増大する。この間、一方ではペレットの中心に向って、もう一方ではペレットから被覆に向って熱移動が起り、燃料の温度分布の平坦化が進む。NSRR実験により、燃料の破損しきい値がペレット外周部の燃料エンタルピと密接に関係していること及び燃料エンタルピが最大に達する時刻においてはその分布がほぼ平坦になることが明らかにされている。このため、NSRRの実験結果はペレットの半径方向平均の燃料エンタルピによって整理されている。一方、NSRR実験の場合に比べて、発電用軽水型原子炉の場合は、燃料エンタルピが最大に達するまでに時間を要する。このため、燃料からの熱除去がNSRR実験の場合に比べて大きくなり、ペレット外周部の燃料エンタルピは半径方向平均より低くなり、被覆管に与える影響が少なくなると考えられる。しかしながら、本指針では、NSRR実験の場合と同様に、ペレットの半径方向平均の燃料エンタルピによって評価することを要求している。

(2) 判断基準の根拠となる実験データ

判断基準を決定する上で考慮した実験データは、NSRR実験において得られたものである。この実験は、昭和50年から日本原子力研究所において実施されているもので、発電用軽水型原子炉の反応度投入事象時の燃料挙動を実験的に究明することを目的としたものである。NSRR実験は、大別して1)標準実験、2)燃料設計パラメータ実験、3)冷却条件パラメータ実験及び4)欠陥燃料パラメータ実験に分類でき、各々の実験において発熱量を変えて主に燃料の破損しきい値等に関する実験データを得ている。

標準実験は、燃料挙動の基本的な課題を詳細に調査することを目的とした基準となる実験である。この実験では、標準的な仕様の発電用軽水型原子炉燃料とほぼ類似した試験燃料(以下、「標準燃料」という。)が使用されている。

NSRR実験の特徴とするところは、標準実験の結果を基準とし、各種パラメータに関しては標準実験と比較することによってその影響を評価するという方法をとり、極めて広範囲のパラメータについて検討を行っている。この広範囲のパラメータ実験により、反応度投入事象時の燃料挙動に及ぼす各種因子の影響を明らかにするとともに、各種因子と燃料破損形態及び破損機構との関連を明らかにしている。

一般的にいって、発電用軽水型原子炉の反応度投入事象時の燃料挙動を厳密に模擬した実験を行うことは困難であり、NSRR実験においても、炉心特性や機能上の制約から上記事象と同一条件を設定することは難しい。しかし、NSRRでは、数多いパラメータ実験を通して発電用軽水型原子炉の当該事象における燃料挙動を模擬した実験を行い、その結果を整理している。

以上の点に鑑み、本指針の判断基準の決定に際しては、NSRRの標準実験のデータを基本とし、発電用軽水型原子炉の当該事象における種々の条件に関連して安全余裕を考慮するものについては、パラメータ実験の結果を総合的に評価して妥当な安全余裕を考慮した。

2 判断基準(1)―1)及び(2)―1)

(1) 燃料の許容設計限界

判断基準(1)―1)に示す燃料エンタルピの制限値は、運転時の異常な過渡変化における燃料被覆の破損防止を意図したものである。急激な反応度投入事象における燃料破損は、浸水燃料を除き、被覆管の高温破裂、溶融及び脆化に起因するものと、燃料ペレットの溶融、蒸発に起因するものとに分類できる。判断基準(1)―1)はこのうち前者の燃料被覆の破損防止を要求するものである。

NSRR実験により、燃料被覆の破損は、燃料棒内外圧差が6kg/cm2以下の場合は溶融及び脆性型となり、それを上回る場合は高温破裂型となる。被覆管の溶融及び脆性に起因する燃料破損は、標準実験の場合、ピーク出力部燃料発熱量が約212cal/g・UO2から約222cal/g・UO2の間で生じることが明らかにされている。この実験結果は、燃料被覆の破損が起こらなかった場合と起こった場合のそれぞれ上限値と下限値である。ここでいうNSRRの実験値は前記[Roman3 ]―1―(1)項における燃料エンタルピの最大値に対応しており、その詳細は添付1において記載されている。

燃料棒初期内圧をパラメータとした実験により、燃料被覆の破損は、燃料棒内圧が外圧より6kg/cm2を上回ると、高温破裂型となり、燃料棒内外圧差の増大に伴ってそのしきい値が低下することが確認されている。一方、燃料棒内外圧差が6kg/cm2以下の場合は、標準実験とほぼ同一の燃料エンタルピにより溶融及び脆性型で燃料破損を生じている。

以上の実験データに基づき、燃料被覆の破損しきい値を図式化したのが添付1の第1図であり、これに基づき定めた「燃料の許容設計限界」を示した図が本文第2図である。添付1の第1図で燃料棒内外圧差が44.4kg/cm2以上の場合は、以下の判断により燃料被覆の破損しきい値を一定値と定めた。すなわち、NSRR実験によれば、燃料棒内圧が外圧を上回る加圧燃料実験の場合、DNBを超えない限り、高温破裂は生じていない。標準実験においてDNBが発生する値は約88cal/g・UO2と約110cal/g・UO2の間にある。従って、第1図からDNBが起らなかった上限値88cal/g・UO2に対応する燃料棒内外圧差を求めると約44.4kg/cm2となり、これ以上の燃料棒内外圧差がある燃料については88cal/g・UO2の一定値とした。

以上、標準実験及び加圧燃料実験による実験データを用いて、これらの燃料被覆の破損しきい値を定めたが、発電用軽水型原子炉における当該事象への適用を考える場合、上記実験で評価できなかった燃料設計条件及び運転条件の相違の影響を考慮しておく必要がある。このうち、燃料被覆の破損しきい値に影響を及ぼすと考えられる因子についてはNSRR実験におけるパラメータ実験において詳細に検討されている。各種パラメータ実験のうち、判断基準の設定において考慮すべき因子を選び、それらが燃料被覆の破損しきい値に及ぼす影響について慎重に検討した。その結果、試験燃料をバンドル体系にした実験の場合は、標準実験の結果に比べて燃料被覆の破損がしきい値を15%低下させることが明らかとなった。この実験は、発電用軽水型原子炉の燃料バンドル体系を模擬するために、冷却水の流路断面積をほぼ同一条件にして行われたものである。この破損しきい値の低下の理由は、バンドル体系のため、標準実験の場合に比べて燃料周辺の冷却水の対流が阻害され、その結果、冷却水の温度上昇、サブクール度の低下に伴う熱伝達率の減少等により、被覆管温度が標準実験の場合に比べて高くなったためと考えられる。この現象は標準実験の場合に限らず、加圧燃料実験においても同様に起り得るものである。なお、判断基準の設定において考慮すべき因子のうち、濃縮度パラメータ実験、強制対流実験等は、燃料被覆の破損しきい値を上昇させる結果を示したが、本判断基準の決定では、これらを安全余裕として留保することが妥当と判断した。

以上の実験事実に基づき、発電用軽水型原子炉への適用を前提として燃料被覆の破損しきい値を定める上では、上記バンドル実験による低下割合15%を標準実験及び加圧燃料実験の結果に考慮しておく必要があると考えた。この補正後の破損しきい値の下限をもってNSRR実験における「燃料被覆の破損限界」と考える。

判断基準(1)―1)の制限値は、運転時の異常な過渡変化において燃料被覆の損傷を防止することを前提として定める必要がある。従って、本指針では、上記「燃料被覆の破損限界」に対してある安全余裕をとった燃料エンタルピ値を「燃料の許容設計限界」と定めることが妥当と判断した。この安全余裕は、先に述べた「燃料被覆の破損限界」が被覆の損傷が起らない上限の燃料エンタルピを採用したことを考慮に入れ、さらに、NSRRの実験精度、実験の再現性等から総合的に検討して10cal/g・UO2とすることが妥当と判断した。

(2) 圧力波発生限界

判断基準(2)―1)に示す制限値は、ペレットの溶融及び蒸発に起因する燃料破損によってもたらされる圧力波等の機械的エネルギの発生を防止し、炉心及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確保することを意図したものである。反応度投入事象の事故において、ペレットの溶融や蒸発を招くような熱発生があると、燃料が破損して中から高温のペレットが冷却水中に飛散する可能性が生じる。このような状態が生じると溶融したペレットと冷却水との相互作用によって圧力波等の機械的エネルギが発生して炉心又は原子炉冷却材圧力バウンダリを損傷する可能性が生じる。

NSRR実験によると、標準実験の場合、ペレットの溶融による破損は、燃料エンタルピが約285cal/g・UO2から約325cal/g・UO2の間で発生することが明らかにされている。このうち燃料エンタルピが約285cal/g・UO2以下の場合は、機械的エネルギの発生要因であるペレットの微細化は起っていないことが報告されている。従って、「燃料被覆の破損限界」と同様に考え、圧力波発生しきい値としては安全余裕をみて圧力波等の機械的エネルギ発生が原因となる燃料の微細化が起らなかった上限の燃料エンタルピ285cal/g・UO2をとることが妥当と判断した。

ペレットの溶融あるいは蒸発に起因する燃料破損は、燃料設計条件や冷却条件に差程依存することなく、与えられる燃料エンタルピの大きさによって一義的に定まることは容易に理解できることである。しかしながら、NSRR実験における圧力波発生しきい値を確定するための実験は、主として標準実験において実施されたものであるため、本指針では、前記[Roman3 ]―2―(1)項と同じく低下割合の15%を減じ圧力波発生しきい値の下限を定めた。従って、圧力波発生しきい値の燃料エンタルピは約240cal/g・UO2となるが、この値は種々の条件が重複してもこれ以下では燃料破損による圧力波発生等が無いと考えられる燃料エンタルピを意味している。

