一 高等学校教育の改革

高校生急増とその対策

 高等学校への進学率は、戦後一貫して上昇してきた。新制高等学校が発足して間もない昭和二十五年には、進学率は四二・五%であったが、三十年代から四十年代にかけて十年間ごとに約二〇%の著しい上昇を示し、四十九年には九〇%を超え、平成二年には九五%に達した。このような高等学校教育の量的拡大は、教育の質的な変化への対応を要請する。すなわち、中等教育の機会均等の理念はほぼ実現し、高等学校は国民的教育機関となった反面、能力・適性・進路等極めて多様な生徒にどう対応すべきかという困難な問題を抱えることになった。四十年代以降の高等学校教育に関する行政施策や関係者の努力は、高い進学率と第二次ベビーブームによる高等学校教育の量的拡大への対策に加えて、それに伴う質的な変化への対応に向けられた。

 三十年代後半からの第一次ベビーブーム世代の高校生急増対策に引き続き、五十年代後半からは第二次ベビーブーム世代の進学対策が各県の大きな課題となった。第二次の高校生急増は、増加の度合は比較的緩やかではあったが、進学率が九〇%台という状況の中で生じたこと、急増の後に急減が予測されたこと、都市部に集中的な増加が見られたことなど、種々困難な問題が多かった。このため、国においては五十一年に高等学校建物の新増設費の国庫補助を開始したほか、各都道府県においても公私立高等学校協議会を設置し、公立私立が協調してこの対策に当たるなど、行財政上大きな努力が払われた。

高校全入運動とその対応

 一方、この間、進学率の上昇とべビーブームの状況の中で、進学を希望する者全員を高等学校に受け入れるべきであるとか、あるいは高等学校教育を義務化すべきであるという考えが主張され、革新団体を中心にいわゆる高校全入運動が展開された。これに対して、文部省や都道府県当局は、できるだけ多くの者に高等学校教育を受ける機会が与えられることは大切ではあるが、この段階の青少年は能力・適性・進路等も多様であるから、全員が一律に高等学校に進学するということではなく、高等学校以外の教育機関に進む道や、実社会に出る道など多様な選択の道を残すべきであるとして、高等学校教育を義務化する考え方は採らなかった。しかし、高等学校教育の普及のため、進学を希望する者はできるだけ多く受け入れる努力を継続した結果、昭和五十年代には、高等学校への進学を希望する者のほとんどは高等学校に入学できる状況になってきた。

教育長協議会等の提言

 前述のように昭和五十年代前半は、高校生急増の時期を目前にして、高校新増設が各都道府県等の課題となっていた。この時期に、教育関係団体、各政党等が様々な観点から高等学校教育改革の提言を行った。それらの中でも、現実に各都道府県の施策に大きな影響を与えたのは、都道府県教育長協議会高校問題プロジェクトチームの報告であった。

 同チームは、五十二年七月に「高等学校教育の諸問題と改善の方向」を、更に五十四年六月に「研究結果報告書」を公表した。前者は、教育課程の改善と運営、職業教育の改善、定時制・通信制の在り方、新しいタイプの高等学校の開発を内容とするものであり、後者は、国民的教育機関としての高等学校教育の観点から、特に新しい形態の高等学校として、単位制高等学校、集合型選択制高等学校、全寮制高等学校、職業高校への単位制専攻課程の設置、中高一貫六年制高等学校、地域に開かれた高等学校などの構想を提案した。これらはその後、多くの都道府県において具現化され、また後の臨時教育審議会等の答申にも反映されていった。

特色ある学校づくり

 昭和四十年代から五十年代にかけて、青少年のほとんどすべての者が進学する国民的教育機関として、新しい高等学校の在り方が問われるようになった。これに一応の回答を出したのが五十三年の教育課程の改訂であった。この改訂については既に本章第二節で述べているので、ここでは繰り返さないが、この時の教育課程審議会の構想した新しい高等学校教育は、第一学年で総合科目を中心とした必修と第二学年・第三学年での選択中心の教育課程であり、必修科目の縮小・弾力化、指導内容・方法の弾力化、授業時数の弾力化など、大幅に学校裁量を拡大し、生徒の多様な実態に対応した弾力的な教育課程編成を可能とするものであった。それは各学校の主体的な創意工夫を生かして、特色ある学校づくりを目指し、それぞれの高等学校の個性化を図ろうとするものであった。この考え方は平成元年の教育課程の改訂でも踏襲され、それまでの経験を加えて、より弾力的な教育課程の編成を可能とするよう改善が図られた。

単位制高校の発足

 昭和六十年六月の臨時教育審議会第一次答申において、高等学校改革の一環として、六年制中等学校と単位制高等学校の制度化が提言された。これを受けて文部省においては協力者会議を設けて検討を進めた結果、六年制中等学校についてはなお検討を継続することとなったが、単位制高等学校については六十三年三月に関係省令を改正し、六十三年度から発足させた。単位制高等学校は生涯学習の観点から、誰でも、いつでも、必要に応じ高等学校教育を受けられるようにすることを目的としており、その履修形態は学年制によらず単位制のみによるものである。社会人を含めて学習歴や生活環境が多様な生徒を広く受け入れるものであることから、定時制又は通信制課程の特別な形態のものとして位置付けられた。平成四年度までに公立三一校私立五校が設置され、多様な生徒を受け入れる柔軟な学校形態として評価されている。

第一四期中央教育審議会答申

 平成三年四月に出された第一四期中央教育審議会の答申は、高等学校教育の改革を主な内容としている。答申では、生徒の選択の幅を拡大し、個性の伸長を図って行く観点から、これからの高等学校について、学科制度の再編成、新しいタイプの高等学校の奨励、単位制の活用、高等学校間の連携、学校・学科間の移動の円滑化など様々な改革を提言している。文部省ではこの答申を受けて同年六月、各都道府県教育委員会等に通知し、各県や学校の工夫・改善により対応できるものについてはその適切な実施を要請した。また同時に、文部省に高等学校教育の改革の推進に関する会議を設置し、国の制度等において改正が必要な事項についての検討を進めた。

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