一 高等教育改革の推進

 我が国の高等教育は、昭和三十年代後半から、経済の高度成長を背景とした高等学校進学率の上昇や、いわゆる第一次ベビーブームの時期に生まれた世代が四十一年に十八歳に達したことなどにより、急激な量的拡大を遂げた。例えば三十五年には大学・短期大学の在学者数七一万人、進学率一〇・三%であったが、四十年には一〇九万人、一七・〇%、五十年には二〇九万人、三七・八%と著しく増加し、大学はいわゆる大衆化の時代を迎えることとなった。このような中、戦後の復興期から様々な形で展開されてきた学生運動が、三十五年の日米安保条約改定を契機として激しさを増し、四十年代になると、運動の目標として政治問題に学費値上げや学生寮、学生会館等の管理の問題などをも加えて闘争の場を大学に移し、大規模な紛争が各地の大学で頻発した。これらの紛争には様々な社会的要因等があるとともに国際的な潮流の影響を受けたものであると言われているが、大学の在り方自体に種々の問題が内在していたことは否めず、このため、これを直接の契機として、大学をはじめとする高等教育の在り方について各方面から多くの問題が指摘され、その改革が強く求められることとなった。

 既に、中央教育審議会は、三十八年に「大学教育の改善について」答申し、その中で科学技術の進歩や産業経済の発展等を背景に、高等教育の対象が選ばれた少数者から、能力、適性等において幅のある広い階層へと変わってきており、学術研究、職業教育とともに市民的教養と人間形成を行うという新制大学の理念は必ずしも十分に達成されていないとして、高等教育機関の種別化、教育内容・方法の改善、大学の管理運営の在り方等について提言を行った。さらに、四十六年に「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」答申し、これまでの高等教育に対する考え方やその制度的な枠組みが、高等教育の普及と社会の複雑高度化に伴って複合した要請に適切に対応できなくなっているとして、高等教育の多様化、弾力化、開放化、計画的整備など多岐にわたる高等教育改革の基体構想を提言した。四十七年以降、五十年代の高等教育については、これらの答申も踏まえながら、後述のように、大学制度の弾力化、新構想大学の創設、計画的整備等が進められた。

 このうち、大学制度の弾力化については、各大学における自主的、自発的な改善、改革への努力を助長するため、四十年代後半以降数次にわたり大学設置基準の改正等、大学制度の弾力化が進められた。

 まず、四十五年には、人文、社会又は自然の二分野以上にわたる総合科目の開設、卒業要件として修得すべき一般教育科目の単位数の弾力化等を内容とする一般教育科目に関する教育課程の編成を弾力化するための大学設置基準の改正が行われた。四十七年には、大学は、教育上有益と認めるときは、学生が他の大学の授業科目を履修することを認めることができることとされ、国内・国外の大学とのいわゆる単位互換が制度化された。

 また、新構想大学である筑波大学の創設と関連して、四十八年には学校教育法の改正により、大学に学部以外の教育研究の基本となる組織を置くことができることとされ、大学設置基準においてその基本組織の要件が規定された。

 四十九年に、大学設置審議会の答申に基づき、大学院設置基準を制定するとともに、五十一年には、学校教育法の改正により、学部を置くことなく大学院を置くものを大学とすることができることとし、いわゆる独立大学院の制度を創設した。また、五十年には、短期大学設置基準を制定した。

 一方、伝統的な履修形態以外の方法による教育の機会の拡充として、四十六年の中央教育審議会答申以降、放送大学の創設が課題とされていたが、放送等を効果的に活用した新しい形態の大学通信教育等に適切に対応していくため、五十六年、大学通信教育設置基準を新たに制定した。これにより、五十八年の放送大学の設置が実現したのである。

 さらに、五十九年から六十二年にかけて、我が国の教育全般について検討を加えた臨時教育審議会は、高等教育について、大学教育の充実と個性化、大学院の飛躍的充実と改革等の提言を行ったが、その中で、我が国の高等教育の在り方を基本的に審議し、大学に必要な助言や援助を提供し、文部大臣に勧告権を持つ恒常的な機関として「ユニバーシティ・カウンシル(大学審議会―仮称)」を創設することを提言した。

 この提言に基づき、六十二年九月、学校教育法の改正により文部省に大学審議会が設置されるとともに、従来の大学設置審議会及び私立大学審議会が改組され、大学設置・学校法人審議会が新設された。同年十月には、文部大臣より大学審議会に対し「大学等における教育研究の高度化、個性化及び活性化等のための具体的方策について」諮問され、同審議会は、まず六十三年十二月に、大学院制度の弾力化に関する答申を行い、同答申に基づき平成元年九月、文部省は大学院設置基準等の改正を行った。

 また同審議会は、三年二月には、大学設置基準の大綱化等大学教育の改善に関する答申や学位授与機関の創設等に関する答申を行った。

 これらの答申を受け、三年四月、国立学校設置法及び学校教育法の改正が行われ(同年七月施行)、これにより生涯学習体系への移行及び高等教育機関の多様な発展等の観点から、高等教育段階の様々の学習の成果を評価して学位の授与を行う学位授与機構が設置され、さらに、高等教育の国際化等に対応し、諸外国の通例に倣って学士が学位に位置付けられるとともに、短期大学及び高等専門学校の卒業者に対する称号として、新たに準学士の称号が設けられた。

 また、同年六月に答申を受けて文部省は大学設置基準を改正したが、これは大学設置基準が制定されて以来の大幅なものであった。改正点の第一は、各大学が多様で特色ある教育課程を編成することができるよう、一般教育と専門教育の科目区分の廃止など、大学教育の基本的枠組みを定めている大学設置基準を大幅に簡素化、大綱化したことである。第二は、各大学が、自らの責任において教育研究の不断の改善を図ることを促すための自己点検・自己評価システムを新たに導入したことである。第三は、生涯学習等に対応した履修形態の柔軟化を図るため、一部の授業科目のみを履修する科目等履修生制度、修業年限が二年以上の専修学校専門課程等大学以外の教育施設における学習成果の単位認定制度、これまで事実上行われていた昼夜開講制等について関連規定を整備したことである。

 さらに同審議会は、三年五月には「大学院の整備充実について」、同年十二月には「大学院の量的整備について」答申し、質的にも量的にも我が国の大学院の飛躍的充実を図るための方策の基本的な在り方について提言を行った。

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