以上の考察に基づいて定めた圧力波発生しきい値に、前記[Roman3 ]―2―(1)項と同様の判断に基づき、さらに安全余裕として10cal/g・UO2を見込み、判断基準の「圧力波発生限界」を決定した。

3 判断基準(1)―2)及び(2)―2)

反応度投入事象においては、原子炉出力の異常上昇と燃料からの伝熱によって、冷却材エンタルピが増大し、それに伴う一次系の圧力の増加が生じる。本基準は、これによる圧力サージを評価し、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確保することを要求するものである。

4 判断基準(3)

(1) 浸水燃料の破裂限界

判断基準(3)は、浸水燃料の破裂によってもたらされる衝撃圧力、水撃力の機械的エネルギにより、原子炉停止能力及び原子炉圧力容器の健全性が損なわれないことを要求するものである。

発電用軽水型原子炉の通常運転時において、何らかの要因によって損傷した燃料が極くわずかに炉心内に存在する可能性がある。この種の燃料は外部から冷却水が浸入していわゆる浸水燃料となることが考えられる。

NSRR実験によれば、反応度投入事象下の浸水燃料は、急激な発熱量の増大により燃料内部の水に熱が与えられ、結果的に急峻な内圧上昇が起り、被覆管の破裂を招く場合がある。破裂した被覆管から、燃料内部の高圧水の開放による衝撃圧力及び蒸気の膨張による冷却水塊の飛び上がりが生じ、これら機械的エネルギが構造物に作用することが観測されている。しかしながら、浸水燃料の破裂は、発熱量、浸水量、被覆管温度等によって左右され、浸水燃料のすべてが機械的エネルギの発生を伴うような破裂を起すとは限らない。すなわち、浸水燃料のうち、条件によっては浸水燃料特有の低温破裂型から加圧燃料の高温破裂型に破損形態が変化し、機械的エネルギの発生を伴わない場合がある。しかし、判断基準(3)では、浸水燃料の存在率を妥当に評価し、存在すると仮定した浸水燃料の燃料エンタルピが後に述べる破裂限界を超えたものについてはすべて破裂したとして、その機械的エネルギを妥当に評価することを要求している。

NSRRにおける浸水燃料の破裂しきい値は、約90cal/g・UO2から約100cal/g・UO2の間にある。

浸水燃料の破裂機構を考えると、前述の圧力波発生限界の場合と同様、破裂しきい値に対する外部の冷却条件の影響は少ないと考えられるが、ここでは前記[Roman3 ]―2―(1)項と同じく、低下割合の15%と安全余裕の10cal/g・UO2を破裂しきい値の90cal/g・UO2から減じた65cal/g・UO2を「浸水燃料の破裂限界」と定めた。

なお、浸水燃料の破裂による機械的エネルギの発生は、破裂時刻がピーク出力部にあることから、破裂限界の決定に当たっては、ピーク出力部の断熱燃料エンタルピによって評価することが妥当と考える。

(2) 浸水燃料の破裂に伴う機械的エネルギの評価方法について

浸水燃料の破裂限界を超えたものについては、その機械的エネルギを評価して原子炉停止能力及び原子炉圧力容器に損傷を与えないことを示す必要がある。

浸水燃料の破裂時には、被覆管の破裂に伴い燃料内部の高温高圧水の解放による衝撃圧力と蒸気の膨張による冷却水塊の飛び上がりが生じることがNSRR実験において確認されている。これら機械的エネルギのうち、前者の衝撃圧力は与えられる燃料エンタルピの大きさに依存せずほぼ同じ程度の値(最高圧力150kg/cm2)が観測されている。また、後者は、解放された高温高圧蒸気と解放と同時に放出されるペレットと冷却水との相互作用により発生する蒸気の膨張による冷却水塊の押し上げに起因する。これら機械的エネルギの評価を行う場合、一般的には、燃料に与えられた核的エネルギ、すなわち燃料エンタルピのうち機械的エネルギに費やされた割合、いわゆる機械的エネルギ変換係数を用いることによって評価する方法がとられている。従って、本指針でも、この方法を採用し、機械的エネルギ変換係数としてNSRRの実験結果に基づいて導出した値を用いることを要求している。

NSRR実験における機械的エネルギ変換係数は、添付1に記述されているように、衝撃圧力に関しては圧力計の実測値を、一方、水撃力に関しては水面移動計による冷却水塊飛び上がり速度の実測値を用いて導出している。これらの機械的エネルギ変換係数は、いずれも燃料エンタルピの増大に伴って大きくなる傾向を示している。本指針では、両者の実測値のうち、いずれに関しても最も大きい変換係数の実測値を用いて作成した評価曲線から、ピーク出力部断熱燃料エンタルピに対応した変換係数を用いて妥当に評価することを要求している。

NSRR実験によると、衝撃圧力は、前述したように、ピーク圧力が最高150kg/cm2、時間幅が約0.5msの極めて作用時間の短かい圧力波形をもったものである。この衝撃圧力は破裂した燃料から原子炉圧力容器壁等の対象物まで伝播し、そこで衝撃荷重として作用する。従って、衝撃圧力のもつ機械的エネルギの原子炉圧力容器に与える影響を評価するとともに、BWRにあっては、チャンネルボックスの変形の可能性、更に、これに伴う制御棒の挿入不能の可能性を考慮し、原子炉停止能力について評価しなければならない。なお、NSRR実験では、浸水燃料の破裂による隣接燃料への影響は観察されていない。従って、隣接燃料への破損伝播、変形等についての評価は必要としない。

次に、蒸気の膨張による機械的エネルギに関しては、吹き上げられた冷却水塊が原子炉圧力容器壁に衝突した場合に水撃力となって作用する。このため冷却水塊のもつ運動エネルギの原子炉圧力容器に与える影響を評価しなければならない。

水撃力による原子炉圧力容器の健全性の評価については、前述衝撃圧力の場合と同様、発生する機械的エネルギをNSRR実験による変換係数の評価曲線から求め、これがすべて冷却水塊の運動エネルギになるとして評価することが妥当と考える。

(3) 判断基準(3)の適用の代用について

最近の発電用軽水型原子炉における運転実績によれば、燃料は高度の品質管理及び工程管理下において製作されており、加えて運転中に破損する燃料本数は極めて少ない。従って、浸水燃料が存在する可能性ないし炉内存在比は極めて低いと考えられる。

一方、添付2における浸水燃料の影響評価の解析では、実績より数桁大きい浸水燃料の炉内存在比を用いて評価を行い、それでもなお十分な安全余裕のあることを示している。

これらの状況を鑑み、浸水燃料に関する判断基準(3)の適用は、添付2に示す適用条件を満足していると判断できる場合に限り、添付2の解析結果をもって代用できるものとする。

5 燃焼の進んだ燃料に関して特に考慮すべき事項について

燃料の燃焼が進むと、中性子照射効果により、被覆材の延性が低下する。このため、燃焼の進んだ燃料は、反応度投入事象において、ペレットの急激な熱膨張に伴い、被覆管に割れが生じて燃料が破損する可能性がある。

この破損は、実験の回数は少ないが、米国のSPERT―CDC実験でも認められている。しかしながら、現状では破損しきい値と燃焼度の関係等破損の条件については必ずしも明確ではなく、今後の課題として残されている部分が少なくない。

以上の点から、反応度投入事象における当該破損に関する取扱いは、今後のNSRR実験の成果を待って検討するものとするが、現状では、米国のSPERT―CDCの実験において破損した燃焼の進んだ燃料の燃料エンタルピの最小値として85cal/g・UO2が報告されているので、この値を目安値として当該破損を考慮し、事故時における破損本数の最大ケースを検討するのは妥当である。

なお、本破損は、その性格上、極めて早い時点に生じるものであるため、上記目安値をピーク出力部断熱燃料エンタルピとして取扱うことは差し支えないと考える。

[Roman4 ] 解析に当たっての要求事項について

1 反応度投入率の事象別要求

規定した各々の反応度投入事象の解析結果が十分妥当なものとするために、制御棒による反応度の投入率を大きく評価する必要がある。このため以下のような条件を各事象について考慮する。

1) 「未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き」にあっては、最大反応度価値を有する二つの制御棒クラスタバンクが機構上許される最大速度で引抜かれるものとする。

2) 「起動時における制御棒引抜き」にあっては、制御棒価値ミニマイザで許容される最大価値を有する制御棒1本が機構上許される最大速度で連続的に引抜かれるものとする。

3) 「制御棒クラスタ飛出し事故」にあっては、全制御棒クラスタが炉心出力状態に応じて許容される最大挿入位置にあって、そのうち最大反応度価値を有する制御棒クラスタ1本が事故想定上考え得る最大速度で飛び出すものとする。

4) 「制御棒落下事故」にあっては、落下し得る制御棒の最大反応度価値が、制御棒価値ミニマイザで許容される最大のもので、かつ、制御棒の落下速度が事故想定上考え得る最高のものとする。

2 反応度フィードバック計算の詳細要求

動特性計算において、解析結果に影響を及ぼす各種の反応度フィードバック効果は、規定した反応度投入事象のそれぞれに対応した条件を考慮して計算する必要がある。本指針の対象とする発電用軽水型原子炉における反応度フィードバック効果としては、ドップラ効果、減速材温度効果及びボイド効果があるが、これら反応度フィードバック効果の算出に用いる各々の係数及び評価方法は解析結果が妥当なものとなるよう考慮する必要がある。

すなわち、各種の反応度フィードバック効果の計算に当たっては、当該事象における燃料及び減速材の温度条件、燃焼度、炉心パターン等を考慮しても十分妥当なものとなるよう取扱わなければならない。また、動特性計算において、反応度フィードバック効果の時間的及び空間的変化を妥当に評価するために、燃料及び減速材の温度変化、炉心の中性子束分布の変化等を適切に取扱う必要がある。

