研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針

文部科学省告示第七十一号

研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針を次のように定める。
平成十八年六月一日
文部科学大臣 小坂 憲次
 研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針

前文
 地球上の生物の生命活動を科学的に理解することは、人類の福祉、環境の保全と再生などの多くの課題の解決にとって極めて重要であり、動物実験等はそのために必要な、やむを得ない手段であるが、動物愛護の観点から、適正に行われなければならない。
 このため、研究機関等においては、従前から「大学等における動物実験について(昭和62年5月25日文部省学術国際局長通知)」等に基づき、動物実験委員会を設けるなどして、動物実験指針の整備及びその適正な運用に努めてきたところであるが、今後も生命科学の進展、医療技術等の開発等に資するため、動物実験等が実施されていくものと考えられる。
 一方、平成17年6月に動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第68号)が公布され、動物実験等に関する理念であるいわゆる3Rのうち、Refinement(科学上の利用に必要な限度において、できる限り動物に苦痛を与えない方法によってしなければならないことをいう。)に関する規定に加え、Replacement(科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用することをいう。)及びReduction(科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限りその利用に供される動物の数を少なくすることをいう。)に関する規定が盛り込まれた。
 このような動物実験等を取り巻く環境の変化を受け、研究機関等においては、科学上の必要性のみならず、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号。以下「法」という。)及び実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年環境省告示第88号。以下「飼養保管基準」という。)の規定も踏まえ、科学的観点と動物の愛護の観点から、動物実験等を適正に実施することがより重要である。
 このような現状を踏まえ、動物実験等の適正な実施に資するため、研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(以下「基本指針」という。)を定める。

第1 定義
   この基本指針において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1)  動物実験等 動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供することをいう。
(2)  実験動物 動物実験等のため、研究機関等における施設で飼養し、又は保管している哺乳類、鳥類及び爬虫類に属する動物をいう。
(3)  研究機関等 次に掲げる機関であって、科学技術に関する試験、研究若しくは開発又は学術研究を実施するものをいう。
 
  1  大学
2  大学共同利用機関法人
3  高等専門学校
4  文部科学省の施設等機関
5  独立行政法人(文部科学省が所管するものに限り、独立行政法人国立高等専門学校機構を除く。)
6  民法(明治29年法律第89号)第34条の規定により設立された法人(文部科学省が所管するものに限る。)
 
(4)  動物実験計画 動物実験等の実施に関する計画をいう。
(5)  動物実験実施者 動物実験等を実施する者をいう。
(6)  動物実験責任者 動物実験実施者のうち、動物実験の実施に関する業務を統括する者をいう。

第2 研究機関等の長の責務
 
1  研究機関等の長の責務
   研究機関等の長は、研究機関等における動物実験等の実施に関する最終的な責任を有し、動物実験委員会の設置、2に規定する機関内規程の策定、動物実験計画の承認、動物実験計画の実施の結果の把握その他動物実験等の適正な実施のために必要な措置を講じること。
2  機関内規程の策定
   研究機関等の長は、法、飼養保管基準、基本方針その他の動物実験等に関する法令(告示を含む。以下同じ。)の規定を踏まえ、動物実験施設の整備及び管理の方法並びに動物実験等の具体的な実施方法等を定めた規程(以下「機関内規程」という。)を策定すること。
3  動物実験計画の承認
   研究機関等の長は、動物実験等の開始前に動物実験責任者に動物実験計画を申請させ、その動物実験計画について動物実験委員会の審査を経てその申請を承認し、又は却下すること。
4  動物実験計画の実施の結果の把握
   研究機関等の長は、動物実験等の終了の後、動物実験計画の実施の結果について報告を受け、必要に応じ適正な動物実験等の実施のための改善措置を講ずること。

