二 進路指導の充実

偏差値問題と業者テスト

 高等学校への進学率が九〇%を超える状況の下で、中学校における進学指導は、生徒の合格可能性を重視した指導となる傾向が見られた。このため業者テストによる偏差値に過度に依存する傾向や、生徒の進路選択能力が十分育成されないこと、進路指導が生徒の多面的な能力・適性、進路希望等を軽視していることなどが問題として指摘された。

 受験競争の激化の中で、学校外の学習活動として学習塾へ通う児童生徒が増加し問題となった。昭和六十年の文部省調査では、学習塾に通う児童生徒は、小学生の一六・五%、中学生の四四・五%に達していることが明らかになり、六十二年に文部事務次官より「学校における学習指導の充実等について」通知し、学校外学習活動の適正化のため、学校及び教育委員会の積極的な取組を求めた。また、一部の国・私立中・高等学校が入学試験において、学習指導要領を逸脱した問題や特別な訓練を必要とする問題を出題していることが、過度の塾通いの一因となっていると考えられるため、六十三年度からそれらの入試問題の調査・分析を行い、必要な指導を行うことを始めた。

 高等学校においては、進学してくる生徒の能力・適性の多様化に伴い、専修学校・各種学校等も含めた進学先が多様化するようになった。また、高学歴志向の下で、就職率の減少や大学進学者における有名校志向が強まり、中学校における進路指導と同様に、学力のみに依存した進路指導が行われる傾向が見られ、生徒の側においても自己の生き方や在り方を深く考えることなく、学力試験の結果のいかんのみで自己の進路を安易に選択するようになったとの指摘がなされた。

 こうした状況を受け、文部省は五十一年及び五十八年の二度にわたり、学校における進路指導と業者テストの取扱いについて、生徒の能力・適性、進路希望等に基づいた指導の実現と業者テストへの安易な依存を避けるべき旨の通知を出した。また、進路指導の充実を図るため、教師向けに「進路指導の手引」を作成・配布するとともに、進路指導研修会を実施してきた。

就職指導の適正化

 中学校や高等学校において就職を希望する生徒に対しては、職業安定法の下において、学校と公共職業安定所が連携を取りつつ、職業紹介や希望する事業所へ生徒の推薦をすることとされている。そのため、事業所の求人活動や学校の職業紹介・推薦手続が適正に行われるよう、昭和三十五年から毎年度、労働省との連名で指導通知を出してきたが、就職を希望する生徒の公正な扱いを期するため、四十六年、全国高等学校長協会は応募書類の統一様式を定め、文部・労働両省とともにその普及に努めた。なお、四十年代後半、中・高校生のアルバイトやタレントとしてのテレビ出演等に関し、法令に違反するなどの事態が見られたため、その改善のための指導を行った。

 なお、進路指導については、とかく、最終学年における生徒の進学先や就職先の選定に対する指導助言のように考えられる傾向があるが、本来は、生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択・決定できるように教師が組織的・継続的に指導援助する過程を言うものである。このため、平成元年の学習指導要領の改訂においては、従来の進路指導の位置付けを更に発展させ、進路指導を人間としての在り方生き方教育の一環として位置付けるとともに、その改善を図る観点から、学習指導要領における特別活動等の記述内容を充実した。

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