3 浸水燃料の破裂による機械的エネルギ発生・応答解析の詳細要求

BWRにおいては、チャンネルボックスの変形を考慮し、同燃料集合体に隣接する制御棒は挿入されないと仮定し、高温臨界未満が達成されることを確認する必要がある。

原子炉圧力容器の健全性評価においては、浸水燃料の破裂本数及び付加される燃料エンタルピを考慮し、機械的エネルギが最大となるように選定された前提条件を用いるものとする。また、機械的エネルギを求めるに当たっては、破裂した浸水燃料が保有する全燃料エンタルピを用いるものとする。

機械的エネルギとしては、蒸気の膨張によるもの(BWRの場合)及び衝撃圧力によるものを考慮するが、これらが原子炉圧力容器に与える影響の重畳を考慮する必要はない。

PWRの圧力サージ計算においては、浸水燃料の破裂に伴い冷却材中に放出されるペレットから熱移動を考慮することが適切と考えられる場合は、破裂した浸水燃料の全保有エンタルピが瞬時に冷却材へ与えられるものとして評価し、初期の圧力上昇を適切に見込む必要がある。

[Roman5 ] 評価のための必要資料について

1 計算プログラム

本指針の判断基準を満たしていることを確認するためには、規定した事象に関して炉心動特性、燃料挙動等の詳細な解析を行わなければならない。このためには計算プログラムとそれを実行する計算機を必要とする。これら解析結果の妥当性を確認するためには、計算プログラムの内容、すなわち、プログラムの構成や解析モデル、加えて使用した相関式、物性値等の妥当性を明らかにしておかなければならない。従って、本指針ではこれらの内容が理解し得る詳細な説明書を要求している。

本指針で規定した対象事象の解析に使用する計算プログラムには、一般的に、時間依存の熱伝導方程式や動特性方程式が含まれる。これらの方程式の数値解法並びにその使用方法によっては、解析結果に影響が現われることがある。従って、計算プログラムの説明では、時間依存又は空間―時間依存の関連方程式の数値解法と使用方法の妥当性を示す必要がある。

計算プログラムの妥当性を説明するために、類似した事象の実験の解析を行い、実験データと解析結果を比較することは極めて有効である。しかし、比較に用いる実験データについては、その精度や実験条件を十分吟味する必要があり、また、このような方法により計算プログラムの妥当性を検証する場合、できる限り独立したパラメータ、すなわち、核、熱水力等の各々について実験データ等と比較することが望ましい。

2 入力データ

計算プログラムの入力データは、プログラムの前提条件やモデル化の際の仮定を含めて、その特性を十分考慮して作成することが重要である。従って、入力データの作成に際して用いたモデル化のための仮定や前提条件(原子炉の運転条件や解析事象の設定条件)の妥当性を確認するための説明書を必要とする。

3 感度解析を必要とするパラメータ

計算プログラムにより事象の解析を行う場合、対象とする原子炉の炉心や燃料等をプログラムの内容に応じてモデル化しなければならない。また、入力データの作成時に用いた仮定や前提条件は、各々が適切に選択されるものの、その組合わせや選択の範囲等を考慮すると、解析条件を十分満たすことにならない場合がある。以上のような場合、計算プログラムによっては、入力データの僅かな差異、プログラムに含まれるオプションの選択の相違等が解析結果に影響を及ぼすことがある。

以上の理由により、対象とする事象の代表的なものについて、解析結果に影響を及ぼすと考えられる入力データ(たとえば、反応度添加率、遅発中性子割合、フィードバック反応度係数等)や計算プログラムのオプション(時間幅、ノード分割数、各種相関式、数値解法、収束条件等)について感度解析を行い、計算の適切さを説明する必要がある。

なお、添付3において解析対象とした炉型及びこれと類似の炉型について、添付3において使用した解析コードを用いて解析する場合は、本指針5「評価のための必要資料」として要求されている「計算プログラムの感度解析結果」を省略することができる。

添付1 判断基準の根拠となるNSRR実験結果

[Roman1 ] はじめに(1)、(2)、(3)、(4)、(5)

日本原子力研究所のNSRRにおいては、反応度投入事象での燃料の破損条件と破損後の影響に関する実験的研究を進めており、第1表に示すように、昭和50年以後500回を越える実験を実施している。同実験は、1本あるいは複数本の未照射燃料を冷却水とともにカプセルあるいはループに封入し、これをNSRR炉心中央部に装荷して、反応度投入事象を模擬したパルス出力により照射するものである。

実験に当たっては、標準的な仕様の軽水炉型燃料(以下、「標準燃料」という)に対し、幅広く発熱量を変えて、その挙動を調べるとともに、燃料設計上のパラメータ及び冷却条件を種々変えて、その影響を検討している。

また、その他、浸水燃料等に対しても実験を行っている。

なお、これまでNSRRの実験結果は、ピーク出力部のみならずランアウト出力部も含めた比較的長時間にわたる燃料内発熱量をもって整理されてきている。しかし、NSRR実験の場合、ピーク出力部の発熱量が燃料エンタルピの最大値に対応しており、近年同実験におけるピーク出力部燃料発熱量割合が明確にされている。ここに用いたNSRR実験結果は、このピーク出力部燃料発熱量(ペレット内半径方向平均値)に基づいて再整理したデータによっている。

本添付1においては、NSRR実験より求められた、

――――――――――――――――――――――――――――――

* NSRR実験に用いた標準燃料の仕様の特徴は次の通りである。

UO2 ペレット直径:9.29mm

U―235濃縮度:10%

UO2 ペレット・スタック長:135mm

UO2 ペレット:チャンファ付き

被覆管材質:ジルカロイ―4

被覆管外径:10.72mm

被覆管肉厚:0.62mm

燃料棒内封入ガス:ヘリウム

燃料棒初期内圧:1kg/cm2・a

[cir1 ] 燃料被覆の破損しきい値

[cir2 ] ペレットの溶融に起因する燃料破損による機械的エネルギ発生しきい値

[cir3 ] 浸水燃料の破裂しきい値及び破裂に伴う機械的エネルギ

について述べる。

これらは、それぞれ、本指針における以下の事項の決定根拠となるものである。

[cir1 ] 運転時の異常な過渡変化に対する燃料エンタルピの制限値

[cir2 ] 事故に対する燃料エンタルピの制限値

[cir3 ] 浸水燃料の破裂限界と機械的エネルギ変換係数

[Roman2 ] 燃料被覆の破損しきい値について

(1) 標準実験における燃料被覆の破損しきい値と破損機構(6),(7)

室温・大気圧・自然対流の冷却水中における単一の標準燃料に対するNSRR実験(以下、「標準実験」という。)の結果では、燃料被覆の破損しきい値は、約212cal/g・UO2から約222cal/g・UO2の間のピーク出力部発熱量であり、約212cal/g・UO2以下では、燃料被覆の破損は発生していない。

なお、この場合の燃料被覆の破損原因は、ジルカロイ被覆管が融点近くまでの高温に達して、外面におけるジルカロイ―H2O反応及び内面におけるジルカロイ―UO2反応により、著しく酸化・脆化することにある。こうした被覆管は、膜沸騰終息時の急冷(クエンチ)時に受ける強い熱応力に抗しきれずに破損することになる。なお、被覆管の一部が溶融によって肉厚の減少を起こすことも被覆管の脆化を促進する要因となっている。

(2) 燃料棒初期内圧の燃料被覆破損しきい値及び破損機構に及ぼす影響(6),(8)

燃料の燃焼が進みFPガスの蓄積によって燃料棒の内圧が上昇することの影響を調べるために、未照射燃料の内圧を増加させた、いわゆる加圧燃料に対しても実験が行われているが、燃料棒内圧が6kg/cm2・G以下の場合には、燃料棒内圧は燃料被覆の破損に影響を及ぼしてはいない。燃料棒内圧が6kg/cm2・Gを超える場合には、第1図に示すように、12kg/cm2・Gの内圧に対して約160cal/g・UO2及び30kg/cm2・Gの内圧に対して約120cal/g・UO2の2点を通る直線上の値を、ピーク出力部燃料発熱量が超えない限り、被覆の破損は起っていない。

なお、加圧燃料の被覆の破損の原因は、被覆管の温度上昇に伴う強度の低下によるものであり、従って、燃料表面でDNB(departure from nucleate boil‐ing)が起こらない限り、加圧燃料の被覆の破損は起こらない。標準実験の結果によれば、DNBの発生をもたらすしきい値のピーク出力部燃料発熱量は約88cal/g・UO2から約110cal/g・UO2の間にあり、約88cal/g・UO2以下のピーク出力部燃料発熱量においてはDNBの発生はみられない。

従って、燃料棒内外圧差(燃料棒内圧から外圧を差し引いた値)が6kg/cm2を越える燃料の被覆破損しきい値は、約88cal/g・UO2を上回り、かつ、燃料棒内外圧差が12kg/cm2に対して約160cal/g・UO2及び30kg/cm2に対して約120cal/g・UO2の2点を通る直線上の値を上回る範囲のピーク出力部燃料熱量となる。

なお、以上の結果は、燃料棒内封入ガスがヘリウムの場合のものであるが、この他に封入ガスをアルゴンとした実験も実施し、燃料被覆の破損しきい値がヘリウム封入の場合を下回らないことが確認されている。

(3) 燃料濃縮度及び被覆管肉厚の燃料被覆破損しきい値に及ぼす影響(9),(10),(11)

燃料棒の加圧を除く他の燃料パラメータのうち、燃料の濃縮度及び被覆管の肉厚に関しては、これらを変化させると燃料被覆の破損しきい値が変化する傾向にあることが分っている。

燃料濃縮度に関しては、第2図に示すように、U―235の濃縮度が減少するにつれて、燃料被覆の破損しきい値は上昇する結果となっている。これは、濃縮度が減少するにつれてペレット内半径方向出力歪が低下することに起因している。