第3 動物実験委員会
 
1  動物実験委員会の設置
   研究機関等の長は、動物実験委員会を設置すること。
2  動物実験委員会の役割
   動物実験委員会は、次に掲げる業務を実施すること。
  1  研究機関等の長の諮問を受け、動物実験責任者が申請した動物実験計画が動物実験等に関する法令及び機関内規程に適合しているかどうかの審査を実施し、その結果を研究機関等の長に報告すること。
  2  動物実験計画の実施の結果について、研究機関等の長より報告を受け、必要に応じ助言を行うこと。
3  動物実験委員会の構成
   動物実験委員会は、研究機関等の長が次に掲げる者から任命した委員により構成することとし、その役割を十分に果たすのに適切なものとなるよう配慮すること。
  1  動物実験等に関して優れた識見を有する者
  2  実験動物に関して優れた識見を有する者
  3  その他学識経験を有する者

第4 動物実験等の実施
 
1  科学的合理性の確保
   動物実験責任者は、動物実験等により取得されるデータの信頼性を確保する等の観点から、次に掲げる事項を踏まえて動物実験計画を立案し、動物実験等を適正に実施すること。
 
(1)  適正な動物実験等の方法の選択
   次に掲げる事項を踏まえ、適正な動物実験等の方法を選択して実施すること。
  1  代替法の利用
     動物実験等の実施に当たっては、科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限り実験動物を供する方法に代わり得るものを利用すること等により実験動物を適切に利用することに配慮すること。
  2  実験動物の選択
     動物実験等の実施に当たっては、科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限りその利用に供される実験動物の数を少なくすること等により実験動物を適切に利用することに配慮すること。この場合において、動物実験等の目的に適した実験動物種の選定、動物実験成績の精度及び再現性を左右する実験動物の数、遺伝学的及び微生物学的品質並びに飼養条件を考慮する必要があること。
  3  苦痛の軽減
     動物実験等の実施に当たっては、法及び飼養保管基準を踏まえ、科学上の利用に必要な限度において、できる限りその実験動物に苦痛を与えない方法によってすること。
(2)  動物実験等の施設及び設備
   適切に維持管理された施設及び設備を用いて実施すること。
2  安全管理に特に注意を払う必要がある動物実験等
   研究機関等の長は、安全管理に特に注意を払う必要がある動物実験等を実施する際には、次に掲げる事項に配慮すること。
 
  1  物理的、化学的な材料若しくは病原体を取り扱う動物実験等又は人の安全若しくは健康若しくは周辺環境に影響を及ぼす可能性のある動物実験等を実施する際には、研究機関等における施設及び設備の状況を踏まえつつ、動物実験実施者の安全の確保及び健康保持について特に注意を払うこと。
  2  飼育環境の汚染により実験動物が傷害を受けることのないよう施設及び設備を保持するとともに、必要に応じ、検疫を実施するなどして、実験動物の健康保持に配慮すること。
  3  遺伝子組換え動物を用いる動物実験等、生態系に影響を及ぼす可能性のある動物実験等を実施する際には、研究機関等における施設及び設備の状況を踏まえつつ、遺伝子組換え動物の逸走防止等に関して特に注意を払うこと。

第5 実験動物の飼養及び保管
   動物実験等を実施する際の実験動物の飼養及び保管は、法及び飼養保管基準を踏まえ、科学的観点及び動物の愛護の観点から適切に実施すること。

第6 その他
 
1  教育訓練等の実施
   研究機関等の長は、動物実験実施者及び実験動物の飼養又は保管に従事する者(以下「動物実験実施者等」という。)に対し、動物実験等の実施並びに実験動物の飼養及び保管を適切に実施するために必要な基礎知識の修得を目的とした教育訓練の実施その他動物実験実施者等の資質向上を図るために必要な措置を講じること。
2  基本指針への適合性に関する自己点検・評価及び検証
   研究機関等の長は、動物実験等の実施に関する透明性を確保するため、定期的に、研究機関等における動物実験等の基本指針への適合性に関し、自ら点検及び評価を実施するとともに、当該点検及び評価の結果について、当該研究機関等以外の者による検証を実施することに努めること。
3  情報公開
   研究機関等の長は、研究機関等における動物実験等に関する情報(例:機関内規程、動物実験等に関する点検及び評価、当該研究機関等以外の者による検証の結果、実験動物の飼養及び保管の状況等)を、毎年1回程度、インターネットの利用、年報の配付その他の適切な方法により公表すること。
附則
   この基本指針は、平成18年6月1日から施行する。

(研究振興局ライフサイエンス課)

-- 登録:平成21年以前 --