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原子力発電所等周辺の防災対策について

昭和五五年六月三〇日
原子力安全委員会

原子力発電所等周辺の防災対策について

一 序

原子力発電所等の原子力施設については、原子炉等規制法等によって事故の発生防止、事故の拡大防止及び災害の防止について十分な安全対策が講じられており、周辺住民の健康と安全の確保が図られている。昭和五四年三月に発生した米国スリーマイルアイランド原子力発電所の事故においても、結果的には、放射線被ばくの面からは周辺住民の退避等の措置は必要なかったものと評価されている。

一方、災害対策基本法においては万一の場合に備えて、放射性物質の大量の放出による影響をできる限り低減するための対策が講じられることになっている。即ち、万一の放射性物質の大量放出のような異常事態が発生した場合には、地方公共団体は原子力防災計画を含む地域防災計画に従い、原子力事業者等は防災業務計画等に従ってそれぞれ防災活動を行うこととなっている。また、国の関係行政機関においても、それぞれの防災業務計画に従い緊密な協力のもとに地方公共団体等が現地において行う防災活動に対して必要な指示、助言、専門家の派遣等を行うなどの措置を講ずることとなっている。このような原子力に関する防災計画は、これまでに遭遇してきた種々の一般災害の経験に立脚し原子力災害の特殊性を勘案して立案されているものであって、原子力防災についての正しい理解に基づいた対応が行われれば、万一の放射性物質の大量の放出という事態においても有効にその影響を軽減することができるものと考えられる。

このような原子力防災体制に加え、スリーマイルアイランド原子力発電所の事故を契機に我が国の原子力発電所等に係る防災対策を充実整備するとの観点から、昭和五四年七月一二日、中央防災会議において「原子力発電所等に係る防災対策上当面とるべき措置」が決定された。これは現地において実質的に災害応急対策を実施する地方公共団体に対して国の体制的及び技術的な支援が明らかになったという意味から既存の原子力防災計画を一層充実したものである。

また、原子力安全委員会は、昭和五四年六月二八日に「緊急技術助言組織」を設置することを決定し、前述の中央防災会議決定にこの「緊急技術助言組織」が組み込まれ、万一の場合に国に対して技術的助言を行う体制の整備を行った。これに先立ち、原子力安全委員会は昭和五四年四月二三日に、原子力発電所等周辺防災対策専門部会を、原子力発電所等の周辺の防災活動のより円滑な実施を図るために必要な専門的事項について調査審議することを目的として設置した。

本専門部会は、原子力災害特有の事象に着目し原子力発電所等の周辺における防災活動のより円滑な実施が行なえるように技術的、専門的事項について検討した結果をとりまとめ、原子力安全委員会は、昭和五五年六月に本「原子力発電所等周辺の防災対策について」を決定した(平成元年一部改正)。

その後、技術の進展を踏まえ、本専門部会は、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムの取入れを中心に見直しを行ってきたが、今般これをとりまとめたので報告する。

二 防災対策一般

二―一 原子力防災対策の特殊性等

放射性物質の大量の放出が生ずるか又はそのおそれのある場合の防災活動としては、施設における異常事態の検知及び関係機関への情報の連絡に始まり、災害に関する情報収集の一環としての緊急時モニタリングの開始、対応組織の確立のための災害対策本部の設置、住民への情報伝達を含む連絡体制の確立、関係諸機関の所定の行動、災害の低減化のための住民の行動に関する指示等が挙げられる。

これらの防災活動を含む原子力防災対策には、一般防災対策活動に共通あるいは類似するものに加えて原子力に特有なものがある。原子力防災対策の特殊性としては、異常な自然現象又は大規模火災若しくは爆発に起因する災害に係る対策とは異なり、放射線による被ばくが通常五感に感じられないこと、被ばくの程度が自ら判断できないこと、一般的な災害と異なり自らの判断で対処できるためには放射線等に関する概略的な知識を必要とすること等が挙げられる。

一方、通信連絡、住民の退避措置、飲食物の摂取制限等の防災対策の実施については、一般防災対策との共通性あるいは類似性があるので、専門知識に基づく適切な指示があれば、これを活用した対応が可能である。

従って万一、放射性物質の大量の放出が生ずるか又はそのおそれのある場合には、前述の特殊性及び類似性等を勘案して周辺住民の心理的な動揺あるいは混乱をおさえ、異常事態による影響をできる限り低くするという目標を達成しなければならない。

この目標を達成するためには、災害対策基本法に基づいて原子力の防災計画の整備を図り、万一の場合に備えて種々の活動を円滑かつ有効に行われるよう普段から準備が必要である。

二―二 放射性物質の放出及び被ばくの態様

原子力防災計画の立案あるいは充実を図るに当たって基本となる放射性物質の放出及び被ばくの態様についての考え方を述べる。

原子力発電所等に内蔵されている放射性物質としては、核分裂生成物、超ウラン核種及び誘導放射化物がある。これらの放射性物質のうち異常事態において周辺環境に大量に放出される可能性が高い物質としては、気体状の物質及び揮発性の物質が考えられる。従って広域に影響を及ぼし原子力防災計画において考慮すべき核種は、気体状の放射性物質である希ガスのクリプトン及びキセノン並びに揮発性の核種であるヨウ素である。なお、気体状の物質及び揮発性の物質に付随して粒子状の物質が放出される場合にも、前記の核種に対する対策を充実しておけば、所要の対応ができるものと考えられる。

放出された放射性物質は、プルームとなって風下方向に移動し、拡散によって濃度は低くなる。風下方向の大気中の放射性物質の濃度は、放出量、放出源からの距離、放出の高さ、風速及び大気安定度(大気拡散の程度を示すもの)の関数として表わされる。更に、地勢によっても影響を受けるが、これは風洞実験によって確かめることができる。また、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(以下「SPEEDIネットワークシステム(注)」という。)により、実気象情報による地形の影響を含めた移流・拡散の予測計算を行うことができる。

(注) 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDIネットワークシステム)

原子力発電所等の緊急時に、各地方公共団体の連続モニタの気象観測情報、気象庁のアメダス情報、地形情報、放出源情報等を基に、風速場、大気中放射性物質濃度、予測線量当量の計算等を行う計算・通信ネットワークシステムである。

放射性物質の通過による被ばくとしては、大気中の放射性物質による外部全身被ばく及び放射性物質の吸入による内部被ばくがある。これらの被ばくは放射性プルームの放射性物質濃度、放射線のエネルギー及び放射性プルームによる影響の継続時間に比例する。従って、これらの被ばくを低減する措置としては、放出源からの風下軸からなるべく遠ざかることが有効であり、その地域のその時期における卓越した風向及び風向の変化を考慮し、風下軸からある幅を持った範囲の地域の住民に対して措置を講ずればよいこととなる。また、他の被ばく形態としては、地表に沈着した放射性物質による外部全身被ばく及び放射性物質を含む飲食物の経口摂取等による内部被ばくがある。

液体状の放射性物質については、周辺環境に到達するまでには多数の障壁があり、周辺環境に重大な影響を及ぼすような流出の可能性は殆ど考えられない。

以上に述べたことから原子力防災対策の立場から重要な被ばくとして考えなければならないのは放射性プルームの通過にともなう希ガス及びヨウ素のガンマ線による外部全身被ばく並びにヨウ素の吸入による甲状腺被ばく、飲食物の摂取による甲状腺被ばくが挙げられる。

二―三 施設内の防災対策及び異常事態の把握

原子力施設については、原子炉等規制法等に基づき事故の発生防止、事故の拡大防止及び災害の防止について十分な安全対策が講じられている。

しかしながら、これらの安全対策にもかかわらず、大量の放射性物質が周辺に放出されるような事態が万一生じた場合にその影響を最小限に食い止めるための施設内における対策は施設内において責任をもって実行されなければならない。従って施設側においては、この施設内の対策及び施設外への協力体制に関し計画を策定し、従業員に対する教育と訓練を実施し、万一の場合に遺漏のないように準備しておくことが必要である。特に、周辺防災対策の適切な実施のためには、以下に述べる防災対策上の異常事態に関する情報を施設側から関係機関へ迅速かつ正確に提供することは、施設側の極めて重大な責務である。

これに加えて、ある原子力発電所等に事故が生じた場合、近隣の施設がその保有する専門家と機器等を動員して防災対策に積極的に協力することが期待される。これらの施設内外の防災対策が円滑に行われるように施設側及び関係機関の連絡調整を図っておく必要がある。

(一) 防災対策上の異常事態の態様とその対応

原子力発電所等において放射性物質の大量放出があるか又はそのおそれがあるような異常事態が瞬時に生ずることは殆ど考えられないことであり、事前になんらかの先行的な事象の発生及びその検知があると考えられる。このような先行的事象は、原子力発電所等の防護設備及び慎重な対応等によって必ずしも周辺住民に影響を与えるような事態に至るとは考えられないが、万一そのような事態になったとしても、これに至るまでにはある程度の時間的経過があるものと考えられる。

