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学校給食用L―リジンの安全性について

文体給第一五七号

昭和五〇年六月二〇日
各都道府県教育委員会教育長あて
文部省体育局長通知

学校給食用L―リジンの安全性について

昭和五〇年四月一八日付け雑体第四の五号によりこれを承認した旨通知した学校給食用小麦粉品質規格規程の一部改正に基づき、全国的に学校給食用小麦粉へのL―リジンの強化が実施されて以来、これに対しその安全性等について疑念を差しはさむ向きもあり、特に六月九日、高橋晄正東京大学医学部講師が学校給食用L―リジン中から三・四―ベンツピレンを検出し、その原料にノルマルパラフインが使用されている疑いがある旨を発表して以来、児童生徒の父母を中心に学校給食用L―リジンに対する不安が広まりつつあることは、誠に遺憾であります。

文部省においては、このような不安を取り除き、学校給食の安定実施を確保するため、学校給食用L―リジン原料へのノルマルパラフイン不使用の確認調査と三・四―ベンツピレン含有量の検査を急いできましたが、このほどその結果がまとまるとともに、厚生省等のこの問題に関する考え方も明らかとなり、研究者によるL―リジンの安全性試験の結果も新たに報告されましたので、取りあえず、これらの調査、検査、実験等の結果その他の参考資料及び学校給食用L―リジンの安全性について別紙のとおり通知します。

なお、貴職におかれても、貴管下関係機関等に対し、この旨周知徹底方を願います。

学校給食用L―リジンの安全性について

(昭和50年6月20日)

(文部省体育局)

1 学校給食用L―リジンの製造原料について

(1) 学校給食用L―リジンの原料はL―リジンの供給者である日本学校給食会と各製造会社との契約書にでんぷん又は糖蜜であることが明記されているが、一部にノルマルパラフインではないかとの疑念があったので、あらためて調査を行い、L―リジンの原料がでんぷん又は糖蜜であることを現場において確認した。

この調査は、文部省体育局玉木学校給食調査官及び日本学校給食会武本検査主幹が国立大学の醗酵学専門教授を帯同して6月16、17日の両日学校給食用L―リジンの製造工場であるA社九州工場及びB社中国工場へおもむいて行い、発注伝票等関係帳簿及び原料倉庫を検査して、ノルマルパラフインを原料として購入した事実のないことを確認した。

また、製造工程においてでんぷん糖化、醗酵、結晶析出、精製等の各工程を検査した結果、ノルマルパラフインを使用していないことを確認した。

(2) L―リジンの国内生産量は年間約18,000トンであり、原料としてはその約4倍以上が必要とされているところから年間約100,000トン程度のでんぷん又は糖蜜が消費されているが、一方ノルマルパラフインの国内生産量はメーカー3社による年間116,000トンであって、その80%以上が洗剤の原料として使用されているほか、その使途先は通商産業省において明確に把握されており、かつ、この数値からしても、L―リジンの原料としてノルマルパラフィンを入手・使用することは不可能と考える。

2 学校給食用L―リジン中の3.4―ベンツピレンの検査結果について

(1) 委託検査の結果(第一次)

学校給食用L―リジン中の3.4―ベンツピレンの検査を行うため文部省の指示により日本学校給食会が検査機関に委託していた検査の結果は次のとおりである。

ア 検査機関

(財)日本食品分析センター

イ 検査方法

サンプル500gを水に溶解し、ヘキサン抽出後アルミナカラム及び二層薄層クロマトグラフィーにてクリーンアップしたのち分光螢光光度計にて測定する。

ウ 検出限界

0.02PPb(※1PPb=10億分の1)

エ 3.4―ベンツピレン定量分析結果

(ア) A社 0.06PPb(1検体)

(イ) B社 0.30PPb(1検体)

※ この数値は、先日高橋晄正氏が検出したと発表した数値のA社0.63PPbより低い数値であるが、B社0.24PPbに比べればほぼこれに近い数値である。

(2) 今後の検査予定

ア 今回日本食品分析センターで行われた検査結果の数値は、1ロットにおける値であり、これをもって最終的な値であると断定することはできない。

イ 従って、現在なお日本食品分析センターその他の検査機関に委託して多くのロットについて分析を行わせている。

ウ 別途国の専門検査機関においても、分析結果が近日中に発表される予定である。

3 L―リジンの安全性試験について

(1) 日本における急性毒性試験

リジン急性経口試験(LD50)の結果からの安全度は、砂糖又は食塩とほぼ同一程度で、きわめて高い安全性のものである。

(2) 日本における亜急性毒性試験

かねてから進められてきた亜急性毒性試験については、L―リジン塩酸塩を4%含む飼料をラットに3か月間投与しても体重増加、解剖所見、血液の生化学検査等いずれも異常は認められなかった旨の報告が、6月19日必須アミノ酸研究委員会においてまとめられた。

