一 大学院制度の整備

大学院設置基準の制定等

 我が国の新しい大学院制度は、戦後の新学制の制定に際して、旧来の制度を改めて発足した。旧制の大学院は、学部に置かれる研究科の総合体であって、スクーリングよりは学部卒業者が研究に従事する場として位置付けられた。新制度の大学院は、学部と一体のものではなく独自の組織として位置付けられ、一定の修業年限を有し、単位制による教育を含むスクーリングを重視して、所定の期間の課程修了後学位を授与することを建前とする課程制大学院であった。しかしながら、戦後の課程制大学院の考え方はなかなか定着せず、理工系を除けば、課程修了後に博士の学位を授与される者は少数にとどまった。また、学部と大学院が不離一体のものとして受け止められてきたため、大学設置基準と同時に大学院の設置基準を制定するには至らず、大学基準協会の定める大学院基準と大学設置審議会の決定その他の運用にゆだねられてきて、制度的明確さを欠き、その改善を図る上で支障ともなってきた。

 昭和四十年代になって、高度経済成長や急激な社会の変化、高等教育の拡充及び学術研究の進展に伴い、優れた教育・研究者の育成と高度の専門性を備えた職業人の養成を行う大学院の整備充実と多様な発展に対する要請が高まり、四十六年、中央教育審議会から高等教育の改革の一環として、大学とは別種の高等教育機関である「大学院」、「研究院」を設けることなど大学院及び学位制度の在り方についての提案があったが、現行制度とその運用状況との関係も考慮して、引き続き、大学設置審議会において検討が進められ、同審議会から四十九年三月に「大学院及び学位制度の改善について」の答申が出され、これに基づき四十九年六月に大学院設置基準の制定及び学位規則の改正が行われた。この基準は、課程制大学院の考え方の再確認と大学院の独自性の強化を柱としつつ、制度の弾力化の方針の下、大学院制度全般について体系的に整備を図ったものである。主な改正点としては、1)修士課程については、その目的を広げて高度の専門職業教育等も含まれることを明らかにしたこと、2)博士課程については、研究者として自立し得る水準として課程の目的が明定され、課程制大学院の趣旨を徹底させたこと、3)博士課程の修業年限は標準五年とし、優秀な学生は三年で修了し得るようにしたこと、4)また、特定の学部に依存する従来の組織編成のほかに、複数の学部、研究所等と連携し、また、専任教員と専用施設によるいわゆる独立研究科を設けることができることを明らかにし、大学院の独立性を強化したこと、5)博士課程の編成方法について前期二年と後期三年の課程に区分して編成することも、区分を設けず五年一貫の博士課程として編成することもできるようにしたこと、6)更に学位について、従来の種々の博士号のほかに、包括的意味を持つ学術博士を設けたこと、などである。

 また、前記答申の中で法改正を要する事項については五十一年に学校教育法の改正が行われ、修士の学位が博士の学位と同様に法律上明定され、また、課程編成の多様化に関連して修士の学位を有する者を入学資格とする後期三年のみの博士課程の設置が認められるとともに、独立大学院の制度も設けられた。これをもって、課程制を基本とする現在の大学院制度が確立した。

大学院制度の弾力化

 その後、大学院の在学者数は逐年増加を続け、昭和六十年には、大学院設置基準制定後の十年間で、修士課程、博士課程とも一・四倍となったが、学部学生に対する比率はなお四%程度にとどまり、主要先進諸国が一七~三三%程度であるのと比べ、なお低い水準にとどまっていた。また、大学院修了者に対する社会からの人材需要も、理工系の分野を除き高まらず、オーバードクター問題など就職先の確保が課題となっていた。

 このような状況を踏まえ、また、生涯学習社会への移行を図るために、大学院の飛躍的充実と改革は、六十一年の臨時教育審議会の第二次答申の緊急課題とされ、様々な提言がなされた。文部省の大学審議会は、基本的にはこの答申に沿って、まず、高等教育の高度化に対応する大学院の整備充実を最優先課題として検討を進め、六十三年十二月「大学院制度の弾力化について」答申し、これに基づき、平成元年九月に大学院設置基準等の改正が行われた。その主な改正点は、1)博士課程の目的及び博士の学位について、大学等の研究者のみならず、社会の多様な方面で活躍し得る高度の能力と豊かな学識を有する人材を養成し得ることを明らかにしたこと、2)社会人の受入れを積極的に進めるため、専ら夜間において教育を行う修士課程を設置し得ることを明らかにしたこと、3)修士課程において多様な形で大学院の活性化を推進するため、修士課程の修業年限を弾力化したこと(標準二年、最短一年)、4)大学院入学資格についても、研究者として早期から大学院教育を実施する道を開くことを趣旨として大学に三年以上在学した者に修士課程への入学資格を認め、また、社会人の再教育を積極的に推進するため、大学を卒業後、研究所等において二年以上研究に従事した者に博士後期課程への入学資格を認めたこと、などである。

学位制度の改善と学位授与機構の創設

 続いて、大学審議会は、「学位制度の見直しと大学院の評価」と「学位授与機関の創設」について平成三年二月に答申した。学位制度の見直しについては、自然科学の分野では活発に学位授与が行われているのに対して、人文、社会科学の分野での学位授与は極めて低調であることから、国際化の進展、留学生の積極的受入れ等にも対応して、課程制大学院制度の理念に沿って、すべての分野における学位授与の円滑化や学位制度の簡略化を図るため、同年六月に、専攻分野の名称を冠した修士及び博士の種類を廃止し、単に修士及び博士とする学位規則の改正が行われた。また、これに先立ち、後述の学位授与機構の創設に伴って同機構が行う学位授与の要件等を学校教育法上に規定し、これに関連して大学が行う学位授与の要件等が法律上明確にされた。これに際して、従来、称号として位置付けられていた学士が学位として位置付けられた。

 また、学位授与機構については、生涯学習体系への移行の観点から、高等教育段階の多様な学習成果を評価して、学位授与の機会を与えるため、短期大学・高等専門学校を卒業し、大学の科目等履修生としての一定の単位の修得及び一定の要件を満たす短期大学・高等専門学校の専攻科における一定の単位の修得をした者等で、大学の修了者と同等以上の水準にある者や、大学以外の教育訓練施設で学部レベルあるいは大学院レベルの課程を修了し、大学卒業者や大学院修了者と同等以上の水準にある者に対する学位の授与を行う機関として、平成三年七月に創設され、四年三月に初の学位授与(博士一〇人、学士八三九人)が行われた。

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