この時間的余裕を有効に利用することは、万一の場合の災害応急対策の実施に当たって重要な因子となる。従って異常事態またはそれに先行する事象の発生が検知された場合には、その情報が施設側から防災業務関係機関のうちの重要な役割をはたす国の関係機関、地元都道府県及び地元市町村に迅速に伝えられ、その情報の内容によってこれらの機関が、災害対策本部の設置の準備を行う等、放射性物質の大量の放出という事態に対して必要とされる時間的余裕を効率的に利用できるように体制を整えておく必要がある。敷地外における災害応急対策を実施する必要のある異常事態の原因としては、例えば原子力発電所においては原子炉の炉心の大規模な損傷が考えられる。従って炉心損傷の発生の前段階で前述の通報及び準備を行う必要があるが、この炉心の大規模な損傷の発生の前段階として想定される事象としては、例えば一次冷却材バウンダリの破損事象が挙げられる。

(二) 異常事態の把握の手段

原子力発電所等において放射性物質の大量の放出にいたるか又はそのおそれのある場合には、災害応急対策の準備及びその異常事態の拡大の防止という面から、事態の状況把握が重要となる。このため、原子力発電所等の施設側からの状況報告が迅速かつ正確に国の関係機関、地元都道府県及び地元市町村に行われなければならない。この施設側からの状況報告の内容としては、第一に施設からの放射性物質の放出状況(量、組成及び継続時間等)と敷地境界等における空間放射線量率であり、第二に主要な地点における予測線量当量と事態の今後の見通しであり、第三にこれらの裏付けのための施設の状況に関する情報が必要と考えられる。

このような情報が緊急時に迅速かつ正確に伝えられるためには、あらかじめ通報様式を定め、施設側においては通報様式のなかの情報が迅速に得られるような措置を講じておく必要がある。

通報様式の例を付属資料に示す。この例は軽水型原子力発電所を対象としたものであるが、他の形式の原子力施設については、この通報様式を準用して定めるべきである。

二―四 周辺住民に対する知識の普及と啓蒙

原子力災害の特殊性に鑑み、原子力発電所等の周辺住民に対して緊急時に混乱と動揺を起こすことなく現地災害対策本部の指示に従って秩序ある行動をとれるように普段から原子力防災に関する知識の普及及び啓蒙を行う必要がある。その内容としては例えば次のものが挙げられる。

(イ) 放射線及び放射性物質の特性

(ロ) 原子力発電所等施設の概要

(ハ) 原子力災害とその特殊性

(ニ) 原子力災害発生時における留意事項

これらの知識の普及及び啓蒙に当たっては、周辺住民が理解しやすい内容として行わなければならないが、その手段についてもパンフレット、映画、スライド等の多様性を持たせる必要がある。さらに、学校、職場等のある集団毎にその集団の責任者及び構成員に対して、実態に則した知識の普及及び啓蒙を図ることが有効であると考える。

広報の内容としては例えば、(イ)では放射性物質から発生する(あるいは有する)放射線及び放射性物質の性質等、(ロ)では施設の安全性のしくみ及び国、地方公共団体及び施設側が行う平常時あるいは緊急時の環境放射線の監視のしくみ、(ハ)では放射性物質による被ばくの様相と放射線の影響及び被ばくを避ける方法、(ニ)では緊急時の通報連絡、防災活動の手順等が考えられるが、特に周辺住民は災害対策本部の指示に従った行動をとることが肝要であることを周知徹底することが重要である。

二―五 教育及び訓練

(一) 教育

緊急時における災害応急対策が円滑かつ有効に行われるためには、防災業務関係者が万一の場合にも沈着冷静な判断、指示及び行動をすることが肝要である。ことに周辺住民の心理的な動揺あるいは混乱をおさえるためには防災業務関係者が原子力防災対策に習熟することが最も重要となる。このために現地対策本部の組織のなかで種々の災害応急対策を実施する防災業務関係者に、原子力防災対策に関する教育を行うことが必要となる。

教育の内容及び程度は、防災業務関係者の有している原子力に関する知識と防災体制のなかでの役割によって異なるが、原子力に関する基礎的な知識の他に原子力防災に関する内容として次のものが必要であると考える。

(イ) 原子力防災体制及び組織に関する知識

(ロ) 原子力発電所等の施設に関する知識

(ハ) 放射線防護に関する知識

(ニ) 放射線及び放射性物質の測定方法及び機器を含む防災対策上の諸設備に関する知識

これらの教育については、日本原子力研究所及び放射線医学総合研究所が実施している原子力防災に係る研修コースを充実して活用すべきであると考える。

(二) 訓練

緊急時における災害応急対策が円滑かつ有効に行われるためには、前述の周辺住民に対する知識の普及と啓蒙及び防災業務関係者に対する教育とともに、防災訓練を行い、その結果を評価検討することによって防災体制の改善を図ることが必要である。

訓練に関しては、原子力防災の特殊性及び一般防災との共通点に着目する必要がある。即ち、原子力防災においては、周辺住民に指示する立場の防災業務関係者が沈着冷静かつ適切な対応を行い、周辺住民がこれら防災業務関係者の指示を守り秩序ある行動をとれば、一般防災と同様に実効性のある措置を講じることができる。

従って、防災業務関係者の訓練を、前述の教育の徹底状況及び地域防災体制の整備状況に応じて行うことが必要である。

防災業務関係者が行う訓練としては、次に掲げる順序で段階的に行うことが望ましい。

(イ) 緊急時通信連絡訓練

(ロ) 緊急時環境放射線モニタリング訓練

(ハ) (イ)、(ロ)及び周辺住民に対する情報伝達を組み合わせた訓練

(ニ) 国の支援体制を含めた総合訓練

これらの訓練によって防災業務関係者が原子力防災対策に習熟し、周辺住民への指導性を確立すること及び周辺住民の知識の普及と啓蒙が行われることとなれば、万一の放射性物質の大量の放出という事態に対して所要の対応ができるものと考える。

二―六 諸設備の整備

原子力防災対策を円滑に実施するためには、あらかじめ緊急通信連絡網、防災業務関係者が必要とする機器等、緊急時環境放射線モニタリングに関する設備及び機器並びに緊急時医療設備等の整備が必要である。

(一) 周辺住民等に対する緊急時の情報伝達網

緊急時において、周辺住民の行動に関する指示が迅速かつ正確に伝達されるような組織及び設備の充実が必要である。特に原子力防災対策にとっては、周辺住民の混乱と動揺を避けることが肝要であって、そのためにも正確な情報の迅速な伝達が重要である。

組織としては、地域防災計画あるいは実施細目等において、情報伝達に関する責任者及び実施者をあらかじめ定め、同様にして定めたある区域あるいは集落の責任者に迅速かつ正確な情報が伝達されるよう配慮されることが必要である。

情報の伝達に必要な設備としては、通常の電話の他に、防災無線網、有線放送及び広報車等が挙げられる。また、緊急時においては、テレビジョン及びラジオ等のニュースメディアに対し積極的に情報伝達に関する協力を求めることも重要である。なお、周辺海域の船舶への情報伝達に関しては、漁業無線、船舶通信の活用が考えられるが、陸上における広報車の活用と同様に海上保安庁の船舶等による情報の伝達も考慮すべきである。

周辺住民に対する情報としては、左記の項目について単純かつ理解しやすい表現とし、心理的不安感を除去するために定期的に伝達することが必要である。

(イ) 異常事態が生じた施設名及び発生時刻

(ロ) 異常事態の状況と今後の予想

(ハ) 各区域あるいは集落別の住民のとるべき行動についての指示

(二) 防災業務関係機関相互の情報連絡設備

緊急時においては、電話のふくそうの発生及び原子力事業者と原子力防災対策上重要な役割をはたす地方公共団体及び国の関係機関の通信回線が不足する場合等が考えられる。このためこれらの施設、機関等の情報連絡網については、専用線の設置のほか、既存の設備について再検討し緊急時に必要な通信連絡が迅速かつ的確に行えるようその整備を図っておくことが必要である。さらに、SPEEDIネットワークシステムによる予測情報等を伝達するための通信回線の整備が必要である。

また、原子力発電所等の施設、地方公共団体、国の関係機関相互の情報連絡は、技術的あるいは専門的な事項が多く、口頭による連絡では迅速性及び正確性に欠ける場合があること、かつ、図面、地図及び表を用いての情報伝達が必須と予想されるところからファクシミリの整備が必要である。

(三) 防災業務関係者が必要とする機器等

緊急時において、環境モニタリング及び周辺住民の避難誘導等に従事する防災業務関係者が必要とする機器等は、線量当量を正しく把握するための機器等及び被ばくを低減するための機器等が考えられる。線量当量を正しく把握するためには、フィルムバッジ、ポケット線量計、アラームメータ等が必要であり、被ばくの低減化のためには、防護マスク、ヨウ素剤等が必要となる。

また、野外活動を円滑かつ有効なものとするためトランシーバ及び輸送手段の確保が必要である。

(四) 緊急時環境放射線モニタリングに関する設備及び機器

緊急時において周辺環境の放射線及び放射性物質に関する情報を得るためには、緊急時環境放射線モニタリングに関する体制、設備及び機器の整備が必要である。詳細については、第四章で述べるが、緊急時環境放射線モニタリングの円滑な実施のためには、組織及び実施計画の整備のほか、設備及び機器に関して、モニタリングポストの整備、周辺各地の積算線量測定用のTLD、可搬型の計測用機器及び連絡手段としてのトランシーバの準備等が必要である。