(3) 日本における慢性毒性試験

慢性毒性については公衆衛生院の中川一郎氏らが1971年に「Journal of Nutrition」(101巻P613)に発表したものがあり、その内容は、カゼイン(牛乳たん白)飼料に代えて同組成によるアミノ酸混合物(L―リジン塩酸塩を含む)をカットに生涯(最高739日)継続して投与してもカゼイン投与のラットに比して特に異常は見られなかったとするもので、この発表は必須アミノ酸研究委員会において検討され、6月19日の同委員会の報告にまとめられた。

(4) 諸外国における慢性毒性・催奇性試験

諸外国における実験によれば次のような結果が発表されている。

ア 慢性毒性試験についてはDr.Rosenderg(アメリカ合衆国国際開発局)及びDr.Culikがラットを対象にリッジを0.25%投与し、五世代にわたり、慢性毒性テストをしたがいずれの世代にも毒性結果は認められていない。<Food,Tech,12,169(1958)>

イ 催奇性試験についても右記Dr Rosenberg及びCulikの試験の結果いずれの世代でも異常は認められていない。

催奇性試験では別にCohlon,S.Q&Stone,S.M(ニューヨーク大学)が妊娠後のラットに対し15日間にわたり10%及び25%のリジンを含む飼料を与え続けた後、胎児の観察を行ったが何等の奇形も現われていない。<Cohlon,S.Q&stone,S.M:J Nutri74,93(1961)>

ウ 鶏卵の外殻を通じて注射する方法によって奇形を生じたという報告はあるが、この方法は鶏胚の本来の自然の状態をそこなう事であり、食塩水の注射でも奇形が発生するばかりでなく、単に注射針を刺しただけのコントロールにも奇形が発生している。

なお、食品添加物の催奇性テストは現在日本及び米国等の外国では一般にラット、マウス、ウサギ等の哺乳類を使用し、鶏卵等非哺乳類を使用したものは、“Screening Process”とされている。

(5) 外国におけるインバランス試験

リジンの過剰摂取により肝臓障害を起こすことがあると発表されているがこのことについては、人為的に大量のリジンを非哺乳類の動物に与えて栄養障害を起させた実験であり、通常の場合リジンを単独で大量に摂取しない限り過剰摂取は起らない。

4 学校給食用リジンの安全性について

(1) 厚生省の見解

厚生省は、6月19日の国会において3.4―ベンツピレンが検出されたL―リジンの安全性について次の趣旨を答弁している。

ア 3.4―ベンツピレンは天然食品中等にも存在しており、最高30PPb程度含有するという報告がある。

イ 高橋晄正氏が今回検出したと発表した量(A社0.63ppb,B社0.24PPb)は、きわめて微量であって安全性の面から問題はないと考えている。

注1 WHOの国際ガン研究機関(IARC)でまとめている資料によれば、発がん力は皮膚塗布の場合に比較して経口投与の場合では極めて弱いと記述されている。

注2 L―リジンは、食品衛生法に基づき昭和33年より食品添加物として食品に強化することが認められている。

注3 リジンの一定量を小麦粉等に強化したものは栄養改善法に基づいて昭和38年以来特殊栄養食品として許可を受けられることとなっている。

(2) がん学者の見解

蕨岡小太郎博士(がん研究所主任研究員)は、「3.4―ベンツピレンをPPb単位で摂取しても医学常識からみて問題にはならない。われわれは現実に日常数+PPb程度をあらゆる物から摂取しているが、食品中の3.4―ベンツピレンのbackground level(自然に存在するものの値)の範囲内に入るような程度の量の経口摂取による発がん性については学問的には何んら証明されていない。今回検出されたという数値は、background lavelの範囲内に十分おさまる数値であり、問題はないと思う」と述べている(6月19日談。)

注 「新しい毒性試験と安全性の評価」(P623ソフトサイエンス社 1975,2)参照

(3) 米国における取扱い

米国のFDA(食品医薬品庁)においては、リジンは「安全であると一般的に認められている(GRAS=Generally Recognized AS Safe)」分類にリストされている。

(4) まとめ

以上のようにL―リジンは、でんぷん又は糖蜜によって製造されていることを確認しており、また、その毒性についても問題はないと考えられる。3.4―ベンツピレンの含有に関しても、今回検出された数値は児童1食当たりの強化リジンに含まれる分量に換算すれば1,000億分の1~5グラム程度の極微量であり、3.4―ベンツピレンが大気、土壌その他の自然界やそこから生み出されるいろいろな自然食品の中にも量の多少にかかわらず含まれている以上、L―リジンが他の食物にくらべても安全性を欠くということは決してなく、これを学校給食用小麦粉に強化して使用することについては児童生徒の健康安全の面に心配はないと考える。

 

 

 

 

-- 登録:平成21年以前 --