被覆管の肉厚に関しては、被覆管肉厚を、標準燃料の場合よりも35%小さい0.40mmとしたところ、燃料被覆の破損しきい値は約20%低下するという結果が得られている。

これは、被覆管肉厚の減少につれて、被覆管の酸化・脆化の程度が増大するためである。

――――――――――――――――――――――――――――――

* 燃料棒内外圧差をx(kg/cm2)とした場合に、燃料被覆の破損しきい値は、次式で表わされるy(cal/g・UO2)の値を上回るピーク出力部燃料発熱量となる。

x≦6において y=212

6<x≦44.4において y=−(20/9)x十560/3

44.4≦xにおいて y=88

第1表 NSRR実験項目と実験回数の概要

(昭和57年3月現在)


実験項目

実験パラメータ及び範囲

実験回数

大気圧カプセル実験

標準実験

  

94

燃料設計パラメータ実験

  

  

ギャップ幅パラメータ実験

ギャップ幅:0.05~0.195mm

16

ギャップガスパラメータ実験

ギャップガス:Xe,Ar

20

濃縮度パラメータ実験

濃縮度:5~20%

17

加圧燃料実験

初期内圧:"1~50kg/cm2・G

50

特殊被覆管燃料実験

被覆管肉厚(0.4mm),熱処理条件

34

ペレット形状パラメータ実験

ペレット形状:ディッシュ型,フラット型

5

  

ペレットスタック長パラメータ実験

スタック長:4~38cm

6

  

BWR燃料実験

被覆管:一般型,Cuバリア付き,Zrライナ付き

21

  

その他

  

11

  

冷却条件パラメータ実験

  

  

  

冷却水温パラメータ実験

初期水温:20~90℃

19

  

流路模擬実験

流路管内径:14~20mmφ

22

  

強制対流実験

流速:0.3~3m/S

25

  

バンドル体系実験

5本燃料バンドル

12

  

欠陥燃料パラメータ実験

  

  

  

浸水燃料実験

浸水量:0.2~100%

85

  

擦過腐食燃料実験

被覆管欠陥深さ:0.3~0.5mm

28

  

その他

  

75

高温高圧カプセル実験

冷却水圧力、温度:~160kg/cm2,~305℃

11

水ループ実験

冷却水圧力、温度、流速:~11kg/cm2,~150℃,~6m/S

6

合計

  

557

(4) その他の燃料パラメータの影響(12),(13)

その他の燃料パラメータの効果に関しては、ペレット―被覆管ギャップ幅、ギャップ・ガス組成、被覆管熱処理条件、被覆管内面コーティング、ペレット形状及びペレット・スタック長の条件を変えても、燃料被覆の破損機構は前記[Roman2 ]―(1)項に示した標準燃料の場合と変らず、かつ、燃料被覆の破損しきい値は第3図に示すように標準燃料の場合とほぼ同一であることが確認されている。

(5) 燃料棒バンドル体系の効果(14)

室温・大気圧・自然対流の冷却水条件下で、燃料棒を複数本バンドル体系とし流路断面積を発電用軽水型原子炉の場合と等価にした条件及び単一燃料棒の周囲に種々の流路断面積を有する流路管を配した条件下での実験結果によれば、第4図に示すように、バンドル体系あるいはこれと同等な流路断面積を有する流路管付き燃料棒の被覆の破損しきい値は、標準実験(流路管なしの単一燃料棒)の場合に比べて15%低下している。

これは、バンドル内中央部の燃料棒あるいは流路管内燃料棒の周囲の冷却水サブクール度が減少し、この結果、標準実験の場合に比べて被覆管がより高温となるためである。

(6) 冷却水の強制対流及び高温・高圧条件の影響(15),(16)

冷却条件を、室温・大気圧で強制対流条件(流路管内)とした場合には、熱伝達率が増加するため、第5図に示すように、冷却水流速の増加とともに被覆管温度は減少し、これによって燃料被覆の破損しきい値は上昇する結果となっている。

また、冷却水の温度及び圧力を発電用軽水型原子炉の運転状態に対応する値まで上昇させ、自然対流条件下で単一燃料棒(流路管なし)に対する実験を行った結果、燃料被覆の破損しきい値は、前記[Roman2 ]―(1)項に示した標準実験の場合とほぼ同一であることが確認されている。

[Roman3 ] ペレットの溶融に起因する燃料破損による機械的エネルギ発生

しきい値について

(1) ペレットの溶融に起因する燃料破損と機械的エネルギの発生(6)

燃料に与える発熱量が極めて大きくなると、前記[Roman2 ]項に示した被覆破損とは異なる形態の燃料破損が生じる。すなわち、次項に示すしきい値以上の発熱量を燃料に与えた場合には、ペレットの溶融あるいは蒸発によって燃料棒内圧が急上昇するために、パルス出力の発生直後あるいは発生途中に燃料棒は微細化し、冷却水中に飛散する。この際に、急速な蒸気発生をもたらす結果、圧力波あるいは冷却水塊の飛び上りといった機械的エネルギの発生が観測されている。



第1図 燃料棒内外圧差に対する燃料被覆破損限界



第2図 燃料濃縮度に対する燃料被覆破損しきい値



第3図 ペレット―被覆管ギャップ幅、ギャップ・ガス組成、被覆管熱処理条件、被覆管内面コーティング、ペレット形状及びペレット・スタック長の燃料被覆破損しきい値に及ぼす影響



第4図 自然対流条件における流路断面積の燃料被覆破損しきい値に及ぼす影響



第5図 冷却水流速の燃料被覆管最高温度に及ぼす影響

(2) 上記事象の発生しきい値(6)

NSRRにおける標準実験の結果によれば、燃料棒が微細化し機械的エネルギを発生する限界のピーク出力部発熱量は約285cal/g・UO2から約325cal/g・UO2の間にあり、約285cal/g・UO2以下のピーク出力部発熱量にあっては、機械的エネルギの発生原因となる燃料棒の微細化は起こっていない。

[Roman4 ] 浸水燃料の破裂しきい値及び破裂に伴う機械的エネルギについて

1 浸水燃料の破裂しきい値(17),(18)

(1) 浸水燃料の破裂の機構及び形態

浸水燃料の被覆管の破裂は、燃料内に浸み込み、ペレット―被覆管間のギャップ部に存在する冷却水が、燃料の昇温とともに加熱され、高い内圧を発生することにより生じる。このときの被覆管の内圧破裂の形態は、冷却水の燃料棒内のペレット―被覆管間のギャップ部へ閉じ込められる条件によって2種類に分れることがNSRR実験の結果判明している。すなわち、燃料棒内のギャップ部の殆んど全てが冷却水で満たされた場合、あるいは、部分的な浸水であっても、局所的に閉じ込められる条件が存在する場合には、急速な内圧発生が起こり被覆管温度があまり上昇しない時点で破裂が生じている(低温破裂型)。このような低温破裂型の場合には被覆管の破裂と共に衝撃圧力等の機械的エネルギを発生する。

一方、浸水が部分的で、かつ、ギャップ部の冷却水を閉じ込める条件が弱い場合には、燃料棒内の圧力上昇は比較的ゆるやかとなり、被覆管温度はDNBを生じて上昇し、被覆管がふくれ変形をした後に破裂する(高温破裂型)。この場合には、被覆管のふくれ変形のためにエネルギが消耗され、かつ、破裂口も極めて小さいため、周囲に影響を与えるような機械的エネルギの発生はない。

(2) 浸水燃料の破裂しきい値

NSRRにおいては、室温・大気圧・自然対流の冷却水中で、単一の浸水燃料棒に対する実験が行われている。

その結果によれば、浸水燃料の被覆管の破裂しきい値となるピーク出力部燃料発熱量は約90cal/g・UO2から約100cal/g・UO2の間にあり、ピーク出力部燃料発熱量が約90cal/g・UO2以下では、浸水燃料の被覆管破裂は生じていない。

2 浸水燃料の破裂により生じる機械的エネルギ(19),(20)

(1) 機械的エネルギの形態

浸水燃料の破裂とともに、まず、燃料棒内の圧力が開放される事により、衝撃圧力が生じ、次に、燃料棒中から放出された高温高圧蒸気あるいは、放出された燃料片からの加熱により生じた蒸気の膨張により、冷却水塊の飛び上がり(開水面がある場合)あるいは圧力上昇(開水面がない場合)が生じる。

NSRR実験においては、実験カプセル底部に取付けた圧力計により衝撃圧力を、また、実験カプセル内の水面移動測定から冷却水塊飛び上がり速度を求め、以上に基づき、衝撃圧力のもつ機械的エネルギ及び蒸気の膨張により冷却水塊の飛び上がりとなって現れた機械的エネルギの評価を行っている。

第6図に、実験で測定された衝撃圧力ピーク値を、ピーク出力部燃料発熱量に対して示す。ピーク圧力は、ピーク出力部燃料発熱量にはあまり依存せず、150kg/cm2を超えていない。なお、この圧力値は、圧力発生源より距離の6cmの位置での値であり、体系が大きくなるに伴い、圧力波の伝播の様相に応じて減衰する。

(2) 機械的エネルギの影響

衝撃圧力は隣接する燃料や原子炉圧力容器等に衝撃荷重を及ぼすが、その影響は、対象物により異なる。

NSRR実験においては、浸水燃料に標準燃料や流路管等を隣接させて配置し、浸水燃料の破裂に伴う機械的エネルギの影響が調べられている。

その結果によれば、隣接する燃料棒に変形や破損を生じるような影響は認められていないが、浸水燃料を囲む形で配置された流路管(四角形)はふくれ変形をしている。また、実験カプセル壁にも衝撃荷重に応じた動的な歪応答が認められている。