(五) SPEEDIネットワークシステムの整備・維持

SPEEDIネットワークシステムを有効に活用するためには、気象情報と放出源情報を迅速かつ的確に収集することが重要であり、あらかじめ、国、地方公共団体、施設者等の間で十分に協議し、平常時からSPEEDIネットワークシステムと環境モニタリングテレメータシステムとを接続するなど、これに関する情報伝達のネットワークを整備・維持し、緊急時のための協力体制を整えておくことが必要である。

(六) 緊急時医療設備等

緊急時医療設備等については、第六章に詳細に述べるが、整備すべきものとして、一般的救急医療に対する適切な施設及び設備の確保のほかに、人体内・外の汚染の状態を迅速、適切に検出・測定するための放射線測定機器、例えば、表面汚染計、ヒューマンカウンタ等の設備があり、また、中心的な緊急時医療機関においては、人体の除染設備を備えた救急処置室等を整備することが必要である。

二―七 防災対策資料の整備

緊急時における災害応急対策の円滑かつ有効な実施のため、防災業務関係機関はそれぞれの業務に関する防災計画及び実施細目を有していなければならない。更に原子力発電所等の施設、地方公共団体及び国の関係機関においては、あらかじめ定められた場所に原子力防災対策上必要とされる共通の資料を常備しておくことが必要である。この資料としては、組織及び体制に関する資料、社会環境に関する資料及び放射能影響推定に関する資料等が挙げられる。

[cir1 ] 組織及び体制に関する資料

(イ) 原子力発電所等施設を含む防災業務関係機関の緊急時対応組織資料

(人員、配置、指揮命令系統、関係者名リストを含む。)

(ロ) 緊急時通信連絡体制資料

[cir2 ] 社会環境に関する資料

(イ) 種々の縮尺の周辺の地図

(ロ) 周辺地域の人口、世帯数等に関する資料(原子力発電所等からの方位、距離別、季節的な人口変動に関する資料を含む。)

(ハ) 周辺の道路、鉄道、ヘリポート及び空港等輸送交通手段に関する資料(道路の幅員、路面状況及び交通状況、時刻表、滑走路の長さ等の情報を含む。)

(ニ) 避難場所及び屋内退避に適するコンクリート建物に関する資料(位置、収容能力等のデータを含む。)

(ホ) 周辺地域の特殊施設(幼稚園、学校、診療所、病院、刑務所等)に関する資料(原子力発電所等からの方位、距離についての情報を含む。)

(ヘ) 緊急時医療施設に関する資料(位置、対応能力、収容能力等の情報を含む。)

[cir3 ] 放射能影響推定に関する資料

(イ) 原子力施設関係資料

(ロ) 周辺地域の気象資料(施設及び周辺測点における風向、風速及び大気安定度の季節別及び日変化の情報)

(ハ) 線量当量推定計算に関する資料

(ニ) 平常時環境放射線モニタリング資料

(ホ) 緊急時環境放射線モニタリング資料

(ヘ) 飲食物に関する資料(飲料水、農畜水産物に関する情報)

三 防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲

三―一 地域の範囲の考え方

放射性物質の周辺環境への大量の放出があった場合に、周辺住民に対して緊急に応急対策を取らなければならないのは、施設から風下方向に拡散する放射性プルームによる被ばくに対してである。

施設において異常事態が発生し放射性プルームが住民の居住区域にまで達する時間は、異常事態の様相、気象条件、居住区域までの距離等により異なり、あらかじめ特定することはできない。いずれにしても限られた時間を有効に利用し、周辺住民の被ばくを低減するための応急対策を適切に行うためには、あらかじめある地域の範囲を選定し、そこに重点を置いた原子力防災に特有な対策を講じておくことが必要である。この対策としては、周辺住民への迅速な情報連絡手段の確立、緊急時環境放射線モニタリング体制の整備、避難等の場所及び経路の明示等が挙げられる。

放射性物質は放出源からの距離が増大するにつれ、拡散によってその濃度は著るしく減少することからある程度の範囲から、さらに範囲を拡大しても重点的な対策を講ずることによって得られる効果は僅かなものとなる。また、災害応急対策の実施に当たっては、異常事態の様々な態様に対応して弾力的な運用が必要なため、この地域の範囲は地域に特有の諸条件を考慮することが重要である。なお、この地域の範囲内で講ずべき対策としては、原子力発電所等に近い区域に重点を置いて整備するのが重要である。

放射性物質によって汚染された飲食物の摂取による被ばくの影響については、飲食物の流通形態によってはかなりの広範囲に及ぶ可能性も考えられるが、飲食物の摂取制限等の措置は、放射性プルームによる被ばくへの対応措置とは異なってかなりの時間的余裕をもって講ずることができるものと考えられる。更に、代替飲食物の供給措置は、一般防災分野の措置の応用により対応が可能である。

三―二 地域の範囲の選定

三―一に述べた考え方に基づき、放射性プルームに対応する防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲を選定するに当たっては、現段階における施設の状況に対する技術的側面に加え、人口分布、行政区画、地勢等地域に固有の特徴、災害応急対策実施上の実効性等を総合的に考慮する必要がある。

本専門部会としては、これらの要件を総合的に検討した結果、この地域の範囲を選定する場合に、原子力発電所等を中心として半径役八~一〇kmの距離をめやすとして用いることを提案する。

このめやすは、一般的に提案したものであり、地元の防災計画に実際に適用するに当たっては、画一的に採用する必要はなく、各サイト毎に、その自然的、社会的周辺状況を勘案して増減されるべきものである。特に、防災対策を円滑に実施するためには、地元都道府県及び市町村の行政区画は、考慮すべき重要な要因である。なお、現在、原子力発電所等が設置されている地元都道府県及び市町村において、原子力防災計画の地域の範囲として採用されている距離は、技術的側面からの検討によれば、おおむね妥当なものと考える。事故の態様によっては、この地域の範囲の外側にも影響が及ぶような場合も全くないとはいえないが、その場合にも、この地域の範囲内における対策を充実しておくことによって、その応用で対応できるものと考える。

この範囲の選定に当たっての技術的側面からの検討内容を、付属資料に示す。

四 緊急時環境放射線モニタリング

四―一 目的

原子力発電所等に異常状態が生じ、放射性物質の大量放出が生ずるか又はそのおそれがある場合には、周辺環境の放射線及び放射性物質に関する情報を得るために特別に計画された環境モニタリングが必要である。このモニタリングを「緊急時環境放射線モニタリング」(以下「緊急時モニタリング」という。)という。

緊急時モニタリングの目的は、次の二点である。

[cir1 ] 適切な防護対策の決定に資するために、周辺環境における予測線量当量を迅速に推定すること

[cir2 ] 周辺住民が実際に被ばくしたと考えられる線量当量を評価し、あわせて環境中に放出された放射性物質の状況を把握すること

以下に、原子力発電所に着目し、緊急時モニタリングに関する一般的な指針を述べる。その他の原子力施設において必要とされる緊急時モニタリングについては、この指針を準用するのが妥当である。

四―二 段階

緊急時モニタリングは、前述の目的から二つの段階に区別することができる。

[cir1 ] 第一段階のモニタリング

第一段階のモニタリングは、放射性物質の環境への異常な放出又はそのおそれが発生した直後から速やかに開始されるべきものであり、この結果は、放出源の情報、気象情報及びSPEEDIネットワークシステム等から得られる情報とともに、予測線量当量の推定に用いられ、これに基づいて防護対策に関する判断がなされることとなる。従ってこの段階においては、何よりも迅速性が必要であり、第二段階で行われる精密測定ほどの精度は要求されない。第一段階のモニタリングの主要な対象核種は放射性の希ガス及びヨウ素であり、測定は原子力発電所の施設に近接した地域を主体として行われる。

[cir2 ] 第二段階のモニタリング

第二段階のモニタリングは、第一段階のモニタリングより更により広い地域につき、放射線及び放射性物質の周辺環境に対する全般的影響を評価し、確認するために行われる。第二段階のモニタリングの主要な対象は、積算線量ならびに環境中に放出された放射性物質の状況である。

四―三 モニタリング体制

事故が発生した原子力発電所の周辺に対して、緊急時モニタリングを行うために、現地災害対策本部のもとに、モニタリングセンターとその指揮下の複数のモニタリングチームからなるモニタリング実施組織を設置するとともに、センター長の任命、チームの役割等をあらかじめ定めておく必要がある。モニタリングセンター及びモニタリングチームの備えるべき主な機能は次の通りである。

