二 学生生活と厚生補導

学生の生活と意識

 文部省が実施している学生生活調査によると、学生生活費(大学昼間部の学生)はこの二十年間で、国立で五・三倍、私立で四・六倍になっている。このうち、学費を除く生活費は、国立四・八倍、私立三・六倍となっており、この間の物価の伸び率二・九倍を上回っている。アルバイトをする者は増加しており、アルバイト収入(大学昼間部の学生)はこの二十年間で、国立七・六倍、私立七・〇倍と大きな伸びを示している。また、学生の住居については学生寮よりもアパート、マンションが好まれる傾向にあり、自宅外通学生の四分の三はアパート、マンションに住んでいるという調査結果もある。このような事実は、我が国の経済社会の発展に伴い、学生生活が経済的に豊かになっていることをうかがわせる。

 昭和三十年代後半から四十年代にかけての大学進学率の上昇により、同一年齢層の四割近くの者が大学に進学している今日、学生の気質も、一昔前に比べて大きく変質してきている。学生はもはやエリート意識を持っていないこと、大学入学の目的・動機があいまいになっていること、受講態度は一般に真面目であるが受動的で教師との対話を求めることが少ないこと、自己中心的で無関心・無感動の傾向があること、課外活動には熱心であるが比較的自由な同好会への参加が増えていること、遊び・レジャーへの関心が高いこと、などが指摘されているが、学生は近年一層多様化し、また個性化して、学生一般として論ずることは困難となっている。

厚生補導の改善

 このような中で、学生の学園生活上の諸問題について援助・助言・指導を行う厚生補導の果たす役割もより多様化が求められている。学園生活の中で学生が抱える問題は、経済、住居、修学、進路、友人関係、人生の問題など広範囲にわたるが、近年では、大学生活への不適応、対人関係の悩みなどが増加し、これに対応し得るカウンセリングの手法の導入が必要となってきている。また、ネズミ講などによる借金、海外旅行中の事故など、時代を反映した新しい問題も出現するようになり、これらへの対応が必要とされてきている。

 下宿、貸間やアルバイトの斡(あっ)旋を通じて学生生活の支援を行ってきた財団法人学徒援護会は、昭和五十一年、各大学との連携協力の下に全国的規模で学生教育研究災害傷害保険事業を開始し、平成元年には内外学生センターと名称変更して、留学生も含めた学生全般に対し幅広い厚生援護事業を行っている。

厚生施設の整備

 厚生施設については、学生に対する経済的な援助や学生の人間形成の助長を図る観点から、整備充実が行われてきた。国立大学の学生寄宿舎については、昭和四十九年以降、居室の改善を図るため、旧寮の建て替えとともに新規格寮の整備を進めており、平成三年度からは、留学生の増加に伴う措置として日本人学生との混住寮方式の学生寄宿舎の整備を行っている。なお、三年度には、課外活動関係施設、社交施設、福利施設などを備える大学会館は八三大学に、学生の心身の健康の保持増進を図るための保健管理センターは八六大学に設置されており、また、全国七地区には、国立大学が利用できる合宿研修施設が一三設置されている。

就職問題

 大学生等の就職活動が学習に支障なく秩序ある形で行われ、学生に職業選択の機会を公平に与えるため、昭和二十八年以来大学団体と企業側団体により就職協定の申合せが行われている。

 近年の動きを見ると、四十六年から四十七年には高度経済成長の影響で企業の求人活動は激化し、大学三年次の後半に就職が内定する状況となった。このため、大学教育に支障が生じるようになり、四十八年には新たに中央雇用対策協議会の決議による企業側の自主規制とする方法が採られたが、その後、景気後退により採用内定取消しや自宅待機が続出するなど、景気の動向等により就職協定は紆(う)余曲折を経た。また、学歴社会の弊害を指摘する声が高まる中、六十年には、臨時教育審議会が、学歴社会是正の立場から、就職協定違反の採用(いわゆる青田買い)を改めるべき旨の提言を行い、これを受けて、企業側と大学側は「会社訪問開始日」について申合せを行った。六十三年には、この協定を更に実効あらしめるため、「就職協定協議会」が設置された。平成三年夏、協定違反が跡を断たないという理由で、企業側から就職協定の見直しが主張され、企業側と大学側が協議した結果、四年度には、採用選考は八月一日前後を目標として企業が自主的に決定した日程により開始されることとなった。

 なお、就職に関しては、企業におけるいわゆる指定校制の是正についても、五十年代初めから文部大臣と労働大臣や経済団体との協議が行われたり、また、文部省や経済団体から、各企業に対し是正を呼び掛けるなどの取組が行われた。

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