以上の結果から、浸水燃料を囲むチャンネルボックス等の変形は生じ得るが、燃料破損の伝播・拡大は生じないこと、また、原子炉圧力容器にも、衝撃圧力が冷却材を伝播して、衝撃的な荷重を及ぼす可能性があることが明らかとなった。

一方、蒸気の膨張による機械的エネルギは、開水面がある場合には冷却材の運動エネルギに転化し、吹上げられた冷却水塊が容器壁に衝突した場合には水撃力を及ぼす。また、開水面がない場合には圧力上昇をもたらす。なお、衝撃圧力と蒸気の膨張による機械的エネルギは、同時に発生することはない。

(3) 衝撃圧力のもつ機械的エネルギ評価

衝撃圧力のもつ機械的エネルギは、NSRR実験で測定された圧力履歴から求められている。即ち、圧力履歴に基づき、圧力測定点の単位面積を通過するエネルギを求めこれに衝撃圧力の通過面積を乗じる方法により行われている。なお、実験カプセルは剛な円筒形容器であるためその中での圧力波伝播特性を考慮して圧力の通過面積を定めている。



第6図 浸水燃料破裂時の衝撃圧力ピーク値



第7図 衝撃圧力による機械的エネルギ変換係数及び評価曲線

以上の方法で求めた機械的エネルギを、試験燃料に与えられたピーク出力部の発熱量に燃料重量を乗じた値、すなわちピーク出力部により燃料に与えられた全エネルギで除し、これを機械的エネルギ変換係数としている。

第7図は衝撃圧力に対する機械的エネルギ変換係数をピーク出力部燃料発熱量に対しプロットしたものであり、実線は、機械的エネルギ変換係数の評価曲線である。実験データは、破裂口の大きさのばらつき等の影響により分散しているが、最大値はピーク出力部燃料発熱量に対しやや上昇傾向をもっている。

(4) 蒸気の膨張による機械的エネルギ評価

蒸気の膨張による機械的エネルギは冷却水塊の持つ最大運動エネルギに、冷却水塊飛び上がり最大速度時点までにカプセル内のプレナム部のガス圧縮に使われたエネルギを加算して評価されている。

冷却水塊の質量は、燃料破裂口より上部の冷却水が一体となって吹き上げられたとして評価し、冷却水塊飛び上がり最大速度及びプレナム部の圧縮は実測値に基づいている。

衝撃圧力の場合と同じく、以上の方法で求めた機械的エネルギを、ピーク出力部燃料発熱量に燃料重量を乗じたもので除し、これを機械的エネルギ変換係数としている。

第8図は、蒸気の膨張による機械的エネルギ変換係数をピーク出力部燃料発熱量に対しプロットしたものであり、また、実線は評価曲線を示したものである。数値は、衝撃圧力に対する場合と大差はなく、また、最大値はピーク出力部燃料発熱量に対してやや上昇傾向をもつ。



第8図 線蒸気の膨張による機械的エネルギ変換係数及び評価曲線

参考文献

(1) 石川迪夫,「反応度事故に対する安全性研究」,日本原子力学会誌,Vol.12,No.5,pp276―283(1970).

(2) Ishikawa,M. and Inabe,T., “The Nuclear Safety Research Reactor(NSRR) in Japan”,Advances in Nuclear Science and Technology,Vol.11,pp.285―334(1979),Plenum Publishing Corp.

(3) Saito,S.,et al.,“Measurement and Evaluation on Pulsing Charact‐eristics and Experimental Capability of NSRR”,J.Nucl. Sci.Tec‐hnol.,Vol.14,No.3,pp.226―238(1977).

(4) Ishikawa,M. and Shiozawa,S.,“A Study of Fuel Behavior under Reactivity Initiated Accident Conditions―Review”,J.Nucl. Mater.,Vol.95,pp.1―30(1980).

(5) Ohnishi,N. and Inabe,T.,“Evaluation of Effective Energy Deposition in Test Fuel during Power Burst Experiment in NSRR”,J.Nucl.Sci. Technol.,

Vol.19,No.7,pp.528―542(1982).

(6) 星蔦雄,他,「反応度事故条件下における未照射燃料の破損挙動」,日本原子力学会誌,Vol.20,No.9,pp.651―661(1978).

(7) Shiozawa,S., et al.,“Zircaloy―UO2 and ―Water Reactions and Cladding Temperature Estimation for Rapidly―Heated Fuel Rods under an RIA Condition”,J.Nucl.Sci.Technol.,Vol.19,No.5,pp.363―383(1982).

(8) Saito.S., et al.,“Effects of Rod Pre―Pressurization on Light Water Reactor Fuel Behavior during Reactivity Initiated Accident Conditions”,J.Nucl.Sci.Technol., Vol.19,NO.4,pp.289―306(1982).

(9) 大西信秋,他,「反応度事故条件下における燃料破損挙動に及ぼす発熱分布の影響」,JAERI―M 7990(1978).

(10) 斎藤伸三,他,「NSRR実験における薄肉被覆燃料の破損挙動」,JAERI―M8758(1980).

(11) 吉村富雄,他,「損耗被覆管燃料の反応度事故条件下における破損挙動に関する研究」,船舶技術研究所報告,第17巻,第5号,pp.11―21(昭和55年).

(12) Ishikawa,M.,et al.,“RIA Fuel Behaviors in the NSRR Tests”,Proceedings of OECD/CSNI Specialist Meeting on Safety Aspects of Fuel Behaviour in Off―normal and Accident Conditions(Espoo,Finland,1980).

(13) Fujishiro,T.and Tanzawa,S.,“Effects of Gap Heat Transfer on LWR Fuel Behavior during an RIA Transient:In―pile Experimental Results with Helium and Xenon Filled Rods”,Nucl.Eng.Design,Vol.73(1983).

(14) Ishikawa,M.,et al.,“Recent Results from the NSRR Experiments”,Presented at the USNRC 7th Water Reactor Safety Research Information Meeting(Gaithersburg,U.S.A.,1979).

(15) Fujishiro,T.,et al.,“Effects of Coolant Flow on Light Water Reactor Fuel Behaviors during Reactivity Initiated Accident”,J.Nucl.Sci.Technol.,Vol.18,No.3,pp.196―205(1981).

(16) Kobayashi,S.,et al.,“RIA Fuel Behavior under High Pressure and High Temperature Coolant Conditions”,Proceedings of ANS―ENS Topical Meeting on Reactor Safety Aspects of Fuel Behavior(Sun Valley,U.S.A.,1981).

(17) 大西信秋,他,「軽水動力炉の反応度事故条件下における浸水燃料の破損挙動」,日本原子力学会誌,Vol.24,No.4,pp.289―300(1982).

(18) Ochiai,M.,“WTRLGD―A Computer Program for the Transient Analysis of Waterlogged Fuel Rods under the RIA Condition”,Nucl.Eng.Design Vol.66,No.2,pp,223―232(1981).

(19) Fujishiro,T.,et al.,“A Study on Pressure Generation Caused by Actual Fuel Failure in the NSRR Experiment”,Proceedings of the 4th OECD/C

SNI Specialist Meeting on Fuel―Coolant Interaction in Nuclear Reactor Safety(Bournemouth,U.K.,1979).

(20) 床井博見,他,「反応度事故に伴う破壊エネルギー発生機構の研究」,JAERI―M9840(1981).

添付2 浸水燃料の影響評価

[Roman1 ] 概要

本添付は、反応度投入事象の判断基準のうち浸水燃料に係る基準の適用除外範囲を明らかにするものである。

このため、PWRにおいては、2ループ、3ループ及び4ループの原子炉を、また、BWRにおいては、350MWe級、500MWe級、800MWe級及び1100MWe級の原子炉を対象として、それぞれ次の事象について、汎用性を有するように選定した前提条件に基づき、評価を行った。

(1) PWR

[cir1 ] 運転時の異常な過渡変化のうち、「未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き」

[cir2 ] 事故のうち、「制御棒クラスタ飛出し事故」

(2) BWR

[cir1 ] 運転時の異常な過渡変化のうち、「起動時における制御棒引抜き」

[cir2 ] 事故のうち、「制御棒落下事故」

ただし、運転時の異常な過渡変化については、ピーク出力部の断熱燃料エンタルピが65cal/g・UO2を超えることがなく、浸水燃料の存在を仮定しても破裂は生じないため、本添付では記述を省略した。

[Roman2 ] PWRに対する評価

1 評価方法

PWRにおいては、燃料棒周囲にチャンネルボックスを有していないため、浸水燃料破裂による衝撃圧力によってチャンネルボックスが変形し、制御棒挿入に支障を来すことはない。また、原子炉圧力容器内には、一次冷却材の自由水面がないため、水撃力の発生もない。

従って、ここでは浸水燃料の破裂により発生する衝撃圧力の有する機械的エネルギが原子炉圧力容器に与える影響について評価する。

原子炉圧力容器の健全性は、機械的エネルギが全て原子炉圧力容器に吸収されると仮定して、同エネルギと原子炉圧力容器が降伏点に到るまでに吸収し得る歪エネルギとの対比によって評価を行う。

衝撃圧力による機械的エネルギは、次式で求める。

E=η・



Qi

Qi:破裂した浸水燃料が保有する燃料エンタルピ

η:ピーク出力部断熱燃料エンタルピに対応する衝撃圧力の機械的エネルギ変換係数

Ν:浸水燃料の破裂本数

2 前提条件

前提条件は、安全余裕をとって、以下のように設定する。

[cir1 ] 浸水燃料は、炉内に均一に分布するものとし、その炉内存在比は、全装荷燃料棒本数の1%とする。

[cir2 ] ピーク出力部断熱燃料エンタルピは、最大135cal/g・UO2程度であるが、安全余裕をとって、150cal/g・UO2とする。

[cir3 ] 破裂する浸水燃料の保有エンタルピの算出に当たっては、65cal/g・UO2以下のペレットの燃料エンタルピも加算することとする。

[cir4 ] 破裂する浸水燃料の本数は、高温停止時に全挿入されている制御棒のうち最大の反応度価値を有する制御棒が全行程飛出すと仮定した場合の本数(最大全燃料棒本数の0.16%)に、安全余裕をとって0.25%とする。

