一 体育・スポーツ振興の基本的な方向

昭和四十七年の保健体育審議会答申

 第二次大戦の敗戦を機に、国民が健康で文化的な生活を営むことを目標に掲げて、戦後の窮乏の中から、体育・スポーツの振興が図られてきた。昭和四十年代に入ると、経済成長に伴う生活様式の変化により、日常生活における身体的な活動が減少し、また、公害の発生や自然環境の破壊が新たな問題を投げ掛けた。このことは健康に対する国民の関心を高め、生活水準の向上や自由時間の増大を背景にして、体育・スポーツへの欲求を急速に強めた。

 このような状況に対応して、保健体育審議会は四十七年十二月、「体育・スポーツの普及振興に関する基本方策について」の答申を文部大臣に提出した。この答申は体育・スポーツの普及振興の新しい基本方向を示し、1)体育・スポーツ施設について人口規模別に整備すべき水準を設定するとともに、2)体育・スポーツヘの参加を促進するためのスポーツ教室の開設の推進、3)指導者の養成・確保、4)体育・スポーツに関する研究体制の整備、5)必要な資金の確保と運用など、広範囲にわたり具体的な施策を挙げた。文部省は地方公共団体やスポーツ団体などとも協力しながら、答申が示した方向に従って関係施策の推進に努めた。

二十一世紀に向けた振興方策

 その後、都市化の進展、高齢者社会の進行、余暇時間の増大などに伴い、体を動かすという人間の本源的な欲求にこたえるスポーツ活動に対し、国民のニーズが更に増大し、かつ、多様化してきた。このため、国民の生涯にわたるスポーツ活動の振興を図っていくことが大きな課題となった。また、競技スポーツの分野では、オリンピック大会等における我が国選手の活躍は国民に活力を与えるとともに、スポーツの振興を助長するものであるが、世界の競技水準が著しく高まる中で、我が国の競技力の水準が相対的に低下したため、その向上が重要な課題となってきた。

 このような状況を踏まえ、臨時教育審議会は、昭和六十二年四月の第三次答申において1)個々人の生活環境や健康・体力などに応じたスポーツ活動が容易に行えるようにするためスポーツプログラム開発や施設の整備、指導者の資質向上などの推進、2)競技スポーツの向上のため青少年のスポーツ活動の促進、コーチ制度の確立、国際交流の推進、3)スポーツ医・科学研究の推進などを指摘した。

 また、六十二年九月に内閣総理大臣の私的懇談会として、スポーツ関係者等から成る「スポーツの振興に関する懇談会」が設けられ、スポーツの一層の振興を図るための検討が行われた。同懇談会からは、六十三年三月に報告が提出されたが、そこでは、スポーツの振興に関する方策として1)スポーツに関する社会的評価の向上、2)スポーツ指導者の養成確保、3)スポーツ施設の充実、4)スポーツ振興のための財源措置などが提言された。

 文部省では、これらの答申や報告の提言の具体化を図るため、六十三年四月、保健体育審議会に「二十一世紀に向けたスポーツの振興方策について」の諮問を行い、平成元年十一月に答申を得た。

 この答申は、広く生涯スポーツと競技スポーツの両面にわたり、また、学校における体育・スポーツとの連携にも配慮しつつ、二十一世紀初頭までを見通したスポーツの振興方策の基本的な考え方を示すとともに、今後、重点的・計画的に実施を図るべき重要施策について取りまとめたものである。そこではまず、現代社会におけるスポーツについて、文化としてのスポーツという視点から、生涯スポーツと競技スポーツの両面にわたるスポーツ振興の意義付けを行うとともに、二十一世紀に向けたスポーツの振興の基本的方向として1)スポーツ施設の整備充実のため地方公共団体におけるスポーツ施設の整備の指針を示すとともに、2)生涯スポーツの充実のための多様なスポーツ種目の普及や指導者の養成・確保などの各種事業の推進、3)競技スポーツの振興のための指導者の資質向上や指導体制の確立、スポーツ科学研究の推進、4)スポーツの国際交流の推進、5)プロスポーツの健全な発展の助長、6)スポーツ振興のための資金の確保などを示した。この答申で、スポーツを人類の「文化」の中でも極めて重要なものと意義付けたこと、生活をより豊かにするものとして「見るスポーツ」を取り上げていること、また、プロスポーツを取り上げていることなどは、これまでの答申等にはない画期的なものとして注目されよう。

 文部省はこれらの答申等に基づき、関係機関とも連携を図りつつ、各種の施策を進めている。

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