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憲法第八十九条にいう教育の事業について

法制局一発第八号

昭和三二年二月二二日
社会教育局長あて
法制局第一部長回答

憲法第八十九条にいう教育の事業について

二月二日付文社社第六〇号をもつて照会にかかる標記の件に関し、次のとおり当局の意見を回答する。

一 問題

(イ) 社会教育法(昭和二四年法律第二〇七号)第一〇条に規定する社会教育関係団体の行う次の事業は、憲法第八九条にいう教育の事業(以下単に「教育の事業」という。)に該当するか。

1 図書・記録・視聴覚教育等の資料を収集し、作成し、社会教育関係団体相互の間で貸借する事業

2 社会教育(社会教育法第二条に規定する「社会教育」をいう。以下同じ。)活動の普及、向上又は奨励のためにする社会教育関係団体若しくは一般人に対する援助若しくは助言又は社会教育関係団体間の連絡調整

3 機関誌の発行若しくは資料の作成配布の方法による社会教育に関する宣伝啓発の活動又は社会教育に関し相談に応ずる事業

4 図書・記録・視聴覚教育資料を公衆の利用に供する事業又は資料展示会若しくは展覧会の開催

5 競技会、体育大会又はレクリエーシヨン大会の開催

6 研究会、読書会、鑑賞会、講演会又は講習会の開催

7 社会教育に必要な専門的、技術的指導者の養成

(ロ) 青年団又は婦人会等の団体において、会員が、相互に問題をもちより、自主的に学習する活動は、教育の事業に該当するか。

(ハ) 宗教上の組織又は団体以外の団体で公の支配に属しないものが、その事業の一部として附随的に教育の事業を行つている場合、その団体の行う教育の事業以外の事業に対して国又は地方公共団体が補助金を支出することは、憲法第八五条に抵触するか。

二 意見及び理由

(イ) 教育の事業とは、人の精神的又は肉体的な育成をめざして、人を教え導びくことを目的とする事業であつて、教育する者と教育される者との存在を離れてこれを考えることはできない(昭和二四年五月三〇日法務庁調意一発第三一号(法務総裁意見年報第二巻一〇三頁)参照)。すなわち、教育される者についてその精神的又は肉体的な育成を図るべき目標があり、教育する者が教育される者を教え導びいて計画的にその目標の達成を図る事業でなければ教育の事業ということはできないのであつて、もともと人を教える行為が介在せず、したがつてまた教育する者及び教育される者の存在しない事実はむろんのこと、人を教える行為が介在しても、単に人の知識を豊富にしたり、その関心をたかめたりすることを目的とするだけの事業であつて、教育される者について、その精神的又は肉体的な育成を図るべき目標があつて計画的にその達成を図るのでないものは、教育の事業には該当しないものと解される。

ところで、社会教育関係団体の行う事業であることの故をもつて、その事業がただちに右にいう教育の事業に該当するものと解すべき特段の理由は存在しないから、社会教育関係団体の行う事業に該当するかどうかは、それぞれの事業について個々に判断するほかないものといわなければならない。この観点からお尋ねの問題を検討してみると、

(1) 1から5までに掲げる事業は、あるいは、もともと人を教える行為の介在を欠き、あるいは、その行為の介在はあつても、教育される者についてその精神的又は肉体的な育成を図るべき目標及びその計画的な達成という要件を欠いているが故に、社会教育関係団体によつて行われる場合であつても、いずれも、教育の事業に該当しないものと解してよいであろう。

(2) 6及び7に掲げる事業は、種々の形態で行われることがありうるので、前記の教育の事業の観念にてらし、それぞれ具体の場合について判定すべきもので、一律に決定することはできないが、たとえば、社会教育関係団体が特定の受講者についてその精神的又は肉体的な育成を図るべき目標を定め、講師を委嘱して受講者を指導させる等の方法により、計画的にその目標の達成を図るものであれば、研究、読書、鑑賞を指導させる等の方法をとると研究会、読書会、鑑賞会、講演会、講習会その他いかなる名称を用いるとを問わず、教育の事業に該当するものと解すべきであろう。

(ロ) 青年団又は婦人会において会員が相互に問題をもちより自主的に学習する活動は、(イ)の6に掲げる事業とおおむね同様に考えてよいであろう。すなわち、前記の教育の事業の観念にてらし、それぞれ具体の場合について判定すべきであるが、たとえば青年団又は婦人会が会員についてその精神的又は肉体的な育成を図るべき目標を定め、その目標を達成する手段として自主的な学習活動という方法を選び、その方法を指導しつつ計画的に右の目標達成に導くような場合には、その事業は、教育の事業に該当するものと解すべきであろう。けだし、人を教え導く行為とは、必ずしも講義をし、問題を提起し、解答を与えるというような形態によるもののみをいうものではなく、その他の形態によるものであつても、それ自体に教え導くという積極的な意義の認められるものは、これに含まれると解するのを相当とすると考えられるからである。

(ハ) 憲法第八九条は、宗教上の組織又は団体については、その事業のいかんを問わず、公金を当該組織又は団体の使用、便益又は維持そのもののために支出する等のことを禁止しているのに反し、公の支配に属しない慈善、教育又は博愛の事業については、事業そのものに着目して同様の財産上の援助を禁止している。したがつて、お示しの団体が宗教上の組織又は団体でないことが明らかである以上、その団体の行う慈善、教育及び博愛の事業以外の事業に対して国又は地方公共団体が補助金を支出することは、憲法第八九条の禁止するところではないと解される。

-- 登録:平成21年以前 --