(一) モニタリングセンターの主要な機能

[cir1 ] モニタリングセンター長を置き、そのもとで緊急時モニタリングの計画・立案をするとともに環境モニタリング作業の指揮及び総括を行う。

[cir2 ] 環境モニタリングに参加する人員の配置、機材の分配等を行う。

[cir3 ] 情報を収集し、環境放射能及び周辺住民の放射線被ばくにつき予測推定、評価を行い、その結果を現地災害対策本部に適時的確に報告する。

(二) モニタリングチームの機能

[cir1 ] 空間放射線量率等の測定、大気中の放射性ヨウ素濃度の測定、環境試料の採取、測定等の環境モニタリング作業を実施する。

[cir2 ] モニタリングにより得られたデータをモニタリングセンターに報告する。

四―四 準備事項

(一) 既設モニタリング施設の整備

平常時の放射線監視体制を緊急時にも対応できるようTLDの増配備及び既設モニタリングポスト等の増設又は改造の検討を行う必要がある。

(二) 環境モニタリングについての情報連絡が正確かつ迅速に行われるために次の地点等の位置をあらかじめ、符号を付し定めておく。

[cir1 ] 空間放射線量率及び大気中放射性ヨウ素濃度のモニタリング地点

[cir2 ] 環境試料のサンプリング地点

[cir3 ] 積算線量の測定地点

[cir4 ] 測定経路

(三) SPEEDIネットワークシステムを平常時から適切に整備及び維持・管理し、緊急時に備える。

(四) 環境試料の分析又は精密測定を行う施設をあらかじめ定めておく。

(五) 人員、測定機器等の運搬手段及び各モニタリングチーム等との通信連絡手段を確立しておく。

(六) 飲料水の供給システム(水源、水道の系統、井戸等)を明らかにしておく。

四―五 モニタリング地点の決定

緊急時モニタリングを行うべき地域又は地点を迅速に選定するための予測作業の内容は、次の通りである。

(一) 予測の内容

[cir1 ] 最大空間放射線量率とその出現地点

[cir2 ] 大気中放射性ヨウ素最大濃度とその出現地点

[cir3 ] 大気中放射性ヨウ素濃度及び空間放射線量率の地域分布

[cir4 ] 線量当量の分布とその時間的変化

(二) 予測に必要な(又は参考とすべき)情報

[cir1 ] 放出源情報とその時間的変化

[cir2 ] 気象情報と予測される変化

[cir3 ] モニタリングポスト等の情報

[cir4 ] SPEEDIネットワークシステムの情報

四―六 第一段階のモニタリング

第一段階のモニタリングにおける測定項目、測定又は試料採取の地点ならびに測定方法は、次の通りである。

(一) 測定項目

[cir1 ] 空間放射線量率

[cir2 ] 大気中放射性ヨウ素濃度

[cir3 ] 環境試料(飲料水、葉菜、原乳等)中の放射性ヨウ素濃度

(二) 測定・採取の地点

[cir1 ] 大気中放射性ヨウ素最大濃度及び最大空間放射線量率の出現予測地点 数点

[cir2 ] 予測される大気中放射性ヨウ素最大濃度地点を中心として約六〇度セクター内 数点

[cir3 ] 風下方向の人口密集地帯集落(地点数は大きさにより適宜きめる。)

(三) 測定方法

[cir1 ] 空間放射線量率の測定

(イ) 臨時モニタリングポスト等による測定

常設のモニタリングポストに加えて予測される最大濃度地点以内の約六〇度セクター内に記録計を装備したポータブルガンマ線測定器を設置して連続測定することが有効である。

(ロ) サーベイメータによる測定

a) 測定器(例)

電離箱式サーベイメータ

GM計数管式サーベイメータ

NaIシンチレーション式サーベイメータ

b) 測定範囲 数0.1μSv/h~数mSv/h又は数0.1μGy/h~数mGy/h

c) 測定間隔 0.5h~1h

[cir2 ] 大気中放射性ヨウ素濃度の測定

放射性ヨウ素については迅速性を重視し、次の順位により測定を行う。

(イ) 空間放射線量率を測定し、放射性ヨウ素濃度を推定する。

(ロ) 試料採取による測定

a) 活性炭カートリッジ又は活性炭入りろ紙等を装備した可搬型集塵器により大気試料の採取を行いNaIシンチレーション式サーベイメータ又はGM計数管式サーベイメータにより測定する。

b) さらに、必要に応じ、より正確な濃度を求めるために、前記試料の一部をガンマ線スペクトロメータで測定し、それによって得られた放射性ヨウ素濃度の値をもとにa)の方法による値を補正する。

[cir3 ] 環境試料中の放射性ヨウ素濃度の測定

環境試料を採取しNaIシンチレーション式サーベイメータにより簡易測定し、さらに、必要に応じ、より正確な濃度を求めるために、前記[cir2 ](ロ)b)と同様の測定を行う。

四―七 第二段階のモニタリング

第二段階のモニタリングにおける測定項目、測定又は試料採取の地点ならびに測定方法等は次の通りである。

(一) 測定項目

[cir1 ] 空間放射線量率

[cir2 ] 大気中の放射性物質の放射能濃度

[cir3 ] 環境試料中の放射性物質の放射能濃度

[cir4 ] 積算線量

(二) 測定・採取の地点

第一段階のモニタリングの結果を参考とし、必要と考えられる地域又は地点

(三) 測定方法

平常時の環境モニタリングで使用されている測定方法を準用するほか、必要に応じて移動式のガンマ線スペクトロメータを使用する。

(四) 経時変化の追跡

環境中へ放出された放射性物質の状況が、時間的にどのように変化しているかを追跡するため、一定の時間間隔で平常時のモニタリングの対象のすべての環境試料の採取、測定を行う。この場合の時間間隔は一日~一週間程度である。

(五) 積算線量の測定

TLDによる測定結果、連続モニタの情報を中心に他の測定方法からの結果を参考にして積算線量の推定を行う。

五 災害応急対策の実施のための指針

五―一 防護対策の準備のためのめやす

放射性物質の大量の放出が発生し、又は発生するおそれがある場合において、地方公共団体が迅速かつ的確な措置をとるため、災害対策本部の設置の準備、緊急時モニタリングの開始等防護対策の準備を行うことは、災害応急対策を有効ならしめるという観点から重要な意義を有する。

一般的にいって、放射性物質の大量の放出は、施設においてある異常事態を検知することから予測できるといえる。この異常事態に対しては、施設側において当然、その事態の拡大の防止措置が講じられるとともに、二―三の防災対策上の異常事態の把握の項で述べたように、放射性物質の大量放出に至ると予想される場合には、異常事態に関する情報が、国の関係機関、地元都道府県及び市町村に通報されることとなる。

従って、防護対策の準備開始の判断については、多くの場合ある程度の時間的余裕があると予想されるので、原則的には、地元都道府県及び市町村に対して、必要な国の助言が行われる。

しかしながら、放射性物質の放出が、短時間のうちに生ずるという可能性もまた否定できないため、本専門部会としてはそのような場合に備えて、地方公共団体が独自の判断により、災害対策本部の設置の準備等、災害応急対策のうち初期活動を開始するめやすを示すことは有益と考え、そのめやすとして、周辺モニタリングポスト等で実測された空間放射線量率で10μGy/h以上の値、あるいは、住民が実際に居住するか活動する場所における予測線量当量で5mSv以上の値を用いることを提案する。この際、災害対策本部の設置等準備活動から本格的な防護対策活動への移行に関する判断については直ちに国の関係機関の助言を求めることが妥当である。

なお、ここに提案しためやす値は、後述する放射性物質の大量放出による周辺住民の被ばくを軽減するための防護対策指標とは、その性質が異なることに留意する必要がある。

五―二 防護対策

放射性物質の大量の放出が発生した場合に、周辺住民の被ばくをできるだけ低減するために講ずる措置を防護対策という。

防護対策には、屋内退避、コンクリート屋内退避、避難、食物摂取制限等が考えられるが、ここでは、主な防護対策についての基本的な考え方を示し付属資料において詳細を述べる。

[cir1 ] 屋内退避について

屋内退避は、通常の行動に近いこと、広報連絡が容易である等の利点があると同時に、建物の有する遮蔽効果及び気密性等を考慮すれば防護対策上有効な方法である。特に予測線量当量があまり大きくない場合または放射性物質の拡散時間が防災関係者の動員、指示及び周辺住民の移動の時間に比べて短い場合には、動揺、混乱等をもたらす危険性の高い避難措置よりも優先して考えるべきものである。

[cir2 ] コンクリート屋内退避について

コンクリート屋内退避は、コンクリート建物の遮蔽効果による外部全身被ばくの低減及び建物の気密性による甲状腺被ばく等の低減が相当期待できることから防護対策として重要視されるべきである。特に、万一、退避が必要となった場合に混乱を起こすことなく有効な防護対策を講ずることができるように、地域防災計画の作成に当たり、コンクリート屋内退避について検討しておく必要がある。

[cir3 ] 避難について

防護対策の中でも、避難については、特に慎重な配慮が必要である。詳細な実施計画に従い実施したとしても、心理的な動揺、それによる混乱等の危険性が高いということが想定される。従って、一般に多数の公衆等の避難を考える場合には、対策の結果生ずる影響について十分に検討する必要がある。事故の態様によっては、原子力発電所等から放射性物質が長期間放出されると予想されるものもあれば、比較的短時間の放出で終ると予想されるものもある。このうち避難による被ばくの低減化が有効であるのは十分な時間的余裕があり、長期間放出が予想され、しかも避難によらなければ相当な被ばくを避け得ない場合である。放射性物質の放出が短時間で終ると予想される場合は、必ずしも避難が最善の方策とは考えられない。