[cir5 ] 機械的エネルギ変換係数は、付則第2項において、ピーク出力部断熱燃料エンタルピ150cal/g・UO2に対応する値を用いる。

3 評価結果

衝撃圧力の影響評価結果を第1表に示す。

同表に示すように衝撃圧力のもつ機械的エネルギの、原子炉圧力容器の吸収可能な歪エネルギに対する比は、最大でも約1.9%である。

第1表 衝撃圧力の影響評価結果


  

項目

浸水燃料の破裂本数

(本)

エネルギ変換係数

(%)

機械的エネルギ

(kg・m)

吸収し得るエネルギ

(kg・m)

機械的エネルギ

炉心規模

  

吸収し得るエネルギ(%)

2ループ

55

0.23

9.5×103

5.6×105

1.7

3ループ

104

0.23

1.4×104

7.4×105

1.9

4ループ

128

0.23

1.8×104

9.6×105

1.9

従って、衝撃圧力により原子炉圧力容器の健全性が損なわれることはない。

[Roman3 ] BWRに対する評価

1 評価方法

(1) 原子炉停止能力

原子炉停止能力(高温臨界未満の達成)の評価においては、破裂した浸水燃料の存在する燃料集合体のチャンネルボックスが変形し、それに隣接する制御棒が、スクラム時に挿入されないとして行う。

(2) 原子炉圧力容器の健全性

原子炉圧力容器の健全性の評価については、浸水燃料の破裂時に生じる衝撃圧力と、その後の蒸気の膨張に伴い吹き上げられた冷却水塊の原子炉圧力容器に与える影響について行う。

このうち、衝撃圧力については、その機械的エネルギが全て原子炉圧力容器に吸収されると仮定して、同エネルギと原子炉圧力容器が降伏点に到るまでに吸収し得る歪エネルギとの対比によって評価を行う。

また、蒸気の膨張に伴い吹き上げられる冷却水塊については、その水撃力の評価を行う。

1) 衝撃圧力による機械的エネルギは、次式で求める。

E=η・



Qi

Qi:破裂した浸水燃料が保有する燃料エンタルピ

η:ピーク出力部断熱燃料エンタルピに対応する衝撃圧力の機械的エネルギ変換係数

Ν:浸水燃料の破裂本数

2) 蒸気の膨張に伴い吹き上げられる冷却水塊の重量は、次式で求める。

M=S・H・γ

S:破裂した浸水燃料を含む燃料集合体水平断面積の総和

H:燃料有効部から水面までの距離

γ:水の密度(低温時1g/cm3、高温待機時0.73/cm3)

3) 冷却水塊に与えられるエネルギは、次式で求める。

E=η・



Qi

Qi:破裂した浸水燃料が保有する燃料エンタルピ

η:ピーク出力部断熱燃料エンタルピに対応する蒸気の膨張による機械的エネルギ変換係数

Ν:浸水燃料の破裂本数

4) 冷却水塊に与えられた運動エネルギは損失なく位置エネルギに変換されるとする。

2 前提条件

前提条件は安全余裕をとって以下のように設定する。

1) 原子炉停止能力

[cir1 ] 浸水燃料は、炉内に均一に分布するものとし、その炉内存在比は全装荷燃料棒本数の1%とする。

[cir2 ] ピーク出力部断熱燃料エンタルピは、最大130cal/g・UO2程度であるが、安全余裕をとって150cal/g・UO2とする。

[cir3 ] 炉心状態としては、最も厳しい評価となるよう原子炉停止余裕を設計目標値1.0%△kと仮定する。

[cir4 ] 落下制御棒価値は、制御棒価値ミニマイザで許容される最大の制御棒価値である1.5%△kを仮定する。

[cir5 ] 出力分布は落下制御棒価値1.5%△kの場合を十分包絡するものを用いる。

2) 原子炉圧力容器に対する影響評価

上記の仮定に加えて

[cir1 ] 破裂する浸水燃料の保有エンタルピの算出に当たっては、65cal/g・UO2以下のペレットの燃料エンタルピも加算することとする。

[cir2 ] 破裂する浸水燃料の本数は、後述する原子炉停止能力の評価に際して得られた本数の最大値(52本)を用いる。

[cir3 ] 機械的エネルギ変換係数は、付則第2項においてピーク出力部断熱燃料エンタルピ150cal/g・UO2に対応する値を用いる。

3 評価結果

(1) 原子炉停止能力

――――――――――――――――――――――――――――――

* 浸水燃料の炉内存在比は1%とするが、原子炉停止能力の評価においては、更に集中を考慮し、各燃料集合体に浸水燃料が1本ずつ存在すると仮定する。

制御棒落下事故時に破裂する浸水燃料の本数並びにスクラム時に挿入されない制御棒本数を第2表に示す。

同表に示すように浸水燃料の破裂本数は最大でも52本、スクラム時に挿入されない制御棒本数は、落下制御棒を含めて最大でも9本である。

また、上記9本の制御棒の未挿入を仮定した場合の高温状態での実効増倍率を第2図に示す。

同図に示すように炉心規模によらず、実効増倍率は臨界点を下回っている。従って、スクラム時に上記制御棒が挿入されなくても、高温臨界未満は確保される。

(2) 原子炉圧力容器の健全性

衝撃圧力の影響評価結果を第3表に示す。

同表に示すように衝撃圧力のもつ機械的エネルギの、原子炉圧力容器の吸収可能な歪エネルギに対する比は、最大でも約10%である。従って衝撃圧力により原子炉圧力容器の健全性が損なわれることはない。

蒸気の膨張に伴い吹き上げられる冷却水塊についての影響評価結果を第4表に示す。

同表に示すように、水の密度が小さく、水の上昇距離の大きくなる高温待機時でも水の上昇距離は約2.5mであり、一方水面から原子炉圧力容器までの距離は、最小のものでも4.7m以上あることから、水が原子炉圧力容器に到達することはない。従って、水撃力の原子炉圧力容器に対する影響はない。

[Roman4 ] 結論

前記[Roman2 ]項及び[Roman3 ]項の評価の結果に基づき、次の条件を満足することを示すことにより、反応度投入事象の判断基準のうち、浸水燃料に係る基準の適用を除外することができる。

第2表 浸水燃料の破裂本数とスクラム時に挿入不能となる制御棒本数


炉心規模

浸水燃料の破裂本数

挿入不能制御棒本数

1100MWe級

28

5

800MWe級

32

9

500MWe級

48

9

350MWe級

52

9

なお、本解析において、浸水燃料の存在を炉内均一分布とするのは妥当である。

(1) PWR

[cir1 ] 本添付における評価対象プラントと同程度の炉心規模であること。

[cir2 ] 断熱計算によるピーク出力部の燃料エンタルピを最も厳しくするように選定された前提条件を用いた解析によっても、その結果が150cal/g・UO2以下であること。

[cir3 ] 破裂した浸水燃料棒本数を最大とするように選定された前提条件を用いた解析によっても、その本数が本添付の評価結果の範囲内にあること。

(2) BWR

[cir1 ] (1)―[cir1 ]~[cir2 ]に同じ。

[cir2 ] 原子炉停止余裕は、1.0%△k以上であること。

[cir3 ] 落下制御棒価値は、1.5%△k以下であること。



第1図 スクラム時に挿入不能となると仮定する制御棒(350MWe級の例)



第2図 挿入不能制御棒9本存在時の実効増倍率(高温待機時)

第3表 衝撃圧力の影響評価結果


炉心規模

浸水燃料の破裂本数

(本)

機械的エネルギ変換係数

(%)

機械的エネルギ

(kg・m)

吸収し得る歪エネルギ

(kg・m)

機械的エネルギ/吸収し得る歪エネルギ

(%)

1100MWe級

52

0.23

8.2×103

2.6×105

3.2

800MWe級

52

0.23

8.2×103

1.9×105

4.3

500MWe級

52

0.23

8.2×103

1.4×105

5.9

350MWe級

52

0.23

8.2×103

8.2×104

10.0

第4表 蒸気の膨張に伴い吹き上げられる冷却水塊の影響評価結果


炉心規模

炉心状態

冷却水塊の重量(kg)

冷却水塊のもつエネルギ(cal)

冷却水塊の初速度(m/s)

冷却水塊の上昇距離(m)

1100MWe級

800MWe級

500MWe級

低温時

5.9×103

1.9×104

5.2

1.4

高温待機時

4.3×103

1.9×104

6.1

1.9

350MWe級

低温時

4.4×103

1.9×104

6.0

1.8

  

高温待機時

3.2×103

1.9×104

7.0

2.5

*………水面より原子炉圧力容器上部までの距離

1100MWe級 6.8m以上

800MWe級 6.2m以上

500MWe級 5.7m以上

350MWe級 4.7m以上

添付3 反応度投入事象に係る計算プログラムの感度解析

[Roman1 ] 概要

本添付は、本指針「5 評価のための必要資料」で要求されている「(3) 上記計算プログラムの感度解析結果」の資料として、PWR及びBWRについて現行の許認可申請において安全評価上、使用されている解析コード(以下「許認可解析コード」と言う。)によって行った感度解析の結果と、その評価を示したものである。なお、感度解析結果の評価に際しては、他の解析コードとの比較による検討も行った。

[Roman2 ] PWRに関する感度解析

1 解析方法

PWRの「制御棒クラスタ飛出し事故」及び「未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き」について許認可解析コードを用い、入力パラメータの感度解析を行う。

