二 国際交流推進のための枠組みの整備

基本的施策の策定

 国際交流推進のための枠組みについては、昭和三十一年七月の中央教育審議会答申「教育・学術・文化に関する国際交流の推進について」においても示されていたが、国際化の時代における教育、学術、文化、スポーツ等の国際交流の抜本的な枠組みを示した文書は、四十九年の中央教育審議会答申「教育・学術・文化における国際交流について」が最初であった。この答申は、我が国の国際的地位の向上やそれに伴って新たに生じてきた国際的な摩擦や緊張を背景として、従前の国際交流が政治的・経済的側面に偏り過ぎてきたことを反省するとともに、国際社会において信頼と尊敬を受けるに足る日本人の育成と、国家相互の連帯と発展向上の基盤たるべき教育・学術・文化の国際交流活動の抜本的拡充・改善の必要性を強く指摘した。これらの点を踏まえ答申は、積極的に推進すべき重点施策として、国際社会に生きる日本人の育成、交流事業の拡大、組織体制の整備、外国人受入れ環境の整備、発展途上国に対する協力及び外国人に対する日本語教育の振興について具体的な施策の方向を示した。以後これに基づき各般の施策が講じられることとなった。

 その後も国際化が一層進展する中で、五十九年九月に総理大臣の諮問機関として設置された臨時教育審議会は、四次にわたるすべての答申において、国際化への対応を教育改革の重要な課題の一つとして取り上げた。これらの答申は、留学生受入れ体制、海外子女教育・帰国子女教育、日本語教育、外国語教育等直接国際交流に係る諸施策の一層の充実・強化を提言したのに加えて、学校自体を国際的に開かれたものにすることを目指し、帰国子女・外国人子女受入れ校の相談窓口の開設、日本語教育の専任教員の配置、海外経験を有する教員の活用及び外国人教員の招致等を提言した。

 さらに、平成元年九月には、政府全体としての国際文化交流推進策を示した「国際文化交流行動計画」(元年から五か年)が策定されている。この計画は、各省庁が実施している国際交流事業の一体的・総合的推進を図ろうとする意図を持つものであった。文部省関係では従来から進められていた外国人への日本語教育、国際理解教育、芸術文化交流、学術交流等の推進が盛り込まれている。ただし、留学生の受入れ及びスポーツ交流については、別途基本施策の検討が行われていたため、この計画には含まれていない。

諸外国との協定等の締結

 教育、文化等の国際交流の推進は、必ずしも条約などによる明文の規定を必要とするものではないが、諸外国との「文化協定」の締結は、戦後これらの交流を促進・奨励する上で大きな役割を果たしてきた。昭和二十七年の平和条約の締結による我が国の国際社会への復帰に伴って翌二十八年にフランスとの文化協定が締結されたのに始まり、順次各国との締結が進み現在では二五か国に達している。これらの国々の多くとは、「文化協定」に基づき、「文化混合委員会」等が設置されており、二国間の文化交流全般について政府間協議が行われている。また、特に米国との間では、日米文化教育交流会議(CULCON)を通じて、両国の教育・文化交流の促進を図っており、同会議の勧告に基づく各種協力が実施されている。このほか、特に四十年代後半から教育・文化交流のための行政取極等の締結が進められ、現在東ヨーロッパ諸国を中心に、九か国との間で結ばれている。なお、学術交流については、四十年代後半以降二国間の「科学技術協力協定」等が結ばれており、現在一九か国に達している。また、多くの相手国との間に「科学技術協力委員会」等が設置され、政府間協議が行われている。

 また、国際連合やユネスコ等で採択された条約で我が国が締結しているもののうち、特に文部省にも関係が深いものとしては、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(国際人権A規約)」(昭和五十四年六月批准)、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)」(五十四年六月批准)、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(六十年六月批准)、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(平成四年六月批准)などがあり、そのほか「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」(パリ改正条約を昭和五十年一月に批准)、「万国著作権条約」(パリ改正条約を五十二年七月に批准)等の著作権関係条約がある。

国際交流担当部局の整備

 種々の国際交流活動の活発化とこれに伴う行政需要の拡大に適切に対応するため、文部省は、国際交流担当部局の整備を積極的に推進してきた。内部部局については、昭和四十九年に「学術国際局」を新設するとともに、同局内に、「企画連絡課」、「国際教育文化課」、「国際学術課」及び「留学生課」の四課で構成する「ユネスコ国際部」を設け、それまで各局、文化庁、ユネスコ国内委員会などに分散していた国際交流に係る企画・連絡調整等の事務を一括して担当する体制を整備した。なお、五十九年の機構改革により同部は廃止されたが、関係の四課は学術国際局内に存続し(企画連絡課は国際企画課に改編)、同局が文部省の国際交流事業に係る全省的な企画・連絡調整を行う体制は同じである。また、施設等の機関についても、国立教育研究所国際研究・協力部、国立婦人教育会館情報交流課など、各機関において国際交流活動を専門に担当する部局が設置されてきている。

 なお、教育・学術・文化・スポーツ等の分野における国際交流の一層の推進に資するため、現在一二名の文部省職員が外務省に出向しており、在外公館職員(アタッシェ)として勤務している。現在の派遣先は、フランス、タイ、大韓民国、アメリカ、インドネシア、中国、イギリス、オーストラリア、マレーシアの日本国大使館及びユネスコ常駐代表部、OECD日本政府代表部、ジュネーブ国際機関日本政府代表部であり、当該国等と日本との交流・協力の推進に重要な役割を果たしている。

 国立大学については、教育、研究、開発援助、地域社会への貢献等、大学の持つ種々の機能について国際化が急速に進展し、事務局においてもこれを専門的に扱う部局を設置することが必要となってきたことから、「国際交流課」や「国際主幹」の設置を進めてきた。国際主幹については、五十一年に東京大学と京都大学に初めて設置されてから順次整備が進められ、これまで計一八大学に設置されている。これらのうち特に活発な国際交流活動が行われ、質・量ともに事務が極めて高度化したものについては、順次国際交流課への振替を行っており、現在九大学に国際交流課が設置されている(筑波大学は発足当初から国際交流課を設置)。なお、留学生受入れ体制の整備のため、留学生課又は留学生主幹を設置している(第三節四参照)。

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