防護対策にあって、避難は輸送手段、経路の確保等種々の要素を考慮し、周辺住民等に適切かつ明確な指示を与えて実施すべきものである。

[cir4 ] 飲食物摂取制限について

摂取制限措置の実施に当たっては、比較的時間的な余裕があるのでこの間に代替飲食物の供給等について慎重な配慮を払う必要がある。

[cir5 ] ヨウ素剤について

かなりの甲状腺被ばくが予測されるか又は発生した場合には、安定性ヨウ素を服用することによって放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれることを阻止することができる。安定性ヨウ素であるヨウ素剤を使用するに当たっては、専門家の判断によって行うべきである。

[cir6 ] 立入等の制限措置について

放射性物質の大量の放出が発生するか、又はそのおそれがある場合には次のようにある地域あるいは海域について立入制限等の防護対策を講ずる必要がある。

(イ) 放射性物質による無用の被ばくを避けるために特定の地域あるいは海域への立入を制限すること。

(ロ) 周辺住民等の避難、防災業務関係者の活動及び応急対策用資機材等の輸送のために経路を確保する等、応急対策の円滑な実施のために特定の地域への無用の立入を制限すること。

[cir7 ] 防災業務関係者の防護措置

原子力に係る災害応急対策に関係する者であって、ある程度の被ばくが予想される防災業務関係者については、フィルムバッジ、アラームメータ等の配布及び甲状腺被ばくを低減するための防護マスク、ヨウ素剤の配布並びに輸送手段、連絡手段の確保が必要である。

防災業務関係者に係る立入制限及び避難のための指標としては、基本的にはその行為がもたらす利益と線量当量とを比較して定めるべきである。しかしながら事故の態様、応急対策の実情に応じつつ、出来るだけ被ばくの低減を図ることが肝要である。この指標としては、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告している放射線業務従事者の緊急作業についての考え方が参考になろう。

[cir8 ] 各種防護対策の解除

これまで述べてきた各種の防護対策の解除には慎重な配慮を要する。即ち放出源からの放出が終了したとしても影響を受けた区域は汚染されている可能性もあり、汚染物が影響を受けていない区域に搬出されるおそれ等があるからである。従って、環境モニタリング等による地域の調査等の措置が行われた後、専門家の判断に従って各種対策の解除を行うことが肝要である。

五―三 防護対策のための指標

防護対策をとるための指標は、なんらかの対策を講じなければ個人が受けると予想される線量当量即ち予測線量当量あるいは、実測値としての飲食物中の放射性物質の濃度として表わされる。

予測線量当量は、異常事態の態様、放射性物質の放出状況、気象情報、SPEEDIネットワークシステム等から推定されることとなるが、初期の推定の時点では必ずしも緊急時モニタリング情報等は得られていない。従って、緊急時には、緊急時モニタリングによる実測値が得られた場合にはこの値を参考としてSPEEDIネットワークシステム等による計算値を逐次修正して用いることが望ましい。付属資料にSPEEDIネットワークシステムを用いた予測線量当量の算定について示す。

(一) 屋内退避及び避難等に関する指標

放射線審議会は、昭和四二年三月の答申において、公衆の避難に関する指標線量を、全身の外部被ばくに対しては二五ラド、ヨウ素による甲状腺の内部被ばくに対しては、一五〇ラドとするのが適当であるとし、放射線被ばくは可能な限り少なくすべきであるという立場から、地域防災計画において定めるべき避難のための放射線レベルは、前記指標線量を上限値として、実情に即して可能な限り低く定められるべきものとしている。

注) 1rad=0.01Gy

本専門部会としては、この趣旨に沿って、災害の未然防止のための措置としての屋内退避及び避難等に関する指標として以下の数値を提案する。

表1 屋内退避及び避難等に関する指標


予測線量当量(単位:mSv)

防護対策の内要

外部全身

甲状腺

10~50

100~500

・乳幼児、児童、妊婦は、自宅等の屋内へ退避すること。その際窓等を閉め気密性に配慮すること。

50~100

500~1,000

・乳幼児、児童、妊婦は、指示に従いコンクリート建屋の屋内に退避するか、又は避難すること。

・成人は、自宅等の屋内へ退避すること。その際窓等を閉め気密性に配慮すること。

100以上

1,000以上

・乳幼児、児童、妊婦、成人とも、指示に従いコンクリート建屋の屋内に退避するか、又は避難すること。

(注)

1 予測線量当量は、災害対策本部において算定し、これに基づく周辺住民の防護対策措置についての指示とあわせて防災業務関係者から周辺住民に連絡される。

2 予測線量当量は、放出期間中、屋外に居続け、何らの措置も講じなければ受けると予測される線量当量である。

3 外部全身線量当量及び放射性ヨウ素の吸入による甲状腺線量当量が同一レベルにないときは、いずれか高いレベルの線量当量に応じた防護対策をとるものとする。

なお、前記指標を検討するに当たり参考とした資料等を付属資料に示す。

屋内退避及び避難等に関する指標には、ある幅をもたせることとした。この理由は、線量当量によってのみ防護対策は決定されるべきではなく、その対策の実現の可能性、実行することによって生ずる危険、影響する人口規模及び低減されることとなる線量当量等を考慮して決定されるべきであり、そのためには防護対策の実施に柔軟性が必要とされるからである。また、災害対策本部が行う周辺住民の行動についての勧告または指示は、ある地域的範囲を単位として与えられることが予想され、この地域的範囲のなかで予測線量当量が場所によって異なることも幅を持たせた理由である。

なお、屋内退避もしくはコンクリート屋内退避あるいは避難という防護対策を実際に適用する場合は、前記指標に応じて異常事態の規模、風向を配慮の上、風向変動を見込んで例えば放出源から三キロメートル、五キロメートル等のある距離のあるセクターについて段階的に実施されるべきものである。

(二) 飲食物の摂取制限に関する指標

本専門部会としては、前述の考慮すべき核種に関する考え方に基づき飲食物摂取制限に関する主要な核種としてヨウ素を選定し、甲状腺への影響に着目して、周辺住民の被ばくを低減するとの観点から実測による放射性物質の濃度として表二の通り飲食物摂取制限に関する指標を提案する。

表2 飲食物摂取制限に関する指標


対象

I―131放射能濃度

飲料水

葉菜

牛乳

1×102Bq/l以上

6×103Bq/kg以上

2×102Bq/l以上

なお、前記の対象物中の放射能濃度の測定に当っては、科学技術庁放射能測定法シリーズ一五「緊急時における放射性ヨウ素測定法」を参照することを提案する。

また、前記濃度の算出についての考え方を付属資料に示す。

六 緊急時医療

六―一 緊急時医療措置の考え方

原子力発電所等から放射性物質が大量に放出されるような異常事態の際の医療面における対応としては、現地災害対策本部の下に、直ちに緊急時医療本部を結成して関連医療機関との密接な連携を図りつつ総合的な判断と統一された見解の下に周辺住民に対する医療措置を行うことが肝要である。このような事態にあっては、周辺住民は、特に医療措置を必要としない程度であっても、心理的不安から緊急時医療本部及び各種医療施設に検査等を求めて多数来るであろうことを念頭において対応策を考える必要がある。これらの人々に対しては、一般的な傷病の有無をチェックするとともに、放射能汚染の程度、線量当量を迅速に推定し、統一された判断基準の下に必要な措置を行うことが望まれる。そのためには、環境モニタリングによる情報、住民の行動状況の聴取、身体的状態の問診や検査及び放射能汚染状況の簡易計測等が第一に重要である。その後、必要に応じて、精密な医学的診断、身体の放射能の計測及び血液、尿等のバイオアッセイにより正確な判定を行う。体表面の放射能汚染については、現在の放射能測定の技術水準からみてサーベイメータのような簡単な計測器でも検出することができる。また、体内の放射能でも、適当な測定器により、計測が可能である。この場合、放射線計測の専門家との十分な連携が必要である。

この際、次項に述べる実質的な医療を必要とする人々のほかに、身体的異常や傷病を伴わないが、放射線障害に体する漠然とした不安や危惧を強く持つ人々が多数生じる可能性がある。これらの人々に対しては、正確な事故状況及び汚染検査の結果等を説明し、心理的動揺と混乱を静めることが肝要である。この観点から、日頃から周辺住民に放射線の人体への影響について知識の普及と啓蒙を図ることも重要である。

