一 社会的要請への対応

 大学の学術研究の本来の使命は、研究者の自由な発想による創造的な研究の展開と優れた人材の養成にあり、この使命を果たすことにより広く人類・社会の発展に貢献することが大学に対する社会の期待にこたえる基本である。他方、特に昭和五十年代に入ると、それに加えて社会の各方面から個別的・具体的な諸問題の解決等のためにも協力することに関する多様な期待と要請が、大学の学術研究に対して寄せられるようになった。

 学術審議会は、五十五年に行われた「学術研究体制の改善のための基本的施策について」の諮問の検討事項の一つとして「学術研究に対する社会的要請への対応のあり方」について審議を行った。文部省はそこでの議論を踏まえ、大学がその本来の使命を踏まえつつ、大学の主体性の下にその特色を生かしながらこれらの社会的要請に適切に対応し協力することは、大学の研究活動に刺激を与える観点からも有意義であるとの考え方の下に、五十七年には、国立大学等において民間企業等外部からの委託を受けて研究を行う「受託研究制度」を改善し、さらに五十八年度には、国立大学等において民間機関等から研究者及び研究費等を受け入れて、当該大学等の教官が民間機関等の研究者と共通の課題について対等の立場で共同研究を行う「民間等との共同研究制度」を創設した。また、同審議会は、五十九年の「学術研究体制の改善のための基本的施策について」の答申において、同様の観点の下に、受託研究制度の改善、民間等との共同研究制度の充実、研究者交流の促進などについて提言した。

 以後、これを踏まえて、民間からの受託等大学側での受入れに関する手続の簡素化、弾力化を図るとともに、受託研究制度における特許等の実施に関する特別の取扱いを規定する等、制度の改善・充実に努めつつ、大学と産業界等との研究協力を積極的に推進してきた。特に近年の国立大学と民間等との協力は目覚ましく、民間等から受け入れる研究費は急速に増加し、平成四年度予算では六三一億円となっており、科学研究費補助金六四六億円に匹敵するほどになっている。

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