「制御棒クラスタ飛出し事故」については、4ループプラントを代表とし、許認可解析に使用している入力パラメータを基準として、これらを現実的な範囲で変化させた場合の燃料エンタルピの最大値に及ぼす影響を調べる。また、炉心規模の異なる場合については、代表的な入力パラメータに関してのみ感度解析を実施する。

「未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き」については、4ループプラントについて代表的な入力パラメータに関する感度解析を実施する。

本評価に用いる許認可解析コードは、「制御棒クラスタ飛出し事故」に対しては炉心動特性解析コードTWINKLE(3)と燃料挙動解析コードFACTRAN(3)であり、「未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き」に対しては炉心動特性解析コードCHICKIN―M(3)と燃料挙動解析コードFACTRANである。

なお、「制御棒クラスタ飛出し事故」に関しては参考のため、4ループプラントを対象として、反応度事故解析コードFUREKA(1)(2)を用いて主要な入力パラメータについて感度解析を行い比較検討する。

(1) 制御棒クラスタ飛出し事故

「制御棒クラスタ飛出し事故」に対して、下記の条件で解析を行う。

[cir1 ] 炉心状態は、サイクル末期高温零出力時を対象とする。代表的なパラメータについては、サイクル初期高温零出力時も対象とする。

[cir2 ] 入力パラメータ(表[Roman2 ]―1)は、原則的には許認可解析で用いている値を基準値とし、それから±5%変化させる。但し、熱点熱水路係数、添加反応度及び実効遅発中性子割合については、保守的な値からより現実側の値の方向に変化させる。

なお、炉心規模の異なるプラントの解析は3ループプラント及び2ループプラントを対象とし、代表的な入力パラメータについて解析する。

(2) 未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き

「未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き」に対して、下記の条件で解析を行う。

[cir1 ] 炉心状態はサイクル初期高温零出力時を対象とする。

[cir2 ] 感度解析を行う入力パラメータは、熱点熱水路係数、反応度添加率、ドップラ係数及び実効遅発中性子割合とする。

2 解析結果及び評価

(1) 制御棒クラスタ飛出し事故

表[Roman2 ]―1は、許認可解析コードによる4ループプラントについての主要な入力パラメータに関する感度解析の結果を示したものである。表中、感度として示した値は、燃料エンタルピ最大値の変化量を基準ケースの燃料エンタルピ最大値で除した値を百分率で表したものである。この解析結果から、燃料エンタルピに対して大きな感度を有するパラメータは、添加反応度であり、他のパラメータは解析結果に著しい影響を与えないことが判る。

表[Roman2 ]―2は、代表的な入力パラメータについて、炉心規模の異なるプラントについての感度解析結果を4ループプラントと比較して示したものである。本解析でみられるように、感度解析結果は、炉心規模の異なるプラント間で顕著な差異はみられない。

表[Roman2 ]―3及び表[Roman2 ]―4は、解析モデル等の相違による影響を検討するために行ったEUREKAコードによる解析との比較を示したものである。解析結果は、代表的な入力パラメータに関する感度応答及び燃料エンタルピが、両者でほぼ類似しており解析モデルによる相違はほとんどない。

以上の感度解析の結果から判断して以下のことが言える。

[cir1 ] 4ループプラントに対する許認可解析コードによる感度解析結果は、他の比較コードの結果とほぼ一致し、モデル等の相違による影響は見られないので、妥当なものと考える。

[cir2 ] 4ループプラントの感度解析結果は、3ループプラント及び2ループプラントの感度解析に代用することができる。

(2) 未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き

表[Roman2 ]―5は、「未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き」に対する主要な入力パラメータについての感度解析の結果を示したものである。この表に示されるように、いずれの入力パラメータの変化も、解析結果に著しい影響を及ぼすことはない。

表[Roman2 ]―1 許認可解析コードによる感度解析結果

(制御棒クラスタ飛出し事故(4ループプラント))


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E/E

項目

変化幅

サイクル末期

注3)

サイクル初期

注2)注4)

熱点熱水路係数

"5%

"4

"4

"10%

"9

"9

添加反応度

1.0→0.9%△K/K

"16

  

  

  

1.0→0.8%△K/K

"31

  

  

  

0.7→0.65%△K/K

  

  

"16

  

0.7→0.60%△K/K

  

  

"31

注4)

ドップラ係数

+5%

"4

"4

"5%

+5

+4

ドップラウェイティング係数

+5%

"4

"4

"5%

+4

+4

減速材密度係数

+5%

"1

"5%

0

  

原子炉初期出力

10"9→10"10定格比

0

  

10"9→10"8定格比

0

  

注4)

実効遅発中性子割合

+5%

"3

"6

+10%

"6

"12

即発中性子寿命

+5%

0

  

"5%

0

  

冷却材流量

46→48.3%定格

0

  

46→43.7%定格

0

  

注2)

燃料棒内メッシュ分割数

10→8

0

10→6

+1

  

時間メッシュ幅

×1/2

"1

  

×2

+1

  

注1) △E:エンタルピ偏差 E:基準ケース燃料エンタルピ

注2) 熱点熱水路係数と燃料棒内メッシュ分割数の項目は、燃料挙動解析コードに使用し、他の項目は、炉心動特性コードと燃料挙動解析コードに使用して感度解析を実施した。

注3) ――は解析を実施していないことを示す。

注4) 本解析に使用した入力値例(サイクル末期)

熱点熱水路係数 22.1

ドップラ係数 温度上昇により吸収断面積を補正(初期状態にて−2.7×10−5△K/K/℃相当)

実効遅発中性子割合 0.0044

表[Roman2 ]―1と表[Roman2 ]―2に示す解析結果と比較検討すると、本解析結果は、炉心規模によらず適用できるものと判断する。

[Roman3 ] BWRに関する感度解析

1 解析方法

BWRの「制御棒落下事故」及び「起動時における制御棒引抜き」について許認可解析コードを用い、入力パラメータの感度解析を行う。

「制御棒落下事故」については、1,100MWe級高速スクラムプラントを代表とし、許認可解析に使用している入力パラメータを基準として、これらを現実的な範囲で変更した場合の燃料エンタルピの最大値に及ぼす影響を調べる。また炉心規模の異なる場合等については代表的な入力パラメータに関してのみ、感度解析を実施する。

「起動時における制御棒引抜き」については、1,100MWe級高速スクラムプラントについて代表的な入力パラメータに関する感度解析を実施する。

本評価に用いる許認可解析コードは、炉心動特性解析コードAPEXと燃料挙動解析コードSCATである。(4)(5)

なお「制御棒落下事故」に関しては参考のため、1,100MWe級高速スクラムプラントを対象として、反応度事故解析コードEUREKAを用いて主要な入力パラメータについて感度解析を行い比較検討する。

(1) 制御棒落下事故

「制御棒落下事故」に対して、下記の条件で解析を行う。

[cir1 ] 炉心状態は、サイクル初期冷温時、サイクル初期高温待機時、サイクル末期冷温時及びサイクル末期高温待機時を対象とする。

[cir2 ] 入力パラメータ等(表[Roman3 ]―1)は、原則的には許認可解析で用いている値を基準値としそれから±5%変化させる。但し、制御棒反応度価値、スクラム速度、制御棒落下速度、冷却材流量及び初期出力については、より現実側の値の方向に変化させる。

なお、炉心規模の異なるプラントの解析は、800MWe級、500MWe級及び350MWe級プラントを対象とし、代表的な入力パラメータについて解析する。

また、従来スクラムプラントについても代表的な入力パラメータについて解析する。

表[Roman2 ]―2 炉心規模の異なるプラントに対する許認可解析コードによる感度解析結果

(制御棒クラスタ飛出し事故(サイクル末期))


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E/E

項目

変化幅

4ループ

3ループ

2ループ

注2)

熱点熱水路係数

"5%

"4

"5

"4

"10%

"9

"9

"9

添加反応度

1.0→0.9%△K/K

"16

  

  

  

  

  

1.0→0.8%△K/K

"31

  

  

  

  

  

0.947→0.85%△K/K

  

  

"19

  

  

  

0.947→0.75%△K/K

  

  

"36

  

  

  

0.9→0.8%△K/K

  

  

  

  

"16

  

0.9→0.7%△K/K

  

  

  

  

"34

ドップラ係数

+5%

"4

"4

"4

  

"5%

+5

+5

+4

実効遅発中性子割合

+5%

"3

"3

"3

  

+10%

"6

"6

"6

注1) △E:エンタルピ偏差 E:基準ケース燃料エンタルピメータについて解析する。

注2) 熱点熱水路係数の項目は、燃料挙動解析コードに使用し、他の項目は、炉心動特性解析及び燃料挙動解析コードに使用して感度解析を実施した。

表[Roman2 ]―3 燃料エンタルピ最大値に対する許認可解析コードとEUREKAコードとの比較(制御棒クラスタ飛出し事故(4ループプラントサイクル末期))


項目

許認可解析コード

EUREKAコード

燃料エンタルピの最大値

(cal/g・UO2)

138

128

表[Roman2 ]―4 許認可解析コードとEUREKAコードの感度解析結果の比較

(制御棒クラスタ飛出し事故(4ループプラントサイクル末期))


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E/E

項目

変化幅

許認可解析コード

EUREKAコード

添加反応度

1.0→0.8%△K/K

"31

"30

ドップラ係数

"5%

+5

+5

燃料ペレット内メッシュ分割数

20→10 注2)

  

0

10→8 注3)

0

  

注1) △E:エンタルピ偏差 E:基準ケース燃料エンタルピ

注2) EUREKAコードの場合

注3) 許認可解析コードの場合

表[Roman2 ]―5 許認可解析コードによる感度解析結果

(未臨界状態からの制御棒クラスタバンクの異常な引抜き(4ループプラントサイクル初期))


