第一節 教員の資質向上

 学校教育は、次代を担う青少年の人間形成の基礎を形成する上で重要な役割を果たすものであるが、児童生徒に対して行われる教育の成果は、直接教育に携わる教員の力に負うところが極めて大きい。優れた教員を確保し、その資質能力の絶えざる向上を図ることは、我が国教育発展のための基本的課題である。

 教員養成については、戦後、幅広い教養と高度の専門知識を備えた人材を教職に求める見地から、戦前の師範学校制度、検定制度が廃止され、教員養成の水準を大学程度に高めるとともに、一般大学と教員養成大学がそれぞれの特色を発揮しつつ教員養成の実をあげるという、いわゆる開放制が採用された。

 高度成長期における産業経済の目覚ましい発展の中で、民間を中心とした様々な分野で高い資質能力を持つ人材が求められるようになり、教職に優秀な人材が集まらなくなる傾向が出たことが指摘されてきた。また、科学技術が目覚ましい発展を遂げるとともに、教育においても知識・技術面のみならず児童生徒の創造力の育成や個性の尊重が強く求められるようになり、昭和三十年代になって、中央教育審議会や教育職員養成審議会においては、数次にわたり、教員養成制度の改善等に関する答申・建議を行ってきた。これらの答申・建議は、教員の専門性をより高める観点から、免許基準の高度化、試補制度などを盛り込んでいるものであったが、実現を見るに至らなかった。四十六年の中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」は、従来の諸改革案を集約し、発展させたものであった。その主要な提言は、第一は、優れた人材が進んで教職を志すことを妨げないよう、義務教育の教員の初任給を一般の公務員より三~四割高くすること、第二は、採用後特別な身分において一年程度の期間実地修練を行う制度を設けること、第三は、教職について相当な経験・実績を積んだ教員が二年間高度な教育の勉強ができる大学院を設けること、などである。

 戦後における教員の処遇改善措置は、四十七年からの義務教育諸学校等の教員への教職調整額の支給に始まった。この制度の創設をめぐって教職の専門性・重要性が論議され、教職への人材確保と教員給与の抜本的改善の必要性に各方面の関心が高まり、四十九年、「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(いわゆる「人材確保法」)の制定により、教員給与の画期的改善が実現することになる。この措置は、優れた教員を確保する上に大きな効果をあげている。

 教員の資質向上のためには、待遇の改善だけでなく、養成・採用・研修のそれぞれの段階での施策を講ずることが重要であり、五十三年の中央教育審議会の「教員の資質能力の向上について」の答申も、大学における養成の段階、採用の段階、教員となってからの研修の段階を通じた施策を総合的に推進することを提言している。

 この間、教員の現職研修は、中央研修講座の拡充、教員海外派遣の拡大等により年々充実してきた。また、現職教員に大学院レベルの研修・研鑽(さん)の機会を確保するため、五十三年から五十六年までに兵庫・上越・鳴門の三つの新教育大学が創設された。このほか、教員組織の活性化を図るため、四十九年に教頭職の法制化を行い、また五十年には主任制度が創設された。

 六十一年になって、臨時教育審議会は、教員養成・免許制度の改善、初任者研修制度の創設など、教員の資質向上のためのかねてからの懸案事項について基本的改革に関する提言を行った。これを受けて、文部省においては、教育職員養成審議会の審議・答申により、六十三年に教育職員免許法、教育公務員特例法等の改正を経て、平成元年度から、教員免許制度の改正及び初任者研修制度の創設を実施に移した。

 まず、教員免許制度の改正は、修士課程修了程度を基礎資格とする専修免許状の新設、特別免許状の創設等による社会人の学校教育への活用、免許基準の引上げ等を内容とするものであり、従来の各方面からの提言を集大成し、二十四年の教育職員免許法制定以来の最も大きな制度改正であった。

 また、初任者研修制度については、明治以来、試補制度など様々な形で提唱されながら、その身分が不安定であるとして関係者の反対があり、また、大きな財政負担を要することから実現を見なかった。今回創設された初任者研修制度は、特別な身分による実地研修という考え方を採らず、教諭に採用後一年間を先輩教員等から実地研修を受けるという現職教育の考え方に立つものであり、教員の一層の資質向上が求められる中、教育関係者の長年の念願であった初任者研修制度が実現を見たものである。

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