六―二 傷病の種類及びその対応

原子力防災対策上考慮すべき傷病は、おおよそ次の三群に分類することができるが、実際上施設周辺の住民の傷病としては殆どが第一群及び第二群に属するものと考えられる。

[cir1 ] 第一群

放射線被ばく、又は放射能汚染とは直接の関係はなく、緊急時の混乱等により生じる一般的傷病、身体的異常、疾病の悪化等。

[cir2 ] 第二群

急性障害は生じない程度の放射線被ばく、あるいは体表面及び体内の軽度の放射能汚染。この場合、一般的傷病等との複合がありうる。

[cir3 ] 第三群

臨床観察あるいは医療を要する程度の被ばく、あるいは放射能汚染。この場合、一般的傷病等との複合がありうる。

傷病者に対しては、それぞれの左記の措置をとるものとする。

(一) 第一群の者に対する措置

通常の一般的傷病、身体的異常、疾病の悪化に対する処置で十分と考えられるが、この場合であっても、傷病者の心理的動揺等について十分配慮する必要がある。

(二) 第二群の者に対する措置

まず放射能汚染除去の措置を施し必要に応じ、甲状腺モニタリング、尿及び血液のバイオアッセイ等を行う。

一般的傷病が複合している場合、それらの重篤度に応じて、放射能汚染が拡大しないように留意しつつ医療措置を施すことが適当と考えられる。

(三) 第三群の者に対する措置

放射線障害の観点から、次の四つの型の障害又は放射能汚染が考えられる。

((イ)) 対外被ばくによる障害(全身又は局部の外部よりの大量被ばく)

((ロ)) 体内放射能汚染による障害(放射能の体内への大量取込み)

((ハ)) 体表面放射能汚染(除去の困難な体表面放射能汚染)

((ニ)) 放射能汚染創傷(創傷部位に放射能汚染が確認できる時)

この他、((イ))~((ニ))が混在し、またこれらに一般的傷病が合併している場合が考えられる。

放射線障害が発生するか否か、放射性物質の大量の体内取込みや沈着が起るか否か、またそれらの重篤度は、放射性核種、線量当量や条件に著しく左右されるので、その診断や医療措置の判断については専門的知識と経験を必要とする。更に、これらと一般的傷病が合併している場合、それらをどの程度の重み付けで緊急時医療措置を行うかの判断はかなり難しいことがある。そういう場合は専門医師団との相談の上対処することが望ましい。

なお、緊急時医療従事者への放射能の二次的取込み及び医療処置に伴う二次的放射能汚染の拡大防止に十分注意することが肝要である。

(四) ヨウ素剤について

環境中の放射性ヨウ素量の増加により、施設周辺の住民に甲状腺被ばくによる障害が懸念される場合には、事故の状況、周辺の状況等を十分勘案し、ヨウ素剤の適用を考慮する必要がある。このような場合に備えて周辺住民及び防災業務関係者に迅速、適確にヨウ素剤を配布する体制を準備しておく必要がある。

ヨウ素剤の適用については、付属資料に詳述する。

六―三 医療体制の整備

(一) 組織

下図のような組織によって有機的な運営が可能であるような体制の整備が望まれる。



(二) 各機関の役割及び構成

[cir1 ] 緊急時医療本部

現地における医療活動を総括し、現地災害対策本部に対し医療に関する助言を行う。地域救急医療機関を代表する者、緊急被ばく医療派遣チームを代表する者等で構成される。

[cir2 ] 緊急被ばく医療派遣チーム

緊急時医療本部の構成員として、専門的立場から助言を行うとともに、線量当量の評価、放射線障害の治療等について技術的援助を行う。主に、放射線障害専門病院等の職員をもって構成されることとなろう。派遣チームの有効な活動のためには必要な装備を用意する必要がある。

[cir3 ] 地域救急医療機関

第一群の傷病者の治療を行うとともに、第二、三群の傷病者に対し、緊急時医療本部の下に、緊急被ばく医療派遣チームの専門家と協力して、放射能汚染の検査、除染、医療措置等を行う。本機関は、医療体制の中核をなすものであり、出来れば、地域の総合病院をこれに当て、普段から訓練、設備の整備等を図っておくことが望ましい。

[cir4 ] 事業所内救急医療施設

事業所内における傷病者の応急措置(応急医療、除染等)を行い、必要に応じ、地域救急医療機関へ移送する。

[cir5 ] 放射線障害専門病院

地域救急医療機関、事業所内救急医療施設で遂行の困難な放射能除染、障害治療、追跡調査等を行う。当面、放射線医学総合研究所に所要の人員、施設の整備を行い、これに当てるのが妥当と考えられる。

(三) 緊急時医療活動のための要件

[cir1 ] 前記各機関は、その機能に応じて表面汚染計、ヒューマンカウンタ並びに人体の汚染を除去する汚染室等の設備を整備するとともに、緊急時医療活動に従事する要員の確保を進める。前記設備の整備に当たっては、機器の即応性を維持するため、日頃からの管理に十分配慮する必要がある。なお、医療従事者の防護措置として放射線計測器、防護衣等の準備も必要である。

[cir2 ] 医療に係る機関の名称、所在地等のリスト、担当者リスト、連絡方法等を常時点検維持する必要がある。担当者には必ず予備員を用意しなければならない。

[cir3 ] 日頃から地域医療機関相互及び派遣チームとの連携を保つよう配慮する必要がある。

[cir4 ] 医療従事者、傷病者のための輸送力の確保について検討しておく必要がある。

[cir5 ] 医療従事者に対し放射線緊急被ばく医療に関する養成訓練を行うとともに、医療措置についての要領等を普及する必要がある。

付属資料

(付属資料2) 地域の範囲についての技術的側面からの検討

第3章において防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲として、原子力発電所等を中心として半径約8~10kmの距離をめやすとし、人口分布、行政区域、地勢等を考慮して定めることを提案した。

本専門部会としてこのめやすの距離を提案するに当たっては、技術的側面においては原子力発電所等からの距離と周辺住民の被ばくの低減のために必要な措置をとるための判断に用いる指標線量当量との関連を検討した。

以下に検討に用いた資料を掲げる。

1 第1図及び第2図に、昭和52年4月14日原子力委員会が決定した「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」における基本拡散式から求められた線量当量の相対値対風下軸上距離の関係を、それぞれ外部全身被ばくと小児甲状腺被ばくについてまとめたものを示す。

両図は、最も高い線量当量を与えることとなる地表面放出、F型の大気安定度において放出源から500mの距離における線量当量を1とした場合の放出源から風下方向への距離による線量当量の低減割合を示すものである。ケーススタディとして両図には、最も拡散しにくい型の大気安定度F型と最も拡散しやすい型の大気安定度A型の両方の拡散傾向について地表面放出と地上高100m放出を選び示した。おな、風速は1m/sとした。

第1図 外部全身線量当量の相対値 ―― 風下軸距離



第2図  小児甲状腺線量当量の相対値 ―― 風下軸距離



2 第3図から第6図までに沸騰水型原子力発電所(BWR)及び加圧水型原子力発電所(PWR)についての線量当量と風下距離の関係を示す。

これらの図を求めるに当たって放出条件としての放出高さはBWRは100m、PWRは60mとし、放出継続時間は24時間とした。気象条件については、厳しい条件を用いるとの観点から原子力発電所サイトの気象観測資料をもとに各サイトの各方位毎の24時間毎の年間の相対濃度を算出し、各相対濃度を小さい順番に累積し、その累積出現頻度が97%に当たる相対濃度を与える24時間内の気象条件を選定した。

この放出条件及び気象条件を用い、BWR及びPWR別に単位放出率当りの最大線量当量と距離との関連を求め、放出源から8km及び10kmの距離において防護対策指標の下限値(外部全身線量当量10mSv及び小児甲状腺線量当量100mSv)となる希ガス及びヨウ素の放出量を求めた。

従って、これらの図に示される線量当量と距離の関係を示す拡散条件のパターンは、現実にはめったに遭遇しない厳しいもの(線量当量を高めに与えるもの)であることに留意すべきである。

(1) 第3図は、BWR発電所の拡散条件において放出源から10kmの距離で防護対策指標の下限値(外部全身線量当量10mSv及び小児甲状腺線量当量100mSv)となる希ガス及びヨウ素の放出量を示したものである。

(2) 第4図は、第3図と同様なものを放出源から8kmの距離について示したものである。

(3) 第5図は、PWR発電所の拡散条件において放出源から10kmの距離で防護対策指標の下限値(外部全身線量当量10mSv及び小児甲状腺線量当量100mSv)となる希ガス及びヨウ素の放出量を示したものである。

(4) 第6図は、第5図と同様なものを放出源から8kmの距離について示したものである。これらの結果は、放出源から8km及び10kmの区域の外側において屋内退避を必要とするような放出量は、炉内内蔵量に対して希ガス100%及びヨウ素50%が格納容器内に放出された際、格納容器から環境中に放出される量を相当に上廻る大きさでなければならないこと、また、その際8kmと10kmとで対応する放出量に顕著な差はないことを示している。

第3図 外部全身線量当量及び小児甲状腺線量当量(BWR)



第4図 外部全身線量当量及び小児甲状腺線量当量(BWR)



第5図 外部全身線量当量及び小児甲状腺線量当量(PWR)



第6図 外部全身線量当量及び小児甲状腺線量当量(PWR)



3 昭和54年3月28日に発生した米国のスリーマイルアイランド原子力発電所の事故は、現在までの軽水型原子力発電所の事故としては、最悪のものとされ、緊急時対策が講じられた例である。実際には、周辺公衆の個人の最大線量当量は、TMI敷地に最も近い居住区域において事故期間中屋外に連続的に居続けたと仮定して、外部全身最大線量当量100mrem(1mSv)以下と推定されている。

