一 義務教育における学級編制基準

義務標準法の制定

 義務教育水準の向上を図る上で、学級規模と教職員配置の適正化を進めることは極めて重要な課題である。昭和三十三年、地方財政の窮乏に伴う義務教育水準の切下げに対処するとともに、義務教育人口の急激な増加によるいわゆるすし詰め学級の解消を図るため、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(以下「義務標準法」という。)が制定された。義務標準法では、学級編制基準については、小・中学校の単式学級の標準が五〇人と定められ、複式学級・特殊学級及び特殊教育諸学校の学級編制についてもその標準が定められた。また、教職員定数については、学校数・学級数を基礎に、特別の事情等による加配数を加えて、各都道府県に置くべき教職員定数の標準が定められた。この法律によって定められた各都道府県の教職員定数分の給与費等について、国は、義務教育費国庫負担制度及び地方交付税制度により、それぞれ二分の一ずつの財政措置を講じている。このように、この法律は、単に学校における学級編制や教職員定数の標準を示すにとどまらず、これに財政上の措置を講ずることにより、義務教育の水準を確保する役割を果たしている。

義務標準法の改正

 昭和三十三年制定の義務標準法の内容は、三十四年度からの第一次五か年計画で実施された。以後、義務標準法は、三十八年、四十四年及び四十九年に改正され、それぞれ、第二次五か年計画(三十九~四十三年度)、第三次五か年計画(四十四~四十八年度)、第四次五か年計画(四十九~五十三年度)により実施された。

 三十八年の第二次改正においては、小・中学校の単式学級の標準が四五人に引き下げられるなど学級編制基準の一層の改善が行われた。四十四年の第三次改正においては、複式学級及び特殊教育諸学校の学級編制基準の改善等が行われた。

 これに続く四十九年の第四次改正においては、計画期間が児童生徒の急増期(第二次ベビーブーム)に当たることから、小・中学校の単式学級の標準は四五人のまま据え置かれ、特殊学級及び複式学級の改善等が行われた。また小規模中学校における免許外教科担当教員解消や長期研修・教育困難校への加配のための教諭の配置基準改善、養護教諭・舎監・寮母・事務職員の配置基準の改善、学校栄養職員の配置基準の新設などの改善が行われた。第四次改善計画により、教職員定数は、自然増減を含めて八万二、三六七人の増員を見た。

四十人学級の実現

 昭和五十五年度からの第五次改善計画を策定するに当たって、最大の課題は、小・中学校の四十人学級の実現であった。特に義務教育段階においては、一人一人の児童生徒の能力と適性に応じたきめ細かな教育を行うことが重要であり、学級編制基準を欧米諸国並みの四〇人以下に引き下げることは、教育関係者の永年の要望であった。国会においても、四十九年の第四次改正の附帯決議において、小・中学校の学級編制基準の引下げを速やかに実現するよう決議されていた。

 当時既に深刻化しつつあった財政事情の中で、大きな財政負担を伴う四十人学級の実施には、政府部内でも様々な議論があったが、五十五年の義務標準法の改正により、五十五年度から十二年間の第五次改善計画の一環として実現した。第五次改善計画には、、このほか、複式学級・特殊学級及び特殊教育諸学校の学級編制基準の改善、教頭の配置基準の改善、専科教員配置基準の改善、養護教諭・学校栄養職員・事務職員の配置基準の改善等が盛り込まれていた。第五次改善計画により、教職員定数は、自然増減を含めて二万一、四四八人の増員を見た。

 ただし、本計画の実施にあっては、いわゆる四十人学級は多大の教職員数・学校施設増を必要とすること、第二次ベビーブーム期の児童が五十六年にピークを迎えること、厳しい国の財政事情等を勘案し、計画期間内に漸次改正内容を実現すべく教職員定数については毎年政令でこれを弾力的に定めることとされた。また、四十人学級については、いわゆる児童減少市町村の第一学年から学年進行方式で移行されることとされ、さらに五十七年から六十年の間にかけては財政再建行革関連特例法の適用によりその実施が抑制された。以上の経過を経たものの、計画最終年度の平成三年度をもって当初の計画どおり学級編制及び教職員定数の改善は達成された。

 以上の五次にわたる計画的改善により、例えば、公立小中学校の一学級当たりの児童生徒数は昭和三十三年当時に比べて小学校が一学級当たり四四・四人から二九・一人に、中学校が四四・四人から三三・九人へと大きく改善された。また、同様に教員(校長・養護教諭を含む)一人当たりの児童生徒数も小学校が三七・二人から二〇・五人に、中学校が二七・九人から一七・九人に改善を見た。

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