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E/E

項目

変化幅

注2)

熱点熱水路係数

"5%

"3

"10%

"7

反応度添加率

"5%

"1

  

"10%

"3

ドップラ係数

+5%

"4

  

"5%

+5

実効遅発中性子割合

"5%

"2

  

"10%

"4

注1) △E:エンタルピ偏差

E:基準ケース燃料エンタルピ

注2) 熱点熱水路係数の項目は、燃料挙動解析コードに使用し、他の項目は、炉心動特性コードと燃料挙動解析コードに使用して感度解析を実施した。

(2) 起動時における制御棒引抜き

「起動時における制御棒引抜き」に対して、下記の条件で解析を行う。

[cir1 ] 炉心状態は、サイクル末期高温待機時を対象とする。

[cir2 ] 感度解析を行う入力パラメータは、ドップラ反応度係数、局所出力ピーキング係数及び制御棒引抜速度とする。

2 解析結果及び評価

(1) 制御棒落下事故

表[Roman3 ]―1は、許認可解析コードによる1,100MWe級高速スクラムプラントについての主要な入力パラメータに関する感度解析結果を示したものである。表中、感度として示した値は燃料エンタルピ最大値の変化量を基準ケースの燃料エンタルピ最大値で除した値を百分率で表したものである。この解析結果から、燃料エンタルピに対して大きな感度を有するパラメータは、制御棒反応度価値であり、他のパラメータは解析結果に著しい影響を与えないことが判る。

表[Roman3 ]―2は、代表的な入力パラメータについて、従来スクラムプラント及び炉心規模の異なるプラントについての感度解析結果を1,100MWe級高速スクラムプラントと比較して示したものである。本結果にみられるように、高速スクラムと従来スクラムプラントでは両者の間で感度解析結果に顕著な差異はみられない。また、炉心規模の異なるプラントに関しても感度解析結果に顕著な差異はみられない。

表[Roman3 ]―3及び表[Roman3 ]―4は、解析モデル等の相違による影響を検討するために行ったEUREKAコードによる解析結果との比較を示したものである。許認可解析コードが減速材フィードバックを考慮しないモデルに基づいて作られているため、表[Roman3 ]―3では、減速材フィードバックの無い場合、有る場合の両者につきEUREKAコードによる解析を行い燃料エンタルピの最大値について比較した。表が示すように減速材フィードバックを考慮すると、燃料エンタルピの最大値は、考慮しない場合約150cal/g・UO2であるのに対し、約80cal/g・UO2に低下している。また、許認可解析コードの結果は、減速材フィードバックの無い場合のEUREKAコードの結果とほぼ類似している。このことから、減速材フィードバックを考慮していない許認可解析コードは、燃料エンタルピの評価において十分安全側の結果を与えることが判る。表[Roman3 ]―4は両コードによる減速材反応度フィードバックのモデル上の相違を考慮して比較的減速材反応度フィードバックの影響の小さいピーク出力部について感度を比較したものである。結果はモデル上の相違にも係わらず比較的良い一致を示しており、代表的なパラメータに関する感度応答上の差は見られない。

以上の感度解析の結果から判断して以下のことが言える。

[cir1 ] 許認可解析コードは燃料エンタルピの評価において安全側の結果を示す。

[cir2 ] 1,100MWe級高速スクラムプラントに対する感度解析結果は、他の解析コードの結果との比較から妥当なものと考える。

[cir3 ] 1,100MWe級高速スクラムプラントの感度解析結果は炉心規模等によらず適用できる。

(2) 起動時における制御棒引抜き

表[Roman3 ]―5は、「起動時における制御棒引抜き」に対する主要な入力パラメータについての感度解析の結果を示したものである。この表に示されるように、いずれの入力パラメータの変化も、解析結果に著しい影響を及ぼすことはない。

表[Roman3 ]―1と表[Roman3 ]―2に示す解析結果と比較検討すると、本解析結果は、炉心規模等によらず適用できるものと判断する。

[Roman4 ] 結論

前記[Roman2 ]項及び[Roman3 ]項の感度解析結果から、感度解析の対象とした炉型及びそれと類似の炉型については、現行の許認可解析コードを用いて解析する場合、本指針「5 評価のための必要資料」で要求されている「(3) 上記計算プログラムの感度解析結果」の資料を省略して差し支えないものと判断する。

なお、核熱水力設計、運転条件等の解析条件が異なる場合、本添付3に示された感度解析結果の適用性について評価検討が必要である。

参考文献

(1) M.Ishikawa, et. al., “EUREKA:A Computer Code for Uranium‐Oxide Fueled,Water Cooled Reactor Kinetic Analysis”,JAERI―1235(1974).

(2) 標、青山、「反応度事故解析コードEUREKAの改良」、JINS―0107(1982).

(3) 「三菱PWRの事故解析コードの概要」

(三菱原子力工業株式会社 MAPI―1017改2 昭和52年)

(4) 「沸騰水形原子力発電所制御棒落下事故の評価」

(東京芝浦電気株式会社 TLR―017 昭和52年5月)

(5) 「沸騰水形原子力発電所反応度事故解析手法について」

(株式会社日立製作所 HLR―012 昭和52年7月)

表[Roman3 ]―1 制御棒落下事故に対する許認可解析コードによる感度解析結果

(1,100MWe級、高速スクラムプラント)


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E/E

  

サイクル初期

サイクル末期

項目

変化幅

低温時

高温待機時

低温時

高温待機時

制御棒反応度価値

1.5→1.3%△K

"23

"17

"20

"16

1.5→1.0%△K

"59

"46

"54

"37

スクラム速度

1.84→1.4S/75%

"8

"5

"5

"5

制御棒落下速度

0.95→0.70m/S

"11

  

"9

  

0.95→0.83m/S

  

"5

  

"4

冷却材流量

20→25%定格

0

0

0

0

20→30%定格

0

0

0

0

注2)

ドップラ係数

+5%

"7

"5

"8

"6

"5%

+7

+5

+8

+6

注2)

実効遅発中性子割合

+5%

"2

"1

"1

"2

"5%

+2

0

+1

0

注2)

即発中性子寿命

+5%

+1

+1

+1

0

"5%

"1

"1

"1

0

注2)

局所出力ピーキング係数

+5%

+5

+5

+5

+4

"5%

"5

"4

"5

"5

初期出力

10"8→10"9定格

+3

  

  

+2

  

  

  

10"8→10"7定格

"3

  

  

"2

  

  

  

10"6→10"7定格

  

+3

  

+1

  

10"6→10"5定格

"3

"2

  

10"6→10"3定格

"9

"4

燃料棒内メッシュ

注3)

4―5―11→5―5―10

0

0

0

0

4―5―11→3―5―12

0

0

0

0

注1) △E:エンタルピ偏差 E:基準ケース 燃料エンタルピ

注2) 本解析に使用した入力値例(サイクル末期高温待機時)



実効遅発中性子割合 0.0055

即発中性子寿命 44μS

局所出力ピーキング係数 1.07

注3) 燃料棒内メッシュ4―5―11 ペレット径を3分割した場合、内側に4点、中間領域に5点、外側領域に11点をとる。

表[Roman3 ]―2 炉心規模及びスクラムの異なるプラントに対する許認可解析コードによる感度解析結果

(制御棒落下事故(サイクル末期高温待機時))


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E/E

  

1,100MWe級

800MWe級

500MWe級

350MWe級

項目

変化幅

高速スクラム

従来スクラム

高速スクラム

従来スクラム

従来スクラム

従来スクラム

落下制御棒反応度価値

1.5→1.0%△K

"37

注2)

"37

"37

"36

  

1.3→1.0%△K

("25)

注2)

"26

  

1.2→1.0%△K

("18)

"17

ドップラ係数

+5%

"6

"5

"6

"5

"6

"5

"5%

+6

+6

+6

+6

+5

+5

局所出力ピーキング係数

+5%

+4

+5

+4

+4

+5

+4

"5%

"5

"5

"4

"5

"5

"4

注1) △E:エンタルピ偏差 E:基準ケース 燃料エンタルピ

注2) ( )内は参考値

表[Roman3 ]―3 燃料エンタルピの最大値に対する許認可解析コードとEUREKAコードとの比較

(制御棒落下事故(1,100MWe級高速スクラムプラントサイクル末期高温待機時、初期出力=10−3定格))


項目

許認可解析コード

EUREKAコード

減速材フィードバック効果

無し

無し

有り

燃料エンタルピの最大値

(cal/g・UO2)

注1)

  

  

148

156

76

注1) EUREKAコードに合わせるため、燃料エンタルピは局所出力ピーキング係数(1.07)で除した値。

表[Roman3 ]―4 許認可解析コードとEUREKAコードの感度解析結果の比較

(制御棒落下事故(1,100MWe級高速スクラムプラント、サイクル末期高温待機時))


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E′/E′

項目

変化幅

許認可解析コード

(ピーク出力部断熱エンタルピ)

EUREKAコード

(ピーク出力部エンタルピ)

初期出力

10"8→10"6定格

+20

+22

ドップラ係数

"5%

+6

+4

落下制御棒価値

1.5→1.0%△K

"28

"27

注1) △E′:エンタルピ偏差(ピーク出力部) E′:基準ケース 燃料エンタルピ(ピーク出力部)

表[Roman3 ]―5 起動時における制御棒引抜きに対する許認可解析コードによる感度解析結果

(1,100MWe級高速スクラムプラント、サイクル末期高温待機時)


入力パラメータ

注1)

感度(%)△E/E

項目

変化幅

ドップラ係数

+5%

0

  

"5%

0

局所出力ピーキング係数

+5%

+1

  

"5%

"1

制御棒引抜速度

9.1→7.6cm/S

0

注1) △E:エンタルピ偏差 E:基準ケース 燃料エンタルピ