この事故の全期間中に放出されたとしている希ガスの全量は、1.8×106Ci(6.7×1016Bq)(ガンマ線0.5MeV換算値)(ロゴビン報告(NUREG/CR―1250))とされているが、この放出量の大部分は事故発生後7日間にわたり放出された。ここでは、この放出量と同じ量の希ガスが、1日間で連続的に放出され、かつ、前述のPWR型発電所で用いた現実にはめったに遭遇しない線量当量を高めに与える気象条件を使用して解析を行うと、外部全身線量当量は、10km地点で、7mSv程度、8km地点で9mSv程度となり、当該区域の外側では、退避措置が必要となるような事態に至ることはないものと考えられる。

なお、TMI事故で、環境へ放出された放射性物質は、大部分が放射性希ガスであり、放射性ヨウ素は、殆んど施設内に止まっていた。

(参考)

原子力発電所等には、安全保護系及び工学的安全施設が設けられており、周辺環境に重大な影響を与えるような大規模な異常事態の発生は防止されることになっている。しかしながら、ここでは仮にこのような事象の発生をも想定して検討を試みた。

周辺環境に影響を与えるような大規模な異常事象の発生する確率については、これまでのところ、必ずしも確定的な研究結果は得られていないが、仮りに米国の原子炉安全研究(Reactor Safety Study,WASH―1400(NUREG―75/04)Oct.1975,U.S.NRC)のデータを用いて、現実に起こりうる種々の気象条件の下で、放出源から8km及び10kmの距離において防護対策のための指標線量当量を超えるような事態の発生確率は、同研究に示されている放射性物質の大量放出に関する14の事象の発生確率に比べて、極めて小さく、かつ、8km及び10kmという距離の差で有意な差はない。注)このことは、8kmあるいは10km程度の距離を越えて、何らかの防護対策を行う必要性が生ずることが極めて稀であることを示唆するものということができよう。なお、このような異常事象の発生確率については、今後一層の研究の発展が期待される。

注)この検討においては、米国の原子炉安全研究から、14の異常事象における放射性物質の放出量と、その発生確率との関係を求め、これに、「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」(昭和52年4月、原子力委員会)における基本拡散式を適用した。なお、放射性物質は、24時間で放出されるものとし、拡散条件としては、日本原子力研究所東海研究所での1年間の気象観測データを用いることとした。原子炉安全研究に示される発生確率は、必ずしも、その事象が発生する時間的頻度を示すものではなく、あくまでも、その事象の相対的な起り難さを数値的に表現したものである。

(付属資料3) 防災対策の準備のためのめやすについて

1 標記めやすとして提案した空間放射線量率の実測値10μGy/h以上という値は、これまで原子力発電所等周辺の平常時の空間放射線量率の実測値が、バックグランドの値を含み高いところでも約0.1μGy/hという値を示していることから、その値の100倍程度を異常事態のめやすとして採用したものである。

なお、実際の適用に当たっては、機器が雑音等による原因で瞬間的にめやす値以上になる場合が考えられるので、機器の指示値の持続性のチェック、施設からの情報の入手に努めることが肝要である。

注)1Gy/h=103mGy/h=106μGy/h

2 標記めやすとして提案した予測線量当量で5mSv以上という値は、ICRPが公衆の年間線量当量限度として、生涯平均の年間線量当量が主たる限度1mSvを超えることがない限り、数年間にわたり補助的限度5mSvを用いることが許されるとしているので、この補助的限度を発生の可能性が極めて低い大量の放射性物質の放出事故の際の災害応急対策の初期活動の開始のめやすとして採用したものである。

(付属資料4) 防護対策指標について

(1) 屋内退避及び避難等に関する指標について

屋内退避及び退避等に関する指標を定めるに当っては下記資料等を参考とした。

[cir1 ] 我が国関係法規及びICRP(国際放射線防護委員会)、NCRP(アメリカ放射線防護測定審議会)等の出版物の平常時における職業人及び一般人の線量当量限度

[cir2 ] 我が国関係法規及びICRP、NCRP等の出版物の職業人の緊急作業に係る線量

[cir3 ] 各国の事故対策に関連する線量

[cir4 ] 放射線審議会、緊急被ばく特別部会報告書(昭和36年7月28日)

[cir5 ] Manual of Protective Action Guides and Protective Actions for Nuclear Incidents(EPA―520/1―75―001,Sep.1975)

[cir6 ] Paul G.Voilleque,Dose Action Level for Accidental Radiation

Exposure of the General Public;PP.183-204 6th Annual Health Physics Society Midyear Topical Symposium(1971)

(2) 飲食物摂取制限に関する指標について

5―3項第2表に示した値は、核種としてI―131を選び、乳児、幼児及び成人がそれぞれある量の飲料水、葉菜、牛乳を長期間摂取した場合に甲状腺線量当量が15mSvとなる放射性物質濃度を求め、複合摂取を考慮して求められた放射性物質濃度を3分の1としたものである。

結果としては、放射線感受性の高い乳児に対する濃度で代表されている。

計算手法としては、「環境放射線モニタリングに関する指針」(昭和53年1月、原子力委員会)の参考に示されている、ある一定の放射性物質を経口摂取した際の各種臓器に対する線量預託に変換する係数を用いる。ここでは、I―131の甲状腺に対する係数を用い、環境中のI―131の減衰を考慮した。

また計算に用いる各種パラメーターは、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(昭和51年3月、原子力委員会)に示されたものを用いた。なお、同指針に示されていない飲料水の1日当たりの摂取量は、乳児及び幼児は1リッター、成人は2.2リッターとした。

(参考1) 各国の防護対策指標の例

(注,1rem=0.01Sv=10mSv)

1 アメリカの防護対策指標


予測線量当量

防護対策

全身1rem以下

甲状腺5rem以下

○防護対策の必要なし

○州政府は屋内退避場所を探し、次の指示を待つこと、あるいは自主避難をすることについて勧告する。

○環境放射線レベルのモニタを行うこと。

全身1~5rem

甲状腺5~25rem

○屋内退避場所を探し、次の指示を待つこと。

○とくに子供及び妊婦の退避について考慮すること。

○環境放射線レベルのモニタを行うこと。

○近接道路を制限すること。

全身5rem以上

甲状腺25rem以上

○あらかじめ決められた区域の公衆の強制避難を行うこと。

○環境放射線レベルをモニタし、これらのレベルに基づいて強制避難区域を調整すること。

○近接道路を制限すること。

○緊急時作業者についての線量当量 全身25rem 甲状腺125rem

○救命活動 全身75rem

2 イギリスの防護対策指標

全身10rem 甲状腺30rem

3 西独の防護対策指標


予測線量当量

防護対策

全身5~25rem

屋内退避有効

甲状腺15~25rem

全身25~100rem

屋内退避必要 避難有効

甲状腺25~500rem

屋内退避必要

ヨウ素剤有効(100rem以上なら必要)

全身100rem以上

避難必要

甲状腺500rem以上

避難有効(1,000rem以上なら必要)

ヨウ素剤必要

4 スイスの防護対策指標


予測線量当量

防護対策

全身1rem以下

対策不要

全身1rem以上

緊急時活動開始

  

全身線量を5rem以下にするよう努力する。

全身10rem以上

退避壕に入る。大規模な措置を講ずる。

5 スウェーデンの防護対策指標


予測線量当量

防護対策

全身1~10rem

屋内退避、子供と妊婦について避難を考慮

甲状腺5~30rem

ヨウ素剤配布を考慮、立入制限

全身10rem以上

屋内退避、避難を考慮

甲状腺30rem以上

ヨウ素剤配布、立入制限

甲状腺300rem以上

避難

(注) 空間ガンマ線量率で10mR/h以下の場合は対策不要

6 フランスの防護対策指標


予測線量当量

防護対策

500mrem以下

500mrem以上

警戒措置を講じつつ通常の生活を維持

屋内退避

――

避難 事故の発展の見通し、放出放射能量等の情報を基に決定する

7 各国についての参考文献は次のとおり

アメリカ;Mannal of Protective Action Guides and Protective Actions for Nuclear Incidents,EPA―520/1―75―001,Sep.1975

イギリス;Criteria for Controlling Radiation Doses to the Public after Accidental Escape of Radioactive Material MRC,1975

西独;Rahmenempfehlungen fur den Katastrophenschutz in der Umgebung Kerntechnischer Anlagen,RS[Roman2 ]2―515930―1/2 Der Bundesminister des Innern,Oct.17,1977

スイス;H.Brunner and P.Winiger:The Swiss emergency organization for nuclear and chemical accidents(IAEA―SM―21.5/4)P.291(1977)

スウェーデン;Underlag till lansstyrelsens organisationsplan for Karn―Kraftverk,Statens Stralskyddsinstitut,Nov.15,1977

フランス;Les Plans Particuliers d’Intervention relatifs aux centrales electronucleaires,Christian Gerondeau.Ministere de l’Interieur

(付属資料5) 屋内退避等の有効性について

大気中を拡散してきた放射性物質からの被ばくを低減するためには、放射性物質から遠ざかることが最も効果的であるといえる。しかしながら、混乱の発生のおそれともあわせ、その実現可能性に問題がある場合には、被ばくを低減するための簡便な防護対策としての屋内退避が考えられる。屋内退避措置としては、周辺住民が屋内に入り、建物の気密性を高め、口及び鼻をタオル等で保護を行うことをいう。

屋内退避の有効性は、外部全身被ばくについては、大気中に浮遊している放射性物質からのガンマ線に対する建物による遮蔽性能、並びに地表面及び建物に降下した放射性物質からのガンマ線に対する建物による遮蔽性能に、また内部被ばくについては、浮遊放射性物質の吸入を低減するための建物の気密性並びに口及び鼻をタオル等で保護する方法の効果にそれぞれ依存する。これらの効果について、めやすとして、IAEAがまとめたものを表1、2、3に例示する。

甲状腺被ばくは、ヨウ素の吸入に原因することから外部全身被ばくの場合と異なり木造家屋あるいはコンクリート造りの建物のような構造そのものによる差はあまりなく、建物内へのヨウ素の侵入をいかに防止するかという気密性に依存する。米国環境保護庁の研究によれば、気密性の高い建物に避難すると20分の1から70分の1に、通常の換気率の建物に避難すると4分の1から10分の1に甲状腺線量当量が低減することが示されている。更に、これらの甲状腺被ばくは口及び鼻をタオル等で保護することによって、表3に示すように低減される。

(参考文献)

Planning For off―Site Response to Radiation Accidents in Nuclear Facilities(IAEA―TECDOC―225)

表―1

浮遊放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数


場所

低減係数

屋外

1.0

自動車内

1.0

木造家屋

0.9

石造り建物

0.6

木造家屋の地下室

0.6

石造り建物の地下室

0.4

大きなコンクリート建物(扉及び窓から離れた場合)

0.2以下

表―2

沈着した放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数


場所

低減係数

理想的な平滑な面上1m(無限の広さ)

1.00

通常の土地の条件下で地面から1mの高さ

0.70

平屋あるいは2階だての木造家屋

0.40

平屋あるいは2階だてのブロックあるいは煉瓦造りの家屋

0.20

その地下室

0.10以下

各階が約450~900m2の面積の3~4階だて建物1階及び2階

0.05

その地下室

0.01

各階の面積が約900m2以上の多層建築物上層

0.01

その地下室

0.005

表―3

家庭内及び個人が利用可能なものによって口及び鼻の保護を行った場合の1~5μmの微粒子に対する除去効率


物質

折りたたみ数

除去効率

男性用木綿ハンカチーフ

16

94.2%

トイレットペーパー

3

91.4

男性用木綿ハンカチーフ

8

88.9

男性用木綿ハンカチーフ

しわくちゃにする

88.1

けばの長い浴用タオル

2

85.1

けばの長い浴用タオル

1

73.9

モスリンのシーツ

1

72.9

ぬれたけばの長い浴用タオル

1

70.2

ぬれた木綿のシャツ

1

65.9

木綿のシャツ

2

65.5

ぬれた女性用木綿ハンカチーフ

4

63.0

ぬれた男性用木綿ハンカチーフ

1

62.6

ぬれた木綿衣服

1

56.3

女性用木綿ハンカチーフ

4

55.5

レイヨンスリップ

1

50.0

木綿衣服

1

47.6

木綿のシャツ

1

34.6

男性用木綿のハンカチーフ

1

27.5

注) 表3は、一般公衆が家庭内の手近にある布や衣類を使用した場合のエアロゾルの除去効率のめやすを示すものである。この除去効率は、人の呼吸方法及び衣類の使用方法によって大きく変りうるものであることに留意すべきである。なお、防災業務関係者の保護具としては、専用の防護マスクを準備すべきである。

(付属資料6) 空間放射線量率分布及び濃度分布の特徴

1 放射性希ガス、ヨウ素による地上における空間放射線量率分布及び濃度分布には概ね以下に述べるような特徴があり、これに留意して影響範囲の推定、防護対策の立案を行うことが肝要である。

(1) 空間放射線量率は放出率及びガンマ線の実効エネルギーに比例し、風速に逆比例する。また、濃度は放出率に比例し、風速に逆比例する。

(2) 地表面放出の場合は空間放射線量率及び濃度とも放出源から風下方向に距離をとることによって減少する。

(3) 地表面からある高さをもって放出する場合は、

1)空間放射線量率及び濃度とも、放出高が高い程減少する。

2)空間放射線量率については、その最大値の出現地点は、放出源から約1kmの範囲内である。距離による減少割合は大気が安定である程小さい。

3)濃度については、その最大値の出現地点は、大気が安定している場合には放出源により遠方に、不安定な場合には近傍に出現する。

2 放射性プルームのガンマ線による空間放射線量率を求める基本式から算出された空間放射線量率分布図の例を示す。図1は、放射性プルームが最も拡散しにくく遠くまで到達する大気安定度F型の場合の100m放出高さの場合、図2は、逆の傾向を示す大気安定度A型の100m放出高さの場合である。図3は、大気安定度F型地表面放出、図4は、大気安定度A型地表面放出の場合である。

これらの図から、避難措置をとる場合、風下軸方向に対して直角方向に移動すれば、大きな被ばく低減効果があることが知られる。



図1 空間放射線量率分布図

大気安定度 F型

放出高 100 m

風速 1m/s

放出率 1GBq/h

実効エネルギー 1MeV



図2 空間放射線量率分布図

大気安定度 A型

放出高 100 m

風速 1m/s

放出率 1GBq/h

実効エネルギー 1MeV



図3 空間放射線量率分布図

大気安定度 F型

放出高 0m

風速 1m/s

放出率 1GBq/h

実効エネルギー 1MeV



図4 空間放射線量率分布図

大気安定度 A型

放出高 0m

風速 1m/s

放出率 1GBq/h

実効エネルギー 1MeV

(付属資料7)SPEEDIネットワークシステムを用いた予測線量当量の算定について

緊急時において、適切な防護対策を時宜にかなって実施するためには、予測線量当量を迅速に得ることが必要となる。

予測線量当量とは、何の防護対策も講じない場合に周辺住民が受けると予測される線量当量をいい、放射性プルームによる外部被ばくと吸入による内部被ばくとがあり、いずれも被ばく継続時間と放射性物質の濃度等の関数となる。緊急時における防護対策上重要となる予測線量当量は、希ガスからの外部被ばくによる線量当量、ヨウ素の吸入による甲状腺の線量当量である。

緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDIネットワークシステム)は、地形の影響を考慮して、放出源情報、気象情報等を基にして、放射性プルームの移流拡散の状況を計算し、希ガスからの外部被ばくによる線量当量、ヨウ素の吸入による甲状腺線量当量等を図示することができる。

なお、SPEEDIネットワークシステムによるオンラインの計算結果が入手できない場合には、パスキルの式に基づいた計算結果を透明プラスチック板に図示したものから分布図を作成する簡易計算法、あるいは、あらかじめSPEEDIネットワークシステムにより放出のパターンごとに計算しておいた分布図等の結果を参考にする方法を利用する。

(付属資料8) ヨウ素剤について

原子力発電所等の緊急時の際、環境中に放出される可能性のある放射性核種のうち、特に放射性ヨウ素は、吸入または飲料水の汚染を介して身体にとり込まれると、甲状腺に選択的に集積するため、内部被ばくによる障害を発生させる可能性がある。従って、このような事態に対し、甲状腺の放射性ヨウ素摂取を抑制またはブロックする必要があり、その処置としては、安定性ヨウ素の服用法が有効であると考えられる。

1 緊急時に、環境中に放射性ヨウ素が大量に放出されるような事態において、環境モニタリング情報等から甲状腺線量当量が相当大きくなると考えられる場合には、災害対策本部の総合的な判断により安定性ヨウ素の服用を考慮する必要がある。安定性ヨウ素の効果は、放射性ヨウ素の身体への取り込み後であっても3~4時間以内に服用すれば、特に有効なので、正確な線量当量の評価情報等を持たないで、概況から服用を決定する必要もあり得る。いずれにせよ、ヨウ素剤の使用に当たっては、必理的動揺、混乱を引き起こさないよう、専門家の意見を十分聞き、広報活動及び指揮系統を明確にさせた上で実施すべきである。

2 ヨウ素剤の使用量としては、大人1人に対してヨウ化カリウム錠1錠130mg/日(ヨウ素として100mg/日)を経口的に用いる。妊娠中の婦人、子供も同量を用いてよい。1歳以下の乳児については、半錠65mg/日を用いる。服用期間は、3~7日間の連用が状況により必要とされるが、総量1g、10日以上に及ぶことがないようにすべきである。これらの使用量に関しては、現在までの文献によれば副作用は無視できるものと考える。

日本人については日常のヨウ素摂取量が多いため、必要とする安定性ヨウ素の量は上記の量以下でよいのではないかとの議論もあるが、甲状腺ブロックを充分に行うためには、米国放射線防護測定審議会の基準量である上記の量を採用することが適当と考える。

(参考文献)

“Protection of the Thyroid gland in the event of release of radioiodine”NCRP Report55,1977.

-- 登録:平成21年以前 --